84話:記録審問・裁きの剣
記録の源泉“アルス・コーデックス”を前に立ちはだかったのは、
王国直属の禁書管理者──記録審問官【ヴェイグ・クラディウス】。
「王の御心は理であり、記録はその外殻。
お前たちは、今まさに“理を超えよう”としている」
彼の右手には、幾重もの文字が刻まれた刃。
それは、あらゆる歴史と断罪を記した“審断剣”。
風がざわめき、ハクが一歩踏み出す。
「それでも、俺たちは前に進む。未来を、選ぶために!」
言葉の終わりと同時に──
金属の音が響いた。
ハクの木刀と、ヴェイグの審断剣が正面で激突。
しかし、その衝撃は“剣と剣”の単なるぶつかり合いではない。
「……ぐっ!」
ハクが一歩押し戻される。
ヴェイグの剣は斬撃だけでなく、“記録そのもの”を対象に干渉する力を持っていた。
「その剣、風の記録。……ならば、まずそれを“抹消”しよう」
審断剣が煌めき、文字が宙を走った。
──《第零章・風の起点》、削除。
次の瞬間、ハクの動きが一瞬鈍る。
「なっ……身体が……動きにくい……!?」
ナギが叫ぶ。「ハク、気をつけて! あの剣……“歴史”を書き換える力がある!」
「記録に干渉するのか……!」
その一言に、ハクは理解する。
──この相手、“今の力”では届かない。
「でも……!」ハクは歯を食いしばった。
「削られても、塗りつぶされても……俺は、俺の風で抗う!」
木刀が震え、風が再び集う。
──“風牙・斬迅返”
風を逆巻かせる剣筋が、弾けるように襲いかかる。
だが、ヴェイグは一歩も動かず、刃を立てただけでそれを弾いた。
「否定された風では、この刃に届かぬ。今一度、己の存在を問え──!」
彼の次の一撃が空間を斬る。
──《第壱章・神則流継承者》、削除。
「ぐあっ……!」
ハクの身体が再び重くなり、風の流れが狂う。
それでも──
「まだ……だ!」
ハクは動きを止めない。風を感じ、仲間の声を想う。
ナギの知恵、ジノの絆、エリオットの導き。
そして──風霊樹から受け継いだ、まだ完全には馴染んでいない“風の記憶”。
──それが彼の足を、再び前に進ませた。
「……削っても、奪っても、風は生まれる。俺の中に!」
ハクの身体が風に包まれた。
木刀に宿る“風”が、反響するように震える。
「──“風閃・双牙還流”!!」
二重の風刃が重なるように描き出され、ヴェイグに迫る!
今度は、ヴェイグが片膝をついた──!
「なっ……この風は……“抹消されていない記録”……!? いや、“記録されていない風”か……!」
ハクの風は、“書かれていない未来の風”。
──だからこそ、“審断”できない。
刹那、審断剣が揺らぎ、ヴェイグが跳躍して間合いを取る。
「貴様……王の予測をも超える存在か」
ハクは肩で息をしながら言った。
「……俺は、風を継ぐ者。でも、王の記録になんて収まりたくない」
「……ふふ……ならば、見せてもらおうか。書かれざる記録の行く末を」
再び剣が交差する。
風と記録。
未来と過去。
選ばれし者と、選ばれなかった真実が、ぶつかり合う。
──戦いは、いまだ終わらず!




