53話:雷と風の交差点
王都・外縁、地下通路群——。
風が微かに走る中、ハクたちは慎重に足を進めていた。
「……この先を抜ければ、王宮裏手の庭園へ出る」ナギが低く囁く。
ルミナが肩越しに振り返った。
「リオン様の手引き、信じていいのよね?」
「信じるしかない」ハクは短く答えた。
その瞳には迷いがなかった。
直後——一陣の風が地下通路を吹き抜けた。
「……止まれ」
鋭く冷たい声が響き、三人の前に立ちはだかった影。
「お前が“ハク”か」
暗がりから現れたその男は、王国親衛の紋章を纏った黒装束。
そしてその後ろから歩み出る影こそ、リオンだった。
「……よく来たな、ハヤト」
ハクの瞳がかすかに揺れる。「兄さん……いや、リオン様」
リオンは静かに頷き、親衛隊に手を振った。
「下がれ。これは家族の対話だ」
ルミナとナギも警戒を解かないまま、ハクの背後に立つ。
「なぜ……俺たちを止めに?」
リオンはわずかに微笑んだ。
「逆だ。俺は、お前たちを通すために動いている。だが、証が要る」
彼は懐から、黒革の手帳を差し出した。
「これは父上——セイマ様が遺した記録だ。“ハヤトに風を託す”と、確かに書かれている」
「……!」ハクは手帳を受け取り、ページをめくる。
そこには、確かにセイマの筆跡で——『風は、ハヤトに宿る』と記されていた。
「これを王宮に持ち込めば、敵は黙っていない。だから……俺が前を切り開く」
リオンはゆっくりとハクに向き直った。
「行け、ハヤト。お前の風が、国を変えるかもしれない」
兄弟は短く視線を交わす。
その一瞬の間に、確かに“理”は受け渡された。
雷と風が交差する瞬間——新たな嵐が、王都を包もうとしていた。
その一瞬の間に、確かに“理”は受け渡された。
——そしてその同じ夜、遥か東の山中——。
カザマ神則流の本拠地、静謐なる修練の地に、一陣の異なる風が吹いた。
「侵入者だ」
カイエンは静かに言った。
眼下、闇に紛れた数名の影が、確かに“何か”を狙っている。
「この風……王国の剣、か」
神則流の古老たちも立ち上がる。
「セイマが討たれた今、次は我らか……」
「風を汚すな。ここは“理”の眠る地だ」
山に風が唸りを上げる。
神則流の隠された刃が、再び抜かれようとしていた——。




