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33話:風、焚き火、そして小さな休息
神則流の隠し里にて、試練を越えた夜。焚き火の柔らかな光が、里の中庭を包んでいた。
ジノは串に刺した魚をじりじりと焼きながら、頬をかきつつぼやいた。
「いやー……しかしすげぇよな、ハク。木刀が光るとかマジで何だよあれ」
「光ってねぇよ。風がまとう感じだよ」ハクが淡々と返す。
「おぉ、風ね風。そっちのがかっこいいな!なあナギ、見たろ?」
ナギは何かノートに書き込みながら、微笑んで頷く。
「うん、解析するにはまだデータが少ないけど……“風の応答”って面白い概念よね」
「もうちょい休ませてやれって、ナギ。ハクまだ頭フル回転してねぇんだし」
ハクは焚き火を見つめたまま、小さく笑った。
「いや、いいよ。たまには……こうしてるのも、悪くない」
その時、どこからともなく、優しい旋律の笛の音が聞こえた。
振り返ると、ユイが神木の前で静かに笛を吹いていた。
ナギが呟く。「……あれ、風の祈りの旋律だ」
音が風に乗り、里の上空を巡る。
「この里は……穏やかだな」
「うん。……いつか、こんな風に“平和”を当たり前に感じられる日が来たらいいね」
ジノが魚を差し出してくる。
「ハク、食え。今日は褒美だ」
「……いただく」
風が通る。焚き火の炎がゆらぎ、木刀が微かに共鳴した。
それは、静かな夜に訪れた、小さな風の余韻だった。




