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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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54.痛い目

コンクの町の傭兵組合事務所にて酔っ払いに絡まれたイザベラさん。

隣でジッと様子を窺っていた私だったけれど、ニタニタしていた様子が余程気に食わなかったようで、私まで酔っ払いに絡まれる事態に。

手を出されたので自己防衛で軽くいなすつもりが大惨事。

そしてイザベラさんと私は組合側から個室に連行されて今に至る。




「で、この町じゃ見かけない顔だけど…あなた達何者なの?」


この受付のお姉さん、高圧的というか喧嘩腰である。

普通さ?イザベラさんのような美人やちびっ子の私が絡まれてたらさ?こっちの味方しない?

だって、こっちはナイフで攻撃されたんだよ!?


「護衛の依頼で今日ヤキムから来たばかりの傭兵で『魔女っ子旅団』っていうの。さっき来たばかりだから見かけなくて当然ね」

「はぁ?魔女っ子?あなた達バカにしてんの?」


怒ってる時に『魔女っ子旅団でごぜえます』なんて言われたらそりゃ誰だって鶏冠にも来るわ…

私だってそう思う。

しかしこのお姉さん、怒りすぎである。

こっちは悪くなくないかい?

私の所業は…わ、悪くないでしょ…ね、ねえ?


「馬鹿にしてるのはここの事務所でしょ。そもそもあの発情した人間が手を出さなきゃ何もなかったはずよ」


これイザベラさんもかなーり怒ってるな…

腕組んでツンとした顔してそっぽ向いてる。

こんなイザベラさん見たこと無いよ。


「はぁ、うちの町の大台パーティー潰してくれて…本当どうしてくれんの?」

「大台?」

「何よ、三人とも10等級超えなのよ」

「ふふ、あんな雑魚がエースなんて、コンクの町もたかが知れているわね」


売り言葉に買い言葉。

穏便に終わる道は完全に途絶えたねこりゃ。


「カウンターファイア仕込んで燃やすなんて過剰防衛よ、骨を折って足の甲にナイフを突き刺して…はぁ、エルフ様って本当プライドが高くいらっしゃるようで。はぁ…」


むっ!?

あのオッサン達といい、このねーちゃんといい、なんなんマジで!

し、しかもこのねーちゃん今さ、小声で「亜人のくせに」って言ったよ!?

もうこれは私からも一言物申さないと気が済まない。

何というか…イザベラさんを馬鹿にされたようで我慢ならん!


「じゃ、じゃあお尻や胸をさ、触られながら酌をしろって…い、言うんですか…!?」

「うるさい。使用人は黙ってなさい」

「なっ…!!」


なぬっ!!

かーっ!!

なんだこのババア!こなくそーっ!!


「わ、私…よ、傭兵ですっ!!」

「あーはいはい、お子様でも傭兵にはなれるからね。お子様は大人の話に首を突っ込まないで頂戴」


悔しいっ!!

悔しいよイザベラさんっ!!


「うちのパーティーの主戦力に随分な物言いじゃない。この子、はっきり言って私なんかよりずっと強いわよ」

「はあ?この?メイド見習いが?」

「あなたも多少腕に覚えがあるようなら、演習場で手合わせしてみる?ふふ、みんなの前で恥をかくのが嫌だったら無理にとは言わないけれど」


イザベラさん、この期に及んで煽って…!


「随分な物言いはそっちじゃなくて?伊達にここの所長をやってないって所を見せてあげる」

「ふふ、傭兵組合の人手不足は深刻なのね、お可愛そうに」

「大した苦労もなく魔法が使える亜人の癖に…いい気になるんじゃないわよ」


このねーちゃん、所長なんだ!

ここまで良い人ばっかだったけど、とーぜんこういう偏った思想の所長も居るわけか… 


「さ、アメリちゃん。張り切って鼻をへし折ってあげてちょうだい?」


そうそう、イザベラさん!

張り切ってこの失礼なババアの鼻を折ってちょうだい…えっ!?

わ、私!?

って言うかわたしが手合わせする事になってる!?


「あ、えっ?あっ…ええ…」


えーっ!イザベラさんがやってよ!!

あーっ!このエルフ、ちょっと楽しんでる!!




煽りに煽ったイザベラさんの努力?のせいか、演習場に行ってこの所長を名乗るねーちゃんと手合わせする羽目に。

部屋から出るとフレヤさんとバリスさんが心配そうな顔をして駆け寄ってきた。


「アメリさん!イザベラさん!大丈夫ですか!?」


フレヤさん、ゴメンね。

こんな大騒ぎになるなんて…

部屋に呼ばれて「君達大丈夫だった?」とか「アイツ等問題ばっか起こしててさ」とかってなると思ったんだよ!

それがよもや…

しかも何故か私がこの所長のねーちゃんと戦う事に!

所長になるくらいだから結構強いんじゃないの?


「平気よ。ここの所長さんがアメリちゃんの腕を見てくれるようなの」

「ふん、耳長と来て今度は小人ね…」


なっ!!

あー、この野郎。

フレヤさんを小人呼ばわりしたな!?


「人間の割にはなかなか親切なオバサンね」

「なっ!どうせあんたの方がずっとオバサンでしょうが!」

「あら、でもあなたよりはずっと若い見た目をしているわ」

「いつまでも若いなんて亜人は本当に気味が悪い…!」


我慢ならん!

こっちも負けじと一言言ってやるっ!!


「だ、大丈夫です!こ、こんなヒステリーをお、起こした年増…ま、負けません!!」


へへん、どーだ!!

ガツンと言ってやったぞ!!

私だってそれくらい啖呵切れらぁ!!

しっ、心臓がバクバクする…

やば、言い過ぎたかも…

所長のねーちゃん、めっちゃ顔赤くなった…!

あばばば…


「ヒステリー…年増…!!この洟垂れが…!!」


もう後には引けない…!


「ふ、ふんっ!あれです…み、皆さん大した事無さそうで…あれですっ!!へへっ…き、気に食わない人達全員で…一気に来て下さい!こ、こういうやり取りは…ハ、ハエが集るようで…ま、ままっ、毎度目障りなので…」


ええい儘よ!

大好きなフレヤさんやイザベラさんが馬鹿にされるのは許せない!

それに、ここで下手に出たらいつまでも馬鹿にされたままな気がする。


私はこの『魔女っ子旅団』の主戦力。

腕っ節を存分にアピールして、こーゆー事が起きないよう怖がられる存在にならないといけないんだ。


「ガキだからって容赦しないわよ…」

「こ、こ、高齢者だからって…よ、容赦しません」


ふんっ、この悔しそうな顔!!

どうだいこの馬鹿野郎めがっ!! 

ざまーみやがれってんだっ!!

さあ、言ってやりましたよ!

イザベラさん!フレヤさん!


あれ!?

二人とも呆れ顔…だと…!?




私は過剰に煽ってしまったようで、今演習場では所長のねーちゃんを含めた10人が私と対峙している訳で。

さてはこいつら、このねーちゃんの腰巾着だな?


凄い数のギャラリーも集まってるなぁ。

あ、何アレ!何か食べ物売ってる人とかまで居る!

商魂逞しいヤツも居るもんだ。

良いなぁ、あの肉の串、美味しそうだなぁ。


「多勢に無勢で可哀想だからこっちの魔法は禁止にしてあげる!みんなも余り痛めつけてあげちゃ可哀想よ!」


くそー、このねーちゃん、ニタニタと…

本当に性格悪いな!

悔しいな、何か言葉を返すかな。


「お、怖じ気付きましたか…!!へへっ…ま、負けたときの言い訳…ひっ、必要ですかっ…!?」

「所長!構いませんよ!!ルーキーにはしっかりと稽古を付けてやらないと!!」


しかしあれだ。

こーゆーのに首を突っ込む輩って、何でこう柄の悪い連中ばかりなんだろう。

そういう資格とか認定制度とかあるの?

まぁこちらとしては柄が悪い方が良心が痛まないからやりやすいんだけどさ…


「い、いつでもどうぞ!」

「ははっ!!杖で戦うってか!!こりゃ傑作だ!!」

「詠唱させるな、軽く痛めつけて分からせてやれ!」


輩達が一斉に地面を蹴る。


どうやらこの中で魔法を使うのは所長のねーちゃん。

所長のねーちゃんの隣のフードを被った男は護衛…違う!

演習で弓を!?こっちに向けて打つつもり!?

それはやり過ぎでしょ!!


「永久の極寒に閉ざされし雪の精よ、封印を解き放ち、彼の者の歩みを氷結せしめよ、フリーズロック!」


どわっ!!

足元が凍りついた!!


ってあれ?

随分と簡単に砕けたな?

つ、続けて良いのかな?


「なっ!所長の魔法が…!!」

「こ、こいつ…やれっ!!」


私に群がってきた輩はどれも取るに足らぬといった体たらく。

何というか…弱すぎる。

フレヤさんイザベラさんを馬鹿にされた怒りが勝っているというのもあるだろーけど、全然怖さとかがない。

足を引っ掛けたり、杖でぶん殴ったりするだけでいとも簡単にコロッと倒せる。


その時、物凄い嫌な予感がしてふと右手が動く。

矢だ、それも何本も。

ピューッと飛んでくる矢を素手で払ったり掴めたりする私自身もなかなかに怖いけれど、こんな小生意気な私みたいなガキ相手に矢を射れるなんて、あの弓使い…怖いというか相当頭がおかしい。


もう良い。

さっさと所長を張り倒して終わりにしよう。


「青き海原の息吹に宿りし滴よ、封印を解き放ち、激流の如く進め、アクアハンマー!」


うわっ、なんか魔法か…!!

どこから…!?

ハンマー…上かっ!!

弓使いの男はいつでも矢を射れる体制。

こいつらいくら何でもやり過ぎである。

とは言え無詠唱魔法も私の魔法もあんま見せたくない。


案の定横に飛んで魔法を避けると矢が飛んでくる。

途中から異空間収納に杖を仕舞っていた私はひゅんひゅん飛んでくるへなちょこ矢をかわしつつ二本ばかし掴んで両手に矢を持つ。

空高く跳躍して所長の前に着地っと!


「氷雪の静寂に宿りし精よ、封印を解き放ち、侵入者を阻む氷壁と…えっ!?」


はは、やっぱり遠距離からチクチクやるヤツらは接近戦雑魚だね。

急に目の前までビューンと飛んできた私にギョッとしてる。


「お、おしまいです」


所長のそばに着地した私はクルリと回って弓使いの男を足払いで転ばせ、そのまま両腕をクロスさせて所長を一気に倒して馬乗り。

所長の顔をかすめる形で矢を地面に突き刺す。

呆然とする所長の顔の左右には矢。

これでも戦意が残っていたらどうしよう…


「え、演習ですから…本当に刺しません」


戦意がごっそり抜け落ちてるね。


「もう…良いですか…?」

「ま、負けました…」


ふぅ…これでこの町でも過ごしやすくなったかな。




私の目論見通りと言って良いか、同業者達の私達を見る目は恐れに変わっていた。

これで良いんだ。

どーせ明日には発つけどさ、こーして噂が噂をみたいないい感じになるといいなぁ。

そう考えるとやっぱこの格好は目立つから良いかも。


そしてそして、再び所長の部屋に呼ばれた私達。

さっきと違うのは目の前の所長が深々と頭を下げている点だ。


「炎姫に…あのビクターさんを倒した…本当にっ!!本当に申し訳ありませんでしたっ!!」


フレヤさんの出した拠点異動の書類を職員から渡され、目を通した所長のねーちゃん。

初め不服そうにぶーたれてたその顔は見る見るうちに青ざめ、今こうして必死な形相で頭を下げている。


「うちのイザベラとアメリがお騒がせしてしまいまして、こちらこそ申し訳ありませんでした」

「ちょっとフレヤちゃん、はじめに絡んできたのはあっちよ?」

「でもそれで相手を燃やすのはやり過ぎです!ちょっと腕を軽く捻りあげて等級を見せれば済んだ話です!」


へへっ、イザベラさん怒られてやーんの!

ふひひ、いーけないんだー!


「もうっ、そんな顔して!アメリさんもですよ!複雑骨折させた挙げ句足の甲にナイフを刺すのは過剰です!それにあんなに挑発して…驚きましたよ!」


ガーン!!

わ、私まで怒られた…!!


「さっ!刺したわけじゃ…!!」


あっ、イザベラさん今ニヤっとした!!

フレヤさん!この人反省してませんよーっ!!


「それでもあの様な連中をのさばらせ増長させたのも、これは偏に所長である私の責任です。若くして所長の座に登りつめ…増長してしまっておりました…人を見る目の無さを痛感したと言いますか…」


まぁそうだよね。

これでイザベラさんもここで高難度の依頼なんて受けてくれる訳無い。

私だってなんかもうここは嫌だ。


「あなたもね、人間が亜人に対してあれやこれや思うのは別段珍しくもなんともないけれど、あなたみたいに立場ある人が態度に表すのは良くない事よ」


そーだそーだ!

私の大切なフレヤさんとイザベラさんが馬鹿にされたんだ。

あの程度で済んで助かったくらいに感謝されないとダメだよ!


「この事務所で一番偉いあなたがそういう態度を取る事の重大さをもうちょっと考えてちょうだい。人間だけ、それもあなたにヘコヘコする情けない男だけで固めた傭兵組合なんてやっていける訳ないでしょ」


何だかんだイザベラさんは思うところがあったようで、そのあとも懇々と説教していた。

でもイザベラさんの言うことはごもっともだと思う。


種族によって得手不得手はあるわけで、それを有効に生かす事は傭兵組合をより強くする事に繋がる。

この若いねーちゃんは若いうちから痛い目にあって良かったのかもしれない。

これが融通の利かない頑固ババアとかに進化していたら、もう矯正の道は無かったもんね。


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