6話:昇格試験と、木刀の怪物ふたり
ファルネラ冒険者ギルド。
依頼掲示板の前で、ジノが腕を組んでうーんと唸っていた。
「なあハク。俺らって、まだDランクだよな?」
「ああ、そうだな」
「このままだと、どんだけ依頼こなしてもパンと水しか食えねぇ」
「そういうもんだ」
「じゃあさ、昇格試験、受けようぜ! な!」
ハクが眉をひそめる。
「お前、前に“試験一度落ちてる”って言ってなかったか?」
「うん。でも今は違う。今の俺には――」
ジノはハクの肩に手を置いた。
「伝説の木刀男・ハクっていうパーティメンバーがいる!」
「やめて」
冒険者ギルドの地下には、試験用の簡易迷宮がある。
昇格試験はここで行われることになっていた。
「DからCランクに昇格するには、“協力戦闘”が評価されるからね〜」
と、受付嬢が案内してくれる。
「内容は、ゴブリン集団の掃討&拠点制圧。擬似魔法結界の中にいるから、ケガしても大丈夫」
「模擬戦でも、木刀なんだな…」
「……それ以外、使えないから」
迷宮は思ったより暗く、じめじめしていた。
「お、おい、ハク。敵、出たらさ……なるべくゆっくり倒してくれよ? オレもなんかやった感ほしいから」
「了解。……たぶん」
ゴブリンは思ったよりも手強かった。
数が多く、連携もある。
だが、最初に接敵した瞬間――
バキン!!
ハクの木刀が一本の棍棒を粉砕し、次の瞬間には三体目のゴブリンが壁に刺さっていた。
「ハ、ハク!? 今のは絶対まぐれじゃないだろ!? なぁ!?」
ジノも奮闘する。投石、足払い、タックル。
やれることをやる。
そして、ちゃんと倒す。
「俺だってやればできるんだぁあああ!!」
「いや、すごい。マジで助かった」
「ほんと!? 初めて言われたかも!」
ゴブリンの拠点の最奥で、ボス格を倒したとき――
試験監督官が、入り口からやってきた。
「合格だよ、あんたら。十分すぎる。というか……」
監督は、ハクの木刀を見て唸った。
「お前、本当にDランクだったのか?」
ジノは胸を張る。
「こいつが噂の“木刀のハク”です。俺の相棒で、ファルネラ最強の新人です!」
「お前も頑張ったからな」
「ハクぅぅぅぅぅ!!」
その夜、ふたりは焼き肉屋で乾杯した。
初めてのちゃんとした報酬。
ようやく“剣で飯を食う”日が来た。
「……なぁハク」
「ん?」
「これがずっと続くといいな」
「……ああ。続くと、いいな」
だがその頃――
王都ルクスファングの騎士団詰所。
一枚の報告書が、銀髪の青年・ルシエルの手元に届く。
「ファルネラにて、木刀の少年が迷宮模擬戦で圧倒的な戦闘力を示す」
「名は“ハク”。身元不明。剣術詳細、未分類」
「剣筋に“神則流の痕跡”を確認」
ルシエルはゆっくりと立ち上がった。
「……始まったな、“あの剣”が」