表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/554

57.いざリグビーへ

コンクの町にてエルマス夫妻の知人が営む宿屋「トンガリ館」に宿泊した私達。

夕食を食べた食堂では私が腕力で屈強そうな男達相手にがっぽり稼ぎ出して場を盛り上げ、陽気な音楽に合わせて踊って、最高に楽しい気分で眠りについて今に至る。




…ん?


「ふふ、漸く目を覚ましましたね」


うーむ…

んー…フレヤさん?

ぼんやり意識が覚醒し始めていた私。


「寝心地が良いですもんね、どうしましょうイザベラさん」


どうするもこうするも…

えっ!?イザベラさん!?

そんなフレヤさんの言葉で一気に意識は覚醒。


「昨日の夜が余程楽しかったのね。ほら、ポヤポヤしてないで用意なさいな」

「えっ!あっ!すす、すいません…!」


なななっ、なんだってーっ!

いつも最後に起きるイザベラさんすら準備出来てるっ!!

このパーティーの中で早起きだという唯一のアイデンティティが…!

いや…戦力というアイデンティティの方が…

とと、兎に角、急いで支度せなっ!!




ガバッとベッドから飛び起きてドタバタで服を着て身なりを整え始めた私。

でもクスクスと笑うフレヤさんとイザベラさんが殊更早起きだっただけで、別に私が寝過ごした訳じゃないというネタばらしを受ける。


「ちょっと飲みすぎましたかね、尿意で目が覚めて…」


髪の手入れをされつつ照れくさそうに笑うフレヤさん。

ふんだ、なんだいなんだい!

昨日寝る前に「これくらいじゃ影響ありませんよ」何て豪語してたけど、結局お酒の影響受けてるじゃん!


「ふふ、いっぱい飲んだもの。アレがお酒じゃ無くて水だったとしてもおしっこは近くなるわ」

「アメリさん、ふふ…さっき慌てちゃって!ふふ、袖から頭を出そうとして…ふふっ!」


なーっ!フレヤさん!!

悪びれもせず悪戯成功をクスクスとっ…!


「まさかそんなに驚くなんて!ふふ、ごめんなさい!珍しく早起きだったからついつい意地悪したくなっちゃったの!」

「いっ、意地悪です…!」


ぐぬぬ…フレヤさんを悪の道に誘い込むのはやめて貰いたい!


それでも驚いた点は、フレヤさんもイザベラさんもあれだけお酒を飲んでおいて「頭が痛い」だ「気持ちが悪い」だと、状態異常を疑うほどお酒を引きずっている気配が無い点だ。




それにしてもこのトンガリ館。

トイレにも魔導具が備え付けられていて全然臭くない。

天井からぶら下がった紐をグイッと引くと、用を足す穴に水が流れる生活魔法と洗浄の生活魔法が同時にかかっている様子。

はっきり言ってすげー清潔で快適。

トイレは薄暗くて臭いものという印象があるけど、ここはそれがまるでない。

何というかここは本当に良い宿屋で間違いない。

多分この先、このクオリティの宿屋に泊まれる事は早々無いだろう。




商人や傭兵の朝は頗る早い。

食堂に顔を出すと既に食堂はワイワイガヤガヤ。

もう朝食を食べたのか、これから出立という人達すら居る。

エルマス夫妻は今まさに朝食を食べ始めたと言った具合。


手招きされてエルマス夫妻のそばに座る私達。


エルマス夫妻とフレヤさんの打ち合わせを聞きながら食べたのはソラムソースのリゾット。

私の知識によればソラムとやらは多分トマトだ。

味がどう考えてもトマト。

リゾットという料理名も記憶と一致してる。

いやぁ、美味しい。

身体に優しそうな味がするし、お腹に溜まりそうな感じがするよ。


「これ美味しいわね…懐かしいわ」


懐かしい?


「な、なかなか食べられない…珍しい料理なんですか?」


うーん、トマトって稀少なのかな?

いやいや、昨日もメインディッシュで使われたうえ朝食でもそのソラム?ソースが使われてる。

使い回しかもしれないけど、稀少な物という感じはない。

ベルーガでは…いやぁ、気候とかもそんな変わんないよね。


「ううん、ソラムリゾットは旦那の好物だったの。何となく旦那を思い出しちゃって避けてただけ」

「そ、そうでしたか…」


うっ…この話題は何となく避けるべきか?

イザベラさんは寂しそうに微笑んでいる。

女の私でもドキッとする程きれーだ。

最愛の旦那さんと一体どんな思い出があるんだろう。


「お、美味しいですね…」


やめとこう。

言いたくなったらそのうち向こうから言ってくる。




エルマス夫妻は昨晩のうちにトンガリ館の亭主ノアさんと女将のクロエさんとたっぷりお喋りをしたと言ってた。

あれだけ飲んで騒いで、そのあとたっぷりお喋りしたって…本当にこの人達のタフさには頭が下がる。


「はい、銀貨9枚です。それにしても本当にこんな格安で良かったのですか?」


お会計中。

うんうん、フレヤさんの言いたいことはよーく分かる。

こんな快適な部屋が高々銀貨数枚で済むわけがないのだ。


「バリスもシーラちゃんも命の恩人!その命の恩人を護衛する方々にサービスするのも当然でございます!」


ふーん、過去に何かあった訳だ。

年齢的にはエルマス夫妻の方が年下っぽいね?


「本当に快適な宿だったわ!ありがとうね」

「今後ともご贔屓に!」


終ぞ本来の宿泊費を聞かないままトンガリ館を後にする事に。

いやー、これご贔屓に出来るほど大物になれるのかな…




私は何となく傭兵組合の事務所に顔を出したくなかったので、馬車でロバのブルット君と事務所の前でお留守番。

昨日の今日だ、イザベラさんは絡まれたときの為の用心棒。

なお、私と一緒にお留守番のブルット君はとても賢いので、私が一人で居ようと勝手に走り出したりはしないとの事。


むふーっ!

ブルット君を独り占め!

好物のドングリだよブルット君!

ふぁぁ…唇が柔らかい。

瞑らな瞳が堪らなく可愛い。

ロバのさ?この「ヒーヒー!」って鳴き声、本当に可愛い。


ふふ、ロバとの触れ合いを楽しんでいるだけのように見えるでしょう?

こうしてブルット君を全力で愛でているように見えるでしょう?

違うんだなーこれが。

そこは凄腕傭兵のこの私。

いつ何時魔法協会からの刺客、昨日の逆恨み野郎が来るか分からない。

そこで私は第六感的な何かをツーンと尖らせてね?

こう背中の目?心の目?で常に見てるみたいなさ?

ビンビンビリビリと肌で感じるみたいなね?

そうしてえーと…あれやこれや尖らせているお陰か、何かこう…誰かに見られているような気が…


「アメリさん」

「すりゃっ!!ひゃい!」


び、びっくりした!なんだフレヤさんか!

急に背中から話しかけないで欲しいよ!


「あーあ、ブルット君の涎まみれですよ!」


むむっ!

ああっ!!

本当だ、気がつけば手も顔もブルット君にベーロベロ舐められてる!


「ふふ、ダメじゃないの、ボンヤリしちゃって!」

「し、神経を…尖らせて居た…んです…」


ぐぬぬっ、みーんなゲラゲラ笑ってる!

ほ、本当に神経を尖らせてたんですけどっ!


「あはは!アメリさんってばブルットにベロベロ舐められながらニタニタしてましたよ!」

「そ、そんな筈は…!」

「ははは、シーラの言うとおりでしたよ!」


シーラさんとバリスさんまでそう言うなら、そう見えてたのかも…

い、いや!油断しているように見せる高等技術なのだ。




気を取り直して私達は次の町、目的地でもあるリグビーへ!

当然の事ながら追加の依頼は何も受けず、寄り道せずにリグビーに行くようだ。

リグビーまでは順調にいけば3日間の行程らしい。

そんなもんなのか知らないけど、町と町って案外遠いよね。


「途中に小さな村が点在していますので、その村々の宿に泊まる形になります」


あ、そういう事か。

小さな村…もうトンガリ館クラスの宿は無いだろうね。


「トンガリ館ほどの宿ではありませんが、決して悪くはないですよ?」


と、バリスさん。

顔にでちゃってたかな。


「びゃ、白虎亭と…トンガリ館しか泊まった事が無いので…小さな村の宿…ど、ど、どんなもんなのか分からなくて…」


そう、私はこれまで白虎亭とトンガリ館しか宿泊経験がない。

トンガリ館クラスの宿屋が無いのは分かるけど、じゃあ小さな村の宿屋とは何ぞやというのは分からん。

少なくともそこかしこに白虎亭クラスの宿屋があるとも思ってない。


「あら、ベルーガでは白虎亭に泊まったのですね?」

「はい、そうなんです。ご飯も美味しいし、湯浴みのお湯もタダですし。」

「ベルーガでは不動の一番人気ね」


そんな風にベルーガ談義が始まる。

のんびりとした護衛の旅は再開。

まだ歩き始めたばかりだけどさ、こーして街道を歩いていると本当に報酬泥棒みたいな気分になる。

それくらい本当に何も起きないのだ。


「今日は昼下がりにゴトラの森を通過します。マグニエデン街道ですし昼間ですので何事もないとは思いますが、イザベラさんとアメリさんはいつも以上に警戒に当たって下さい」


む、森かぁ。

いやーな思い出が蘇る。


「昼食はちょっと遅くなっても森を抜けてからにしましょ」


イザベラさんが真剣なトーンでそーゆー事言うと益々不安になる。


「私達もゴトラの森では口を閉じていましょう」

「そうね、音が拾えるようにそうした方が良いわね」


えっ!?

あのエルマス夫妻もっ!?

そ、そんなに危険な森なの!?


「そ、そんなに…危険な森なのですか…?」

「エルマス夫妻は知り合いが多いです。つまりそれはエルマス夫妻がどんな相手と取引をしていて、どんな物を取り扱っているのか広く知られているという事に他ありません。盗賊が狙うとしたらゴトラの森がチャンスとなります」


ひえー怖い!

そうだよね、常に他の傭兵やら商人やらが近くに居るわけじゃない。

森の中なんて視界の悪い場所、タイミングさえあれば絶好の襲撃ポイントだ。


「が、頑張ります…!」

「アメリちゃんが居れば怖いものなしよ」


えへへ…そ、そう?

いかんいかん、例え煽てられようと調子に乗っちゃいけない!




森に差し掛かるまではすれ違う人も多く、取るに足らない魔物すら出てこない。

道中、何も知らない私にみんながゴトラの森について説明してくれた。


ゴトラの森。

森自体は東西にながーいだけで、マグニエデン街道を歩けば半日もかからないような短い距離で抜けられるらしい。

街道沿い以外は殆ど開拓されていない森で、あちこちに盗賊のアジトがあるらしいという物騒な噂の絶えない森との事だ。

なのでこの辺りの傭兵組合では森の調査という依頼が非常に多い。

その手の調査依頼を受けた事を町に潜伏しているならず者に嗅ぎ付けられてしまえば森の中で返り討ちに合うなどという噂も絶えない。


起伏の激しい森なので潜伏する場所が多く、結局「護衛を雇って通り抜ける」という消極的な対策を取るしかないとの事。


「…という訳ですから、私もシーラもコンクで次の護衛が見つかるまで数日は覚悟していましたよ!」

「ええ、相乗りでもやむなしなんて事もあるんですよ?」


ん?相乗り?


「相乗りって…な、何ですか?」

「アメリさんは見たことないですね。複数の商人で即席の商隊を編成して、護衛の傭兵パーティーを節約する最後の手段です。」


ふーん、あれ?

毎回それやった方が節約になるでしょ?


「そ、そっちの方が…お、お得なのでは?」

「ふふ、馬鹿ね、最後の手段って言ったでしょ?」


ば、馬鹿となっ!?

イザベラさんの「馬鹿ね」発言出たっ!

とは言え色っぽいイザベラさんにそう言われると悪くないヘンテコな気分になる。

ああ、これで私が男だったらこの色気に当てられるんだろうな…

あれ?私…変態…?うっさいわっ!!


「様々な商人が集まって列をなす。それを護衛する傭兵パーティーは一組みか二組。さて、そんな商隊を見た盗賊はなんと思うでしょう?」


ふむふむ、フレヤさんの言いたいことは…

そうかっ!


「ねっ、狙い目だと…!」


そりゃそうだ。

統一感のない商人達。

ゾロゾロガラガラと列をなす馬車を守る傭兵は数名。

商人が多ければ多いほど手には入る金も多い可能性が高い。

それに護衛対象が居すぎて、盗賊側が層を厚くすれば傭兵パーティーも苦戦を強いられる。

だから最後の手段なんだ!


「その通りです。繋がりの浅い寄せ集めの商隊に、少し心許ない護衛。だからエルマス夫妻も御守りとして古代兵器を持参している訳です」

「はは、アメリさんはコンクの町で派手に強さをアピールしましたから、少なくともあの町で我々の存在を嗅ぎ付けた盗賊連中は間違いなく襲ってこないと思います」


バリスさんの言うとおりかもしんないね。

結果的には所長になれるような手練れの元傭兵をいともアッサリねじ伏せたんだ。


しっかし盗賊ってのも難儀なもんだなぁ。

そんなアレコレ知恵を張り巡らせるなら普通に傭兵でもすりゃいいのに。

なんでアウトローの世界に身をやつしてしまうのやら…


そんな訳で私達の眼前には広大なゴトラの森が広がってきた。


面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ