表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/556

94.弓を買おう

テラノバ連邦の北側に面した小国、ウィルマール王国のモンフォール家とかいう子爵家から戦闘訓練の依頼を受けることに決めた私たち。

ニーセンの町の傭兵組合の地下の演習場までやってきて、これから『魔女っ子旅団』がお眼鏡にかなうかどうかを確認するという事で今に至る。




私たち三人が地下の演習場で待っていると、程なくしてがたいのいいオジサンがやってきた。

坊主頭で左目には縦に古い瘢痕が残っている。

そのせいだろうか、左目は潰れているみたいだ。

よく見れば腕なんかもあちこちに瘢痕が残っているあたり、恐らくかなーりの手練れと思われる。


何というか…この人が指南役として行けばいいじゃん!


「腕を確認するってのはお前らだな?」

「はい、我々は『魔女っ子旅団』と申します。今回お願いしたいのがこちらのアメリです」


フレヤさん、臆さない。

私は格好いいオジサンだなぁと思いつつも、やっぱり佇まいからして怖い。


「あ、アメリです…!」

「ほほう、世の中は広いな。よもやこんなメイド見習いみてえな娘っ子がクイーンスレイヤーとはな…」


はは、まぁそりゃそう思うよね。


「俺はシグフリード、元はスーゼラニアの王国騎士だ」


おお!スーゼラニア!

凄いな、テラノバ連邦に居るとさ、スーゼラニアの元騎士だってだけで、この人が滅茶苦茶まともな人だって感じる不思議!

王国騎士って事は王様の直属みたいな感じの騎士だったのかな?

す、すげーじゃん!!


「あらー!あんた本当にいい男だねえ!いやあ、あたしあんたを気に入ったよ!」


フリーデリケさん、距離感ゼロだ。


「ありがとよ。だが残念ながら俺はガキンチョには興味はねえな」

「じゃあこっちの姿なら興味はあるかい?」


妖艶な笑みとともに大人モードになるフリーデリケさん。

あ、シグフリードさん赤くなった。


「サ、サキュバスか…、ま、まぁ…」

「こんな屈強でウブなのかい!益々あんたを気に入ったよ!どうだい、今夜あたり?あたし、あんたみたいな強い男、堪んないよ」

「と、兎に角っ!!アメリ嬢の実力を見せてもらう。剣と槍は手合わせして確認、弓はこちらが用意する的に当てて確認する」


意外と純朴な人なのかな?

ちょっと好感が持てるね。

フレヤさんはそんなフリーデリケさんに呆れ顔だ。




そんなわけでまずは槍術の確認をする事に。

私がロセ・クイーンスパイダー相手に剣で戦っていたのは結構有名らしく、最後に気になれば確認ってくらいの感じでいいらしい。


渡されたのは木の棒の先端に厚手の布をグルグル紐で巻いた木槍。

ふむ、やっぱり「はじめまして」感はないね。


「よし、それではフレヤ嬢、悪いが合図を出してくれ」

「はい、いきますよ?」


シグフリードさんが木槍を構えた時から雰囲気が変わった。

鋭い眼光…まるで獲物を狙っている狼のような雰囲気。

眼光だけで射抜かれてしまうような錯覚すら覚える。


「…はじめ!」


シグフリードさんの姿がブレたように見える。

その踏み込みは目で追えない。


目で追えない足の運びもあれば、たまに目で追える足の運びもある。

これはわざと隙を見せて私を誘導する甘い罠のように見える足の運びだ。

これまで手合わせしてきた人たちとはひと味違う。

下手するとビクターさんより強い。

この人は信じられないくらい強いな。


そう瞬時に感じて、私は身体が震える感覚を覚えた。

恐怖から来る震えじゃない。

驚いた、私は歓喜してるんだ。

口角が上がるような、思わず声に出して笑ってしまいそうな。


シグフリードさんの操る木槍はまるでシグフリードさんの眷属のよう。

意識があるかの如くシグフリードさんを中心に空を舞い、私をからかうようにちょっかいをかけてくる。

瞬間瞬間の判断を一つでも誤れば、シグフリードさんの木槍が私の身体に噛みついてくる。


それでもまだついていける。


槍の重心を意識することに長けているシグフリードさん。

油断していると私の防御が崩されそう。


私とシグフリードさんの「ふぅ」「ふっ」という呼吸と、木槍同士がぶつかり合う時に奏でる小気味良い「カァン!」という音だけが響く。


やがてシグフリードさんから猛烈な殺気を感じた。

全身がゾクゾクとする殺気。

シグフリードさんの踏み込みは一切見えない。

まるで瞬間移動してきたような、私だけ時を止められたような。


本能的な部分が「カンッ」と警鐘を鳴らす。


やらなきゃやられる。


私の視界全て、ゆっくりと時間が流れ出す。

シグフリードさんが突き出した木槍の切っ先が私の喉に食らいつこうと迫ってくる。

こういう時の受け流し方はいくつもある。

私が一番得意なスピンムーブが最も最適な受け流し方だ。

いける、ここでおしまい。


私の木槍を縦にクルッと回して切っ先をシグフリードさんの喉元に突き出す。




「…わ、私の勝ちですかね…?」

「お、俺の負けだ…完敗だ」


長い打ち合いだったなぁ。

息をするのも忘れるとはこの事。

シグフリードさん、相当な手練れだこれ。

もし両目ともまともに見えている全盛期なら勝てたか怪しい。

私こそ言いたい、世の中は広いと。


「凄いじゃないか!!アメリ嬢ってば多分出来ますなんて境地じゃなかったよ!!」

「槍術については杖である程度想像が付きましたからね!それでもやはり素晴らしかったです!ギャラリーも集まるわけですよ!」


なぬっ!?


さっきまで閑散としてたはずの地下演習場。

気が付けば結構な数の傭兵が観に来てる。


「現役の頃に戦ってみたかったぜ。さて、アメリ嬢、次は弓だ」

「あ、はい…」


後は弓さえ見せれば終わりかな。

知名度が上がるのは良いことだけど、今まさに上がっている最中ですって場面は恥ずかしくてダメ。

私の知り得ぬとこで上がってほしいよ…




次は演習場の奥の方の的を射抜くのと、シグフリードさんがひょいと放り投げた的をいくつ射抜けるかというのを確認するらしい。

弓はこの演習場にあった平凡なショートボウ。


矢が持っていそうな癖みたいなものも、ちらっと見てすっと頭に入ってきた。

ここは地下、風がない。

呼吸、そしてアンカーポイントの確認。

試しに数本撃たせてもらったけど大丈夫そう。


お裁縫とか身支度よりしっくり来ないけど、これは確かに私の頭の中にある記憶と経験。

変な感じ。

まるで武力担当と魔法担当の私が居るみたい。

その表現が一番しっくり来る。


結論から言えば私が放った矢は全部命中した。


こんな事なら私専用の弓と矢を携行しようかと前向きに検討するくらい私は弓の扱いに長けてた。

シグフリードさんも、まさかひょいと放り投げたちっちゃい的まで全て撃ち落とすとは夢にも思っていなかったと舌を巻いてた。


そんな訳で見事私たち『魔女っ子旅団』はお貴族様の指南役の依頼をゲット。

そしてそして、クイーンスレイヤーの二つ名は伊達じゃないって所を存分にアピール出来た。


そしてシグフリードさんから話を聞けば今回の依頼、本来はシグフリードさんご指名で来た依頼らしい。

とは言えシグフリードさんだってここの職員。

流石に長期間空けることなんてできず。

そのままこのニーセンでシグフリードさん並みの傭兵を捕まえようと依頼を貼り出していたらしい。

シグフリードさん曰わく、ニーセンはスーゼラニアとの国境の玄関口のような大都市。

それだけ手練れの傭兵が来る可能性が一番高いとの事。


ふむふむ、そんで私が引っかかった訳だね。




フレヤさんとフリーデリケさんが改めて受付のお兄さんと相談をはじめ、明日の早朝に出発する大規模な商隊の数いる護衛のうちの一パーティーとして潜り込ませて貰った。


報酬はあんまり多くはないけど、ひたすらその商隊を護衛してりゃ、馬車に乗ったままウィルマール王国まで行けるらしい。




組合事務所を出て開口一番、フレヤさんが提案をしてきた。


「さてさて、食料の買い出しもですが」


ん?ですが?

他なんかあったっけ?


「アメリさん弓と矢も買いませんか?」


うーむ、確かに攻撃手段の一つとして持っておくのも良いかもしんない。

何というか無詠唱魔法での攻撃でもいーんだけどさ、弓ってちょっと格好いいかも…!


「なんでだい?アメリ嬢は別に無詠唱魔法で事足りるだろう?」


フリーデリケさんは分かってないね。

ズバリ格好いいからだよ!

そりゃ無詠唱魔法で事足りる。

極論を言えば無詠唱魔法と私の変な魔法さえあれば武器など全く必要ない。

格好いいからですよねー?フレヤさん?


「いざという時に魔力を温存するに越したことはないかと思いまして。ほら、クイーンスレイヤーとして名を馳せつつあるアメリさんですから、それでも強引にスカウトに来る手合いはこれまでよりも油断ならない可能性が高いかと」


おーそうかそうか。

確かに魔法協会っつー面倒な輩が居たな…

わ、私もそう思ってた側面もさ?ほら、無きにしもあらずみたいな?


「はーなるほど!強いとそんな面倒な事を考えないといけないんだねえ。あたしも魔法は使えるけどさ、別に他より飛び抜けてる訳じゃないからねえ」


私たちの後ろでプカプカ浮いたままそう言うフリーデリケさん。

しっかしフレヤさん、私以上に私のことを考えてくれてる。

ぶっちゃけて言えばそんな可能性なんざ微塵も考えてなかった。

護衛する時も役に立ちそうだし、ちょっとお言葉に甘えて買ってみるかね!




フリーデリケさんがこのニーセンを飛び出したのはかれこれウン十年前な上、食事はそこまで必要としない種族。

そんな訳でオススメの食料品店などまるで知らず、フレヤさん主導で買い出しは進む。

一通り相場をチェックしてかなりの纏まった量の食料を買った。

そうだよね、これから護衛の旅で長くなるもんなぁ。

ちなみにフリーデリケさんもお酒をいっぱい買って貰ってニッコニコ。

フレヤさんのほっぺに何度もちゅーしてた!

くそー、私のフレヤさんになんてはしたない事を…!


そして武器屋。

こればかりはフリーデリケさんにも心当たりがあるらしく、私たちは大人しくフリーデリケさんについてゆく事に。


町の西側、路地を曲がって更に路地を曲がって、階段を登ったり降りたり…かなーり不安になる道のり。

悪い奴らが出てきて身ぐるみはがされても不思議じゃない路地裏だ。

これ本当に大丈夫かな…?


「着いたよ!やっぱりまだあったよ!」


フリーデリケさんオススメの店にようやっと着いたか…

ってなんじゃこりゃ!ガラクタにしか見えない品物が適当に積んである!


「なんと言いますか…な、なかなか個性的な店構えですね…」


あ、フレヤさん引いてる。


「はは!ガラクタばっかだけどさ、たまーに掘り出し物があったりするんだよ!おーいっ!まだ生きてるかーい!?」


ああっ!プカプカ浮いたまま店の中に行っちゃったよ!


「とりあえず行ってみましょうか」

「で、ですね…!」


フレヤさん、今にもため息が聞こえてきそうな顔。

分かるよ、私も頼む人を間違ったと思ってるもん。


「生きてるよ!失礼なヤツだね!ってあんたクラウディアさんのとこのこましゃくれか!」

「覚えてたかい?そうだよ、フリーデリケだよ!」

「あんたみたいにピーチクパーチクうるさいヤツ、忘れたくても忘れられないってんだよ!なんだい、元気そうじゃないか」


足の踏み場がない。

これ…品物?の上を歩いていいのかな…?

いやいや、良い訳ないけどさ、そーするしか他にない。

何やら親しげな会話が聞こえてくるけど、ガラクタが山積みで全然フリーデリケさんが見えない。

ああっ、フレヤさんのそばで雪崩が起きた!

なんじゃこりゃ、品物はゴミ捨て場から拾ってきたの?


「だ、大丈夫ですか?」

「なんとか大丈夫です」


あーあ、フレヤさん髪がグシャグシャだ。

後で直さないと。


「あたしの連れがさぁ、なーんか弓が欲しいってんでさ、そうなると一発逆転でグリゼルダのガラクタ屋だなって思って来たのさ!」

「褒めてるんだか貶してるんだかハッキリおし!ガラクタ屋じゃないっての!ちゃんと品物の良さを見抜いて拾ってきてるんだよ!」

「いでっ!馬鹿言っちゃいけないよ!こんなさ、ほら、底に穴がぽっかり空いた鍋なんてガラクタじゃないか!」


あぁ、やっとフリーデリケさんが見えてきた!

えーと話し相手の店主は…?

なんだなんだ?まるで枝で手を作った等身大の人形みたいだ!

これ何族なんだ!?

真っ白な顔に薄緑の髪の毛を玉ねぎみたいに纏めてる。


「馬鹿言っちゃいけないのはあんただね!そりゃ使い込まれてていい具合に金属が変質してんのさ!魔力持ちが使ってた鍋に違いないの!」

「馬鹿言っちゃいけないのはやっぱそっちだよ!いくらいい感じだって穴が開いた鍋なんてなーにに使うのさ!」

「あ、あのっ!!」


フレヤさん、割って入った!

そうでもしなきゃ延々と言い争いしてそう。

何というかフリーデリケさんと関わってから濃いキャラクターばかり遭遇するね…


面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] シグフリードさんハニトラよわ男
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ