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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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87.地下組織

ニーセンの町で泊まっていた宿屋「星降る庵」の真夜中。

大きな音とともに姿を消してしまったフリーデリケさん、そして宿の女主人のヘルマさんとその娘エラちゃん。

残された私とフレヤさんは冷静に冷静にってな感じで心を落ち着かせ、とりあえず町の門に行こうという事で嵐の中、歩みを進めた。

そしてバッタリ出くわしたのは見覚えのある兵士のにーちゃん。

そんなにーちゃんに案内されるままにやってきたのは隠れ家みたいなところという事で今に至る。




兵士のにーちゃんに促されるまま中に入った。

ひえービチャビチャ!

くたびれた酒場みたいな、見てると気だるい気分になる場所だね。

カウンターにお姉さんが居るだけ。


「おい、大変だぞ」

「んー?なぁにヨーゼフ、この不良兵士。可愛いお嬢ちゃんを引っかけてきて」


カウンターの内側に居るお姉さん。

パイプをプカプカふかしてる。

何族だろう?

目の感じが人間っぽく感じさせないな。

真っ白な髪に真っ赤な目。

そしてやたらと色っぽい。


「ちげえよ。星降る庵のヘルマさんとエラちゃんがこの子等のパーティーメンバーと一緒に攫われたらしい」

「えっ!?ちょ、ちょっと!攫われたって…あのネズミ女に?」

「まだわかんね。でもそうだろうよ、今日あそこの構成員が嵐の中、裸で踊って捕まったりよ、事務所の前で親分がどうだこうだって揉めてたりしてたからな」


あーそれは間違いなくフリーデリケさんの仕業だ。

フレヤさんは様子をうかがってる。

私も黙っておこう。


「あとすまね、俺はそろそろ巡回に戻らねえといけねえ!説明頼む!ちなみにそっちの白髪の子は髪の色はちげえけどクイーンスレイヤーだ!だろ?お嬢ちゃん?」


ぬおっ!!

な、なぜそれを…!

こいつらは何者…あー、町に入るときはメイド服着てたからか。


「その通りです!この子はそのクイーンスレイヤーのアメリです!」

「あっ…あっ、で、です!」


な、情けない…!

ここは「そうね、巷ではクイーンスレイヤーのアメリなんて呼ばれているわ」なんてクールに決めたい。

それがどうだ「あっあっ!で、です!」…わたしゃ情けないよ!


「説明任されたっ!いってらっしゃい、不良兵士」

「うっせー!」


兵士のにーちゃん、私たちにウインクしてまた嵐の中に向かっていった。


「さて、いらっしゃい。こっちへどうぞ」

「はい、アメリさん、座りましょう」


フレヤさんがそう言うなら…

もうあれだ、「まぁフレヤさんが崖から飛び降りるなら…」なんて言って、考えなしで身投げすらするレベルでフレヤさんの後をついて回ってる。

でもいいんだ、フレヤさんについて行けば絶対間違いないんだ。

うちはそーゆーパーティーなの。


「どこから話そうかしら…とりあえず私たち…さっきの兵士もそうだけど、私たちはこのテラノバ連邦に反旗を翻すレジスタンスなの」

「そ、そんな事…わ、私達に…言っても良いんですか?」


抵抗勢力か…このお姉さんは馬鹿か?

私達が連邦の手の者だったどーするつもりなんだ?


「だって、あなた達がクイーンスレイヤーで有名になった魔女っ子旅団でしょ?明らかに連邦の手の者ではないと判断したけれど?」


鋭いっ!

判断が速いんだねぇ。


「クイーンスレイヤーのアメリとマテウスの子孫のフレヤ」


な、なぬーっ!?

ななななんだなんだ!?

このお姉さん、なんでそんな事知ってるの?

これは…ややや、ヤバい団体なのでは?


「ご名答です。流石隣国のレジスタンスといったところでしょうか」

「自慢の情報網よ。それじゃあ捕まったお仲間は炎姫のイザベラ?」

「あー、イザベラは今は亡き旦那さんの故郷で静かに暮らすといって傭兵稼業から引退しました」

「まぁ…そうなのね、じゃあ…?」

「それが、シャールビル国境検問所で偶然仲間入りしたサキュバス族の者でして…」


フレヤさん「なんだこいつら!?」感がないな。

ふーん、まあそーゆー組織なら知ってて当然の情報なんかな?

私も納得しとこう。


「サキュバスの…!なるほどね。チャームに当てられたとしか思えない奇行だと思ったけど、やっぱり」

「端的に申し上げますと、その最近仲間入りした者とヘルマさんとエラちゃんが連れ去られたようでして、事と次第によってはうちのアメリが強引にでも取り返します」


フレヤさんからこんな言葉が飛び出すなんて、やっぱ相当頭に来てるんだ…


「こんな嵐の中でね、早馬が出たの。恐らく近日中には州候のローマン・ベルガーってブタが鼻息を荒くしながら来るわ。リミットは嵐が去るまで」

「ブ、ブタ?州候は…じゅ、獣人なんですか?」

「ふふ、ブタみたいだけど歴とした人間族。まるまると肥えた醜い男。ヘルマさんも、きっとそのサキュバスもブタへ献上。エラちゃんは育ててから楽しむか奴隷としてオークションに出すか」


そうやってとっつかまえた上玉を献上するかわりに、違法な事をしてもお目こぼしって訳か。

あえて言おう、くそったれがっ!

絶対許せぬっ、許せぬだよっ!


「腐ってますね…」

「でしょう?グズグズに腐ってる」


だからこそこのお姉さんはレジスタンスなんてやってるのか。


「今回は間違いなくユルシュル商会が犯人。ヘルマさんのとこのろくでもない旦那がユルシュル商会から金を借りてたの。ユルシュル商会はブタに綺麗どころの女を献上する事で、ヘルマさんがクズの旦那から被せられたような異常な金利の金貸しを堂々と出来る。その辺の王国や帝国なら取り締まられるハズの同意なしの奴隷化も全くお咎めなし」


何というか…とんでもない国に来てしまったもんだ。


「こんなひどい嵐でしょ?連れ去られた人達はまだこの町に居るのは確実。だけどどこに連れ去られたかはまだ確定した訳じゃない。嵐じゃなかったら必ず私達の目が見てるけど、流石に目撃者は居ない」


そうだよね。

こんな途轍もない嵐、それも真夜中。

外を見てる人なんざ居るわきゃない。

私たちだって扉がガタッと言わなきゃ朝まで気がつかなかった。


「そ、それじゃあ…」


エラちゃん…


「慌てないで。嵐が去ればブタがこの町に間違い無く来る。という事は必ず町の中に動きがあるの」

「最悪そこを叩けば奪還出来るというわけですね」


州候を叩く?

偉い人を!?

お尋ね者になるでしょ!


「でもユルシュル商会で頭を張っているユルシュルって女が問題」


女とな!

ひょっとするとそのユルシュルとやらが直々に攫いに来たのか!


「そのユルシュルというのは…」

「ラットマンサ族っていう魔人族よ」


ラットマンサ族?

聞いたことないな…

フレヤさーん?

あら、フレヤさんも知らないって顔してる。


「聞いたことのない種族です」

「ラットマンサ族はね、あらゆるネズミを操れる厄介な魔人なの。その辺をチョロチョロしてるドブネズミを使って町中を見張ってる」


なぬっ!

ド、ドブネズミ…!!

何というか滅茶苦茶気持ち悪いな…


「そんなドブネズミ…!どこにでも居るじゃないですか!」


フレヤさんの言うとおりだよ!

この会話だって聞かれてるに決まってる!


「ふふ、ユルシュルがどうしても見張れないのがこの私って訳」

「どういう事ですか?」


うーむ、勿体ぶるのが好きな姉ちゃんである。

何というか…じれるよ!

美女は相手を焦らすのが義務なのかい!?


「自己紹介がまだだったわね。私はクラウディア。アラクネ族なの」


どわっ!!

急にスカートを捲った!…ってスカートに隠れてよー分からんかったけど、この姉ちゃん下半身が蜘蛛だ!


「なるほど!アラクネの糸でドブネズミはこの建物に近寄れないという訳ですね?」

「その通り。ネズミにとってこの私は捕食者って訳。あら、アメリ嬢はアラクネは初めて?」

「は、初めてです…!」


世の中は広い!

すげーすげー!

こんな種族もいるんだ!?




こんな嵐の真夜中、慌てたってどーしよもないって事で私とフレヤさんはこのアラクネのクラウディアさんからこの町について詳しく話を聞くことに。

捕まったみんなが大丈夫か心配でそれどころじゃないとは思ったけど、クラウディアさん曰わく、


「あのブタに献上する大切な品物。丁重に扱って最後にはピカピカに磨き上げられるわ」


との事だった。


このナグ州はずっと昔、帝国時代からベルガー家という元伯爵家の貴族がベルガー伯爵領だった時代から代々統治している。

連邦となっても大半の領地同様そのまま州候として横滑りして就任。

自治権が増した事で各地の元貴族達は益々やりたい放題好き勝手してきたとの事。

ベルガー家もとーぜんその一つ。


大きな大きなシャールビル街道が通っており、テラノバ連邦とスーゼラニア王国の玄関口。

余程下手を打たない限りは街道沿いの町は傭兵や旅人、商人などが常に訪れ、経済はまあまあ潤う。

あらゆる物事にほんとーに絶妙な額の税をかけ、住民から税をセコセコと吸い取ることで住民達は傭兵稼業をする暇もなく、商人組合に登録する事すら金も暇も無くて出来ず。

帝国時代には存在していた教育機関も今は存在せず、教育をろくに受けていない住民達はただただ搾取され続けているとのこと。


どの州も大なり小なりおんなじらしく、クラウディアさん達はそんな腐りきった連邦に反旗を翻すレジスタンス『レヴェル・ウイング』という組織を運営しているそーだ。

なんというかこの騒ぎが起きなかったら関わらなかった類の組織だ。

旅暮らしの私達には正直関係のない話ではある。

嫌だなぁと思ったらさっさと次の国へ行けばいいだけの話。

とは言えこうなっちゃったからには、そのレヴェル・ウイングとやらに頼らざるを得ない。


当然大っぴらに活動すればあっと言う間に手が後ろに回る組織。

それでも同志?とやらはあちこちに居るらしい。

この町にも同志は居るので、おおよそ「あそこに連れて行かれたんだろうなぁ」って場所に目星はついているようだ。




「では連行された場所について、ある程度は当たりは付いていると…」


フレヤさん、クラウディアさんの言葉にちょっと不服そうにそう言った。

私だってちょっと不服だ。

そりゃ準備だ何だ私じゃ良く分かんない根回しがあるだろーけどさ…


「確証が無い限り下手なことは出来ない。下手を打って警戒心を高めてしまったり、逃げられてしまったり、ね。それにここニーセンを裏で仕切っているのはユルシュル。大半の兵士をアイツの一存で動かせる」


おーい、この町の偉い人は何してんのさ!

いや、腐ってるからそうなってるのか…


「しかも町中の殆どにユルシュルの監視網が張り巡らされている…これは中々簡単な話ではないですね」


暴力でパパッと解決できないというのはなんとまどろっこしい事か…

知略を張り巡らせるようなのは完全に専門外の私。

そーゆーのはフレヤさんのお仕事なのだ。


「それでもユルシュルにとって大きな誤算が生まれた」

「誤算…ですか?」

「それはあなた達、魔女っ子旅団の存在」


ご、誤算?

誤算が生まれたとか言われるよーな存在!

か、格好いい!格好いいよっ!


「そうか…、私達は嵐が来るから走りながら一目散に宿に転がり込みました。まだ組合に拠点異動の届けも出していません!」

「そう。さっきあなた達を案内した同志のヨーゼフは偶然あなた達を町の入り口で見かけてその存在を知った。でもユルシュルはまだあなた達という存在がこの町にやってきて、自分達に牙をむけている事を知らない」


あ、オレンジジュースみたいなののおかわりが出てきた。

これ美味しいんだよなぁ。


「魔法協会の刺客を打ち倒し、ロセ・クイーンスパイダーをも打ち倒したクイーンスレイヤー。お膳立てはこっちで全部する、どう?この話に乗ってくれるかしら」


んー、もう乗るしかないんだよな。


「目の前で人が攫われたんです。乗ります」

「そう言うと思った。ありがと」


うーむ、ウインクされたってなぁ…

兎に角早くみんなを救い出さねば。


面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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