46話:封印の守り手、風に抗う剣影
影は人の姿をしていた。全身黒衣に包まれ、顔すら判別できないが、その動き、構え、そして漂う気配は、明らかに尋常ではなかった。
「この圧……まるで、あのカイロスと同格……いや、それ以上か」ジノが小声で呟いた。
「記録庫の番人だ。風の理を継ぐ者が現れた時、試練として立ちはだかる存在……か」ナギが魔力の流れを読み取りながら後退する。
ハクは一歩前へ出て、木刀をゆっくりと構える。
「……通させてもらう。風は止まらない」
その瞬間、黒衣の影が消えた。
「ッ……来るぞ!」
ジノの声と同時、風を切り裂くような一閃がハクを襲う。
ハクは身体をひねって紙一重で避ける。だが、次の瞬間には、既に背後から第二撃が迫っていた。
「速い……!」
かろうじて木刀で受け流すも、衝撃は重く、ハクの足が数歩下がる。
「……風を見てる……こいつ、俺の動きを読みながら、未来を先回りしてくる……」
影は“風”に似た理で動いていた。それはまるで、神則流と拮抗するもうひとつの“風の流派”。
ハクは深く息を吸い、神木に宿る記憶を思い出す。
“風は、抗うものでなく、受け流し、導くもの”
次の瞬間、動きが変わる。影の斬撃を、わずかに逸らし、流すように受けていく。
「……やるな」
初めて、影が声を発した。
「試練に値する。ならば、真の“風斬”を見せよう」
影の身体から風刃が放たれる。それは周囲を削り、壁を裂くほどの力。
「これは……風を“圧”に変える剣……!」
ハクは覚悟を決めた。風は守るだけでなく、貫くこともできる。
神木の木刀に風が纏う。
「これが……俺の風だっ!」
木刀と風刃が交錯する。
衝撃が走り、地響きのような音が地下を満たす。
そして次の瞬間、影の剣が折れた。
「……通されたか」
影が静かに膝をつく。「風の理は、お前の中にある。進め、継承者よ」
ハクは息を整え、深く一礼した。
「……ありがとう。風の試練に」
試練の扉が開かれる。
物語は次なる局面――王の真実に、近づいていく。




