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48話:風、届かぬ相手

その男は、議事堂の頂、かつて王が風を語った石の壇上に立っていた。


黒く艶めく鎧、銀の髪、そして瞳は冷たく、

風の流れを拒むかのように鋭かった。


「……カイロスとは違う」ハクが呟いた。


「当たり前だ、彼こそ、かつてムサシ・カザマと対を成した“巌流コタロウ”の末裔

  ……ザガン・コタロウだ」


ルミナの声に、場の空気が一層張り詰めた。


「神則流と真逆……“絶断”の構え」ナギが唇を噛む。

「風を読まず、斬る前にすべての流れを断ち切る……」


ジノが歯を食いしばった。「こいつ……風が通じねぇ!」


ザガンは言葉少なに、ただ静かに一歩を踏み出す。


「風など、戦には不要。理も、志も、力が全てを凌駕する」


その剣が抜かれた瞬間、風が止まった。


「……本当に、通じないのか」ハクが前へ出た。


木刀を構える。


「だったら、俺が証明する……風は、届くと!」


だが、斬りかかるハクの一撃は、

まるで空を斬るかの如くかわされ、逆に重い衝撃が腹部を襲った。


吹き飛ばされるハク。


「ぐっ……これは……!」


「まだ半端だ、風の理は。貴様のは、ただの模倣に過ぎん」


ザガンの剣は静かに下ろされたまま。それでも、異常なまでの威圧が放たれている。


「風では届かぬ者が、ここにいる」


ハクは苦悶しながらも立ち上がった。


「……それでも……進む。風が届くその日まで」


再び斬りかかろうとしたその瞬間——


ザガンの剣閃が一瞬にして間合いを詰め、

ハクの木刀を正確に弾き、次の一撃が膝を撃ち抜いた。


「ぐあああっ!」


膝をついたハクの意識が遠のく。その視界の端で、ザガンが静かに背を向けた。


「命は取らぬ。未熟を知れ。……そして磨け」


彼はそのまま去っていく。


「……強すぎる……今の俺じゃ……」


ルミナとナギが駆け寄る。


「ハク! しっかりして!」


「風が……足りない……まだ、足りないんだ……」


その日、ハクは初めて完全な敗北を知る。


しかし、それは風が止むという意味ではなかった。


それは、次に吹かせる風を見極める、静かな渦の始まりだった。



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