表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/513

6.挨拶

私とサラさんの手合わせによってちょっとした騒ぎになりかけ、部屋に逃げ帰ってきた私。

とりあえず持っていたブラシで髪を整えつつホッと一息ついて今に至る。




暫くしてサラさんが部屋に戻ってきた。


「いやー、みんな色めき立ってたよ!」

「へへっ……は、恥ずかしいです…!」


サラさんは生活魔法で身を清めるとそのまま装備品を身に纏い始めた。

いやー、装備の数々…こりゃ身に付ける工程、なかなか複雑そうだよ?

鎧を手際良く装着してゆく様には感心させられるなー。


そんな風に感心しながら眺めていると、サラさんが口を開いた。


「さてと、今日はまずちょっとうちの隊長に挨拶してもらっていいかい?」

「はい、もっ、勿論そうさせて…貰います」

「そうと決まればちょっくら行こうか、朝食はそのあとだね。結構遅い時間なんだ」


挨拶か、緊張するな…!

おっと!ぼやぼやしてないでついて行かなきゃだ!


「この建物の二階、突き当たりに部屋があるんだ」


ふーん、隊長格くらいだと部屋は同じ建物なんだ?

尋問されたりしたらどうしよう…

ドキドキハラハラ…!




やがて二階の突き当たりの部屋の扉の前でサラさんが立ち止まった。

ほうほう、この部屋が隊長さんの部屋か。

扉は平凡。


サラさんはふーっと一息ついて扉を三回ノックした。

やっぱサラさんも緊張するもんかな?


「サラです!昨日保護した少女を連れてきました!」

「入りなさい」


部屋の中から渋い声が聞こえてくる。


サラさんのウインクだ!

わぁ、こーゆー男勝りな美人さんのウインクってグッと来るなぁ。


「失礼します」


ま、またぼーっとしちゃった。

とりあえず…黙って後に続けばいいかな?




ふーん、部屋の中はサラさんの部屋と殆ど一緒、質素だ。

ベッドとチェストが一つずつ…簡素な机と椅子があるだけと。

隊長格でもこの質素さか!


「寝泊まりするだけの部屋に余計なお金はかけない!」ってのが王国の方針かな?

スーゼラニア王国が「民から集めた血税で贅沢など言語道断」と言って質素さを重んじる国なら好印象だけどさ?

ただケチって兵士たちにひもじい思いをさせているだけなら印象最悪だね。

これで王宮とか豪華絢爛だったら幻滅しちゃうな。

ま、それが当たり前なのかな。


意識を隊長さんに戻そう…

髪は短く刈り上げた清潔な感じ。

焦げ茶色の髪に緑の目。

がたい良い男の人だなぁ。

そんながたいの良い男の人が机の席にちょこんと座ってる姿はちょっと可愛い。


「か、仮の名前ですが……ア、アメリと申します。ま、魔法が使えますので多分……あの、ま、魔法使いです」


とりあえず仮初めの名だけど何かしら名乗らない事には自己紹介が出来ない。

まぁ元の名前も分かんないし、今後は「仮の名前」とかつけなくていいかな…?


「アメリ嬢、お初にお目にかかる。昨日ダンから話を聞いている。私はこの部隊を指揮しているジェームスという。まずはじめに此度はうちのサラとダン、そしてこの町の御者のトムの命を救ってくれた事、心から感謝する。ありがとう」


ジェームスさん、徐に立ち上がった。

いやぁ大きいなぁ!

胸板も厚いし腕も丸太みたい!

げへへ、逞し…ん?えっ!?深々と頭を下げられた!

いやぁ…誠実そうな人だな。

がたいも良いし厳つい、格好いいなぁ…

おっとっと!いかんいかん!ついつい見とれた!

こんなに厳つい男の人から頭を下げられるとむず痒いね!


「いえいえ…!わ、私は人として…ととっ、当然のことをしたまでです!あああ、頭を上げてください!」

「寛大な心遣い感謝する」


頭を上げて貰えた、ホッとするね…

私自身、どうやらこういうのは慣れてなさそうだなー。

物凄くアタフタしてしまった。


尤も頭を下げられ馴れてるヤツなんてイヤだけどさ。


「ところでアメリ嬢はまだ幼そうでありつつも記憶喪失だという事で捜索願や傭兵登録、魔法協会に登録がないか我々の方で昨日のうちに一通り調べさせて貰った」


魔法協会!そういうものがあるんだ!

そういや昨日そんな組織名がチラッと出てたかな…?

いやいや、それより調査結果が気になる…!


「あ、ありがとうございます!そ、それで結果は……?」


ジェームスさんは首を横に振る。

やっぱりかー。

何となく私はこの大陸の人では無いんだろうなとは思ってたけどね。


「ダンからの報告、今朝のサラとの手合わせ。人間族でどこぞの使用人のような出で立ち。魔法が使えて、それほどの杖の腕を持っていながら捜索願が出ず、傭兵でも無ければ魔法協会にも属さない。それにアメリ嬢は髪や目の色、顔、いずれもなかなかに特徴的。個人的な意見として、そんな特徴的且つ人間族の魔法使いの噂が一つも我々の耳に入ってこないという事から、恐らく大陸でもかなり遠くの国、あるいは他の大陸から来たからだと思っている。」


私も同意見かな。

昨日の今日だけでそんな気がビンビンしてる。


「わ、わざわざありがとうございます。……わ、私は自身に関するき、き、記憶は何も…ありません。と、とは言え記憶がなくとも物の名前など、いっ、一般的な名称は……ある程度分かります。あ、あの、ば、馬車だとか……ベッドだとか……そ、そういう類の単語です」


私のこのドモリはなんなんだ?

気をつけても治りそうもないな。


「し、しかし……か、会話の所々で私の認識と……サ、サラさんの認識との間に齟齬が、みっ、み、見受けられました……」

「ふむ、教えて貰えるだろうか」

「はい。た、例えば食べ物の名前であるとか……そ、そこから先は記憶がありませんが……」


自分の正体については二の次三の次だと思ってた。

でも組織として皆さんがあれこれ調べてくれる以上、こちらからも情報は出すべきかなと考えた。


この僅かな違和感から何か糸口が…

私だって知れるものなら知っておきたい。

旅の行き先のヒントになるかもだし。


「ふむ……」


ジェームスさんは腕を組んで考え込んでしまった。


「『渡りし人』……という可能性もあるかもしれない……」


サラさんがすかさず一歩前にでた。


「失礼します。アメリ嬢に記憶が無いのはその素振りから恐らく事実です。俗に言う『渡りし人』の持つ特徴とは大きく異なります」


うーん、うん?ワタリ…シビト?

ここまでで初めて耳にするキーワードだ。

暫く様子見かな……

って言うかサラさんの雰囲気が違って、ちょっと面白い。


「うむ、たしかに噂に聞く『渡りし人』は我々には計り知れない進んだ知識を持っていて、漏れなく国に富をもたらす存在だと言われている。片やアメリ嬢は進んだ知識どころか記憶喪失。しかしだ、力の面を見てみたらどうだろうか」

「たしかに……」


ジェームスさんもサラさんも黙り込んでしまった。

話について行けない。

『ワタリシビト』とやらについて流石に聞いてみようかな…


「あ、あの……『ワタリシビト』とは……?」

「実際に会ったことは無いが、どうやら我々の住む世界の外側、つまり『別の世界から渡ってきた人間族』という者が過去に確認されている。そのような者達を我々は『渡りし人』と呼んでいる」

「え、あ、はぁ、別の……世界……?」


ええっ?

おいおい、そんな事あり得るの?

担ごうったってそうはいかないよ?


「その通り。荒唐無稽な話に聞こえるだろうが『渡りし人』のもたらした物、そうだな…身近な物で言えば例えば馬車の衝撃吸収技術、この町にもある風車、料理、果ては娯楽、それだけではない」


うーむ、こりゃ真剣だ。

じゃあ本当に居るものなんだ?その渡りし人っての?


馬車も風車も特に特別な感動は無かった。

でもそれだけでは出自がこの世界なのか異世界なのか判別がつかないね。

そもそも記憶喪失ってくらいだからその辺の常識まである程度抜け落ちてるのかも。


「我々の世界からは遥かに進んだ文明の世界から、ある日突然この世界へ渡ってくると言われている」


何というかそんな馬鹿げた話があるんだろうか。

御伽噺じゃないのー?それ。


「そして『渡りし人』は知識だけではなく通常では考えられない力を世界を渡る際に神により賜り、そしてこの世界へ渡ってくると言われている」

「か、か、神様…!?そ、それは……そ、その『渡りし人』の人が、も、もも、元々強かっただけなのでは……?」


神様から賜ったってか?

神様って本当に居るもんなの?

おいおーい、何を仰る!ホント勘弁してよー!


でもジェームスさんもサラさんも私をからかってる様子はない。


「伝承では『渡りし人』が居た世界には魔法はなく、魔物も居ないらしい」


そんな世界もあるんだ……

みんな当たり前のように使っている生活魔法すら無いのに文明が遥かに進んでいるなんて。

何というか……記憶があやふやなところに新たな難解な話が飛び込んできて益々混乱した気分。


「アメリ、兎に角アメリは魔力切れを起こしていたしさ、『渡りし人』とはちょっと違うと思うよ。あたし達だってそんな人に会ったこともないし、この国にも同盟国にも居るなんて聞いたことはないよ。そもそも今この大陸に居るなんて話も聞いたことがないから安心しなね」

「サラの言うとおり、あくまで数ある可能性の一つに過ぎない。我々の王国においても建国以来、ほんの数例だけ確認されているだけで、恐らくそう簡単にホイホイ現れるものではないのだろう。混乱させて済まなかったな」


何となくホッとしたなー。


「あ、いえ、さっ、参考になりました!」


もし本当に自分がさ?『渡りし人』とやらなら、こんな期待外れな『渡りし人』は他に居ないだろうってね。

なんせこちとら記憶喪失だよ?

期待されても未知の技術なんて提供出来そうもないもんなー。


「それでアメリ嬢はこれからどうするのだ?」


これからか…傭兵とやらだね。


「あ、え、サ、サラさんには伝えたのですが、よ、傭兵登録?をして…あちこちを、た、旅してみようかと……思って、ます」

「そうか、旅をしたいのであれば魔法協会よりも傭兵組合の方が適しているだろう」


へえ、そうなんだ?

ところで魔法協会ってそもそも何ぞや?

何となく傭兵と聞くと自由人っぽくてそっちを選んだ訳だけど、私の魔法すげーってなるくらいだから魔法協会の会員っぽい気もする…

純度100%とは言わずとも、このエプロン脱いだら割と魔法使いだよね。


「な、なぜ……傭兵組合の方が、い、いいのですか?」

「魔法協会も傭兵組合もどの国にも属さない組織だ。その点はどちらも同じスタンスなのだがな?」


国に縛られない組織かぁ、良さそう。

自由そうなのがいいよね。


「傭兵組合は中立の立場を忠実に守っているが、魔法協会は平たく言えば金にガメツい。」


えっ?金にガメツいの?

うわっ、もう魔法協会ヤダわ!


「やつらは国から大量の金を積まれると、その見返りとしてこっそり兵士に紛れて戦場に登録された協会の者を派遣するのだ。特にアメリ嬢のような手練れともなると『次はあそこへ行け』『その次はあそこへ行け』と頻繁に言われ、大魔法で敵陣を破壊する暮らしが待っているだろう」


えー?そんな死の商人のような職業なんだ?

あっちの国がお金を積んだからあの戦場で敵陣に魔法をぶち込んでおけなんて言われるのは嫌だな。

寝覚めが悪くなるどころか、罪悪感で押しつぶされそう。

ろくな死に方をしなそうだ。


「な、なるほどですね……!よ、傭兵組合で、と、とりあえず傭兵として…と、登録しようと思います……!」

「うむ、賢明だな。金の心配は無くなるが人々からは恐れられる上に自由などという物は無くなる。傭兵登録してしまえば魔法協会は傭兵組合との協定によりスカウトが出来なくなる。急いだ方がいいな。組合の事務所はその辺の町の者に聞くと教えてくれるだろう」

「あ、ありがとうございます」


ふむー、傭兵登録しなきゃだなー。

面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ