38.岩場
森で襲撃してきた盗賊を蹴散らした私。
しかし何となく嫌な予感がするのはみんな同じらしく、森なんてさっさと抜けたいな思いつつ今に至る。
「あれから出てくるのはフォレストウルフとか雑魚の魔物ばかり。そうね、この森じゃこれが普通ね」
その辺で拾った枝を退屈そうにヒラヒラさせてるイザベラさん。
つまんなそうに歩く様も絵になるなーこの人。
っていうか今気が付いたけど、フレヤさんもメイソンさんも金髪。
イザベラさんも金髪。
なんだこの金髪率。
全然関係ないけど。
「いくら護衛して頂いているとは言え、やはり森の中というのはどこに何が潜んでいる事やら…心が磨り減る思いですね」
分かる分かるメイソンさん、分かるよ。
私もずっとビクビク怯えて疲れたもん。
「今日の野営地はもう少し行ったところの広場になります。もう一頑張りですよ!」
フレヤさん元気だな…
でもきっと私が居るからこそ安心して歩けるって思ってるんだろうね。
そう考えると元気が湧いてくる。
よし!フレヤさんの為にもビクビクなんてしてらんない!
しっかり護衛するぞー!
あっ、空になんか居る!
ここはズバッとビシッと仕留めてやろうじゃんか!
『
マギアウェルバ
緑よ緑よ
お前の遊び相手はお空の上
しなやかな腕で捕まえてごらん
無邪気な束縛
ヘカトンケイル
』
無数の植物の蔦がシュルシュルと空に向かって伸びる。
初めて見たけど便利そうだなーこれ!
空の敵も一発でゲットじゃん!
ふふふ…鳥さん、ジタバタしても無駄だよ。多分。
おっ、額に魔核?
やっぱ魔物だ。
だと思ったよ、鳥にしてはデカいとは思ったもん。
この魔核…なーんか取れそうだね。
ひょいっとさ、どれどれ…?
「あ、あの…アメリさん?その魔核は素手では恐らく取れ…ちゃいましたね…何でもないです」
あ、取れちゃった!
フレヤさんのこの感じ…!
やっちまったヤツだこれ!
戻さないと…!
「あっ!あっ、も、戻っ…!」
戻そうにも鳥は魔核を取ったら死んじゃったよ。
あわわ…
「魔導具じゃあるまいし戻りませんよ…」
このフレヤさんの呆れ顔!
うー…どうしよう…
「えっ…あっ、そうそう…な、なんか取れそうになってました…グラグラしてたし…!」
「グラグラ?ふふ、魔導具じゃあるまい…面白いわね本当。あのね?私達は森の中に居たから、そのウィンドファウルは私達には気が付いてなかったわ。普通護衛の時にはわざわざ狙わない類の魔物ね」
イザベラさんにクスクス笑われてる…
ぐぬぬ…これは悔しい!
「こんな無傷なウィンドファウルなんて珍しいのではないですか?私は傭兵ではないのでアレですが…」
「はは…うちのアメリにかかればこんなモンなんです。ええ…」
張り切り過ぎたねこれ。
とは言え無傷で魔核だけが綺麗に取れてるウィンドファウルとやらなんて滅多にお目にかかれないらしい。
後でフレヤさんからお小言を頂きそうではあるけれど、これは傭兵組合で買取を希望すれば間違い無く金貨がもらえるらしい。
そんな臨時収入もありつつ私達はひたすら森の中の一本道を歩く。
その後は特に何事もなく、無事森の中にあるちょっと開けた広場へやってきてその日は無事終了。
明日は森を抜けるらしい。
町から町への移動ってだけで本当に骨が折れるね。
森に入るまでは道が分岐したり合流したりしてたけど、森の中は完全に一本道。
すれ違う人も減ってきた。
夜、夕食も終わりテントに引っ込んだ私とフレヤさん。
「あのですね?昼間のあの蔦がシュルシュル伸びるあれ」
「え?あー、ヘカトンケイルですね。み、緑属性の…」
そう、フレヤさんに言い忘れてた魔法。
ま、まぁさ?蔦が伸びる魔法なんて如何にもありそう…
「そんな蔦が伸びるなんて童話に出てくるような魔法は聞いたことがないので、極力私やイザベラさん以外の前では控えてくださいね」
「あ、はい…」
じゃなかった。
童話って言われちゃった。
「それにしてもアメリさん、魔力切れについて言及しなくなりましたよね」
「そ、そうなんですよ。…最初はアビスランパードを…ふ、2人にかけただけで魔力切れ寸前でしたけど…さ、最近は余裕があります」
「魔力ってそんな急速に成長するものなんでしょうかね…?まぁ生存率に直結している話なので、あまり深く考えないようにしていますが…」
うーむ、やっぱそう思うよなぁ。
定期的に己の限界がどこなのか調べてる訳じゃないんだけど、確かに成長早すぎないかって私も思ってた。
こんな成長期の子供の身長のようにグングン育つならば、世の中にはもっと魔法使いが溢れてないとおかしいと思う。
「イ、イザベラさんしか…他の魔法使いを知らないので、な、何ともですが…早い気がしますね」
それに気になる事が他にもある。
「あと…私の魔法…新しいやつですが」
「はい」
「これ…た、多分思い出してるって感じじゃないです」
「えーと、つまり…?」
「ある時…突然頭の中に浮かぶんです。は、初めは「思い出したのかな?」なんて思ってた訳ですが…」
「「あっ、思い出した!」という感じが無い、と?」
「はい…」
そう。
忘れてた事を思い出したような時の思い出した感がまるでない。
何というか…急にどっかから降りてきた知識って感じがする。
「魔法ってそういう物なんですねーとは言えませんね。魔法は書物や師から習って覚え、繰り返しやって漸く身に付ける物だと聞きます。そんな急に天恵のようにある日急に使える物では無いはずです」
フレヤさんやイザベラさんが世界の全てじゃないとは思うけれど、私は間違い無くこの辺りでは普通じゃない魔法を使ってる。
最早この特別感は恐怖だ。
「そんな顔しないで下さい。大丈夫、私がずっとそばに居ます」
フレヤさんは何でもお見通しだね。
ああ、フレヤさんの暖かい手、落ち着く。
ゾワゾワ逆立つ心が優しくなる。
翌日はようやっと森を抜けられる日。
ようやっとなんて言っても昨日入ったばかりだけど、もう盗賊とか本当に勘弁。
そんな訳で足取りが軽い私。
「あ、ちなみに森を抜けたら岩場に差し掛かります」
なんてこったい!
盗賊御用達スポットじゃないか!
「盗賊…居ますかね?」
「居たって岩ごと切り刻めばいいじゃないの」
そ、そりゃそうだけど、会わないなら会わない方がいいじゃんか。
だって、人を襲おうなんて考える輩は…怖いよ!
抵抗しなかっならどうなるのかな…ひええ…
「アメリさんはあんなにお強いのに随分と盗賊を怖がるのですね?何か盗賊に良くない思い出でもおありなのですか?」
「あー、はは…アメリは単に実力と肝の方に大幅な乖離がありまして…」
実力と肝の方に乖離とな!
フレヤさんの言う通りだけどさ…!
怖いじゃん!
それから暫く歩いているうちに木々が少なくなり、いつの間にかふわっと終わる森。
そしてせっかく森を抜けた先に待ち構える岩場。
と言うか途中からゴロゴロと岩が転がっていて、いつの間にか狭い谷を歩く格好に。
「いい?こういう所で警戒すべきは岩陰だけではないわ。崖の上なんかにも注意を払うの。アメリちゃんは殺気を感じ取るのが得意みたいだから、殺気を感じたら即対処で良いわ」
頼りになる女、イザベラ。
なんかもうこれ森より大変じゃん!
ってよくよく確認もせずに魔法ぶっ放していいの!?
うっかり善良な村人とか手をかけちゃったらどうするのさ!
「あの…もし崖の上から覗いている、ぜ、善良な村人だったら…?」
「こんな辺鄙な所で殺気を飛ばしながら盗賊みたいに覗いている善良な村人なんて居るわけないでしょ」
「そ、それは…確かに」
「紛らわしい事をする方が悪いわ。こっちは護衛しているんだから、そんなもの気にせず先制攻撃が鉄則よ」
恐っ!
ま、まぁイザベラさんの言うとおりだよなぁ。
崖の上から覗き込むような紛らわしい真似をする方が悪い。
フレヤさんも何も指摘しないし、多分イザベラさんの持論は正しいんだ。
「こんにちはー」
ん、傭兵かな?
こんな所でも流石町と町を結ぶ道。
めっきり人とすれ違わなくなってたけど、すれ違うこともあるんだね。
「こんにちは。昨日森の中で盗賊に襲われましたので念の為警戒を!」
「おっ、ありがとよ!こっちは何もなかったよー!」
「ありがとうございます!お気をつけてー!」
わー、フレヤさんは出来る女だ!
なるほどなるほど!
あんな風に注意喚起するわけかー。
私もあれやりたい!
とは言えそう簡単にすれ違う事もなく。
聞けばヤキムの町は岩場や森を抜けなきゃならない平凡な都市ベルーガよりもっとアクセスの良い町が複数あるらしい。
そっちの方が人の往来が多く、余程用事でもない限りヤキムの町からベルーガの町になんて行かないらしい。
くそー、これ下手したら今日はすれ違わないんじゃないかと思うくらい誰もいない。
動物、ましてや魔物すら居ない。
ひたすら岩だらけの景色。
最高に退屈。
「さっきからはぁはぁため息ばかりついちゃって。護衛の旅は平和が一番よ?」
「ち、違くて…わ、私も挨拶の時に「盗賊が出たから気をつけろ」って言いたいなぁと…」
「あはは!引っ込み思案なのにそういうのすぐにやりたがるわね!ふふ!アメリちゃんも本当に新しい物好きね」
ぐぬぬぬ…、なまじ合っているから何も言えない…!
「アメリさんは好奇心旺盛ですからね。次挨拶する時はアメリさんに任せましょう」
あー!フレヤさんまでクスクス笑ってる!
か、格好いいやつやりたいんだもん!
「とは言えこんな街道じゃなかなかすれ違わないわよ。あまり期待しないことね」
「はい…」
ですよねー。
こんなんいつでもやる機会あるもん。
だからいいもん。
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