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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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79.逮捕

フレヤの冒険譚、嵐の夜の騒動編が始まります。

シャールビル街道を塞ぐようにデーンと佇む検問所。

私の隠蔽魔法エアサイレンチアで姿を消したイザベラさんとユーグさんが検問所を通過して遥か向こうへと姿を消した。

私とフレヤさんは涙を隠しつつ今に至る。




この街道を通せんぼうするデカい検問所。

その名を「シャールビル国境検問所」というらしい。

いや、そのままだね…


向かって左側はテラノバ連邦へ向かう人たち。

右側は逆にこれからスーゼラニア王国に行く人たち。

ふーん、左右で兵士の格好が違うのは、そーゆー事か。

私達が今から相対するのはテラノバ連邦の兵士って訳だね?


何となく傭兵っぽい身軽そうな人ばかりが並んでいる狭めのゲートがある。

さては徒歩の人はあそこって事だな?

流石賢いこの私!


「多分…あそこは徒歩での越境の人が並ぶゲートのようですね」


あ、フレヤさんもすぐ気が付いた。

そりゃそーだ、私が気が付くくらいだもん。


「な、なんか…スースー進みますね…」

「私達もあそこに並んでみますか」

「ですね」


思ったより時間は掛からなそうだなー。


馬車が並ぶゲートよりは並ぶ人が多いけど、人が吸い込まれてゆく速度が速い。

ははぁん、このレーンはやっぱり大したチェックもない人用だ。

よく見れば馬車は荷台までチェックされてる。

イザベラさんとユーグさんを荷台に隠して密入国なんてしなくて良かったね、これ。




「次っ!」


わ、私たちの番だ!

緊張の瞬間っ…!

悪い事なんてしてないけどさ…やっぱこう「ガッ」と来られるとビクッとしちゃう。


えーと、フレヤさん曰く?

等級が書かれたプレートと自分の情報が書かれたプレートを相手が見やすいように並べて見せれば良いんだっけ?

その割にはひょいひょい捌いてるけど…

本当にちゃんと見てんのかな?

こんなの嘘ついたって余裕そうじゃん!


「はい、お願いします」

「あ、あっ!はい…!」


ふむ、フレヤさんの真似してみたけど平気そうだね。

よしっ!!テラノバ連邦に足を踏み入…


「おいっ!!」

「ひゃいっ!!!」

「貴様はダメだっ!!」


どわっ!!

えっ!?わ、私っ!?

ダメ?な、何がっ!?

いででっ!!肩を掴まれただと…!?

た、逮捕された!?


「えっ!!あっ!!あっ…!!」

「貴様、プレートに書かれた特徴が一致しないぞ!それにメイド見習い風情が8等級な訳ないだろっ!!こんなもので誤魔化せると思うな馬鹿者が!!」


特徴!?

特…ああっ!!


「あっ…あう…」


フレヤさん助けてっ!!


「あのっ!違いますっ!私達は歴とした傭兵パーティーで…「我々テラノバ連邦を舐めてるのか貴様!?」


髪の色かぁ…私、真っ白けなままだった…!

しかもやっぱりこちとらちびっ子二人組、カチンと来ちゃってるよ…!

あばばば…フレヤさん!!


「あのっ!!こちらをご覧ください!!」

「ん?なんだ?」

「こ、こちらはですね…!!」


おおっ!!

でかしたフレヤさん!!

鞄に仕舞ったフレヤさんの分の紋章入り短剣だ!!

ジャキーン!どーだ不届き者ども!!

この紋章をよーく見てみろってんだ!!

コーネラ子爵の紋章があれば…


「抜剣!!抜剣!!捕縛しろ!!」

「くせ者だ!身分詐称罪と抜剣罪!!」


あばばば…え、エラいことになった…!!

鞘から抜いちゃダメな州なん?

うそぉ、ここ町じゃなくない?


一斉に向けられる怒気。

あ、足が竦む…


あばばば…

どうしよう、牢屋にぶち込まれるんだ…!

鉱山とかで死ぬまで働かされたり…なんか良く分かんない棒をグルグルグルグル回す事になるんだ…!

どうしよう…連行されちゃうよ…!




「ううっ…!ううっ!!わだじ…なんもじでない…ぶわっくしょん!!」

「あっ!!こらっ!!お、おい!?て、手枷持って来い!このメイド…ま、また手枷を壊した!」

「ごっ!!ごべんなざいっ…!!わざどじゃない…わざどじゃ…!!」


ワザとじゃないよ…

この手枷、ちゃちくてすぐ壊れる…


「ええっ…た、隊長…もう手枷ないっすよ…」

「なっ!?お、おいっ!ちょっと今傭兵組合の職員が来るから!手枷はないが…お、大人しくしてろ!」

「ううっ!!えぐっ…牢屋…やだよぉ…!!」


どうしようどうしよう…

フレヤの冒険譚囚人編が始まった…

なんも悪いことしてないのに!


「隊長…このお嬢ちゃんやっぱり間違い無くクイーンスレイヤーの「黒の魔女っ子アメリ」本人っすよ…メイド服の子供ですし、手枷はオーガ族の男でも壊せねえハズっすよ?」


どうしよう…手枷の弁償として金品を請求されたら…

路銀が没収されて素寒貧になるよ…

こっちが無実だろうがなんだろうが、そんな意見は無視されるに決まってる。

えらい人なんてみんなそうだ。

終わった、まさかこんな形で終わるなんて…


っていうかクイーンスレイヤー?

それひょっとして私のこと?

か、格好いい!クイーンスレイヤー…!

で、でもそう語られる頃、私は檻の中。

嫌だ…そんなの嫌だ!!


「そ、それは…!うーむ…引っ張っても全然びくともしないな…」

「なんか…子供を虐めてるみたいでイヤっす…」

「そ、そう言うな…!私だって…し、仕事だぞ馬鹿者!」


どうしよう…

どうしようどうしよう…

こんなの無実だろうがプライドのために捕まるんだ。


「なぁお嬢ちゃん?」

「は、はい…ううっ…!」


ん?物分かりが良さそうなにーちゃん…


「お嬢ちゃん、プレートには黒髪って書いてんのにさ、なーんで髪の色が白いんだい?」

「ク、クイーンを…た、倒した時に…ううっ!ぐすっ!!」

「うんうん、倒したときに?」

「づ、づがっだ…魔法…ふくっ、副作用が…」

「魔法の副作用?」

「そうっ…そうげっ!ぐすっ!!草原街道でぇ…だんだん…ふぐさようがぁ…髪…も、もどんながっだら…どうじようっでぇ…!!」

「あー…あっちのハーフリングのお嬢ちゃんと同じ事言ってますねえ。魔法はよく分かんないっすけど、ありそうな話ではあるんすよねぇ…」


良かった…

フレヤさんもとりあえず無事なんだね。

早くフレヤさんに会いたい。


「失礼します!傭兵組合の職員の方を連れてきました!」

「おおっ!と、通してくれ!!」


た、助かった…のか?

なんか別の人来た!


「失礼します!さあ、どうぞ!」

「はいはい…失礼しますねぇ…ってうわぁ…物凄い泣いてますねぇ…」


な、なんか好々爺みたいなお爺ちゃんが来たっ!!


「ジェイクさん!た、助かった!このメイドのお嬢ちゃんなんだが…」

「あちらで取り調べを受けてるうちの組合員のフレヤから見せて貰った書類に目を通してみたんですがね?ありゃ間違い無く本物の書類でしたです、はい」


フレヤさんに書類持ってて貰って良かった…


「えー髪の色については明記されてなかったですけどね?紋章入りの短剣の他にもコーネラ子爵家のお仕着せを報酬として貰ったようでして、首の後ろの方の裏地に特別に紋章が刺繍されているようですな、はい」


い、言われてみれば…!


「草原街道は確かにうちの事務所はないですからね、はい。副作用で髪が白くなっても申告はちょーっと出来ないですね、はい」

「では…ちょっと女の隊員を連れてくるから待っていてくれ」


助かったかも…?




その後、女性の兵士の人が来て私のお仕着せの首の後ろのところを捲って紋章を確認してくれた。


そのお仕着せがそもそも本物のアメリから盗んだもしくは強奪したのでは?という意見が出た。

本物のアメリは私だよ…


でもこれまでの実績から、盗賊も一瞬で無抵抗にできてクイーンをほぼ単騎討伐出来るとんでもない傭兵が着ている服を奪う追い剥ぎみたいな真似なんて不可能だと結論付けられた。


そして…




「フレヤさぁぁんっ!!」

「よしよし、私達は何もやましい事はしてないんですから、そんなにワンワン泣かなくても大丈夫ですよ?」

「け、権力に負けでぇ…囚人になるがどぉ…おーいおいおいっ!!おーいおいおいっ!!」


良かった…本当に良かったっ!!

無実が証明されたんだっ!!

私たちは自由だ!!


「わ、わげわがんない棒…!わげわがんない棒をっ!!いっ、一生グルグル回ずのがどぉーいおいおいっ!!おーいおいおいっ!!」

「な、なんですかそれ!ふふ、ごめんなさい…ふふっ!」


もう「ふふ」でも「はは」でも良い。


「アメリ嬢の髪色についてはここの出張所で「黒・白の場合もあり」って書いておきます、はい」

「助かります。次に立ち寄った傭兵組合で相談しようと思っていたのでちょうど良かったです」


もう私は何でも良い。

フレヤさんにくっついていられるなら、他になにもいらない。


「書類も急ぎ追記してここの承認印押しておくからね、はい」


ジェイクさんとか呼ばれてたかな?

このお爺ちゃんが救いの神に見えるよ…


「で、テラノバ連邦側で一晩丁重に扱って下さいよ?はい」


ん?

ええっ!

もうさっさとトンズラしたいよ!

とは言えもう夕方かぁ…


「そ、それは…!」

「ウルバン隊長?この子ら「魔女っ子旅団」はねぇ、こう見えてもスーゼラニア王国の危機を救った救国の英雄なんですな、はい。連行されてここで不当に拘束、そして適当に放り出されたと公になればですな?コーネラ子爵だけじゃなく、マルゴー辺境伯ならびにねぇ、その派閥の貴族連中から睨まれるのはテラノバ連邦なんですな、はい」


け、結構言うな…このジェイクお爺ちゃん。


「よ、よしっ!「魔女っ子旅団」のお二方をあれだ…例の部屋へ!だ、大事な…えーと、兎に角丁重に!」


あ、ジェイクお爺ちゃんウインクした。

ふふ、ちょっと気持ちが落ち着いた。




私の組合員証と拠点異動届はジェイクお爺ちゃんに託し、私たちは検問所に併設された宿舎みたいなのへ案内された。

宿舎みたいな建物で引き渡されたけど、対応してくれたのは私のお仕着せの紋章を確認してくれた女性兵士だった。


「いくら仕事とは言え、うちの隊長がギャンギャンとごめんなさいね?あ、私はカルラです。よろしくね」


女の人…ちょっとホッとした…


「いえいえ、私達も魔法の副作用で後から髪色が変わってしまった事をスッカリ失念してまして、気が動転して短剣なんて抜いてしまって…」

「それにしたってアメリ嬢をあんなに大泣きさせちゃって」

「はは、うちのアメリは少々オーバーなだけなので大丈夫ですよ、ねえ?」


なぬっ!オ、オーバーだとっ!?


「ふ、不当に捕まって…死ぬまで強制労働するのかと…!」

「何一つやましい事も無いのに、誤解でそんな事になる訳ないですって!アメリさんったら本当にオーバーなんだから!」


むー…

今日はたっぷりフレヤさんに甘えてやろう。

覚悟しとけよー?フレヤさん!


「あはは!しっかし人を見た目だけで判断しちゃだめですね!お二方はロセ・クイーンスパイダーを討伐した凄腕パーティーなんですよね?」

「はい!臨時メンバーだったイザベラはもう別れましたが、私達「魔女っ子旅団」が討ち倒しました!」

「あれ本っ当に助かりました!ダンジョン化したらここの検問所の場所を変えることになってたねなんて話題で持ちきりでしたよ!」


そうかそうか。

この辺って魔物も少なさそうだし、検問所としてはかなり運営しやすいのかな。

ちょっと誇らしいな、こういう所で働く人たちも救った訳だ。


「それにしても誤解というだけで一泊…恐縮です」

「いえいえー、なんの気紛れかね?ここナグ州の州候ってえらーい人が本当たまーにここへ視察に来るんですよ。その州候の為に作った部屋の使い道が全然無くて!使わないと勿体ないし、折角だからゆっくり満喫しちゃってください!」


しゅうこう?

後でフレヤさんに聞いてみよ…


しかしそんな気紛れみたいな視察のために豪華な部屋を作らせるのか。

なーんかあんま良い印象ないね。

結局ノリが貴族と変わんないんじゃない?


「それは楽しみですね!ねえアメリさん?」

「え?あ、はい!」

「ふふ、食事もここナグ州の名産の羊料理ですからね!ちょーっと癖のある肉だけど、なかなか美味しいですよ」


むほーっ!

羊肉!

これはテンションが上がって参りました!


「それは楽しみです!わぁ、良かったですねアメリさん!」

「は、はいっ!食べてみたかったんです…!」


兵士のおねーさんカルラさん、ペロッと舌を出した。


「どーせナグ州のお金です、迷惑料としてジャンジャン食べちゃって下さいね!」


ふふ、カルラさんは凄く良い人そう。

こんな出会いがあるなら誤認逮捕された甲斐があったかもだ!


面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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