25話:理と風、二本の剣
砦の空気が変わった。
ルア・シエルが構える魔導剣《ヴァスト=シエル》は、
空間ごと制御する“重力操作式”の魔剣。
足を踏み出すたびに、大地がたわみ、風が止まる。
「この剣は、“理”そのもの。
あなたの木刀に、通れる道など――ない」
ルアが刹那、消える。
ナギが叫ぶ。
「ハク、来る――!」
振り下ろされる剣。
空気の厚みが変わる。
重力がハクの足元を縫いつけようとした瞬間――
“風が跳ねた”。
ハクの木刀が上がる。
魔導剣と交錯――その刃を、弾き返した。
カンッ!!
爆風と共に石畳が砕ける。
だが、ハクは微動だにせず、木刀一本で斬撃を受けきっていた。
ルアの目がわずかに見開く。
「……本当に、木刀……?」
ハクが静かに言う。
「これは“風を通す”木。
だけど、“通れない風”には……ちょっとくらい逆らってもいいんだよな」
ルアがもう一度、姿を消す。
今度は空間操作。上空から魔導符を展開し、重力圧縮斬撃を連続で撃ち下ろす!
――だが、そのすべてが、
木刀の一撃で“斜めに逸れていく”。
ナギが呆然と呟く。
「それ……“風霊樹”の真の力……!?
“理を歪ませずに流す”――そんなこと……」
ハクは踏み込む。
風をまとい、一歩、また一歩。
ルアの魔導剣が受け止める。
その瞬間、空気が反転する――
ハクの木刀が、魔導剣の理を“断ち割った”。
ヒビが走る。
ヴァスト=シエルの刀身が、キィィン……と軋んで砕けた。
ルアが後退る。
「馬鹿な……“魔導に適合した理”が……木で……?」
ハクはただ静かに言った。
「剣に“刃”がいるのか。
斬るっていうのは、“意味を通す”ことだろ?」
ルアが、膝をつく。
彼女はその場で、静かに頭を垂れた。
「……風、か。あなたは、世界の“流れ”そのものね……」
ハクの背中に、また風が通った。
木刀は傷ついていなかった。
けれど、そこに確かに、“一歩、風が進んだ痕跡”があった。




