28話:黒獅子来る、風に牙を剥く(後編)
カイロスが咆哮する。
「ならば全てを破壊するまでだ!!」
戦斧を地面に叩きつけ、魔導反応が爆発する。
大地がひっくり返り、岩盤が浮く。赤岩の谷が一気に戦場へと化す。
「ジノ、ナギ、避難を!」ライナの叫びと同時に、ハクが前に出る。
木刀が、空を切る。
それは風を割き、空気の渦を生む一閃。
斧と交わる。
刹那、衝撃。
風が炸裂し、両者が吹き飛ぶ。
再び交差。
カイロスの動きが読みきれない。だが、ハクは既に“風の流れ”を感じていた。
木刀の軌道が、斧の動きに絡みつく。
「この手応え……まだ、いける!」
カイロスが最後の一撃を構える。渾身の魔導斧・終撃《獅子落》!
空間ごと叩き潰す、殺意の結晶。
ハクが地を蹴る。
風の中を抜け、一閃。
木刀が斧の芯を穿つ。
ガンッ!!!
カイロスの手から斧が弾かれる。
その瞬間、ハクの木刀が、彼の首元にピタリと止まっていた。
「……っ……」
カイロスの呼吸が止まる。
風だけが、吹いていた。
そして、カイロスは笑う。
「……あれが“通った”ってやつか……! ハッ、悪くない」
彼はゆっくりと後退り、その場に腰を下ろす。
「……処刑任務は中止だ。上に報告する。敵ではなかったと、な」
ハクは木刀を納めた。
「意味は、斬るもんじゃない。“通す”もんだ」
風が、再び通り抜ける。
黒獅子は敗れた。
だがその瞳にあったのは、敗北の色ではなかった。
“獣は風を知った”。




