65話:瓦礫の下から、再び立つ風
灰に染まる薄闇の中、
瓦礫の隙間から微かに漏れる咳と呻きが静寂を破った。
「……っ、ぐ……咳……ジノ、ナギ……無事か……?」
崩落の衝撃により身体中を打ち付けながらも、
ハクは目を開け、土砂に埋もれた右腕を無理やり引き抜いた。
「う、うん……俺は平気……」
反対側から這い出てきたジノは、額に切り傷を負いながらも、まだ動ける様子だった。
その視線の先には、瓦礫の下敷きになりながらも魔術障壁の名残を纏い、
意識を失っているナギの姿があった。
「ナギ……っ!」
急いで駆け寄ったハクは、
ナギの腕に抱えられていた割れた魔術石と焦げた魔法の触媒を見て、
言葉を失った。
「……守ってくれたんだ、俺たちを……」
かすかな光が、崩れた天井の隙間から差し込む。
外の空気がようやく流れ込み、三人はその光を頼りに瓦礫をかき分けながら前進する。
「ここから北へ。廃寺の裏手に抜け道がある。王都の古い避難路が残ってるはず……昔、仲間と使った」
ジノの言葉に、ハクは強く頷いた。
「ナギを背負って。ジノ、道を頼む」
「任せろ。……だけど、急がないと。あの騒ぎの後じゃ、王都の追手が動く」
夜の風が吹いた。
その風は優しく、だが確かに生きている者たちを前へと押していた。
ハクはナギを背負いながら、その胸に静かに誓う。
(まだだ、ここで終われない……俺たちは──風を掴むんだ)
彼らの背後で、崩れた王の間が徐々に静寂へと戻る中。
ハクたちは再び、戦いと真実の道を歩き出す。
三人が地下通路を抜けたその瞬間、背後から微かに靴音が響いた。
「追ってきたか……やはり、甘くはなかったな」ジノが呟く。
「行って!俺が止める!」と、
ハクが木刀を構えるが──ジノは笑って制した。
「ここは俺に任せろ。お前はナギを連れて、約束の場所へ」
だが、その時だった。路地裏の闇から飛び出した影が二つ、三つ。
「挟み撃ちか……!」
「行くぞ、ハク!無理やりでも突破する!」
ジノの叫びとともに、二人はナギを守りながら全力で走り出した。
刃が交差し、魔術の閃光が闇夜を裂く。
数度の交戦の末、ジノが細道を蹴って敵を引き付け、ハクとナギは先へ。
──そのまま廃寺裏手の古い避難路へと辿り着く。
瓦礫と蔦に覆われた石門。だが、わずかに風が吹き抜けていた。
「ここだ……!」
門を押し開けた先は、ひんやりと湿った地下のトンネル。
ジノもすぐに追いつき、肩で息をしながら笑った。
「ったく……死ぬかと思ったぞ」
その瞬間、ナギが小さく呻き声を上げ、うっすらと目を開けた。
「……みんな……無事?」
「……ああ」ハクは柔らかく笑った。「もうすぐ安全な場所まで行ける」
こうして三人は、風の導くまま、再び“歩み”を始める。




