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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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47.手がかり

一人寂しくスンスン泣いてしまっていた夜。

フレヤさんやイザベラさんの優しさによって『デリクシーラ』のレベッカさんから優しくしてもらって心が落ち着いた。

しかしそんなレベッカさんの口から衝撃の言葉が飛び出して今に至る。




「それはねぇ?私が『渡りし人』だからよぉ」

「えっ…!?」


えっ?えっ!?

へぇ、『渡りし人』なん…えっ!?

あれっ?

だ、だって今この大陸にも居ないんじゃないかって!


「あ、あの…でもっ、この大陸には…『渡りし人』は居ないって…!」

「ふふ、『渡りし人』のみんながみんな力を生かして戦う訳ではないわぁ」


そりゃそうか…!

別にレベッカさんみたいに傭兵稼業もせず庶民に紛れて焼菓子を作ってカフェを営んで過ごす事だって十二分にあり得る話なんだ!

そんなもの国も一々調べようがないもんね。


「で、ではレベッカさんもその…つ、強いの…ですか?」

「私はねぇ、前の世界では90歳のお婆ちゃんだったの。その生涯をパティシエール、お菓子職人としてお菓子に全てを捧げてきたわぁ」


おばっ、お婆ちゃん!?

いや、どう考えてもエドモンさんと同じくらいの歳にしか見えないぞ!?


「神様も予期しなかった神様の手違いとやらである日突然死んじゃってね?別の世界になら斡旋出来るんだけどって言われて、この世界にやってきたわぁ。ふふ、放っておいてもすぐに死ぬ歳なのに神様も律儀よねぇ」


クスクス笑われても、笑って良いのなら悪いのやら…

っていうかこの口振りだと神様って本当に居るんだ…?

いやー、何だか情報が渋滞してきたよ?


「神様は私みたいな人間にまず『無詠唱魔法の力』と『あらゆる言語を理解出来る力』そして『異空間収納』の3つの力をあげるようにしてるって言ってたわぁ。『無詠唱魔法』っていうのはねぇ、みんなが『生活魔法』って呼んでる便利なあれね?」

「無詠唱魔法…な、なぜ神様は…く、くれるんですかね…?」


確かに詠唱してない。

ペラペラと喋って発動する魔法を詠唱魔法と呼ぶなら、何も喋らなくても発動する生活魔法を無詠唱魔法と呼んでも間違いじゃない。

っていうか神様も何でそんなあれやこれやくれるの?


「それはねぇ、私がいた世界では魔法も無くて魔物も居ない、比較的平和な世界だからねぇ、こっちの世界でも問題なくやっていけるように最低限の力として神様がくれるって神様自身から聞いたわぁ。身一つで放り出すと、数日と保たないわぁ」


やっていけるように?

ここまでの話からするに…私はやっぱり『渡りし人』だよ。

だって…


「私も…その無詠唱魔法が人一倍強いです…」

「フレヤちゃんから聞いたわぁ。異空間収納が使えて生活魔法が得意だって。だから少し気になっていたのぉ。」


ああ、レベッカさんに抱きしめられると心が落ち着くな…

やっぱ私は立派なお子様なんだろうなぁ。


「神様はねぇ?それらの力だけではなく、君が好きな力をひとつ授けようって言ってたわぁ」

「ひ、ひとつ…?」

「ええ、圧倒的な武の才でも詠唱魔法の才でも。でも私はただのお菓子職人のお婆ちゃんだからねぇ「そんな怖い力いりません。はじめから貰える力だけでも十分です。その代わり子供に戻して下さい」ってお願いしたのぉ」


そ、そういう手もあるのか!

じゃあやっぱ私も…?


「私も…若くして貰ったのかも…」

「ううん、私がアメリちゃんは『渡りし人』じゃないって断言する理由を説明するわねぇ?」

「はい…」


どんな理由なんだろう。

それを聞いたら一つ胸のつかえが取れるかな。


「まず仮に私と同い年くらいのお婆ちゃんだったとして、私が産まれた頃には既にねぇ、アメリちゃんみたいに可愛いお仕着せを着たメイドさんなんて職業は殆ど存在してないわぁ。そんなの極々一部」


そ、そうなのか…!

え?使用人居ないの?

支配階級の人とかどうしてんの…!?


「貴族なんて居ないから本当に極々一部だと思うわぁ」


貴族が居ないとな?

国はどうやって成り立ってるんだろ?

王様大変すぎない?


「次にねぇ、魔法がないって説明したけどねぇ、私の世界では魔物も居ないから弓を引いたり剣とかを振り回して戦う人なんて存在してないのぉ」


それはカントの町でジェームスさんが言ってたね。

魔物が一切居ない…多分戦いから遠く離れた暮らしが出来るんだろうね。

魔法がないのは不便そうだな…


「戦争でも、この世界には存在していない鉄の礫を飛ばす武器があって、みんなそれしか使わないわぁ。杖で戦うなんて尚更。だからねぇ、無詠唱魔法も詠唱魔法も達人、武術も達人。神様から追加で貰える力は一つだけだから、それを『渡りし人』が実現させるなんて不可能なの」


その鉄の礫を飛ばす武器ってのは話が逸れちゃうから一旦素直に受け入れるとして、そうなると武術を前の世界から持ち越しして詠唱魔法の力を貰うって線は可能性が限り無く低いんだ…

ここまで使用人としてのノウハウが身体に染み込んでいる。

って事は前の世界で極々僅かという使用人をしつつ武術の達人になる暇なんて無いはず。


「それにねぇ、私は前の世界にも大勢の子供や孫、曾孫も居てねぇ、この世界でも子供が居るから分かるけれどねぇ、アメリちゃんは可愛い可愛い子供よぉ」

「子供…ですかね…?」

「ふふ、私はそう思うわぁ。こうして私の胸でホッとして安心したような顔をしてる、可愛い可愛い子供。自分が何者か分からなくて怖かったわねぇ」


そうだね。

多分私は子供だ。

ちょっとしっかりしてるだけの子供。

レベッカさんの話を聞けて、無数にあった可能性のうちのひとつが消えた。


私は『渡りし人』じゃないんだ。




その後、レベッカさんからあれやこれやと詳しく聞いた。


このお店で提供している焼菓子の殆どは、レベッカさんの元居た世界のものらしい。

異空間収納が使えるのを武器にひたすら焼菓子を作っては在庫を増やしているとの事。

なるほど納得。

品切れになる焼菓子が無いのは凄いなとは思っていたけど、それなら納得だよ。


とは言えレベッカさんはあくまでも生粋の菓子職人。

紅茶の淹れ方なんて全然知らなくて、とりあえず提供していたとの事。

そこでレベッカさんを喜ばせたいエドモンさんが私に目を付け、今回の指名依頼となったっていう。

エドモンさんとレベッカさんの深い愛情が垣間見えたね。

嫌と言うほど見えてるけど。


しかしエドモンさんすらレベッカさんが『渡りし人』という事実を知らないらしい。

この世界に来て『渡りし人』だと告白したのは私が初めてだって聞いて驚き!

生活魔法…もとい無詠唱魔法にも、異空間収納にも、エドモンさんは詳しく問い詰めようとはしないようだ。


詠唱魔法も武術も選ばなかったレベッカさんは、若くするだけでは…と神様の粋な計らいで病気をしない頑丈な身体にして貰ったそうな。

そもそも無詠唱魔法の力だけでその辺の魔物なら相手じゃないってくらい十分に強いらしい。

神様は世事に疎いのかな。

イザベラさんでさえ私より生活魔法の威力は弱い。


そしてレベッカさんに見せて貰った無詠唱魔法。

これで毎朝店中をピッカピカにしてたんだって。

なるほど納得だよ、私の出る幕がない訳だ。


そして単なる生活魔法でしかなかった無詠唱魔法で攻撃するというヒントを貰った私。

レベッカさんは魔法で矢を作ったり刃を作ったりする事くらい造作もないと笑っていた。

実際に氷の矢を作って貰った。

矢の大きさや射出速度なんか事細かに考えている訳ではなく、あくまで「こうしたい!」ってイメージが大事だと言ってた。

その辺は普通の生活魔法と同じだね。

前の世界では荒事とは全くの無縁だったレベッカさん。

町の外で魔物に襲われてやむなく使った程度で、実際殆ど実戦で使ったことはないみたい。


私は初めにサラさんとダンさんの生活魔法を見て説明を受けたからか、生活魔法で攻撃しようなんて発想に至らなかったよ。


そしてここからが話の佳境。

とっても重大な話で、レベッカさんが神様から貰った力はその一部が子供に遺伝していると言うんだから驚きだ。

だからこそ、私の親が『渡りし人』だった可能性がある事に気がついたレベッカさんは、手掛かりになればとこうして私にだけは教えてくれたと言っていた。


そしてそして遺伝の話。

リズさんはその圧倒的な無詠唱魔法の力…本人は便利な生活魔法くらいにしか捉えてないようだけど…兎に角そこが遺伝した。

そしてノエミさんは恐らく病気をしない頑丈な身体を受け継いでいるようだ。

ノエミさん本人にそんな自覚はないみたいだけど、ノエミさんだけは産まれてから本当に一度も病気にかかった事がないらしい。


「エド君は薄々気がついているかもしれないわぁ。でも、エド君は何も聞こうとしないし何も言わない」

「いい旦那さんですね…仲睦まじくて羨ましいです」

「ふふ、子供になった身よりのない私をエド君の家族が暖かく迎え入れてくれたの。エド君はその頃から私をまるでお姫様のように大切にしてくれたわぁ。はじめはエド君の事は可愛い曾孫くらいの感覚だったけれどねぇ、段々と見た目の年齢に心が引っ張られてねぇ、気がつけばエド君が好きで好きでたまらなくなったの。ふふ、ビックリしちゃったなぁ」


膝に乗った私を抱きしめる力がちょっと強くなった。


私の親が『渡りし人』だったという可能性。

レベッカさんの推測は…多分というか限り無く正解に近いと思う。

とは言え武術も魔法も達人クラスという点だけはまだ疑問だから「限り無く」だね。




そんな訳で翌日はクサクサした気分も晴れ、私は指名依頼であるミラさん達の指導に心置きなく務めた。

その日の夜遅くにはティーコゼーもハイペースで完成!

翌朝にはみんな目を輝かせて私を褒めてくれた。

えへへ、何だか嬉しいもんだね。


ティーコゼー御披露目の日、早速実際にお客さんにティーコゼーつきでティーポットを提供。

ドキドキハラハラしながらその様子をカウンターから見てた訳だけど、どのお客さんも笑顔で「可愛い」「おしゃれ」と褒めていた。


気がつけばあっと言う間にミラさん達の所作も拙いながら成長している。

まだまだ指摘する点はあるけど、それでもこの短期間で大したもんだよ。




いやー、昼過ぎになっても客足は落ち着かんね。

まぁ裏を返せばそんだけレベッカさんとエドモンさんが作る焼菓子が美味しいんだよね。

だって、地元民ではない人達も結構来るもん。

「ここだね」「うん、ここだ」なんて確認しながらね。


ここいらでボチボチミラさん達に交代で休憩を与えないとだね。

放っておくとこの人達はいつまでもセカセカ働くから、それは良くないって口を酸っぱくしてエドモンさん達には注意した。

だって、奴隷じゃないんだし。

私が居なくなった後でもしっかり休憩は取るんだよって念押ししておいたから大丈夫かな。


「アメリちゃん、外のテーブルにこれを持って行って貰えます?」

「あ、はい」

「五番のテーブルに二人組の傭兵さんが居るから、お願いします」


ノエミさんからティーポットとカップが載ったトレーを渡された。

いくら先生とは言え、頼まれれば快く引き受ける私。


ふふん、先生とか生徒とかみみっちい事は気にしないこの私!

なにより使用人モードの私はスラスラ喋れるし、これがまた快感!

いつものモジモジソワソワじゃない自分に酔いしれたいの!

さあ、使用人モードの私をとくとご賞味あれ!

あ、紅茶もね?


「お待たせいたしました。こちらティーセットでございます」


ねえねえ見てよ!

このティーコゼーさ、なんと私が作ったんだよ!?

って感情の赴くままに自慢したいなぁ…

せめて表情だけでも拝んでおこう。


「そちらのティーポットを覆っておりますティーコゼーは紅茶を保温する為に…」

「ふふ、随分立派な物を作ったみたいね?あら、ちょっとした工房が作った品物みたいよ?凄いじゃないの」

「本当ですねー、日頃から手先が器用だとは思っていましたけれど、これは良い値段が取れそうな見事な仕上がりですよ」


ん?んん?


「フレヤさん!イザベラさん!!」




上げた顔で見つめた視線の先には、ニコニコ微笑んだフレヤさんとイザベラさんが座っていた。

私は、親と巡り会った迷子の子供のようにその場でワンワンと泣きじゃくってしまった。

良かった…無事に帰ってきて本当に良かった…!!



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