62話::交錯する風、黒き導きの影
王都地下、瓦礫を抜けた先の封じられた路地。
薄明の中、静かに歩を進める者がいた。
「……無事、だったか」
ハクたちを出迎えたのは、黒衣に身を包んだ細身の男——ラシュド・ヴァレン。
「君が……ハクだな」
「……誰だ、お前は」
剣を構えるハクに、ラシュドは手を広げて応じる。
「味方だ。——いや、かつて君の父セイマと同じ未来を信じた者、と言えばいいだろうか」
その名に、ハクの眉がぴくりと動く。
「父を……知っているのか」
「彼が政治の道を選ぶ以前、私はその選択を支えた。
だが……今の彼は、自らが信じた理にすら背を向けようとしている」
「……」
ラシュドは静かに一枚の文書を差し出した。
それは、王政の裏で進行していた処刑命令の写しだった。
「君の名は“ハヤト・カザマ”として記されていた。だが私は君を殺すために来たわけではない」
「じゃあ、何のために?」
ラシュドは目を伏せ、答える。
「風が変わろうとしている。今こそ、本当の“理”が試される時だ。
君の中にあるもの——それが、正しき風を導くと信じている」
ジノが小声でハクに囁く。「こいつ……信用していいのか?」
ハクは短く頷いた。「風が……そう言ってる気がする」
そして、ラシュドは一言だけ付け加えた。
「君の祖父、ゲンジもまた……君に“会いたがっている”」
その言葉に、ハクの心が静かに揺れた。
王都の瓦礫の下で、交錯した運命の糸。
新たな導きが、そこに現れていた。




