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30話:風を継ぐ者たち、神則の隠し里へ
カイロスとの戦いを経て、ハクたちは“西境の山々”へと足を向けていた。
その山深く、地図にも記されていない谷に、伝説の地――神則流の隠し里がある。
そこは、剣豪ムサシ・カザマが最後に身を寄せ、剣術の核心と精神を遺したとされる場所。
「この先が……神則流の、源……」
ナギが小さく息を飲む。
「ここには、“神木の根”が眠ってる。ムサシが“風”の力を剣に込めた、始まりの地よ」
霧の谷を抜け、古い鳥居のような門を越えたとき――
白装束の女性が、音もなく現れた。
長い黒髪に、銀の鈴をつけた巫女装束。
「あなた方が……“風の剣士”ね」
「私はユイ。神木の声を聴く者。ムサシ様の意志を継ぐ者です」
ハクは軽く頭を下げた。
「俺はハク。……神則流の末裔……かもしれない」
ユイの瞳が、どこか懐かしげに細まる。
「この地に来たということは……“刃の意味”を問いに来たのですね」
そう告げると、彼女は谷奥の社へと歩き出す。
「ムサシ様が遺した、“剣を捨てた言葉”。今、あなたに伝える時が来たのです」
谷には風が吹いていた。
その風は、どこか懐かしく――ハクの木刀が微かに震えた。




