愛を知れたなら
そらはお母さんと二人で暮らしている。母は空の頑張りを見てはくれない。そらは愛されていなかった。人はみな愛される権利を持っている。愛とはなんなのか。
愛された人にしか分からない質問だ。
いつものようにうるさい家、幼かった僕にはまだ分からなかったが、家計が苦しかったようだ。そんな僕は家族に優しくされたことがなかった。
「お母さん今日テスト返ってきたんだよ」
「そら!今はそんなのどうでもいいの!」
「あ...」
テストの答案用紙は無様に叩き落とされた。
「ごめんなさい……」
悲しい気持ちでいっぱいだったが、またいつもの事だと自分にいい気かせていた。
学校では誰とも遊ばずに教室でいつも勉強をしていた。どうしてもお母さんに認めて貰いったかったからだ。
小学校を卒業して中学校に進学する時、僕は知らない誰かに引き取られた。お母さんは最後まで僕を褒めてくれることはなかった。
その時の気持ちはよく覚えていない。もうどうでもよかったんだと思う。お母さんのヒリついた視線が僕に向いていた。それも見なくて済むのかと少しほっとしている自分がいた。
僕は新しい家に来た。その家庭は子供が出来なかったらしい。知らない人と過ごすのはあまり馴染めない。知らない魚がいる水槽に入れられた気分だ。成長した僕は色々と分かっていた。捨てられ拾われたのだと。
「そらといいます。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくねそらくん」
のぶとい声のおじさんと細身のおばさんだった。あまりいい感じはしなかった。経験、ただの勘だ。
初めはなれなかったが少しずつ話せてきた。
その家族は僕にパソコンの使い方を根入りに教えてくれた。僕は初めてパソコンを触った。少し嬉しかった。
中学校で初めて友達もできた。まさとくんだ。一緒に文芸部にも入部した。
僕の心は少しずつ変わっていってるように思えていた。
そんな日々もつかの間だった。パソコンを頑張ってしていても全く褒めてはくれない。昔と同じだ。慣れていた。
ただ最初に会った時の違和感、僕の感は当たっていた。
僕に教えていたのは、裏社会で使える人間にする為の教育だった。
ハッキングやプログラミング、それだけできるようになった僕にはこれがいけない事だと気づくのはそう遅くはなかった。
「お父さん、お母さん、僕はなんのためにこれをしているの?」
「知らなくていい」
「そうよ」
頑なに教えてはくれない。ただもう遅かった。知恵を与えすぎたからだ。子供は時に残酷だ。
僕は交番に行き事情を話した。最初は困惑していた警察だが捜査に協力してくれることになった。
あっけなかった。お父さんとお母さんは捕まった。
「このクソガキが!!恩は無いのか!」
「………」
鬼のような声は町中に響き渡っていた。
今していることは間違っていなかった、そうだと分かっていても、まだ中学生の少年にはあまりに残酷だった。
何も考えれないまま立ちすくみ何時間もその場に立っていた。行くあてもない。もう死にたかった。心が閉じてしまった。
そんな時一人の女の子が僕に声をかけた。
「君の名前は?」
「そら」
「いい名前だね!」
そんなこと初めて言われた。母に着けてもらったこの名前はあまり気に入ってなかった。でも少し嬉しかった。
両親はとても明るくとてもいい人そうだった。僕には眩しすぎた。
「僕、帰るお家ある?」
「……」
僕はゆっくりと首を振った。
「うちに行らっしゃい」
優しい声でそう言われた。このまま死んでもよかった。だけど、今は少しだけ今は縋りたかった。
「よ…よろしくお願いします。」
「私はみく!こちらこそよろしくね」
「辛かっただろうに、よく今まで頑張ったね」
家族全員で歓迎された。
女の子は僕と同い年の同じ学校だったらしい。周りに興味がなかった僕は全く知らなかった。
あの事件があってから初めて学校に行った。みんなの目線は僕に釘付けだ。悪い意味で。放課後にまさとくんに呼ばれた。
「どうしたの?」
そう訪ねても答えてはくれない。そっからのことは思い出したくもない。まさとくんやクラスの人達に犯罪者と言われ殴られた。やっぱり死んだ方がよかったんだと、そう思ってしまうほどに辛かった。死にたくなった。
一人の女の子が走ってきた。
「こら!!何してるの!先生呼んだから!」
男の子達は情けなくすぐに逃げていった。
彼女はうずくまる僕に優しく声をかけてくれた。
「大丈夫?」
「どうして?どうして!僕なんか」
「家族でしょ!」
家族は助けてくれる、そんなこと初めて知った。
彼女はその日から毎日家や学校で声をかけてくれるようになった。とても嬉しかったし楽しかった。だけどまた裏切られるのが怖かった。
「一緒にバドミントンしよ!」
「僕あんまり上手くないよ」
「いいのよ」
放課後よく遊ぶようになった。こんな日がいつまでも続けばいいのに。そう願った。
この日も一緒に学校から帰っていた。中学校を卒業する日も近くなってきて、進路の話をしていた。
「一緒の高校に行きましょ!」
「いいの?」
「もちろん!」
とても嬉しかったが、申し訳ないという気持ちもあった。
「僕のことはほっておいて自分のために生きて欲しいよ!」
僕はいつもなら出さない大きめの声でそう伝えた。
「もう虐められないように頑張る、だから!一人で大丈夫だよ」
「私がそうしたいの!」
僕には分からなかった。僕にどうしてそこまでしてくれるのか。
「私ね」
彼女は真剣な眼差しで話し出した。
「私もね虐められたことがあるの、とっても辛かった。今でもそれを思い出して辛くなることがことがあるわ」
初めてそんなことを聞いた。今まで話してくれなかったことを僕に打ち明けてくれた。
「でもね、そんな私なんかに気を使ってくれたり、一緒にいてくれる人と出会えた。私はまだ君といたい」
「君は僕みたいな人といたらだめだよ……」
そんなひたむきな僕を見て彼女はこう言った。
「もっと自分を出していいんだよ!今まで沢山辛い思いをしてきたかもしれない、でも今は!ちゃんと愛されてるんだから」
「愛されている……」
考えたこともなかった。新しい家族になってから、とてもいい生活をしていた。でもどこかで昔のことを思い出してしまう自分がいた。
少しだけ閉ざされた心は開こうとしていた。
「私はあなたのことが好きだよ。辛いけど前を向いて頑張ってる君が」
「僕のことが……」
初めて言わた言葉に動揺してしまった。咄嗟に目を逸らしてしまっていた。
「僕は……誰かに愛されていいいのかな」
「いいに決まってるでしょ!私が一生をかけて愛すわ!」
僕の心は開いた。僕は泣き崩れた。一緒にいたい。そんなことを初めて思った。
それからも僕たちはずっと一緒にいた。一緒に高校に進学し、色々なところに行ったりもした。かけがえのない人と出会えた。僕は笑っていた。
彼女は一生をかけて愛してくれた。僕にとって愛を教えてくれた人だ。