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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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51.やりすぎアメリちゃん

コーネラ子爵領の町コンクへの護衛旅をしている私達『魔女っ子旅団』。

護衛対象はハーフリングのエルマス夫妻。

これがまた良く喋る上に夫婦揃って剽軽で楽しい!

そしてオミノスホーンブルとかいう動く金蔓を大量ゲットし、護衛の継続までゲットとさい先良すぎつつも今に至る。




マグニエデン街道は有数の交易路。

というだけあってしょっちゅう商人とその護衛とすれ違う。

私にとって顔見知りなんてゼロだけど、エルマス夫妻は知り合いが多い。


「おーーーいっ!デミルさーんっ!!」


うわっ!まただ!

これ本当にビクッとするんだよなぁ。

あの向こうから来る馬車、知り合いの馬車かぁ。

この夫婦、とにかく同業者の知り合いが多いこと多いこと…

こんなやり取りも既に三回目だ。


「エルマスさんですかーっ!どうもーっ!!景気はどうですかーっ!?」

「お陰様でーっ!つい先程ねーっ!オミノスホーンブルの群れと遭遇しましてーっ!!」

「ほう!!それはそれはっ!どーーーなりましたかーっ!?」

「懐に幸運が舞い込む結果になりましたーっ!」

「ほほう!それは結構ですなぁ!!あっはっはっ!!」


この人たち、すれ違うときに止まってゆっくり話しゃいいのに、なんでこんな離れた位置から馬鹿でかい声で話すんだろう…


「デミルさーんっ!息子さんのセシルくんの修行は順調かしらーっ!?」

「ははっ!これがさっぱりっ!デミル商会の危機ですなぁー!!」

「ふふ!またまたー!よく言うわーっ!!」


何というかこれが行商人のデフォルトだとしたらさ、メイソンさんって心配になるレベルで大人しいよね…

ロバのフーリーちゃんとキャッキャウフフしとる場合じゃないよ!!


「そうそう!こちらも先程街道脇の穴からワラワラ出て来たヴァンガードアントと遭遇しまして!護衛の皆さんにー!どうにか蹴散らして頂きましたがー!休憩はトンガリ岩の先くらいでした方がいいですよー!」

「そうですか!!有益な情報ありがとうございますー!!」


いやいや、今すれ違ってる最中だよ!?

こ、この人たちなんでそのままのトーンでやりとりするの!?


ってあれ?

護衛のうちの一人、弓を持った金髪の女の人が怪我してるじゃん!

そのヴァンガードアント?とやらのせいか?

っておいおい!

顔怪我してるじゃん!!


フレヤさんと視線が合った。

こりゃお見通しだ。

フレヤさん、肩を竦めてニコッとしてくれた。


ふふ、良かった。

同業者として、そして同じ女として顔の怪我なんて見過ごせないもん。

早口でいくよー!


いや、あっちの馬車早いな!

馬って足早いなっ!

単体向けじゃちょっと狙いが…

広範囲いってみるか!


マギアウェルバ

光よ光よ

広がれ広がれ癒しの光

大地に息吹を 空に輝きを

万物の生命に温もりを

生命に降り注ぐ光の雨

ヒーリングサークル


どうか、あの人の顔の怪我を治してあげて!

悲しそうな顔をしてた護衛のお姉さんが淡い光に包まれる。

よしっ、すれ違いの辻回復大成功。

ここは商人流に…


「ハッ、ハイヒーリングでぇ!なっ、なおちてぇ!おきましたぁ!!」


よ、よしっ…!

ちょっと噛んだけど…よしっ!

第二の人生始まって初めてこんな大声だした…

心臓が異様なほどバクバクしてる…


イザベラさんめっちゃ驚いてる。

ふふん、呑気に欠伸なんてしてるからだよ!


ん?あっちのデミルさん?の馬車止まっちゃったぞ?

なんだなんだ?


「ん?おや、止まりましたね?なんでしょう?」


バリスさんも首傾げてる。


「護衛の人が怪我なさってたから、そのお礼ねきっと。あらー律儀ねぇ」


あら、あっちのデミルさん?だったか、商人のおっちゃんが走ってきたよ?

普通の人間族、中肉中背ってやつだ。


「あらら?デミル商会の旦那さんって片足悪くしてなかったかしら?」

「おおっ?あれー?本当だ!治ってたんだなぁ!」


あっ、あれ?あれれ?あーれーれー?

なんか…いやーな予感がしてきたぞ?

イザベラさんの驚きは私のでかい声じゃないなこれ…

私、今、フレヤさん、顔、見れないよぉ…?


「い、今そのメイドのお嬢ちゃんがハイヒーリングしたら、俺のあ、あ、足まで動くようになったぞ!?こ、こりゃ…あり…がとう!?」


うわーこのデミル商会の旦那さんまで治しちゃったのか…


「あ、えー…えーと…」

「う、うちのアメリのハイヒーリングは範囲が…そうっ!ひ、広いんです!!お代は頂きませんので、機会がありましたから『魔女っ子旅団』を是非ともよろしくお願いします!」


フレヤさん、咄嗟のフォロー!

あ、イザベラさん笑ってる!

そしてそっぽ向いて誤魔化しやがった!

人がこれからとっちめられるってのに、プルプル震えてるんじゃないよ!


「ありがとう!本当にありがとう!!教会に行って僧侶に頼んでも治らなかったんだ!!本当に…本当にありがとう!!」

「メイドのお嬢さん!俺達の怪我まで治してくれてありがとう!」


あばばばば…どんどん話が大きくなっていく…!!

本来治す予定だったお姉さんだけじゃなく、とーぜんお姉さんと共に戦った他のメンバーの怪我まで…!!

予定してなかったにーちゃんまで来ちゃったよ!


「跡が残ったらどうしようって思ってたの!本当に…本当にありがとう!!」


ま、まぁお姉さん、喜んでるし…良かったな。




さっさとずらかりたいところだけど、なかなか話が終わらない。

フレヤさんによる必死の火消しが止まらない。

そして私は顔を上げられない…


どーにかこーにか護衛の旅が再開。

もうね、フレヤさんがちょいちょいこちらを見てくる。

今晩は間違いなくお説教だこれ。


「ふふ、やりすぎアメリちゃんはフレヤの冒険譚をお笑いの本にしたいの?」


ぐぬぬ…イザベラさんめぇ…何も言えねえ…




そうして夕暮れ時になって、とりあえず目標にしていた野営地まで到着。

流石有名な交易路!

ひろーい野営地にはポツポツと私たちみたいな組み合わせの行商人と傭兵や、傭兵だけのパーティー、結構先客が居る。


フレヤさんがいつも通りサービスでエルマス夫妻の分までちゃっちゃかちゃっちゃかテントの設営。

その間暇な私はロバチェーック!

さてさて、この子はどんな子かな?


「えへへ…お疲れさまです…」


むふふ、ぐふふ、この子もフーリーちゃんみたいな人懐っこい子だ。

あー私本当にロバ好きかも。

可愛すぎるよ!ロバ!


「その子は私達の相棒のブルットです。男の子ですよ」


と、バリスさん。

ふんふん、ブルットくんかぁ。


「ひ、人懐っこいですね…可愛い…!」

「ふふ、まだまだ甘えん坊なんですよ。よしよし、今日も1日頑張ったわね」


ブルットくんが「ヒーヒー、ヒーヒー」と鳴いてシーラさんに顔を擦り付けて甘える。

ああ、いいなぁ…甘えられたいなぁ…


そんな物欲しげな顔をしてたであろう私を見たバリスさんから干し草を貰い、ブルットくんに餌やりタイム!

はぁ癒されるわぁ…

心なしか嬉しそうな顔をしてる気がする!

ハムハムモシャモシャ。

むふー、なんでこんなに可愛いんだろう!




そして私たちのご飯の時間。


やっぱりフレヤさんがあれやこれや全部やってくれるってのはなかなか無いみたいで、


「サポーターが居るパーティーでもここまでしてくれる事は無いですよ!」

「本当ねえ!実力と心配りを兼ね備えてるなんて、きっと引っ張りだこのパーティーになりますね!」


なんてエルマス夫妻もご満悦。

えへへ、私のフレヤさんが褒められると私も嬉しいよ。


「専属契約を考えたくなるくらいです!なあシーラ?」

「ええ、ええ!」


そ、そんなに良いものなのかな?

他のパーティーがどんな感じなのか一度…専属契約?


「あ、あの…専属契約なんてのも…あるんですか?」


そう言われてみりゃそうだよ。

商人の皆々様はなんで毎回傭兵組合に護衛依頼を出してんだ?

毎回質が変わる護衛パーティーなんて不安定過ぎるでしょ。

私がサクッと蹴散らしたオミノスホーンブルとかいうのだってさ、私からすれば良い金蔓だけど、パーティーによっちゃ壊滅寸前だってあり得る。


「ありますよ。あるにはあるけれど…と言った感じです」

「へ、へぇ?」

「そういう腕利きの傭兵と専属契約をして抱え込めるような商人は大店のような凄い規模の商会くらいですね」


と、フレヤさん。

へー、大店くらいなんだ?


「そうですねー。大抵の商人は常に町の外を移動する訳ではありませんからね。護衛が無い間も護衛費用を払い続けるのはあまり現実的ではありません」

「そ、そうですよね…なるほど…!」


バリスさんの意見にシーラさんもコクコク頷く。


ははーん、なるほどそりゃそうだ。

傭兵パーティーを抱え込む、それ即ち毎日報酬を払うという事だ。

護衛費用のもとを取ろうと思ったら肝心の商売が疎かになるもんね。


「安定して収入が手に入るけれど、専属契約出来る程の傭兵なら普通に依頼をこなした方が儲かるわね」


と、イザベラさん。

まぁ…そうだよなぁ…

街道に出てくる魔物なんてたかが知れてるかな。

「是非うちの専属に!」なんて言われるくらいの実力があるなら、依頼を受けてガンガン討伐行った方が儲かるに決まってる。

イザベラさんだってこの前ヤキムで討伐してきた…なんだっけ、アプ…アプ…ナントカコントカってヘンテコな魔物でがっぽり稼いでたし。


ん?どんな事情があると専属になんてなるんだろ?

怪我をしてるとか?いや、怪我してたら護衛も出来ないか…


「どんな…傭兵が専属契約…受けるんですか?」

「んー、そうねぇ。家族を持って堅実に生きたいって子とかかしら。どこどこ商会の専属で護衛をした経験があるって実績があればどこかの領主の私兵になる事だって有利になるものね」


安定した収入、箔をつける…ふーん。


「後はアメリちゃんみたいに出鱈目に強い人が頭を張ってるクランが新人教育の場として契約するパターンもあるかしら」


出鱈目って!人を何だと…クラン?

なんじゃそりゃ?


「あー、アメリさんにはクランについてまだ説明してなかったですね」

「ふふ、そんな顔しているわね」


私はそんな分かりやすい女なのか…?

なんか悔しいな、どれ…


「あ、あー…はいはい…あ、あれですよね…ほら…」

「嘘おっしゃい。知らないでしょ!ふふ、いちいち面白いわね」


たはー!イザベラさんにデコピンされた。


クラン?正直さっぱり分かんない。

こーゆー時は素直に聞くかね…


「し、知らないですね…」

「傭兵パーティーの集まりをクランと言うのですよ。日頃は数人単位のパーティーでそれぞれ行動するのですが、ダンジョン攻略や大物討伐など頭数が必要な時に協力するんです。専属で鍛冶師や薬師などを抱えたりしているクランもありますね」


フレヤさん、いつも解説ありがとね!

はじめましてな人同士でダンジョン攻略したりするより、日頃から交流のある気心しれた仲間って事か。

そんなのもあるんだなぁ。


「何にせよ私達のような商人は都度依頼で傭兵を雇わないとどうしようもないですね」

「パーティーによって…バ、バラつきがありますよね?」


全然弱いパーティーだった場合はどうなるんだろ。

よもや死んでから「おい!死んじまったぞ!」なんて組合事務所へカチコミに行けるわけがない。

カチコミに行っているその人は既にアンデッドだ。

死んだら人はそこでおしまいなのだ。


「傭兵組合側のお眼鏡にかなうパーティーしか護衛依頼は受けられませんから、そこまで弱いパーティーというのは中々遭遇した事はないですよ。とは言え私達も自衛手段は持っています」


エルマス夫妻の自衛手段?

剣とかを振り回す印象はないなぁ。

弓とか魔法とかかな?

あ、バリスさんが荷台からなんか細長いのを持ってきた。


「あら、珍しいものを持っているのね?へえ、三連?」


イザベラさんはすぐピンときたようだけど、私には何のこっちゃ。

ぶっとい鉄の筒が三本ピーンと伸びてる。


「はい!五千年前のワービット王朝時代に作られた物だと言われてます」


あらあら、バリスさんもシーラさんも自慢気。

なにこれ?んー、あれ…?


「わぁ、実物なんて初めて見ましたよ!マテウスの冒険譚に出て来た古代の魔導具ですね!?バーンと光を放つってあの!」

「ふふ、フレヤさんの偉大なご先祖様マテウスが発掘したものは二連砲でしたが、これは三連砲ですよ」

「あら、そしたらお高いんじゃないの?」


なんか…既視感っていうの?

いや、見慣れたっていうのかな?

なんだこの感じ…


「シーラの実家の伝手で割安で譲って貰えたんですよ!なんかよく分からないツマミのようなグルグル回るのが故障しているのと、この上の第三門が動作しないスクラップだから安かったんです」

「ベルーガでもたまーに見かけたわ。でも三連砲なんて初めて見たわね!ふーん…ちゃんと完動品なら物凄い価値がありそうね」

「いやーでも連射出来ないので、実用的かどうかでは割と出回る単発砲や二連砲の方がよっぽど勝手が良いと思いますよ?故障してて良く分かりませんが恐らく威力でも調整出来たようなので、庶民が持つ普段使いのものでは無かったのかもしれませんね」


私は…これ…

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