表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/104

7話:路地裏の焔(ほのお)

ファルネラの夜は賑やかだ。

 昼は交易の街、夜は酒場と音楽の街。

 商人が酔って叫び、冒険者が剣の武勇を語る。


 その中、ハクとジノは市場帰りの道を歩いていた。

 翌日の依頼に備えて、干し肉や保存パンを買い込み――その時だった。


 「……助けてっ!!」


 鋭い叫びが、路地の奥から響いた。


「女の子の声!? おい、ハク行こう!」


「行くしか、ないな」


 


 駆け込んだ先にいたのは、二人の男に囲まれた少女だった。

 赤い髪を編み込んだポニーテール、革の冒険者服、腰には装飾剣。

 だが、剣は抜けていなかった。


 「動くな、娘! その封印札はいただく!」


「くっ……!」


 


 男たちの足元に転がるのは、破られた魔封札と、薄く光る金属の箱。

 ハクは即座に察した。


(……魔術系アイテムの密輸だな。で、これを運んでたのがあの子……)


 ハクは木刀を構え、前に出た。


「それ、渡してもらおうか」


「おうおう、木刀の兄ちゃんが何の用だってんだ?」


 ジノが横でささやいた。


「ハク、あの人たち……“裏ギルドの連中”かも」


「問題ない。倒すだけだ」


 


 相手が先に仕掛けた。

 だが、ハクの反応は風より早かった。


 一歩。

 跳躍。

 打ち下ろされた剣を、木刀がすべらせて“間合い”の外へ弾く。


 回転。

 背後の敵に一閃。


 “風断”――祖父ゲンジが教えてくれた、空気の線をなぞる剣。


 敵は地に倒れた。


 


 残りの男が逃げるのを、少女が咄嗟に炎の札で追い払う。


「ファイアバースト!!」


 小さな爆音と共に、火花が路地を照らした。


 敵が逃げていったあと、しばし静寂。


 


「……すごい。あんた、何者……?」


 少女がハクを見て言った。


「……ただの“木刀のハク”だよ」


 


 ジノが間に割って入る。


「それより君こそ! 冒険者なの? 魔導士? てかかわいいね! 名前は!?」


「……ナギ。ナギ・アステリア」


 少女は少し照れくさそうに微笑んだ。


「ギルドに登録してるけど、依頼じゃなくて、これは……あたしの個人的な任務だったの」


「封印札と関係ある?」


「うん。これ、……王都の魔導院から盗まれたものなんだ。……だから、追ってた」


 


 王都――その単語に、ハクの眉がぴくりと動いた。


「追ってたってことは、お前……」


「正体はナイショ。でも……よかったら、しばらく一緒に行動しない? あんたたち、すごく頼りになるし」


 


 こうして、“赤髪の魔導剣士”ナギ・アステリアが仲間に加わった。

 その正体が、後にハクの運命を大きく揺るがす存在だとは――

 この時、誰も知らなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ