表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大罪人の旅路  作者: しらゆりトマリ
6/14

6 贖罪―6

 龍の巨体が地面に横たわっている。

 半透明の体は斬撃の跡があちこちに刻まれており、俺が斬った幾千回を静かに伝えていた。


「⋯⋯⋯⋯」


 動くことすらも辛そうな龍は、そのまま地に身体を預けてこちらを見やる。


「⋯⋯君は実は強かったのだな」

「どうも」

「これは、我が本気を出しても勝負になっていたぞ」

「そうかな⋯⋯俺も結構ギリギリ」


 最後は本当に紙一重だった。

 えぐられた脚は巫女の力を使い切って治したものの、その後すぐに右腕をやられたのだ。利き手が潰され最後は左腕で剣を振るったが、それが不発に終わっていたらおそらく俺は死んでいた。

 龍が本気を出したらここまで拮抗した戦いにはならなかっただろう。瞬殺されて終わる未来しか見えない。


「だが、よくやった。これで我は死ぬ、魔石となって君の力になれる」

「⋯⋯龍さん」

「あぁ、もっと誇ってくれ。君は初めて我を倒した人間なのだ、誇ってくれないと我が惨めになる」


 今際の時。龍は変わらず穏やかな笑みを浮かべている。殺されるのは承知の上だったとはいえ、いざ死にかかっても余裕そうだ。

 まるで生に執着しない。その姿にどこか胸が痛くなった。

 だが俺は迷わず手を伸ばした。


「⋯⋯分かったよ。じゃ、あなたのその力いただくとするかな」


 手を伸ばすと、半透明の龍の体が淡く光りだす。

 その体は先刻の花と同じように綻んで光となり、一点に集まっていく。

 そして、光りは宝石のような物体に姿を変えた。

 魔石。魔石の表面は一切の濁りがなく、水面を映し出したような表情だった。

 やがて形なくなった龍の声が俺の耳をかすめる。


『この力を以て、君は君の目的を果たせ。我から力を受け取ったのだから途中で投げ出すことは許さない。君の使命、常に心に刻んでおくのだ』

「ああ。分かってる」

『ならばよし。では最後に君に贈り物を贈るとしよう』

「⋯⋯⋯⋯?」


 俺が何のことだか解らないでいると、龍は言った。


『我がこれまで習得した魔法と、龍化の力を魔石の中に記憶させておいた。これでどのような敵が来ても問題ないだろう。存分に振るってくれよ』

「は⋯⋯」

『ではな!』

「あっ、おい、ちょっと待⋯⋯」


 言い終える前に、龍の声は聞こえなくなってしまった。

 あの龍、とんだ置き土産をしていってくれたな、と俺は心の中で呟いた。時を操る力だけでも身に余るのに、そんな危険な力をやすやすと渡してこられても困る。

 

「⋯⋯はぁ」


 だが、まぁ。ありがたくはある。

 この先どんな敵と戦うかも分からないし、巫女の力を使い切ってしまって少々心細くもあった。だったらもう素直に受け取るしかない。


「俺はほんとに貰ってばっかだなぁ」


 呟き、俺は水面を映す魔石に触れた。

 魔石はシャボン玉が割れるようにパシャンと砕け、その時俺の中に何かが入ってくる感覚がした。

 ブワッと高揚感に包まれる。同時に、側にあの龍がいるようにも感じて、俺はぐっと胸を押さえた。


「俺は一人でいるつもりだったんだけどな」


 良くも悪くも龍はここにいる。

 龍と会うのにも俺一人では辿り着けなかった。

 結局、人は一人でいるようには出来ていないということか。

 いいだろう。せいぜい最後まで俺に付き合ってもらうことにしよう。

 贖罪の旅が終わるその時まで。


「⋯⋯さて、そろそろ行くとしましょうかね」


 そうして、大きな罪を背負った男はその日、時を超えた。

 




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ