62.魔女っ子探偵団
ロボロ村にある宿屋「満月亭」でフレヤさんイザベラさんと三人で夕食を食べた私。
傭兵の何たるかを懇々と説明されつつ今に至る。
夕食を終えて食堂を後にする私達。
わぁ、廊下の窓からロボロ村が一望だ。
もう夜なのに、まだまだ商店は開いている!
あちこちの明かりがちょっとキレイ。
「流石兵士や傭兵が集まる村だけありますね」
いやー本当だね。
宿屋とか酒場なら分かるけど、それ以外の雑貨を売ってるような店なんかも普通に営業してるよ。
なんなら普通に兵士でも傭兵でもない買い物客もいる!
「村の概念が覆るわね。結構な活気よ」
いやー、すっかり夜なのに変な光景!
っていうか今から町の外に出る傭兵パーティーみたいなのも居る!
へぇ、夜じゃないと狩れない魔物とか居るのかな?
「さて、食糧を仕入れがてらちょっと覗いてみる?」
「そうですね、それも良いかもしれません」
「アメリちゃんも行くでしょ?お留守番する?」
むむっ!?そ、そりゃ行くよ!
置いていかないでよっ!!
知らん町の宿で一人なんて…あれだ…こ、怖いよ!
何で私だけお留守番みたいな選択肢がちらつくの!?
「い、行きますよ!」
「では決まりですね、みんなで行きましょ!」
ふふ、フレヤさんもちょっと楽しそう。
寝るまでには時間がある。
そんな訳で折角だから私達もロボロ村へ繰り出す事に。
すっかり夜なのに装備を着込んだ人達がワイワイ過ごしている光景は非日常感がある。
なんかこうワクワクしてきちゃう。
それだけゴトラの森ってヤツは穏やかそうに見えて厄介な存在なんだ。
「このパーティーを結成してからポーションや薬草類って本当に買わなくなりましたよ」
「アメリちゃんが居たら必要ないものね」
薬師泣かせな女、アメリ。
ふふん、そりゃそーだ。
緊急用としてみんな数本持ってりゃいいだけの話。
「そうなんですよね。腕っ節もあれば回復も魔法で出来て。ポーションが腐っちゃいますよ」
そ、そういう弊害があったのか!!
口に含む液体だもんね…そりゃ悪くもなるか。
なんか勿体ない事をしてる気分だ。
「まさか携帯しない訳にはいかないものね」
「贅沢な悩みですね」
そっかー、なんか鞄とかに異空間収納が付与出来るみたいな便利技がありゃいいんだけどなぁ。
「それで?こんなお金を使わないパーティーで、何か買い足すモノなんて食糧以外にあるの?」
「食糧は兎も角として、とりあえず今日殆ど使ってしまったので縄を多めに買っておきたいのと、手帳とインク、火口くらいですかね」
「ふふ、本当にお財布に優しいパーティーね」
これで剣士だなんだってワラワラ居る普通のパーティーなら、きっともっとあれやこれやと買い揃える必要があるんだもんね。
勿論装備品の手入れだってあるし。
その点、私もイザベラさんも装備品の手入れなんて概念が存在しない。
イザベラさんだって弓は使えど矢は魔法で済ませてしまう。
私の杖も壊れる気配など皆無。
フレヤさん主導で雑貨屋をハシゴして必要な物を手際良く買い揃える事に。
こういう時でも絶対そのままの価格で買わないのがフレヤさん。
お金にも収納にも余裕があるからか、数を買って値切るという戦法でお安く買ってしまった。
食糧についてもフレヤさんが「これは安いです」と目を付けた野菜を中心に大口購入。
パンについては焼き立てが出回る朝に買った方が良いと言って買わず。
「やっぱり異空間収納持ちが居ると快適さの桁が違いますね」
「そのうち小さな小屋でも買って持ち歩けば良いのよ」
「小屋ですか…それも有りかもしれませんね」
異空間収納があれば家ごと持ち運ぶのも夢じゃない。
土台さえ魔法で何とか出来れば全然問題ないんだもんなぁ。
テントよりも快適に過ごせるだろうな。
「いつか旅の途中でね、材木が余ってしまって安く売っているような機会があったら忘れずに買っておくと良いわ。小屋を注文するときに値切る良い交渉材料になるもの」
「成る程ですね!そうかそうか、確かに材木はこちらで提供するからと言って交渉できますね!」
材木を持ち歩く魔女ってどうよ。
まぁ、異空間収納の中身なんて誰にも見えないし良いのかな。
ん?あれは…
「あっ!あれ…!」
エルマス夫妻だ!
あれ?今頃夕食を食べ終えたくらいの時間じゃないか?
「あらエルマス夫妻ね。こんな時間に何かしら…」
しかしそこは余計なことには首を突っ込まないのが傭兵ってもんよ。
ここは見なかったことにして立ち去るって言うだろうな…
「気になりますね…」
えっ!?
フ、フレヤさーん!?
「ちょっと尾行してみる?言い訳なんていくらでも立つわ」
「護衛として、こんな夜に出歩かれると放っておけない…なんて?ふふっ」
ええっ!?
見て見ぬ振りしなきゃダメだって懇々と説教したのあなた達でしょ!?
ふふっじゃないよ!ふふっじゃ!
「ダ、ダメですよ…!見て見ぬ振りを…!」
「いやね、冗談よ冗談」
「そうですよね、ついさっきアメリさんに言ったばかりなのに」
冗談って感じじゃなかったよー?
私が何も言わなかったら絶対野次馬根性丸出しで尾行してたでしょ!
「へ、部屋に戻りましょう…ってあれ?い、今…消えませんでした…!?」
嘘でしょ!?
今パッと消えちゃったよ!?
えっ!?ええっ!?
「あら本当、確かに今パッと消えたわ」
「ですね…万が一という可能性が出てきてしまいましたね」
「これは流石に護衛として見てみぬ振り出来ない事態よ」
「誘拐や拉致なんてされようものなら…」
フレヤさんもイザベラさんも緊張の面もちだ。
遠くに居たはずのエルマス夫妻が唐突に消えた。
流石に目の前で消えられてしまったら「無用な詮索は…」なんて呑気な平和ボケなぞ言ってられる訳もなく。
うーむ、確かにこの辺りで消えたぞってとこまでは来た。
来たは良いけどさ、来てみて分かる。
「で、ここから何をどうすればいいの?」という問題。
何がなにやらサッパリ分かんね。
「闇の奥、幻影の仮面、見定めし真実の焔!ファイアヴェイン!」
あ、魔法協会のヤツに襲われたときに使ったやつだ。
落ち着いた状況で観察すると、イザベラさんの周囲を火の玉がぐーるぐーる回っている。
ふーん、これで炙り出すって感じなのかな?
「さ、これでウロウロしてみましょう」
「そうですね…何かトラブルに巻き込まれたとかで無ければ良いのですが…」
と、フレヤさん。
なんかそう言われると段々心配になってくる。
サクッと見つかれば良いんだけど…
私もお役立ち魔法を使おう。
初めて使うシリーズだけど。
「あ、あの…気配を消す魔法…つ、使います」
「あら!そんな便利な魔法があるの?」
「あの…それ護衛の時に全員に使えば良いのでは…?」
うっ…い、言われてみれば…
いやいや!これは言葉を発したら即バレする。
それに何でもないところで気配を消してたらやましいだろうよ。
「こ、言葉を発すると…無効になります。疚しくないのに気配をけ、消すなんて…どうかと」
「ふふ、それもそうですね。では何かあれば紙に書いて伝えましょう。さあ、お願いします!」
ふふ、任された!
『
マギアウェルバ
風よ風よ
風の中では何人も声を聞けない
静寂の風がただ吹き抜ける
永遠の無音
エアサイレンチア
』
ふーん、何かイマイチ効いてるのか効いてないのか分かんない魔法だな。
なーんか判定方法とか…おおっ!
身体が透けるのか!半透明だよ!
じゃあ二人は…ぶっ!!
フレヤさんとイザベラさん、シルエットが透けてるけど…あ、頭の上に下を向く真っ赤な矢印!?
よくみると小さく上に下に動いてる。
えっ?私の頭の上にもあれが…!?
と、とりあえずこれで効果が続いてるって分かるって事か…
あっ!!イザベラさん!!
笑っちゃダメだよ!しーっ!
フレヤさんも!!しーっ!しーっ!
「あはははっ!!」
「アメリさんもイザベラさんも!ふふっ!!頭の上にでっかい矢印が!!」
「だ、ダメですよ!!ま、魔法が切れました!!」
とは言えこういう感じで効果が切れるのか…
「半透明になって目立つ矢印が出たんじゃてんで意味ないじゃないの!ふふっ、なにこの冗談みたいな魔法!」
おかしいなぁ…記憶によると多分これで隠密行動が…
「ふーっ、とりあえずもう一度やってみて誰かの前に立って確認してみましょう」
「まぁそうね」
肩を竦めてヤレヤレじゃないってんだ!
「つ、次は…わ、笑わないで下さいよ?」
気を取り直してもう一度トライ!
「い、行きますよ?」
「ふふ、もう笑わないからお願いね」
ふふじゃないよ!真っ先に笑ってた癖に!
『
マギアウェルバ
風よ風よ
風の中では何人も声を聞けない
静寂の風がただ吹き抜ける
永遠の無音
エアサイレンチア
』
流石にイザベラさんもフレヤさんも笑わない。
どーやらイザベラさんのファイアヴェインごと消えてるらしく、人の前をウロウロしても一切視界に入らない様子。
ふふん、そのファイアヴェインとやらでは看破出来ない潜伏。
喋りさえしなきゃバッチリじゃん!
イザベラさんがクイクイと建物と建物の隙間の路地を指差す。
うーむ、喋れないのは不便だなぁ。
しかも生活魔法の明かりも当然使えない。
そんな事したら端から見れば単なる怪奇現象だ。
とりあえず丸っとぜーんぶイザベラさんに任せておくか。
フレヤさんも特に異論はないようで、頷き合った私とフレヤさんはイザベラさんの後を追う。
一本路地に入ると真っ暗。
ひぃ…暗くて怖い!
フレヤさーん…!腕にしがみつかせて!
でへへ、暖かいしちょっと良い匂いが…
ところで私はイザベラさんの魔法ファイアヴェインの具体的な使用方法などまるで分からない。
でも多分イザベラさんには何かしらの痕跡?が分かっていそうな雰囲気。
さっきから歩みにぜーんぜん迷いがない。
ん?歩みが止まった。
なんだなんだ?あの民家?
ん?あの中?裏手?あの民家って事?
身振り手振りじゃサッパリ伝わらない…
そうだ!紙で書こう!!
フレヤさんフレヤさん!
紙とペンを貸して下さい!
あの、紙とペンです!
紙!紙!フレヤさん紙!
だ、ダメだ…暗いし喋れないし全然伝わんない…
しかもここで紙とペンを借りたところで、インクまで用意してどこで悠長に文字を書くのかまるで考えてなかった。
もういいや、イザベラさんに任せよう。
ゆっくり、ゆっくり目的地と思しき民家に忍び寄るイザベラさん。
ははーん、やっぱり中だ。
中って事だよね?ねえイザベラさん、中って事だよね?
あっ!!イザベラさん酷い!
今…私を煩いハエみたいに手で払った!!
そんなぁ!あんまりだよ!!
あっ、これ…中に入れないな。
誰もいないのに扉が開くなんて目立ちすぎる。
「怪しいです」と大声で宣伝してるようなもんだ。
イザベラさん、扉に耳を押し当ててる。
フレヤさんもだ!
二人とも耳が長いわけだけどさ、耳がビタッと扉に。
はえー!あ、あんな曲がるもんなんだ?
耳触ってみたいな!
いやいや、急に人の耳触るとか、ふつーに純度の高い変態だよ!
いかんいかん、雑念を捨てて…
しかし中からは何が聞こえるんだろ?
き、気になる!ちょっと私も…どれ…
うーむ、何を言ってるのかサッパリ分かんない。
でも声は確かに聞こえてくる。
イザベラさんやフレヤさんは理解出来てんのかな?
あっ!!フレヤさんひょっとしてくしゃみしそうになってない!?
ダメですよフレヤさん!!
こんなところでくしゃみしたらマズいです!!
に、逃げよう…!!
イザベラさん!マズいよ!フレヤさんがくしゃみ…
「ぶわっくしょん!!」
あー、あれだ。
くしゃみのこと考えてたらさ、くしゃみしたくなっちゃったよね。
自分がくしゃみしちゃった。
「あわわ…」
どどど、どーしよ…!
暗くてもよーく分かる。
イザベラさん、フレヤさんが私を見る目。
そ、そんな目で見ないでー!
「ち、ちがっ…!フレヤさんがくしゃみ…」
ゾワッと悪寒と同時に首筋に冷たいもの。
ナイフ?う、嘘…なんだこれ…
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