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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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73.日向へ

誤字脱字の指摘、いつもありがとうございます。

自身の文章の粗さがお恥ずかしい限りです。

イザベラさんとの最後の旅になる草原街道。

この街道は静かで綺麗で切ない気分を加速させる。

私とフレヤさんは寂しい気持ちをどうにか胸の奥に押し込めつつ、今日も今日とてヤト村目指して歩みを進めつつ今に至る。




相変わらず動物も魔物も姿を見せない草原街道。

登り坂もなけりゃ下り坂もない。

厳密に言えば、そりゃ緩やかーな坂くらいはあるけど…今はそんな厳密な事はどーでもいい。

兎に角、だだっ広い草原の一本道をゆく私たち。


草原街道。

オサレな私はそんな見たままで何の捻りもない通称では呼ばないの。

ちゃーんとした正式名称で呼ぶと、ほらあれだ、玄人っぽくてオサレ。

えーと…サンジバナ…モ、モンジャラ?

何だっけ?緑の道?あれ、いや、道の旅?


もはや正式名称なんざ忘れちまったよ。

やっぱ面倒くさいよ!草原街道でいいよ!


「本来予定していた今晩の野営ポイントですが、例によってまた集落ですので、正直あの昨日のような集落であれば…んー、無理してそこまで辿り着く必要もないかと思います」


ん?そうなのか。

フレヤさんがそーゆーなら私はどこでも良いよ。


「それもそうね。立ち寄る価値がないと言ってはあれだけど…生活魔法で水が確保できる事ですし、別に集落じゃなくて良かったわね」


まぁノヒ集落みたいなノリなら立ち寄る必要性を感じない。


「それにどうせ途中に野営ポイントが他にもあるでしょう?」

「んー、そうですね。なんと言いますか、あまりヤト村目指してセカセカ急ぎたくないと言いますか…」

「あら、フレヤちゃんったらそんな耳をピコピコさせちゃって、嬉しい事言ってくれるわね」


あはは、フレヤさん照れてやんの!

これは珍しい光景、眼福眼福。

照れるフレヤさんを抱き寄せるイザベラさん。

眼福眼福!超眼福!


「わ、私もあえて集落まで…い、行く必要はないかと…」

「ふふ、そうね。途中で良さげなところがあったら早々に設営しちゃいましょう?」


ふふ、イザベラさん、嬉しそうだな。

この人は本当に美人。

嬉しそうに微笑む横顔は、女の私でもドキッと心臓を鷲掴みにしてくる。

こんな美人を落とした旦那さん、世界一幸せな男だよ。




お日様が天辺まで登って暫くした頃。

通りかかった野営ポイントで今日はのんびりだ。


フレヤさんが手際良く設営してくれて、私が紅茶を淹れることに。

むふー!リグビーでついでにポットやらなんやら諸々買っておいたのだよ!

お屋敷から拝借してきた訳じゃないよ!


淹れたての紅茶の香り。

うーむ、やっぱ私はコーネラ家のお屋敷にいたメイドには負けない!

ふふん、めっちゃ良い香り!

しかもここにデリクシーラの焼き菓子!!

なにこの無敵のタッグ。

レベッカさんエドモンさんありがとう!!


「これからヤト村に行って、旦那の墓参りなんて私言ってたじゃない?」


ん?なんだ改まって。

うんうん、確かにイザベラさんそんな事言ってたよ?


「そうですね。そう言えば何かお墓に供える品の用意は?」

「墓なんてね、本当は無いの」


へぇ、そうかそうか。

墓なんて無いのね、ふんふん。

なんかさ、じゃあその辺で綺麗な花でもね…えっ!?


「えっ!?」


フレヤさんと被った。

いやいや「えっ?」だよ。

…えっ!?は、墓がない?

じゃあ旦那さん、どこに埋葬したの?

よもやそもそも結婚してないとか…?


「順を追って説明するわ」

「お願いします」


イザベラさん、真剣な顔だ。

むっ?フレヤさん姿勢を正した。

わ、私もふくらはぎの上にお尻を乗せるあれ…した方がいいのかな?


「私はエルフで旦那は人間。二人の間に流れる時間が早さが違いすぎるって気がついたのは旦那と所帯を持ってから。私ね、旦那から熱烈にアプローチを受けて首を縦に振るまで5年もかけちゃったの。人間の五倍は生きるエルフで換算すれば25年よ?だから、これからはこの人を精一杯愛して愛して、愛し抜いて、愛をもっともっと伝えなくちゃって思った。今から70年前…その先に広がる未来がとても輝いて見えたわ」


そっか、長生きだと五年の感覚が違うんだ。

でもさ、そこから考え方が変わったなら…ねえ?


「それで二十日間よ」

「は、二十日間…え、えーと?」


えーと、何が二十日間なんだ?


「私と旦那が夫婦として過ごした期間。二十日間」


え?…二十日間?

二十日間って…旦那さんはまさか…


「魔法協会がね、旦那を拉致して私を誘き出して無理やりにでも勧誘しようとしたのね。誰にも告げずにここまで来いって指定された場所まで律儀に一人で行ったわ。そうしたらどこから嗅ぎ付けたのか、旦那の同僚達が部隊を編成して大挙して来てしまった。魔法協会は約束を反故にしたって事でその場で乱闘よ」

「そんな…」


フレヤさんもそれ以上言葉が出ない。

私も何も言葉が出ない。

結末は言わずもがな、だろう。


「旦那は魔法協会が用意していた暗殺者の手によって背後に回られてそのまま背中から刺された。私の目の前で不思議そうな顔をしたまま死んだわ。たった二十日間、あの人…私を残して…、私の心を奪ったまま死んでしまった。私の運命の人はね…たった二十日間で先に死んじゃった…」


イザベラさんの辛そうな顔。

そして涙。

ああ、この人は新婚の時に愛する人を失って…70年間も…ずっと悲しみを背負って生きてきたんだ…


「その時のマルゴー辺境伯は早まったことをしたと平謝りして下さったわ。抜け殻のようになった私に心を痛めて、魔法協会に対して王国として、そしてなんと各国に声をかけて手を回して下さって、同盟国としても厳重に抗議。そしてマルゴー辺境伯は方々を調べて回って下さったわ」

「調べて回ったとは何を…?」

「古代ワービット王朝時代にあったとされる御伽噺のような奇跡の魔法…死人を蘇生させる魔法の伝説についてよ」


それはきっと…私が使える魔法の事だ。

古代ワービット王朝…


「でもそんなのはどこまで調べても所詮太古の昔の御伽噺。ある時を境に何故かワービット王朝は歴史の表舞台から急に消え失せ、栄華を極めた筈のワービット族という謎に満ちた種族も何故か急に姿を消した。歴史学者の話じゃワービット王朝が滅んでから今の文明が始まるまで2000年もの空白期間があるらしいの。取っ掛かりから最大級の謎なの」


そうだったんだ。

2000年間もの間、文明と呼べるような文化圏は無かった。

そのワービット王朝とかいう栄華を極めた文明は急に消え失せ、暗黒の時代が始まったんだ。


「はじめはお金を貯めて、本を読み漁って下調べしてね、この大陸の北の最果てにあると言われているワービット王朝の遺跡群の調査に行こうと思ったわ。でも手の届く範囲で調べていくうちにね、私達の文明とワービット王朝が築き上げた文明との間に越えられない高い壁がある事が嫌という程わかった。どうやって動いているのかすら分からない古代兵器や古代の魔導具、殆ど解読できていない文字、現代とはまるで異なる魔法陣、その一節すら文献が残されていない彼らの用いたと言われる謎の魔法。もう何もかもがね、素人の私一人が一生かけたって分からない事ばかり」


調べれば調べるほど絶望しただろう。

ほんの一筋の光が日に日に薄れてゆくんだ。

イザベラさんは空っぽの部屋で一人、ずっと悲しみに暮れたまま生きていたんだ。


「抜け殻のままベルーガの町で一生を終えるんだと思ってた。色のない、本当に何もない、ただただ死なないから生きているだけの人生…でもそんな日々の中、私の前に現れたのはあなた達だったわ」


そうか…そうかそうか。

そうか、私達はイザベラさんにあの時、蘇生させる魔法についてもポロッと相談している。

イザベラさん、だから私達についてきたんだ。


「あなた達から魔法について相談されてアメリちゃんの魔法を見た時、間違い無くワービット王朝時代の魔法だと確信したわ。神が…精霊様が私に手をさしのべて下さったんだと思った」


そりゃそうだろう。

でも蘇生の魔法には死んで間もない遺体が必要。

言えない…ここで「実は死んで間もないご遺体が無いと無理なんです」なんて言えるわけないよ…


「イザベラさん…」


フレヤさんだってそれは知ってる。

私は…イザベラさんに期待を持たせたままベルーガからここヤト村付近まで連れてきて、まさか蘇生出来ませんなんて現実を突きつけるの?

そんな事…イザベラさん、自殺しちゃうよ…


「あなた達を利用するような卑怯なまねをしてごめんなさい!絶対にこの機会を逃してはいけないと思ったの、本当に…本当にごめんなさい…」

「そんな、私達は利用されたなんて思っていませんよ」

「そ、そうです…!本当に…ぜ、全然!」

「お願いします!!決して誰にも他言はしません!!イザベラという名前は捨てて静かに暮らします!!お願いします!!どうかユーグを…旦那を蘇生させてください!!」


イザベラさん、地面に額を擦り付けてる…

でもこの蘇生の絶対条件は私の口から言わないとだ。


「あの…イ、イザベラさん」

「はい!」

「ざ、残念ですが…し、死んで間もない遺体が…その…な、無いと…蘇生は…」

「遺体なら私の異空間収納にあります!!まだ暖かい、あの時すぐに回収したユーグの遺体が!!」


なんと!!

だから墓がないって言ったんだ!

イザベラさんは旦那さんの遺体を大事に保管したまま生きてきたのか!!


フレヤさんと目が合う。

それなら…ひょっとすると…出来る。

フレヤさん、覚悟を決めた顔だ。

私も絶対なんとかしたい。

私もフレヤさんも、イザベラさんが好きだ。

この人が時々見せる悲しそうな顔を晴らすことが出来るなら。

70年間ずっと暗闇を彷徨ってきたイザベラさんを、私の手で日向へと引きずり出せるのなら。


「アメリさん…ズバリお尋ねします。出来ますか?」

「はい…はい、はいっ!!でっ、出来ると思います」

「イザベラさん、もしアメリさんが死者を蘇生出来るなどと世に知れ渡ってしまえば、アメリさんは全世界の人々から引っ張りだこ、熾烈なアメリさん争奪戦が始まり、二度と平穏な日々を送れなくなります。私も冒険譚には絶対にこの件は一切書きません。イザベラさんもその事実を墓まで持って行く覚悟はありますか?」

「あります。ユーグさえ戻ってくれば…私は…」


イザベラさん、お願い。

そんなに泣かないで?

後で旦那さんに会うために綺麗にお直ししないと。




「じゃあ一瞬だけ出すわ」

「…お願い…します」


イザベラさん、緊張してる。

一旦私が実際に遺体を見て、可否について判断しようという事に。


地面に横たわる形で唐突に姿を現す男性。

血の気はすっかり失せている。

でもまだまだ死後硬直も始まってなさそう。

いける!これはいける!

確証がある!


「いけますっ!仕舞って!!」


私の言葉でパッと姿を消すユーグさん。


「ありがとう…!本当に…本当にっ…!本当に…」


イザベラさんは嗚咽を漏らしながら私に抱きついた。

いつも私を優しく抱きしめてくれるその身体はとても小さく、そしてか弱い女の子のものだった。


「さあイザベラさん?最愛の旦那様に70年ぶりに再会するんです!しっかりお化粧しましょう!」


そんな風に勤めて明るく言ったフレヤさんも泣いていた。

私も切なくて嬉しくて、ワンワン泣いちゃった。

女三人、草原の野営ポイントで抱き合っていつまでも泣いていた。




この草原を吹き抜ける風は優しい。

優しくて切なくて…どこか寂しい。


でも大丈夫だよイザベラさん。

私があなたを出口のない暗闇から光あふれる日向に引っ張り出してあげる。



本日の18時50分にフレヤがカントの町でアメリを見つけた時の話を閑話として投稿しました。


面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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