58話:記録の間、封じられた風
王宮・北塔地下最奥。
そこにあったのは、古の記録が封じられた秘匿の部屋——“風の記録庫”と呼ばれる空間だった。
「ここが……?」
ハクたちは重厚な扉を押し開き、中へと足を踏み入れる。
魔力封印が施された部屋には、古文書と、一本の巻物が厳かに鎮座していた。
「この巻物、風の型……神則流の原典?」ナギが目を細める。
「触れるな、罠かもしれない」ルミナがすぐさま制止するが、その時だった。
「——よくぞ、ここまで辿り着いた」
不意に響く声。奥の影から現れたのは、王国魔導士団・秘匿の守人。
「その記録は、風の理を再び呼び覚ましかねぬ危険な存在……ここで忘れ去るがよい」
ハクが前に出る。「それが、王の意志か?」
「王の……いや、かつて“剣と理”に敗れた側の意志だ。だが、この王政を保つためには必要な犠牲」
ヴェルザドが詠唱する。
地が鳴り、炎と雷が空間を満たす。
「ナギ、ルミナ、下がってろ!」ハクが前に出る。
木刀が風を裂く。その一撃で、魔力障壁が揺らいだ。
「なぜ木刀で……?」ヴェルザドの目に驚愕が浮かぶ。
「理の剣は、形ではない。信じる風がそこにあれば、それで十分だ!」
ハクの風が、雷光を裂き、炎の奔流を押し返す。
決して勝てぬとされた木刀が、理なき力に抗ったその瞬間——記録の間は静寂に包まれた。
「……風は、まだ終わっていなかったか」
ヴェルザドは膝をつき、笑った。「ならば、託そう。……風を、吹かせてみよ」
巻物が、静かに風に舞った。




