4話:雑用依頼と木刀の怪物
「じゃ、今日の依頼はこれねー!」
受付嬢はにこやかに言った。
ハクの手には二つの依頼書。
ギルド内の床掃除(雑用)
依頼品の荷物運搬(商人の倉庫)
夢も希望もない。
でも、腹は膨れる。
木刀も要らない。
いや――実は、そうでもなかった。
「お前も雑用組か?」
ギルドの裏口で荷車を押していたとき、声をかけてきたのは、小柄な少年だった。
赤毛でそばかす。身なりは粗末だが、目だけがキラキラしている。
「オレ、ジノ! 雑用歴……たぶん7日!」
「ハク。今日からです」
「おおっ、新人じゃん! 先輩としていろいろ教えてやっから!」
なぜか異様にテンションの高いジノに引っ張られ、
二人は倉庫街へと向かった。
目的は、商人の荷物を運ぶだけ。
やることは単純で、安全なはず――だった。
「で、この箱をこの荷車に……って、あれ? この扉、開いてね……?」
「……鍵、壊されてる」
次の瞬間。
ガタ、と物音。
そして、男の怒鳴り声。
「おい、ガキが来やがったぞッ!」
倉庫の奥から現れたのは、いかにも悪人ヅラの男三人。
黒ずくめ、片目に傷、なぜか鉄パイプを持ってる奴。全員そろってテンプレ盗賊だ。
「は、はい!? え、えぇえ!?」
「ジノ、下がって」
ハクの声は静かだった。
木刀を手に取り、倉庫の中央に立つ。
「なに? 木刀か? バカにしてんのかお前」
盗賊が笑う。
そして――
笑った瞬間、風が動いた。
刹那。
ハクの一歩が、空気を斬った。
足元にあった木の破片が宙に舞う。
盗賊の一人が、倒れた。
次の男が動く前に、ハクの木刀が風を裂いた。
「ぐえっ……な、なんで……木刀、なのに……っ」
三人が床に転がったあと。
ジノが目を見開いたまま、ポカンとしていた。
「な、なに今の!? ちょ、すげえ! え、すげえ!!」
「……なんとなく動いた。たぶん、まぐれ」
「まぐれで人は倒せねぇよ!! なにそれ!? かっけぇえ!!」
その日以降――ギルド内では小さな噂が広がる。
「あの新人、木刀で盗賊三人倒したらしいぞ」
「えっ、名前? ハクだっけ。あの静かで地味なやつ」
「あの木刀……魔道具なんじゃねぇの?」
そして、ジノは完全にハクのストーカー化した。
「ねぇねぇ次どこ行く!? 依頼ある!? オレも行くわ!」
「……なんで」
「“すげえもん”を見たら、そばにいたくなるだろ!? 男だもの!!」
こうして、“ただの雑用から始まった冒険者生活”は、
少しずつ、“木刀の怪物”という伝説に繋がっていく。
――風は、まだささやくだけ。
だが、それは確かに“戦乱の残響”を呼び起こし始めていた。