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66話:風の宿る静寂、灯る焔の声

古びた避難路を抜け、三人は山間の小村──ヴェルナの隠れ家へと辿り着いた。


小川のせせらぎと野鳥の囀りが響く、静寂に包まれたその地には、

かつて追われた者たちが身を寄せたとされる伝承が残っていた。


「ここなら……しばらくは安全だろうな」


ジノは肩にかけた荷を下ろし、村の古民家の一角へとハクたちを導いた。

屋根は傾き、壁も崩れかけていたが、最低限の生活はできる程度には整えられていた。


「ナギ、横になって。しばらく安静にしないと……」


ハクはそっとナギの身体を布団へ横たえ、濡れ布で額を拭った。


「……ありがとう。助かったわ」


微笑むナギの表情はまだ青ざめていたが、

命に別状はないと分かり、ハクはようやく息を吐いた。


その夜、三人は久方ぶりに火を囲んだ。

焚火の灯が風に揺れ、仄かに暖かい空気が小屋を包む。


「……これから、どうする?」


ジノの問いに、ハクは木刀を見つめながら答える。


「進むしかない。この剣が、俺に教えてくれた。逃げてるだけじゃ、風は掴めない」


するとその時、古民家の戸口を軽く叩く音が響いた。


三人が身構える中、戸を開けて入ってきたのは、白い外套を纏った一人の若者だった。


「お、お前は……!」


「落ち着いてくれ。俺は敵じゃない」


若者は手を上げて敵意がないことを示すと、懐から一通の封書を差し出した。


「これは……“風の記録”に導かれた者へ、と預かっていた」


ナギが驚いたように目を見開く。


「風の記録……!? どうしてあなたが、それを……」


若者は名を名乗った。


「俺はレイス。かつて神則流と共に戦った一族の末裔だ。お前たちに伝えるべきことがある」


新たなる邂逅が、再び風を動かし始めた。


そしてその夜──ハクの木刀が、静かに、わずかに震えた。


翌朝、ヴェルナの山霧は深く、陽光はまだ木々の隙間を縫うように差し込むだけだった。


小屋の中で、レイスは静かに封書を開いた。

その中には古びた羊皮紙と、精緻な魔法陣が刻まれた地図が収められていた。


「これは……」


ナギが手に取った羊皮紙には、古代文字でこう記されていた

──『風の記録は、火の名を継ぐ者によって再び綴られる』。


「火の名……?」ハクが眉をひそめる。


「風と火は、かつてこの大陸を守護した二つの家系の象徴だった」とレイスは語った。

「だが、“風”は記録を守り、“火”は力を制御した。

 ……おそらく君たちは、風と火の均衡を取り戻すために、選ばれたんだ」


ジノが鼻で笑う。

「選ばれた?おいおい、そんな大層な話を信じろってのか」


「信じるかどうかは任せる。だが、追手は君たちを“記録の担い手”として既に認識している。

 逃げ続けるより、先に進むべきだ」


レイスの言葉に、ハクは深く頷いた。


「行こう。この地図の場所へ。何かがあるなら、俺たちが見つける」


地図が示すのは、大陸南方の火山地帯“エルドの焔谷”。

そこには古代の封印があり、“風の記録”における最も重要な断片が眠っているという。




ハクたちは新たな目的と共に、炎の記憶と風の真実を追い、新たな冒険へと踏み出す。



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