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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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78.バイバイ、イザベラさん

ついに今日はイザベラさんユーグさんと別れの日。

明日からはまた私とフレヤさん二人の旅が始まるんだとおセンチな気分になりつつ今に至る。




「こ、これで⋯⋯イザベラさんの身なりを整えるのも、さ、最後ですね⋯⋯」


イザベラさんの整った美しい顔。

宝石みたいにキラキラ綺麗な瞳。

思わず見とれてしまう唇。


「今日からはど田舎の里から駆け落ちしてきたエルフ。アメリちゃんのお化粧が出来ないのは残念ね」


残念そうに眉をひそめて微笑むイザベラさん。


「イ、イザベラさんは美しいから⋯⋯ほっ、宝石や化粧なんて、必要、あ、ありません」

「ふふ、そればっかり。でもありがとう」


最後はばっちり完璧に仕上げたかったけど仕方ないね。

里から逃げ出したエルフがバッチリメイクだと変だもん。


ちなみにエルフの里みたいなところでも行商人はやってくるらしく、服装については地味なものであれば違和感ないらしい。

布を巻き付けてるだけみたいな粗末な格好じゃなくて良かったよ。




朝食を済ませた私達。

草原街道もラストスパート。


「そろそろシャールビル街道に合流します。隠蔽を施しますが、お二人とも準備は良いですか?」


ついにこの時が来た。

真っ昼間、人前で隠蔽なんて怪しさ丸出しな事が出来るわけない。

草原街道で人が居ないうちにするしかない。


「フレヤちゃん、本当に本当にありがとう。あなたがヴィントスネーク討伐の依頼を受けてくれなかったら、起こり得なかった奇跡よ」


イザベラさん、フレヤさんを抱きしめた。


「きっとね、私は起こるべくして起こった出来事なんだと思います。嘘をつかないハーフリングはね、幸運を運ぶんですよ?」

「ふふ、どうかアメリちゃんの手綱をしっかり握ってね?フレヤの冒険譚の出版を楽しみにしているわ」

「どうかイザベラさんもお元気で。ユーグさんと末永く幸せに暮らしてください」


私の手綱とか聞き捨てならぬ言葉が聞こえた気がするけど⋯ダメだ。

またウルウル来ちゃう⋯⋯


「アメリちゃん」

「はい⋯⋯」


イザベラさん、良い匂いがする。

いい女は良い匂いがするんだな。

暖かいし柔らかい。

安心する優しい優しい温もり。


「あなたという女神様に出会えた幸運⋯生涯忘れない。子供が出来たらあなたから名前を貰って名付けようと思うの」

「えへへ⋯て、照れますね」

「仲間思いで勇敢で、どんな困難にも歯を食いしばりながら立ち向かってゆく子に育つように。アメリという英雄に負けないような立派な子になるようにね」


ダメだよイザベラさん⋯

そんな事言われたら⋯泣けてきちゃうよ⋯


「お、お茶目でいたずら好きで⋯やっ、優しいイザベラさんがだだ、大好きです⋯さよなら、イザベラさん⋯」

「さようなら、どうか魔女っ子旅団の旅が素敵なものになりますように⋯」


私とフレヤさんとイザベラさん。

最後に目一杯泣いてしまった。




「本当に本当にありがとう。ベリータと二人、魔法協会に見つからないよう、どこか静かな田舎で静かに暮らすよ」

「これ以上は名残惜しくなっちゃう。ひと思いに隠蔽してちょうだい」


そうだね。

いつまでもメソメソしてらんない。

よしっ、いっちょ隠蔽したるかっ!


「で、ではいきます!くしゃみとか⋯せ、咳払いもダメです!」


マギアウェルバ


風よ風よ


風の中では何人も声を聞けない

静寂の風がただ吹き抜ける


永遠の無音


エアサイレンチア


目の前でイザベラさんとユーグさんが消える。

術者の私には見えるけど、もうフレヤさんには見えてない。


「わ、私には見えてますので⋯行きましょう」

「そうですね。ここからは私とアメリさんの二人旅。不自然にならないよう気をつけてください」


もうメソメソもしちゃだめだし、消えてる最中のイザベラさん達に視線を送ってジロジロ見てもいけない。





すぐにシャールビル街道とかいう街道に合流した。

なんかいつの間にか大きな街道に草原街道が吸収されてたって感じ。

しかしこのシャール街道、一体何台の馬車が横並びで進めるんだってくらい広い!

すっごい光景にメソメソはすっかりなりを潜めたね。


「すっ、凄い広い道ですね⋯!」

「スーゼラニアとテラノバ連邦を結ぶ大動脈ですからね。でも私もこんな広い道は初めて見ましたよ」


こりゃあ確かに草原街道で隠蔽する訳だ。

どーせ誰もこっちの事など見ちゃいないだろうけど、視界に必ず誰かしら居る。

ふふん、イザベラさんとユーグさんも順調についてきているね。


「ちなみに私達は黙って組合員証を見せるだけで良いですからね」

「な、なんか書いたり⋯しないんですね?」

「いちいち書かせていたら時間がかかってしょうがないでしょうからね。商人なら兎も角、傭兵のみんながみんな字が書ける訳でもありませんし」


ははぁん、そっかそっか。

商人は兎も角として、身体が資本の傭兵は識字率が高くないって訳だ。

そんな輩にいちいち字が書けるか聞いたり、代筆を頼んでいたりすれば時間もかかる。


「ワクワクしてきました⋯!ど、どんな国なんだろう⋯!」

「連邦制をとっていますので、実はテラノバ連邦の中は小国だらけですよ」


そうだそうだ!

聞き忘れてたけど、そういや連邦制ってなに?

王国と何が違うんだ?


「れっ、連邦って⋯そう言えば⋯なんですか?」

「んー、そうですね⋯外交とか、あとは対外国や対魔物なんかの防衛は中央が司りますけれど、後はテラノバ連邦の中の各国が独自に国を運営してゆくというか⋯正直私も詳しくは知らないんです」


ふーん、あー⋯でも何となくは理解できたな。


「おっ、王国なんかと違って⋯各国が権利を持ってるんですね」

「そうですね、そんな感じみたいです。国王という君主から委任されて統治する貴族の領地とは、有する権利がまるで異なりますって感じですかね」


へぇ、結構面白そうだ!

テラノバ連邦なんて言いつつも、これから私達は数多くの国を渡り歩く訳だ!


「おっ、面白そう⋯!」

「ふふ、気をつけないといけないのは「さっきの国では普通にみんな吸ってたぞ?」なんてタバコが実は次の国では違法なんて事もあり得ます」

「き、気をつけないと⋯」


そうか、自治権を持った小国の集まり。

これは冒険譚としては楽しくなりそうだ!




やがて大きな門みたいなのが街道の向こうに見える。


ん?イザベラさん達が歩みを早めた。

一応フレヤさんの耳には入れておこうかな。


(歩みを早めました)


こくっと頷くフレヤさん。

イザベラさん、本当にさようならだ。

はは、ウインクしてくれた。

私の大好きなイザベラさんだ。

悪戯っぽい微笑みでウインク。

イザベラさんらしいや。


(ウインクしてくれました)

(泣いちゃダメですよ?)

(は、はい)


そう、もう涙は見せない。

イザベラさん達の隠蔽が続くかちゃんと監視してなきゃ。

監視しやすいようにイザベラさんとユーグさんは私達の前に出たんだ。


「初めに入るのはシャールビル街道の玄関口、ナグ州です」

「州⋯なるほど⋯」


そっか!

ナントカ王国とかじゃないのか!


「牧羊が盛んでして、羊乳を使ったチーズや羊肉なんかが名産ですね」

「た、食べた記憶がないです⋯!」

「チーズは牛の乳を使った物よりも味が濃いので、そのままってよりは料理のアクセント的な使い方が一般的らしいですよ?」


へえ!へえへえ!

また料理のレパートリーが増えるって訳だっ!

うひゃー、めっちゃ楽しみっ!!


「あはは!アメリさんったら涎!」

「よっ⋯!つ、つい!」


いけねえいけねえ⋯

まだ見てもいない新たな料理を想像したらつい!


その後もフレヤさんからあれやこれやとナグ州について話を聞いた。

州ごとに細かい違いはあれど、要するに普通に暮らしていればなんの不便もないらしい。

税制だとか教育の仕組みだとか、腰を据えて暮らしでもしない限り、気にするのは税金くらいとの事。




「ちなみに今回の旅では寄るつもりはありませんが、ワーネル王国と面するラムロム州では詠唱魔法が使える者に対して税金が優遇される代わりに、町中で使用してはいけないランクの魔法など、かなり厳しい制約が課せられます」


はえー、そうなのか!

いやぁ⋯そこ行ったら私はかなりややこしいね。


「わ、私はいけない州ですね⋯」

「ですね。バカ正直に使える魔法はこれだと披露してしまえば、間違い無く研究材料として生きる日々が始まります」


緑属性?雷属性?

あんた何言ってるんだ?

どれちょっとやってみせろ。

ええっ!なにその魔法!

確保ーっ!確保確保っ!


絶対行く訳ない。


「あとはそうですね⋯町中において携帯する武器は刃の部分を鞘などで保護しなければならないというような州も結構あるみたいです」

「わ、私の相棒は杖なので⋯だっ、大丈夫ですね」

「そうですね、杖にまで法が適用される事はないと思いますよ」


ふーん、しかしなんで連邦なんてひとまとめにする必要があるんだろうな。

別にそれぞれが独立した国でいいじゃんね?


「そ、そんな独立してそうなのに⋯な、なんで連邦なんですかね?」

「うーん⋯難しいですね。多分ですけど、各地域の独自性を保ちつつも経済、政治、防衛、それらを中央が担う事で、みんなで利益を享受できる。200年前までは大きな大きなテラノバ帝国だったらしいので、帝国が維持できなくなり、出てきた折衷案が連邦制だったのでしょうね」


フレヤさんすげーなー本当。

マテウスの冒険譚に憧れて、そんだけ色々勉強を積み重ねて来たんだね。


「さて!ほらほら、そろそろ行列が始まりますよ!」


おっと!

大きな大きな門には馬車が余裕を持って通過できそうなゲートがあって、あっちから来る人、こっちから行く人で流れがちゃーんと出来てる。


イザベラさんとユーグさん、ちゃんと予定通りササッと先を行った。

フレヤさんと繋いでいた左手にキュッと力を込める。

「もうイザベラさん達は行きました」という合図。

フレヤさんからもキュッと力を込められた。


イザベラさん、ユーグさんと末永く幸せにね。

次に出会ったときには子供なんか居たりして。

ふふ、その子を連れて旅なんてのも楽しいかも。


ベルーガを出立するときの盛大なパレード。

魔法協会の刺客との戦い。

ヤキムで私を想ってレベッカさんに託した伝言。

コンクの町で輩に絡まれてボコボコにしてやった事。

ロボロ村でエルマス夫妻の尾行をしてお漏らししちゃった事。

マーテラ村でのクイーン戦。

そして草原街道で最愛の旦那さんを蘇生させた事。


とっても楽しかったな。

ダメだ、涙が出ちゃう。

フレヤさんに叱られるぞー?


あぁ、フレヤさんも目に涙をためてる。

そっか、フレヤさんは私よりも密にイザベラさんと過ごしてるんだ。


フレヤさんの頬にちゅっと唇を落とした。

はは、フレヤさんビックリしてる。

歯を見せてニイっと笑いかけたら、フレヤさんも笑顔になった。


「わ、私達の旅は⋯まっ、まだまだこれからです⋯!」

「ですね!」




イザベラさんとユーグさんは一度も隠蔽が解ける事なく、街道の遥か向こうへと消えていった。


バイバイ、イザベラさん。


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