79話:知を裂く影、囁く抹消の名
“第一層・知の迷宮”の奥深く。静まり返る書架の森を進む四人の足音だけが響く。封印の結界を破り、進んだその先は、空間すら歪む静謐の世界だった。
ナギの顔がどこか固くなる。「この感覚……見覚えがある」
「ここは、“記録抹消”の痕跡が最も濃い場所だ。ナギ、君の記憶にも……触れるかもしれない」とエリオット。
迷宮の中枢にて、彼らは一冊の“封印書”に辿り着く。記されていたのは――
【記録番号: #零壱八九】
件名:禁術に関わる者の記録抹消・処理に関する特例規約
対象:ナギ・アルトリア(記録削除済)
理由:魔術情報保全のための緊急処理。
裁定者:王都上層評議会。執行官:ゼロ・ヴァレンティア。
ナギの記憶がフラッシュバックのように蘇る。
白い部屋、鎖、眼を覆われたままの裁定、そして…剣の男の背。
「……私、記録から……存在ごと消されたのね」
ハクは手をそっとナギの肩に置いた。「でも、今こうして俺たちといる。それがすべてだろ?」
その瞬間、迷宮の空気が一変する。
書架の影から蠢く“記録の亡者”たち。
過去に抹消された存在たちの残滓
──彼らは自らが存在していたことを証明するため、
侵入者を喰らおうと現れたのだ。
「来るぞ!全員、抜け道へ集中しろ!」ジノが叫ぶ。
四人は連携し、呪文・木刀・知識を駆使して応戦。
ナギが初めて、自身の魔術を完全解放し、
封じられていた“記録結界”を解除すると、迷宮全体が大きく震えた。
その先に現れたのは、次層へと通じる「虚空の回廊」。
「……記録が、導いてる」
ナギの声は震えながらも、どこか誇らしかった。
風が、次の扉を開こうとしている。




