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27話:黒獅子来る、風に牙を剥く(前編)

カザンの砦を離れて三日。ハクたちは“赤岩の谷”と呼ばれる峡谷地帯に差しかかっていた。赤土の壁がそそり立つ断崖と、風が裂けるように吹き抜ける細道。道なき道を抜けた先、空気が一変した。


「……止まった?」ナギが足を止める。


風が、まるで息をひそめたように凪いでいた。


そして、谷の奥から“獣の気配”が近づいてくる。


「来たぞ……ジノ、ナギ、後ろに下がってろ」


ハクの声とほぼ同時に、土煙が巻き上がる。


崖の上から、巨大な影が落ちてきた。


着地とともに、地面が揺れる。風が弾かれる。


黒鉄の装甲。鋼を叩いて成形されたような肉体。


魔導戦斧を片手に、獣のように吠えるその男こそ――


「王国三騎将、黒獅子カイロス。処刑執行の命、受け取りに来た」


「……“風の剣士”よ、命を差し出せ」


ハクはゆっくりと木刀を背負い直す。


「……名前は“ハク”だ。風が通っただけの旅人だよ」


「舐めるな。俺を前にして“木の棒”で生き残れると思うか」


「思ってないよ。ただ、通るか通らないか、試すだけだ」


開戦。


カイロスの一歩は、まるで砲弾だった。踏み込みと同時、地面が沈む。

戦斧が振り下ろされる。ハクはわずかに身を引き、木刀で受け流す。


衝撃。地面が弾ける。吹き上がる風塵。だが、ハクは一歩も退かなかった。


「ほう……“初撃”を受けたか」


カイロスの瞳が戦意に光る。再び踏み込む。


斧が旋回しながら襲いかかる。鉄の斬撃。空間ごと裂く一撃。

ハクは足をずらし、木刀の腹で受ける。


カキィン!


火花とともに、木刀が斧を逸らす。


「受けた、だと……? 斬る気もない“棒”で……」


カイロスが本気になる。


「ならば、その棒ごと叩き潰してやる!」


衝撃波を纏う踏み込み。魔導加速が発動。カイロスの戦斧が連撃を繰り出す。


ハクはすべてを受け流す。木刀が軌道を滑らせ、風のように空間を断ち、斧の“意味”を逸らしていく。


そして、カウンター。


ハクの一撃がカイロスの腹部にヒットする。


「……っぐ……!」


カイロスが後退る。


「な……なにをした……その“木”に……重さはないはずだ……!」


ハクの目が静かに光る。


「重さはない。でも、“通す”って、そういうことだろ」


風が再び吹き始める。


カイロスの目に、初めてわずかな“警戒”が宿った。


「貴様……何者だ……」


ハクはただ一言。


「通す者さ。風と、意味と、剣を――」



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