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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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61.意識合わせ

ロボロ村でシーラさんが向かったと思しき宿屋へ歩みを進める私達。

イザベラさんとのお別れも迫っているんだという話題になり、思わず泣いてしまいつつも今に至る。




ロボロ村のメインストリートを足取り軽く歩くバリスさん。

その後ろではキョロキョロした私達。

殆どが畑、ある程度は自分達で賄うもんなんだなぁ。

各家庭のそばにもちょこんと畑がある。


村の中心部は確かに宿屋と飲み屋、兎に角商店が目立つ。

これで町じゃなくて村なんだから、その辺の基準がよーわからん。

まぁ畑は多いけどさ、結構賑わってるし?

これ町って言われても疑わないよ。


「あ、やっぱり満月亭でした!うちの馬車がありますよ!」


ん、どれどれー?

おー本当だ。

ふーん、それにしても結構デッカい平屋建ての宿屋だ。

クリーム色の漆喰の建物。

へぇ、小綺麗な感じだ!

確かに柵の向こう側に馬車がある。

おっ、エルマス夫妻の荷車もある。

じゃあ今頃ブルット君は馬小屋かな?


「随分とデカい宿屋なのね?」

「はは、土地が余っているんでしょうね!」


ちなみにゴトラの森ではついぞ魔物に出会わなかった。

会うのは魔物の代わりに小動物のナントカリス…もといカーライルリス。

とにかくそこかしこチョロチョロうるさいリスばかり。

ひょっとするとそんな魔物が出ないなんて影響もあって、わりかし広く土地が確保出来るのかもしれない。


とは言えフレヤさん曰くマグニエデン街道が通ってない場所では普通に魔物が出るみたい。

盗賊もどこからともなくやってきては森に居着いてしまう。

だから兵士は当然多めに駐屯し、傭兵達が割の良い仕事を求めて集まってくる。

だから常に戦力が多い状態で、街道周辺は魔物がたむろする暇もないんだろう。

だから村を囲うのが立派な壁ではなく、単なる木の柵なのかも。


あっ!村の中にもリス居るじゃん!

何このリス!異常繁殖してないか?


「アメリちゃん、ここは村だから…分かるわね?」

「え、あ、はい…」


そ、それくらい分からぁ!

こんな所でバシバシとリスを濫獲出来るわけないよ!

あ、村のおばちゃんが箒で追い払ってる。

やっぱり盗賊の男が言うとおり害獣認定ではあるんだね。


「森で魔物や動物を狩りすぎている影響でしょうね」


うむうむ、フレヤさんの言うとおりだ。

だって、森を歩いて来たけどさ?

盗賊とカーライルリスの二種類しか棲息してなかったレベルだよ?

生態系がおかしくなっている気がするよ。

よしっ!やはりここは一つ、リスハンターの私がだね…


「何の使命感に燃えているのか知らないけれど、一泊しかしないアメリちゃんが何とか出来るわけないでしょ」

「そ、そんな事…思ってないですよ…」

「嘘おっしゃい」


でへへ、バレバレだ。

イザベラさんは勘が鋭いなぁ。

いや、単に私が顔に出やすいのかな…


「さあさあ皆さん?リスの件は置いといて、我々も宿へ行きましょう!」

「ふふ、ですね。ちなみに一泊いくらですか?」


フレヤさんは抜け目がないね。

私はどーせ高くとも銀貨5枚くらいだろうと思ってる。

何だかんだ町だろうが村だろうが田舎ではある。

そんな田舎の宿屋がどんな素晴らしかろうと、銀貨何十枚も取るわけがないよ。


「個室であれば一人銀貨4枚ですが、皆さんは一部屋で仲良くお休みになりますし、生活魔法も達者、大食いも居ませんから、交渉すれば三人で銀貨10枚くらいで済むでしょう」

「その上お湯はタダって訳ね」

「その通り!食堂のど真ん中に大釜で沸かしてるパターンです!やはり湯浴みくらいしたいですからね!」


やっぱりみんな湯浴みはしたいよね。

ふふ、みんな機嫌が良さそうな顔してる。


さてさて、そうこうしてるうちに扉の前!

この瞬間、ワクワクしちゃう。

バリスさんが扉を開けると「カランカラン」とベルの音が。


「いらっしゃい!満月亭へようこそ!おやバリスさん!シーラさんはもう部屋だよ!」


人間族で人の良さそうなふくよかなおばちゃんだ。

焦げ茶色の髪を太い三つ編みでまとめてる。


「やあやあレネさん!一晩お世話になります!シーラからこの子達の話は聞いてるかな?」

「ああ!シーラさんから聞いてるよ!お嬢ちゃん達は一人銀貨3枚でいいよ!」


あれ?

銀貨10枚になるかもって話では?

ひょっとしてシーラさん、交渉してくれたのかっ!?


「是非お願いします!あ、私達傭兵パーティー『魔女っ子旅団』と申します!私はサポーターでハーフリングのフレヤ。こちらのエルフがイザベラ。そしてこちらの人間のメイド服を着たのがアメリです!」

「シーラさんから聞いてたけど、いやぁ凄いねえ!手配書が出ている盗賊を一人でとっつかまえたのがそっちのアメリちゃんかい!へえ!」


はは、最近この反応多いね。

無理もないのは自分でも分かるけどちょっと恥ずかしいな…


「えへへ…は、はい」

「なかなかしっぽを出さない小狡いヤツ等らしくてさ、なんか傭兵崩れの大台も何人か居るなんて噂もあって手を焼いてたのさ!」


そんな飛び抜けて強いヤツなんて居なかった気がするけどな?


「どうやら襲う対象を奴らに漏らしていた連中が背後に居たようですよ」

「あらそうなのかい!へぇ、そうして強奪した金品を買い取ってたヤツが情報源って訳だ!」

「かもしれませんね。後は然るべき所で取り調べがなされるでしょう」


一体どこの誰がそんな事しているのやら。

そこまでしてかき集めるお金になんの意味があるというんだ。




部屋に行くのは後にして、私とフレヤさんイザベラさんの三人は先行して食堂へ。

前払いで支払った銀貨の替わりに貰った部屋の鍵と木の札六枚。

木の札と交換でカウンターの向こうから出てきたのは野菜とキノコの炒め物、何かの肉のステーキ、キノコのスープ。

ひゃー!これは豪華!

これってさ、この料理だけで結構良い値段いかない?


適当なテーブルに座って実食!


「いただきま…「フレヤちゃんも気がついている?」

「はい。多分同じです」


えー?食べる前にー!なになにー?

私にはただのキノコ尽くしの森の恵み料理にしか見えないよ!

まてよ?肉串って大抵大銅貨一枚だよね。

銀貨一枚だと肉串は10本。

んー?料理だけで結構コスト…

えっ…このお肉…ひょっとして…?


「わ、私も…き、気がついてしまったかも…」

「まーたアメリちゃんの知らんこと言いが始まった。適当に合わせないの」


違う違う!

眉間をチョンとじゃないの!

見栄張ってる訳じゃないの!!

知らんこと言いとか、マジで失敬だねこのエルフのねーちゃん!


「す、凄い事です…!すごっ、凄い事です!」

「ふぅん…じゃあ何に気がついたっていうの」


イザベラさん、私はね、ピーンと気がついてしまった。


「このお肉…ひょっとして…」

「ええ…えっ?お、お肉?」

「はい…これ、じ、じ、人肉では…」


これは一大事ですよ!

私ですら気がつくって…えっ?あっ!えっ?

な、なんで二人とも大笑いするの!?

真面目なんですけど!!大真面目なんですけど!!


「ははは!それはここに失礼ですよ!!」

「嘘でしょ!?ふふっ、自信満々に「人肉では?」って!!一体何をどうして名探偵アメリちゃんはそんな何の突拍子もない奇天烈な推理をしたの!」

「あははは!アメリさん!なかなか…ははは!奇天烈ですね!ふふっ!!」

「あははは!苦しい!笑い死にしちゃうわ!!日頃モジモジソワソワ気弱なアメリちゃんだけど、ふふふ…実はかなりぶっとんだ性格しているのよね!」


は、恥ずかしい…!!

そんなに笑わなくても!!


「ふふふ、そんな顔を真っ赤にしないでちょうだい。私達が言いたいことは別よ別」


別?




フレヤさんが声を潜めて説明を始めた。


コンクの町に着くまでの野営の時、そしてトンガリ館。

フレヤさんもイザベラさんも夜遅くにソッと寝床を抜け出すエルマス夫妻を目撃している。


「そ、それは…用を足しに行っただけでは…?」


フレヤさんもイザベラさんも考え過ぎである。

深刻そうに話し始めるからってワクワクしながら聞いたけど、ワクワクを返して欲しいレベルだ。

馬鹿馬鹿しい。

そりゃ誰だって用くらい足す。

相方が心配でついて行くのは特段珍しい思考じゃないよ。


「馬鹿ね。最後まで聞いてちょうだい」


むっ!ややっ!

この私を馬鹿とな!?

実に失敬!!


「私も長年色んな人を見てきたけどね、エルマス夫妻は輩に絡まれた時、魔物と対峙した時…「どう立ち回れば命を刈り取れるか」って考えるタイプの人がする目をしている時があるわ」


えー?そんな目を見ただけで人の考えなんて分かんないよ!

ちょっとカッコつけが過ぎますぜイザベラさん。


「そうですね。いくら護衛が完璧に仕事をこなそうと、普通は不安そうに事の成り行きを見守るものです」


フレヤさんもまたまた…


「何より、エルマス夫妻は貴族に売るような高価な品物をいつ仕入れていますか?アメリさん、ここまでの道のりで私達以外から何かを仕入れる場面を見ましたか?」

「…な、ないです」


そう言われると弱っちゃう。

だって、殆ど私達と居るもん。

当たり前だ、私達は護衛だからずっと一緒。

何かを仕入れたりとか、そういう交渉は…見たことない。


「彼らはあちらこちらの貴族に品物を売って回っています。であれば常時、その手の値が張る物を町や村で仕入れていないと成り立たないハズの商売なんです」


そ、そりゃそうだ…


「単なる偶然かもしれません。ヤキムで相当数仕入れたのかもしれませんし、ちゃんとどこかの町に馴染みの問屋や傭兵が居るのかもしれません。でも腰を据えて次の護衛を探すはずだったコンクで長期滞在せず翌日に発ったのは少し不思議だなと思いました」

「そうね。コンクはマグニエデン街道の中継地点。あそこで仕入れないでどこで仕入れるのって感じ。この村に貴族に売るような品物が仕入れられる問屋が居ると思う?あんな雑魚盗賊に手を焼くレベルの兵士や傭兵しか居ないこの村で」


貴族向け…それは…ないね。

商売相手がこれから行くコーネラ子爵様とかいう貴族だけが客ならまだ分かる。

でもそうじゃない。

エルマス夫妻は北へ南へせっせと移動しては物を売ってる。

客先が複数あるとすれば…多分もうちょっとあれやこれや仕入れた方が良い気はする。


「よ、夜…抜け出すのは…人に見られちゃ具合の悪い…?でも品物は…ひょ、ひょっとして…」

「異空間収納が使える線もあるわね。ハーフリングで異空間収納が使えるなんて「お強いんですね」なんて次元の話じゃないわ」

「私達の目の前で異空間収納から物を出し入れするのは具合が悪いでしょう」


これは…私達で悪事を暴くべきなのでは!?


「アメリちゃん、何にも気がついてないあなたにあえて言ったのはね、依頼者の事情を無理矢理暴こうとしたりしない事って忠告」


むむっ?何を仰るイザベラさん!

悪事だとしたら一大事ですぞ!!


「ふふ、正義に燃える目をしてましたね。ダメですよ!」


ええっ?フレヤさんもコクコクなの?


「私達は傭兵。エルマス夫妻という依頼人から請け負っているのはあくまで彼らの護衛。組合だってそれしか私達に頼んでないわ」

「勝手に依頼人の知られたくない側面にズカズカ入り込む行為は煙たがられます。私達は憲兵でも何でもないんです」


うーむ。

確かに二人の仰るとおりである。


「はぁ、先に言っておいて正解ね。怪しい行動をしてたって目を瞑るのよ?別にどんな商売をしてようが私達には全然関係ない話なんだから」


イザベラさんにデコピンされちゃった。




フレヤさんイザベラさんの見立てによれば、多分エルマス夫妻も件の盗賊をけしかける類の何かをしているかもしれないねって事らしい。

今日の盗賊はライバルからの横槍かもしれないとフレヤさん。

確かにあの案内させた盗賊の男、騙されたような裏切られたような複雑な顔をしてた。


ただ、この推理には何の証拠もない妄想。

「じゃあそれは?」「じゃあアレは?」なんて指摘すれば粗が出てくる訳で。

私には「そんな訳だから、くれぐれも余計な詮索をしなさんな」とそれはそれは何本も釘を刺された。

確かにここで何も注意されなかったら、余計な事に首を突っ込んだかも。


この手の話だと、下手をすれば貴族も関与している恐れもあって、もしそこを突っついてしまえばまともに傭兵稼業なんざ出来なくなるとの事だ。


「世の中には別に知らなくて良い事があります。単に用を足す為に抜け出してる可能性もありますし、リグビーでガサッと仕入れるかもしれません。長年この稼業をやっているから戦闘に慣れきっている可能性だってあります」

「そうよ?何となく違和感を覚えただけ。私達の手札は常に全部揃う訳じゃないの。妄想は個人の自由だけど、傭兵として長くやっていきたいのなら好奇心だけで詮索するのは厳禁。特にアメリちゃんは猪みたいに真っ直ぐ突っ込んでいきそうなんだから」


むー…と、とりあえず違和感を覚えても見て見ぬ振りしなきゃだ。

これで何かやらかそうものなら「それ見たことか」って笑われる。

それは嫌だな…


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