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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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71.さよならリグビー

クイーン戦の後遺症によってコーネラ子爵邸で休養している私。

コーネラ子爵のご息女であるマルヴィナ様に声をかけられてお話ししたり身体を動かしたりして過ごしつつ今に至る。




ヴィンセントさんとの手合わせも終わり、ほかに何か得意なものなんかは無いのかとマルヴィナ様から問い詰められるように聞かれた。

マルヴィナ様にとって私のメイドとしての経験は特に物珍しい事はない。

そんな中、マルヴィナ様が食いついたのが絵だ。


「まあ!こんな可愛い絵をスラスラ描ける人なんて、今まで見たことがないわ!」

「えへへ…な、何故か得意なんです…!」


むふー、私の得意技のお絵描き!

やっぱりお子様にはこーゆーのが分かりやすくて良いのかな?


「これ、私?」

「は、はい。どうですか?」

「ふふ、随分と可愛らしく仕上げてくれたのね!」


中々お高そうな金属製のペンに上等な紙。

実はペン先を折ったり、紙に穴を開けたりしないか内心ドッキドキなのは内緒だ。

あー、手のひらに汗かいたね…


「こ、こんなので良ければ…」

「ありがとう!これ、絶対大切にするわ!」


はあぁ…かわええなー!




その後、マルヴィナ様はお勉強の時間だという事でお屋敷の中へ。

再び暇人になってしまった私。


本当にする事もなく、お茶を飲んだり昼寝をしたりして時間を過ごした。

ここまでする事がないと腐ってしまいそう。


その夜、フレヤさんとイザベラさんにその旨を報告。


「のんびり過ごしていると申し訳ないって…アメリちゃんはまーだ自分が何をしたのかイマイチ理解していないわね」


えー?呆れ顔!

あっ!フレヤさんも苦笑いだ!


「あのですね、ちなみに今回のクイーン討伐がどれくらい凄いか報酬で表現しますね」

「あ、はい…」


そういや報酬について聞いてなかった。


「今回のクイーン討伐の報酬は金貨2000枚となります」

「へぇ、銀貨2000枚ですか…」


金貨で言えば…えーと20枚か。

ふーん、そんなもんかぁ。

案外ドケチなんだね。


「はぁ、あんな国が傾くかもしれない危機を回避して、その報酬が金貨20枚ぽっちな訳ないでしょ?単位が違うわ、単位が」

「た、単位?」


ん?

単位とは…えっ…?


「アメリさん、金貨です。金貨2000枚、金貨です」

「あっ…えっ…あっ…!」

「マルゴー辺境伯の勢力からもっと報酬が集まっているの。でも正直これ以上は不要だから残りは全部マーテラ村復興に充てて下さいってフレヤちゃんが固辞したのよ?」


こ、腰が抜けた…

金貨2000枚!?


「ふふ、やっぱり自分の功績を正しく理解して居ませんでしたね」


そりゃそうか…そりゃそうだ。

傭兵組合で請け負った程度の討伐じゃないんだった。


「アメリさんがあそこでクイーンを討伐しなかった場合ですね、スーゼラニア王国は大勢の民や兵の命を失い、マルゴー辺境伯の勢力圏は一気に王国内でも力を失っていたんですよ」

「は、はぁ…」


この辺一帯、こんな平穏な日々はもう手に入らなかった可能性だってあった。


「生まれたての大規模ダンジョンなんて人が手綱を握れるものではありません。魔物がダンジョンから逃げ出してまぁ大変なんて一言では片付けられない、スーゼラニア王国自体が傾く可能性すらあったのです」

「ちなみに後追いで指名依頼扱いにしたから私達の手元にくる報酬は1700枚、アメリちゃんとフレヤちゃんは一気に8等級まで上がって、なんと私も18等級になったわ。良かったじゃない、仲良く横並びで8等級まで飛んで」


あばばば…なんかもう情報がワッと押し寄せてもう…


「な、何が何やら…」

「心にゆとりが持てる大金が手に入って、等級も上がってノンビリと旅が出来るようになっただけの話よ」


イザベラさん…物は言い様だね確かに。


「アメリさんの異空間収納に仕舞っておけば盗難の心配はありませんからね。これだけの大金があれば路銀に困る事は暫くないですよ」

「こ、今回傭兵組合経由にした理由は…?」


そーだよ、組合に300枚も金額取られるのっ!?

その見返りが等級飛び越えてフレヤさんと仲良く8等級?

馬鹿言ってんじゃないよ!!

世の中ね、そんな楽して稼げちゃダメなんじゃないかね!?


「傭兵組合の組合員として討伐した事にすればね、国は表立って私達を勧誘出来なくなるのよ。今後も自由が欲しいのなら組合にお金を渡した方が良いわ」

「そうですよ?イザベラさんの言うとおりです。私もイザベラさんもマルゴー辺境伯領の民ですから「このフレヤという者辺りを呼べばアメリもついて来るのではないか」なんて思われて、下手したら国のお抱えみたいになってしまうかもしれませんよ?」


なるほどなるほど、それは嫌だな。

だからわざわざ傭兵組合を通すわけか。

いやー本当に良くできた組織だこと。




その翌日、思ったよりも早く私のお仕着せの用意が出来たと連絡がきた。

ノーム族のポリーナさんが勤めているだけあるのかもしんないね。

予備もという事で二着も貰っちゃった。


後はコーネラ家の紋章が入っている豪華な短剣も貰った。

ガードの中心部に紋章があるやつだけど、女神様みたいな人が模様の入った盾みたいなのを抱えている紋章がある。


これがあると普段は入れないような所に…!なんてことは無く。

これはあくまで外交的な贈り物だったり、受け取った一族の遺産みたいな位置付けらしい。


ちなみにコーネラ子爵も夫人のオリヴィア様も王都へ出立したらしい。

大したおもてなしも出来ずに申し訳ないという言伝を頂いた。

私からすれば至れり尽くせりで、ひじょーに大したことのありすぎるおもてなしだったので萎縮してしまった。

そんなわけで一通りの対応をしたのはマルヴィナ様の側仕えの爺やとは別の執事さんだった。

それでもどこか爺やの面影がある事からして、ひょっとすると息子さんかもしんない。


兎にも角にも私の体調も万全な事だし、その日の昼にはお屋敷を出ることに。




「マルヴィナ様、寂しそうな顔してましたね」


フレヤさんの言うとおり。

比較的歳が近そうな私が居たのが嬉しかったのかもしれない。

これから暫くご両親も忙しいだろうし、きっと寂しい思いをするんだろう。


「で、ですね…。後ろ髪を…引かれると言いますか…」

「とは言え私たちは傭兵。出会いの数だけ別れがあるわ」


ま、イザベラさんの言うとおり。

そーゆー風に後ろ髪を引かれないよう私達は旅暮らしをしてるんだ。

って言うかやっぱ至れり尽くせりは気疲れする。


もうイザベラさんの目的地であるヤト村を目指すのみ。

ちなみにエルマス夫妻はリグビーで大人しくするつもりが、今回のクイーン騒動。

という事で再び慌ただしく行商の旅に出てしまったとの事。

流石に行き先などについては何も教えて貰えなかったみたい。

でもちゃんとオミノスホーンブルやワイバーンなど金になりそうな魔物の買い取りについては全てエルマス夫妻が手配してくれらしい!

わたしが動けるようになってから全てをイザベラさんに託した。

お陰様でフレヤさんがあれこれ交渉せずとも結構色を付けて買い取って貰えたようだった。


それにしてもリグビー!

石畳の道にレンガ建築の建物!

街並みがこれまでとはまるで違う!


意識不明でお屋敷に担ぎ込まれた私にとって「はじめまして」の街並み。


「さて、とりあえず傭兵組合へ行って拠点異動の届けを受け取って、私達の等級のプレートを交換して貰うわけですが、そのあとはアメリさん、何か行きたいお店とかありますか?」


行きたいところ…


「今回の立役者は紛れもなくアメリちゃんよ?ここは領都リグビー、欲しい物は大抵揃うはずよ」

「そうですね、どうせ出立は明日ですし、遠慮しなくて良いですよ?」


それであれば欲しいものはある!


「あの…け、化粧品やお裁縫関連の品物を…」

「ふふ、結局そこに落ち着くのね」


えへへ、イザベラさんからちょんって鼻を突っつかれた。




リグビーの傭兵組合の事務所はレンガ造りの三階建て。

これまで見たことがないパターン!


「立派ですね…!」

「土地が少ないので演習場は地下、解体場は建物裏手になっています。一応簡易宿泊施設も兼ね備えてますが、地方の一般的な事務所の方が広々で使い勝手が良さそうな気がしますね」


あれやこれや兼ねて兼ねて凝縮しているのであれば、確かにこれまで見てきた事務所の方がいいかも。

でもお洒落だからこれはこれで!


「さ、パッと済ませましょう」


肩を竦めたイザベラさん、さっさと中に入っちゃった。

こんな大都会でお、置いて行かれたら(こと)だ!


うわぁ、中の方が凄い!!

一階部分は受付とか依頼の掲示板だとか、傭兵組合の機能が。

あと凄いとは吹き抜け!

一階部分には酒場の機能もあって、吹き抜けになった二階部分にもテーブル。

へえ、下を見下ろしながらお酒が飲めるわけだ。

都会の事務所すげー!


「ふふ、目がキラキラ輝いているわね」

「そ、そりゃ…!」


ワクワクテカテカもしちゃうってもんだよ!


ちなみに手続きはあっさり。

拠点異動の書類を貰って、私たち三人の等級プレートと新しいプレートとを交換。


都会だけあるのか、受付のお兄さんも勤めて事務的。

これまでとは違って絡まれる事もなさげ。

ん?おー、大きな地図だ!


「ち、地図ですか」

「こんな大きな地図、アメリさんは初めてでしたね」

「は、はい…」


へぇ、改めてちゃんとした地図で見るとさ、本当に途方もなくでっかい大陸なんだ。


「次なる目的地、ヤト村はあの辺りですよ」


どれどれ…確かに小さい文字でヤトと書いてる。

リグビーは結構大きな文字だ。

何というか…そんな目と鼻の先でイザベラさんと…


「のーんびり歩いて4日くらいってとこかしら」

「途中点々と小さな村や集落があります。まぁ宿屋があるわけではありませんが」

「残念ながら大きな街道ってわけじゃないから大層な村ではないのね」

「そ、そうなん…ですね…」


しょぼーんだ。

近すぎる。


「寝床はもっぱらテントよ?残念だった?」


わ、私が言いたいのはそこじゃないよ…

っていうか寝る場所に不平不満を漏らしたことなくない?


「わ、私がアレなのは…その、イ、イザベラさんとの別れが…ち、近いな…と」

「ふふ、悲しそうな顔してそんな嬉しい事を思っていてくれたの?」


そんな嬉しい事の一つや二つ、思っちゃうでしょ…




私がどんな店に行きたいと言うか予め察していたフレヤさんとイザベラさん。

既に良さそうな店に目星がついていた。

都会じゃないと手に入らなそうな化粧品を大量買い!


後は毛糸や綿、色んな布を兎に角いっぱい買った。

そのうちフレヤさんに色々作ってあげたい!

懐が暖かくて金銭感覚がおかしくなっているうちに、都会でいっぱい買っておきたい!


今日の買い物で金貨19枚も使っちゃった!

フレヤさんは「こんな大金、一度に使ったのは初めてです」なんて笑ってた。


買い物が終わると思ったよりもまだ夕暮れには早いけど、昼過ぎてすぐと言った感じでもない微妙な時間帯。


「どうします?このまま宿をとっても良いですか…」

「んー、たまには野営したい気分なのよね…」

「はは、何となく分かります。最近ずっと豪勢でしたもんね」


フレヤさんとイザベラさんの言うとこは激しくわかる。

焚き火でも眺めながらフレヤさんの作る料理が食べたい。

そしてフレヤさんとピッタリくっついて寝たい。


「わ、私も…です!」

「よしっ、では街を出て歩きますか!」


よーしっ!出発だっ!!


リグビーまでの道のり…本当に色々あったな。

商人に扮した諜報員の護衛、クイーン騒動、そしてコーネラ子爵との接触。

次はイザベラさんとの別れか。

「やっぱりこんな田舎真っ平。あなた達に暫くついて行くわ」なんて言わないかな?

いや、言わないだろうな。

イザベラさん、最近寂しそうな、どこか思い詰めたような…そんな顔をしている事がある。


私みたいな良く分からない子供でも胸の内が聞ければな。

あれやこれや的確な助言なんざ出来ないけど、もっと役に立てれば。


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