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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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42/555

42.結局

ヤキムの町に到着した私達。

とりあえず傭兵組合に魔法協会の件について報告せねばという事で、イザベラさんが手本を見せると言って今に至る。




昼下がりというだけあり、事務所の中は閑散としていた。

カントの町やベルーガの町と遜色なく受付もその奥の職員も、テーブルで(たむろ)している傭兵パーティーも皆が退屈そう。

多分、昼下がりのこの光景はどこの事務所も一緒なんだね。


「まだ通用するか分かんないけどね、キーワードがあるの。見ててちょうだい」


イザベラウインクが炸裂。

受付までスタスタ向かうイザベラさんの後ろをついて行く私達。

イザベラさんは組合員証を胸元から取り出した。


「私こういうものだけど」

「はい、ようこそヤキムの…!ヤキムの傭兵組合へ!どのような御用件でしょうか?」


むふー、受付のお姉さん、高ランクなイザベラさんに途中でピクッと反応したね。

私もそのうちこんな風に凄い傭兵になりたいなぁ。


「所長への面会をお願いしたいのだけれど」

「どのような用件ですか?」

「魔法書、についてよ」

「承知しました。準備が整いましたらお声かけ致します」


ふーん、多分魔法書ってのが魔法協会の隠語なのかな?

受付のお姉さん、澄ました顔で立ち上がってどっか行っちゃったもん。

とは言えこのお姉さんがスパイだったらこの時点でお手上げだね。


な、なんだかこの事務所にいる全員がスパイに見えてきた…




準備が整いましたらなんて言ってたけど、すぐに部屋に案内された私達。

応接室みたいな所に通され、三人掛けのソファーには左からフレヤさん、イザベラさん、私。

一人掛けのソファーにメイソンさん。

そしてテーブルに置かれた紅茶。


パッと紅茶に飛びつこうとした私。

でも誰も手をつけようとしない。

ふむ、なるほどだね?

毒的なアレを警戒するだよね?

分かるよ分かるよ?

誰が敵か分からないから紅茶には手をつけないという…あ、イザベラさん紅茶飲んだ。

うん、紅茶美味しい。


「『魔法書』というのが魔法協会の隠語なの。魔法協会についての用件があるという会話の始まりよ」

「なるほどですね。初めに所長への面会を希望したのも?」

「人目のつくところでおいそれと出せない物を拾ったときは個別の対応をお願いするものでしょう?」

「個室ではなくあくまで所長…と」

「どうせその辺の傭兵の中でも知ってる人は魔法協会だって知ってるやり取りでしょうけれどね」


イザベラさんとフレヤさんの会話を横で聞いてる私。

やがて扉がノックされるとイザベラさんが「はい」と声を上げた。

部屋に入ってきたのは気のよさそうな好々爺みたいな髭を蓄えたお爺さん。


「どうもお待たせしました。私はサントス・トーラス、このヤキムの町の傭兵組合で所長を勤めさせて頂いております」


そうして深々と頭を下げるサントスさん。


今回の顛末についてはフレヤさんとイザベラさんが説明してくれた。

メイソンさんは時折「私も見ました」的な証言を挟みつつ対応。

かく言う私の口は貝になったかの如く閉じたまま。

いらん事しいの私はこーゆー時はこうしてお利口にして黙って聞いていた方がいいのだ。

クールな女に見えるかもだし?




「…話は分かりました。お察しの通り、我々から魔法協会に何か言うというのは出来ないのです。彼らは非常に用意周到、こちらから何か文句をつけたところで「証拠がない」「そんな者は知らない」の一点張りでしょう」


一通り説明が終わり、申し訳無さそうにそう告げるサントスさん。

まあ…案の定といった感じ。


「それは仕方のない話よ。魔法協会は恐らくこれからもうちのアメリちゃんにちょっかいを出してくるわ。傭兵組合の方で拠点異動の届けを書くときにしっかりその懸念点を引き継いでちょうだい」


イザベラさんの言うとおりで、せいぜいそれくらいしか対処のしようがないんだろうなぁ。


「直接的に手を出して来たという事は、恐らくアメリさんの存在は魔法協会内部で報告に上がっていると考えた方がいいでしょう。残念な事に魔法協会の息のかかった職員が少なからず我々の中に紛れ込んでいるのも事実。傭兵活動をする以上、正体を隠すのは無意味と思った方が良いです。むしろ魔法協会の刺客を返り討ちにしたと前面に押し出して行った方がいいと思います」

「そうですね…ちなみに今回のような魔法協会とのトラブルは珍しくないのでしょうか?」


フレヤさん、何だか心配そう。


「最近では勧誘がらみのトラブルは珍しいですね…、あまり聞きません。数十年前、行き過ぎた勧誘により魔法協会の姿勢が問題視されてから彼らは魔導具研究を進める方向へ方向転換しましたから」


サントスさんの言う「行き過ぎた勧誘」というのはきっとイザベラさんの件も含むんだろう。

本人から詳しく聞いたことはないけど、旦那さんの生死が関わっているようで、気軽に根掘り葉掘り聞けそうな感じじゃない事くらいは分かる。


「皆さんがその目で見て来た強固な結界や隠蔽に麻痺も恐らくはそんな方向転換してから開発された魔導具でしょう。皮肉な事にその方向転換が彼らに強大な力を与えてしまいました。戦争が激化すれば国から声がかかり巨万の富が手に入り、益々魔導具研究が進む。彼らによる物と思われる魔力災害もあちこちから報告が上がっております」

「国によっては魔法協会に頼りすぎるあまり、影で貴族や教会に食い込んでいる事もあると聞くわ」


イザベラさんの言うことが本当なら、私は本当に勧誘を突っぱね続けていられるの?

旅の開始早々、面倒なヤツらに目を付けられちゃったなぁ。


「イザベラさんの仰る事は事実です。しかしデーモンなる種族を使役するなどという話は初めて聞きました。これは私の勝手な推測ですが、そのデーモンとやらを捕まえる時のためにアメリさんのような並外れた力を持つ人を勧誘したいのではないでしょうか」


サントスさんは緊張の面持ちだ。




その後、とりあえず事の顛末を傭兵組合へ報告しておくとサントスさんは言ってくれた。

そのまま解体場へ案内され、魔法協会のにーちゃんの亡骸も含めた今回の魔物討伐の成果を丸っと渡した私達。

魔法協会のにーちゃんのについては兵士の詰め所に届け出て、共同で調査するみたい。


メイソンさんの依頼についても傭兵組合の方で調査、暫くの間メイソンさんにも護衛を付けてくれるとの事。

当然、その間の護衛費用は傭兵組合が持つと言ってた。


そして拠点異動の手続きも併せて済ませ、引き取って貰った魔物の査定は明日という事に。


とりあえずメイソンさんがしていた約束通りに待ち合わせの場所に行ってみた私達。

場所は依頼主が店を構える予定だという場所まで来た訳だけど…




「あの、ここ…普通に人が住んでいる民家…ですよね?」


私がそう漏らすのも無理はない。

だって、指定された場所は普通に人が暮らしてる。

家の人もゾロゾロと家の前にやってきて立ち止まった私達をめっちゃ警戒してる。

ここを店舗として改築して商いを始める可能性もワンチャンあるけど…

まぁ、この警戒感から察するに…こりゃないわ。

そりゃ急にゾロゾロ人がやってきて自分の家を凝視してたらイヤだよね。


「それでは私の方で家主さんにお伺いして参りますね」


そう言ったのは傭兵組合の受付に居たお姉さんのうちの一人。

名はネドラさんと言う栗色の髪を後ろで束ねてるそばかすがチャーミングなお姉さん。


メイソンさんに今回の商談を仲介したのが何を隠そうヤキムの傭兵組合だったらしい。

定期的に隣町の傭兵組合と連絡を取り合っている関係上、ちょっとした手数料さえ払えば今回のように良さげな商人を紹介するみたいな事もやってくれているらしい。

なんかやたらメイソンさんを気にかけてくれて親切なんだなーと思っていたらそういう裏があった。

紹介して話が纏まれば新たな護衛の依頼も生まれる可能性がある。

なるほど納得、そういう訳だからそんな紹介事業みたいなもんがあるわけか。

多分、ロクな精査もせずにホイホイ話を受けてしまった事に負い目があるんだろうね…


親切というより大事になるのを警戒してんのか。

ちょっとガッカリだ。


「ではお願いします」

「はい、いってきます」


メイソンさんも「お願いします」なんて丁寧な事言わんでも良くない?

この人達がしっかりしてりゃあさ?そもそもメイソンさんを紹介するなんてところまで話が発展しなかったわけで。


「同じヤキムの話なんだから、依頼主の所在地を見たときに「あれ?」って引っかかって欲しかったわね」


ほら、イザベラさんも同意見だよ。

そんな意見に苦笑いなフレヤさんも小さく頷きつつも苦笑だ。


「詐欺紛いな依頼が平然と張り出されるくらいです。手数料にも直結しますので、そこまで事細かに一件一件確かめないのでしょう」

「はは、まぁ私が今回抱え込んだ在庫さえ捌いてしまえば結果的に損はしないので良いですよ」


理屈的にはメイソンさんの言うとおりだけどさ…




ネドラさんが聞き取り調査してきた結果、当然新たに店を構える予定なんて無く、依頼主の名前も全く知らないとの事。

呆気なく一杯食わされた事が決定的に。


その後、メイソンさんはヤキムの傭兵組合の所長サントスさんからペコペコ謝罪され、初めての護衛依頼はヘンテコな幕の閉じ方をした。




「傭兵組合の方で綿織物を仕入れてくれそうな問屋の宛てがいくつかあるとの事でしたので、私はこのまま傭兵組合の方と連携して商いを続けます。本当に色々とありがとうございました」


メイソンさんはそういって私たちに頭を下げた。


「本当に災難だったわね。兎に角メイソンさんもフーリーちゃんも無事な事を喜びましょう」


イザベラさんはそう言ってフーリーちゃんの頬のあたりを撫でる。


「フレヤさん、冒険譚楽しみしています!発表された折りには「初の護衛依頼をした商人は私なんだ」と自慢しようと思います」

「ふふ、楽しみにしてて下さい!」


メイソンさんも、何だかんだ楽しい旅になったみたいで良かった。

周囲に自慢になるよう、私も頑張んないとなー!


「フーリーちゃん…元気でね?」


私の言葉を理解したのかはさておき、フーリーちゃんは今日も機嫌が良さそう。

ロバ…可愛いなぁ。


そうして笑顔で別れた私達「魔女っ子旅団」とメイソンさん。

私達はとりあえず宿を探さないとだね!


面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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