8.美味しいご飯
傭兵登録にあたって所長でもあるビクターさんに試験官をして貰って手合わせしていた私。
まぁビクターさんは強そうだし多少手荒くても大丈夫かなと思った私はビクターさんを蹴りでねじ伏せて今に至る。
「勝ちました」
ここまで激しく立ち回っても息が上がらない自分自身に気味悪さを覚える。
私は一体何者なんだろう。
そもそも空中で、何の魔法の支援も無く回し蹴り。
それもぐるんぐるん三回も蹴りが繰り出せる身体能力って一体何よ?
ろくに筋肉もないヒョロヒョロな少女がこんな芸当を出来るって何よ?
どんな鍛錬を積むと筋肉モリモリにならずにこんな事が出来るの?
いや、無理でしょ!
「はは、まだまだ現役のつもりだったが…完敗だ!」
ビクターさん、起き上がって顔中笑顔を咲かせた。
ちょっとくらい手荒くてやっても大目に見て貰えるかななんて思ったけど、やっぱりこの手の人は強い相手というのが好きらしい。
まるで子供みたいにワクワクした顔をしてる。
ビクターさんが両手を私に…?
ひょいと両脇を持って?
持ち上げて?
…か、肩車!?
さ、流石に恥ずかしい!
ワクワクし過ぎ!
「凄いぞ!この俺が一本取られちまった!」
「ははは、恥ずかしいから、おおおっ、降ろして下さいっ!!」
「がはは!俺は今猛烈に感動している!まるで駆け出しの青二才の頃に戻った感覚だ!!完膚無きまでにやられちまった!うぉぉぉぉ!!すげえっ!!これだから戦いは面白い!」
辺りをキョロキョロ見渡してみれば、とんでもない数の人人人!
演習場の外から観戦してる!
あばばば…!!
こ、こんなに目立つつもりは無かったっ…!
後先考えない悪戯心で一泡どころか泡を吹かせすぎた。
慌てふためいても後の祭り。
ビクターさん、テンションがおかしい。
この人、声がデカすぎるよ!!
「これより傭兵組合組合員…何という二つ名だったか…ああ、そうだ!『黒の魔女っ子アメリ』は組合規定により、教官確認による2等級からの開始とする!」
物凄い歓声!
そんな歓声を一身に浴びてしまう。
でも何か楽しい気分になってきたぞ?
私の傭兵としての第一歩はとても華々しい素敵な物になった。
あれ…?ビクターさん、そう言えば魔女っ子アメリって言ってなかった?
あれれ…?みんな…あれ?魔女っ子?
えっ!?今日から私『黒の魔女っ子アメリ』って呼ばれるの?
それは流石に恥ずかしいから嫌なんですけど!?
その後どうにかビクターさんに降ろして貰った私。
そそくさと逃げるようにして建物の中へ。
もう顔を上げられません。
そして今、ビクターさん直々に等級についての説明をしてくれるとの事でビクターさんの部屋に招かれた。
そして目の前にビクターさんが座ってる訳で。
「まずな?実力だけ見ればアメリはあちこち放浪出来る4等級でも何らおかしくない。俺をぶっ倒すヤツだ。4等級どころか…だな!」
ま、まぁ強いもんな…この人。
「しかしだな、4等級に上がるためには腕っ節だけじゃどうしようもない。力こそが全てな仕事じゃねえからな。」
力こそが全てみたいな人だけどね、ビクターさん。
傭兵って腕っ節は大前提として、多分信頼と実績が重要よね。
強いだけで得体が知れないヤツなんて怖くてさ、私ならそんなヤツに依頼を任せらんないもん。
「じ、実績が……ないと、こ、怖くて仕事……っ頼めません……」
「そうだ。日頃の依頼達成数だけでなく商人や貴族の移動時の護衛などの実績も必要になってくる。なので教官確認で設定出来る最大の等級は2等級、という事だ。ちなみに依頼達成の実績は4等級くらいまでなら昇格の為に組合が見るだけで、依頼主自体はそんな低い等級の傭兵の実績などいちいち重視しない。4等級ってのはあくまで自分の身は自分で守れるぞって証明だ」
「な、なるほど……」
「面倒臭くてすまんな」
なるほどなるほど。
確かに色々な経験を積んだ上で初めて箔がついた傭兵になれる訳だね。
私としても別に自由にあちこち行ければそれで満足。
「わ、私は……あ、あちこち、じ、自由に旅が出来れば……と思っているので、暫くは…い、移動できる範囲内で等級をあげて……いこうかと。」
急いで国外に逃亡する訳じゃない。
ゆっくり旅しながらでいいんだよ。
「ぎゃ、逆にいきなり2等級なんて…ほほ、本当にありがとうございます」
「いやいや、正当な評価をするのは当然の事だ。魔法もありで来られたら正直俺では歯が立たなかっただろう」
ビクターさんは終始上機嫌。
ちびっ子に負けたことに対する恨みみたいなのを微塵も感じさせない。
気持ちいい人だなー。
「何よりあの蹴りを受ける寸前。俺はアメリの見事な型にすっかり見とれてしまった。どこかこう…異国の武術の流派の師範と手合わせしているような…。いやはや、その辺の傭兵連中であそこまで杖や体術で戦えるヤツは間違いなく他には居ないだろうな」
「わ、私自身、……ど、どうしてこんな……メイドのような身なりで……こ、ここまで戦えるのか、さ、さっぱり分からなくて…ただ、身体が…こう、しっかり覚えていると言いますか……」
「達人のような境地なんだろうな。要人警護も兼ねた使用人だったのか…?まぁそんな憶測は置いといて!だ。さてさて、この後はどうする?」
この後…そうだ!
この後はサラさんと朝食を食べるんだった!
そう言えば身体を動かしたせいか無性にお腹が空いている。
第二の人生が始まってからサラさんから貰った真っ赤な果実、マリルとやらしか口にしていない。
腹の虫の抗議も流石にそろそろ無視できない。
「き、昨日から、あの、お、お世話になっている……えー、兵士のサラさんと……ちょ、朝食を食べて、そ、それから何か依頼でも見てみようかなと…」
「そうかそうか!飯食ったら俺のところに来ると良い!また何か良さそうな依頼を見繕っておくぞ!」
ビクターさんの笑顔が眩しい。
昨晩泊まった宿舎に戻る途中、「先程の戦いっぷりを見た!」という鼻息の荒い人たちからやたら声をかけられた。
人によっては感動したから是非持ってってくれと野菜や果物にパンなどまで渡してくれた。
特に人助けをしたわけでもないのに、何故食べ物を貰えるのかよく分からなかったけれど、無碍に断っても仕方がない。
何より食料は欲しい。
とりあえず精一杯の笑顔で受け取ることにした。
貰えるものは有り難く頂く。
異空間収納ってアレで暫くとっておこう。
宿舎の前ではサラさんをはじめ、多くの兵士達がワラワラ集まっていた。
「アメリ!あんた凄かったじゃないか!騒ぎになってたから見に行ったんだけどさ、あたしゾクゾクしちゃったよ!」
なんだ、サラさん達も仕事前だからかな?
その他大勢の兵士のみなさんも観戦しに行ってたのね。
みんな、平和なのか割と呑気だね…
「えへへ……お、お陰様でいきなり2等級から……、よ、傭兵として活動出来そうです……!」
「いきなり教官確認の2等級から傭兵を始めた奴なんて実は中々聞かないぞ!」
「魔法も使えて武術も達人!見事の一言に尽きるな!」
「相手はあそこの所長だろ?確か若い頃相当な手練れだったらしいじゃないか」
「さっ!ほらほら!みんなさっさと飯食ってさっさと仕事始めるよー!食堂に行った行った!」
サラさんが声を張り上げてパンパンと手を叩くと、みんなは名残惜しそうにぞろぞろと宿舎の中へ入っていった。
私達も朝食だ!
えへへ、本当に食べちゃっていいのかな?
「あ、ありがとうございます。ま、町の……み、みんなの温度感に、ちょ、ちょっと、ビックリしました……」
「はは、なんせ娯楽の少ない田舎だからね!英雄譚の登場人物みたいな凄い逸材が現れてみんな興奮してんのさ」
娯楽の少ない町。
確かに私でも自分の話題性は凄いと思う。
記憶喪失の謎のメイド。
しかしてその正体は魔法も出来て武術もピカイチ。
こんな珍しそうな要素満載で騒ぎ立てるなという方が無理な話。
私だってそんな人が彗星のごとく目の前に現れたら色めきたつかも。
そのうち指名依頼とか来るようになるのかなー。
『おいおい何だこの小娘』からの『ありがとうございました!』は中々癖になりそう。
趣味が悪くても仕方がない。
だって楽しそうなんだもんなぁ。
サラさんの後について辿り着いた食堂は大勢の兵士で溢れかえっていた。
お腹がグウグウと鳴るなんともいい匂いが鼻腔をこれでもかと擽る。
「はは!相当腹減ってるね?」
聞こえちゃうくらいぐうぐう鳴ってたか!
「わ、私の記憶では、みっ、水を飲んだのと……マリルを齧った記憶しかないので……はは」
「期待していいからね?ここで出てくる料理は最高さ!なんせ素材が良いんだ」
ひょー!涎出そう!
そう言って料理を配っているカウンターへ向かうサラさん。
はぐれないように私もピッタリくっついて行かなっ!
「わぁ!リーブスとウルフ肉の炒め物かい!美味そうだねえ!」
「サラちゃんリーブス大好きだもんねえ!」
「火を通すと甘いんだもん、大好物さ!」
「おっ!!そっちの可愛らしい子が昨日噂になってた可愛い使用人の魔法使いのお嬢ちゃんかい!」
サラさんに料理が載せられたお盆を手渡したおばちゃん。
私の顔を見るなり顔を破顔させる。
ふふ、とても人懐っこそうなおばちゃんだ。
「え、あ、ア、アメリと言います……!た、多分……その使用人の魔法使いが……わ、私です」
そんな変な特徴をしたのなんて私しか居ない。
間違いようのない特徴だね…
「アメリはさっき、朝飯前に傭兵登録しに行ってさ!傭兵組合の所長を杖と体術だけで軽々とブッ倒して来たんだよ!いやぁ、凄かった!」
「ええっ!!本当かいっ!?あの筋肉馬鹿のビクターを!?へえ!凄いじゃないか!!じゃあ大盛りだね!!」
おばちゃんは私のお皿に並々料理を乗せる。
ええっ!?そんな理由で大盛にしちゃっていいの!?
も、もうお腹が減りすぎて色々ヤバい…
今すぐかき込みたい気持ちを抑える。
「ふへへ……あ、ありがとうございます!」
「あはは、アメリ涎垂れてるよ!さ、ほらほら食べよう食べよう!」
サラさんに促されて漸く空いてる席に着く。
もう空腹過ぎて指先に痺れを感じる。
涎も垂れますよってなもんだ。
「食べな食べな!」
「は、はい!いただきます!!」
両手を合わせて頭をぺこっと下げる。
フォークでリーブスと呼ばれていた所謂キャベツを突き刺す。
急いで口の中に放り込んで咀嚼する。
うん、リーブスってやっぱりキャベツだね。
キャベツのほのかで優しい甘みが口中に広がる。
そして僅かに感じる塩気が食欲を掻き立てる。
ウルフ肉とか言ってたゴロゴロ入っている肉。
ひょっとして昨日のフォレストウルフなのかな?
食感は割と柔らかく、思ってたよりも変な臭みを感じない。
「ア、アメリ…あんた……」
美味しい。
口の中が幸福で満たされるよ。
温かい料理がこんなに美味しいとは。
付け合わせの野菜スープに硬いパンを千切って浸して口に含む。
野菜の優しい味とパンの素朴な小麦の香りがたまらない。
いやぁ、我ながら余程腹減ってたんだなぁ。
「案外大食いなんだねえ!」
別にそこまでぶっ倒れそうな程お腹が空いていた訳じゃない。
寧ろ良い匂いさえ嗅がなければもう暫く我慢出来た。
堪らなく美味しい。
ただただ、堪らなく美味しい。
も、もう喋ってる場合じゃない!
一度火がついた食欲は止まることを知らない!
「よく分かんないけどいっぱい食べなよ」
サラさんが微笑みながらそう言ってくれた。
周りの視線の事が気にならない程に無我夢中で食べた。
死ぬほど美味しい!
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