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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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41.ヤキムの町

魔法協会からの使者…もとい刺客をやっつけた私。

一人の犠牲も出すこと無く護衛の旅を再開して今に至る。




とんだタイムロスこそあれど、どうにか夕暮れ時にはおおよその目的地だった辺りまで到着。


相変わらず設営の際は戦力外の私。

邪魔にならないようぼんやり座っていると眠くて仕方がなかった。

歩いてるときはそうでもなかったけど、座ると眠い!

そう意識すると益々眠い気がしてくる!


そんな私の様子を察したのかイザベラさんもメイソンさんも静かに過ごしてた。

違う違う!気の使い方間違ってるって!

ほらもっと話し掛けて話し掛けて!

このままじゃご飯食べる前に寝ちゃうよ!

ほらっ!どうしたのっ!声かけてっ!

フレヤさんの作るご飯を味合わずに寝ちゃうなんて…


目が余程イっちゃってたんだろう。

フレヤさん、困り顔で私にあーんをしてご飯を食べさせてくれた。

えへへ、幸せだなぁ。

どうせならもっと目が冴えてるときにして欲しかったなぁ。


食後、さっさとあちこちにアビスランパードを施すのは忘れない。

それすら怠ったら護衛としてマジで最低だ。


寝床で横になると同時に私はウトウトしてた。

フレヤさんは魔導具のランタンで明かりをとって寝そべりながら執筆。

今日の私の絵の仕事は流石にお休み。


フレヤさんの放つサラサラという紙の上をペンが走る音が心地よくて、なんだか無性に安心できた。

でも、すぐに寝てしまうのは何だか勿体ない気がして、ずっとフレヤさんの横顔を見てた。




フレヤさんの執筆も終わったみたい。


ああ、今日も1日が終わろうとしている。

どうにか勝ち取った無事な日常。

今日も隣にフレヤさんが居て良かった。


もう眠たくて言葉も出ない。

フレヤさんの隣、暖かい。

良かったなぁ、本当に良かった。


「まだ起きてたんですね」


もう意識が遠のきそう。


「ふふ、目が閉じそうですよ」


でも、寝るのが勿体ないな。


「また明日がありますよ」


…フレヤさんを守れて良かった。


「今日は本当に頑張りましたね」


私…頑張ったよ。

フレヤさんと…もっといっぱい…旅がしたいって。


「格好良かったな。凄く…凄く大きな背中に見えました。私をどこまでも連れてってくれる小さくて大きな背中」


えへへ…嬉…しい。


「お話の中から飛び出してきた英雄のように…輝いて見えました」


「私はね…あなたに…」




フレヤさんはそのあとも何か喋ってたと思う。

朝起きた私が覚えてるのは、フレヤさんの微笑みと…

後は…


げ、現実か夢か分からない点が多いっ!!

私の勘違いだったら恥ずかしいから…確かめられない。

これで寝床での記憶が丸ごと夢だったら…

私ただの欲求不満の変態じゃん!!

「げへへ、昨日の夜…私フレヤさんとちゅーしましたかね?」…聞けるかっ!!


朝起きたらもう辺りは白けていて、隣ではフレヤさんが気持ちよさそうにスウスウと寝てた。


今日はついにヤキム入り。

初めての護衛依頼はとてつもなく濃い内容になったな。

きっとずっと忘れられない思い出になるんだろうね。




遠い未来、フレヤの冒険譚を読み返す度に記憶の中でここへ戻ってくるんだ。

その時はフレヤさんと笑顔で戻りたいな。




そんな訳で今日はついにヤキムの町へ。

朝食を食べているときにフレヤさんが説明してくれたけど、どうやら昼にはヤキム入りするらしい。

本当に濃い5日間だったなぁ。


昨日の一悶着に比べると、チョロッと出てくるような魔物は本当に屁でもなかった。

ちなみに私が何故かデーモンの子とお喋り出来た点について、フレヤさんは明らかにその話題を逸らしていた。

私はすぐにピンと来た。

魔界とかいうどこにあるのかサッパリ分からない場所の言葉をペラペラ喋る私。

これは『渡りし人』と誤解されても仕方ない。

火のない所に煙は立たない。

とは言えあの時はデーモンの子の機転に助けられたし、わ…私は悪くないよね?




「ヤキムの町が見えてきましたよ!」


ん?おぉ!ついに!!

って壁がデーンとズラーッとそびえ立っている!

あれっ?あれれっ!?け、結構デカい!!

ベルーガからヤキムに行く人なんてそんな居ないなんて言ってたから、勝手にド田舎みたいな長閑な場所だと思い込んでた。

ベルーガ並みにデカい町。


「私ね、ちょっと不安に思っている事があるの」


イザベラさん、不穏なことを…

なんだなんだ?

ナチュラルにサラッと不穏なことを言うなぁ。

そういうのはもっと早く言ってよー!

興奮してたのに、ざばっと冷や水をぶっかけられた気分だよ!


「イザベラさん何ですか?」


そんな風に質問をするメイソンさんも表情が明るくない。


「メイソンさん、あなたの商談…偽物じゃない?」


ななな、なんだってーっ!!

何を失礼なことを言ってるんだこの人ーっ!

とは言えメイソンさんも苦笑いしちゃってら。


「あー…私も正直そんな気がしてますよ…」

「そ、そうですよね。魔法協会が待ち伏せしていた時点で…私も「そうなんだな」と確信に変わったと言いますか…」


えっ?フレヤさんまでそんな事思ってたの?

私…そんな事微塵も考えてなかった…


「あ、あの…!なんで確信に…?」

「アメリさんは記憶喪失なのでイマイチピンとこないと思いますが、メイソンさんも感じている通り、元から首を傾げたくなる商談なんですよ」


あー、何の特徴もないベルーガの綿織物をわざわざヤキムまでってヤツか。


「あっ…!ひ、ひょっとして魔法協会が…?」

「うーん、まぁ綿織物は普通に需要がありますから…私も警戒して流行り廃りの無い落ち着いたデザインの物ばかりを揃えましたし」


メイソンさん本人が諦めちゃってる。

えー、なんか腑に落ちないなぁ。


「あっ!ま、魔法協会に苦情を…!」

「ふふ、苦情って!馬鹿ねえ」

「なっ!ば、馬鹿っ!?」


ばっ!馬鹿となっ!

ぐぬぬ…馬鹿呼ばわり…!


「あの死体には何の証拠も残ってないわ。魔法協会は傭兵組合みたいにご丁寧に身分がわかるプレートなんてぶら下げてないもの」


馬鹿はそんな人の迷惑も省みない魔法協会でしょや!!

とは言え魔法協会ともなればプレートなんぞ無くとも、きっと魔法的なすげー技術でどーにかこーにか身分を照会出来んだろなー。


「イザベラさんの言うとおりですね。こんな問題になりそうな事案に関わった時点で件の男は所謂トカゲのしっぽ切りですよ」

「差し詰めヤキムやベルーガの傭兵組合の職員の中に魔法協会から買収された人が居るのでしょうね。アルベルトに「魔女っ子旅団にやらせてみてはどうか」って斡旋するよう仕向けたのが」

「私達がベルーガに居たのはたった10日間ですよ?早馬を出してまで…まぁそれだけする価値がアメリさんにはあるのでしょうね」

「無駄に頭が切れるのが居るのね」


悔しいけど泣き寝入りするしかないんだね…

私が損した訳じゃないけどさ、護衛の費用まで払ったメイソンさんがあんまりだよ。


「アメリさん、私のためにそんな泣かないで下さい!在庫がだぶつく物でもありませんし、纏めて仕入れたから割と安価でまとめて手に入ったんです!」

「だっで…ぐやじい…!ばがは…魔法きょ、協会の…!!」


悔しくなって涙が出てきてしまった。


「よしよし、泣かないの。馬鹿なんて言ってごめんなさいね」


そんな私をクスクス笑うイザベラさん。

フレヤさんが背中を撫でてくれたって悔しいもんは悔しい。

メイソンさんはちょっと困った顔をしてた。


悔しいじゃん!!

私の様子を窺って勧誘する為の罠だったって事でしょ?

そんなん許せないよ!




とは言え悔しい悔しいと私が涙を流してプンスカしようが、ギリギリと歯軋りしようがヤキムには行かないといけない訳で。

フレヤさんに慰められつつ私達はヤキムの町に到着。


話によればこのままメイソンさんからサインを貰い、その町の傭兵組合へ行って手続きを済ませ、当初の取り決め通りの手続きをして「はいさようなら」で済むらしい。

そう、今回は前報酬で全額貰っている。

メイソンさんからサインを貰えばメイソンさんとはお別れして問題ない。

とは言え今回は事情が事情なだけに、メイソンさんを連れて傭兵組合の事務所へ直行する事に。


ヤキムの町では私とメイソンさんが町に入るときに通行税を払う。


ヤキムの町は何というかメインストリートがただただ真っ直ぐ続いていた。

すっげえ!すっげえ!ずっと道の向こうまで見える!!

悔しさが吹っ飛ぶくらい興奮しちゃった!


そんなメインストリートに所狭しと建物が並び、その後ろは建物などは無く、ただただひたすら畑。

ははぁん、立派な壁の内側はこうなっていた訳かぁ。

とんだハリボテだね。

何だかもっとみっちり町が詰まっているもんだとばかり思ってたよ…


…ずっと向こうの家の人が町に入ってすぐの店に用事とかさ、面倒臭くないか?


「ず、ずっと向こうまで見えますね…極端というか…」

「ヤキムの町は十字になっているんですよ。街道沿いに店が建って、やがてこうして町の形を成したようです」


と、フレヤさん。

へえ、一応ちゃんとした成り立ちの歴史があるんだなぁ。

それにしたって商店以外までメインストリートに面する必要あんのか?

脇道とか裏道とかもっとあったっていいでしょ。

何というか極端過ぎるよ。




町に入って暫く歩いているとこの町の傭兵組合の事務所を発見。

ここはカントやベルーガとは少し作りが違う事務所。

路面店だとレイアウトが違うってことなんだろうか。


事情を説明するという事でフーリーちゃんは町の馬丁という馬やロバを預かってくれる人に一時的に預ける事に。

フーリーちゃん、すぐに戻ってくるからね。


傭兵組合の事務所の前でイザベラさんがピタッと歩みを止めた。


「流石のフレヤちゃんも魔法協会がらみの報告はしたこと無いでしょ?」

「ええ…ないですけど、…何か作法があるんですか?」


フレヤさんの言うとおりだ。

そんなん「魔法協会に襲われた!」って訴えれば良いんじゃないの?

カウンターをガンガン叩けば何とかしてくれんじゃないの?


「考えてもみて?今事務所の中にいる傭兵が魔法協会の者ではない保証は?傭兵組合の従業員がスパイではない保証は?」


な、なるほど…!

何も傭兵組合に所属したら、どう足掻いても魔法協会に所属できないという訳じゃないだろう。

私にいち早く目を付けたくらいだ、魔法協会の諜報員みたいなんが傭兵として潜り込んでいる事だって考えられる。

と言うか居るんだろうね。


何か…怖いな。


「なるほどですね…。イザベラさん、お任せしても良いですか?」

「任せてちょうだい。とは言え所長がスパイだった時はもうお手上げ。私も散々纏わりつかれたものよ」

「その町の事務所の職員までもが丸ごと魔法協会の者だった場合は?」

「その時は…笑うしかないわね。魔法協会の軍門に下るのが嫌だったらトンズラよ」


肩を竦めるイザベラさん。


エラい面倒な組織に目を付けられたなぁ。

何というか…フレヤさんごめんね?


面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。


誤字報告頂きました。

本当にありがとうございます!

めっちゃ助かります!

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