49話:風の残響、暁に軋む木刀
漆黒の夜が王都を包む中、
敗北を喫したハクは静かに意識を手放していた。
ザガン・コタロウとの一戦
——木刀は砕かれ、膝を穿たれ、体も心もズタズタだった。
「風は……俺にはまだ……」
胸に広がるのは悔しさだけではなかった。
初めて知る本物の“壁”。そして、それを越える自分の未熟さ。
目を覚ましたのは、薄明かりの差す小さな隠れ家。
ルミナが湯を沸かし、ナギがそっと膝を抱える彼に薬草を擦っていた。
「……目、覚めた? 大丈夫……じゃないか」
ナギの声が、遠くに聞こえる。
「ルミナ……ナギ……俺……負けたんだな」
返す言葉はない。ただ、ルミナが砕けた木刀の柄をそっと傍らに置く。
「風の理を継ぐ者が……こんなに傷だらけだなんて、思わなかった」
ハクはしばらく言葉も動きもなく、ただ天井を見上げた。
「俺は……このままじゃ、また守れない」
ジノは王都の混乱を避けて外を巡っていたが、
日ごとに何かを察したように険しい表情をしていた。
そんな折、ルミナがあるものを見つけて戻ってきた。
「……あの場所。神木の封印の間の奥、あなたに“風”が呼んでいた」
導かれるように運ばれてきたそれは、もう一本の木刀。
伝説に語られる、ムサシが若き日に打たせたもう一振りの“神木の剣”。
重ねられた記憶。紋様。繊維の中に眠る風の記録。
「これは……まだ、俺に……教えてくれるのか」
夢の中で見た。
剣を振るう背中。風の流れを読む目。
そして、風を斬ることなく“風と斬る”技法。
それは確かに、自分の歩むべき先だった。
翌朝、膝を支える簡易装具をまとい、ハクは立ち上がる。
「もう一度、風に立つ。俺はまだ、終わってない」
ナギが驚いたように眉を上げ、ルミナが微笑む。
「それでこそ、あなたよ。木刀の風使い」
“軋む木刀”の音が、小屋の中に静かに響く。
それはまだ未完成の風だったが、確かに吹き始めた音だった——。




