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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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37.盗賊

護衛初日は無事終わりを迎え、やってきました新しい朝!

思ったよりも順調な滑り出しに気分も浮つき今に至る。




「フレヤさん、アメリさん、おはようございます。いやぁ、凄い光景ですね…」


私達そんな寝癖とか酷かったっけ?

いやぁ、フレヤさんは特に寝癖も涎の跡もない。

じゃあ私が?

何れにせよメイソンさん、寝起きのレディに向かって「凄い光景」とはなんと失礼な!


うおっ!!なんじゃこりゃ!!


「ひえっ…!!あぁ…」

「おはようございます。コボルトですか。4体…と。後ほど魔核を取り出しておきますので、とりあえず朝食の支度を始めますね」


フレヤさん、相変わらず肝が据わってんなぁ。

朝起きて早々にこんな魔物が串刺しになってたら普通腰抜かすよ…

それを「コボルトですか」だもんね。


「ふふ、結界を張った張本人が驚いて…本当に面白いわね、あなた達」

「いやぁ、私も朝起きて驚きましたよ。フーリーもちっとも騒がなかったし、まるで気が付きませんでした」

「確かに夜中何か気配がしてたけれど、聞こえてきたのは小さな呻き声だけ。不思議な魔法ね」


動物のフーリーちゃんすら騒がないんじゃ凡人の私が気が付くわけないな。

寧ろイザベラさん、ひょっとして話を吹かしてないか?

いや、この人なら気が付いてもおかしくないかな。

しかし言ってみたいもんだね、私も。

「夜中に何か気配を感じたわね」なんてさ!

それがフレヤさんと朝まで爆睡だもんなぁ。


「わ、私も何か気配を…」

「嘘おっしゃい。精霊から嫌われるわよ?」


あ、すんません…




結果から言えばその日1日は平和そのものだった。

見晴らしの良い平原の一本道。

時々雑魚がワッと来るだけ。


そんなわけで目的の野営ポイントまで早めに到着。

夕暮れ時までまだ時間があるという事で更に前へ進むことに。

向こうに森が見えるなぁという所まで来てその日は野営。

気を張っているのは確かに気疲れするっちゃするけど、こんな楽なら護衛も悪くないなーって感じ。




夜、寝る前にフレヤさんにマッサージをした。

何だか疲れた顔をしていたフレヤさん。

当然遠慮するフレヤさんに強引にマッサージをする私。


大丈夫だよフレヤさん!

下心いっぱいだからぜーんぜん申し訳無く思わないで!

ぐふふ、役得役得…!

とは言えフレヤさん、脹ら脛(ふくらはぎ)も張ってるし、兎に角アチコチ凝ってる。

フレヤさんはこのパーティーの大黒柱。

これは何とかしてあげたい。


「お疲れですね…。気持ち良いですか…?」

「はい…、アメリさん…上手ですね…」


何事でもフレヤさんに褒められると最高に誇らしい。

よーし、もっと癒やしてあげよう!

ヒーリングでも唱えて益々癒やす!

とは言え普通に唱えたんじゃフレヤさんに魔法の無駄遣いだなんだとチクリと言われそうだな…


「ん…何か言いましたか…?」

「いえいえ…な、何も…?」


アブネー…眠そうなのに随分と耳聡い!


小声でヒーリングもかけつつマッサージしているうちに、フレヤさんはスヤスヤ眠ってしまった。


うつ伏せのままじゃマズいよね…

ちょいと仰向けにしておくかな。


フレヤさん、軽いなぁ…

無防備な寝顔があどけなくて可愛い。

こんな可愛い人があんなにしっかりしてるなんて、何というか今更ながら不思議。

いやいや、可愛かったら大概アホと言いたい訳じゃなくてね?

頭の回転が早い人でも、寝顔はあどけないというか…


というかこんなまじまじと見ちゃ申し訳無いね。

私も寝とこ…




そして護衛3日目。

お日様が天辺まで登り切った頃、私たちはついに森の中に突入。

ちなみに森に名前は無いみたいで、ベルーガでは北西の森と呼ぶし、ヤキムでは南東の森と呼ぶ。




ある程度歩いたので小休憩。

こうしてちょこんと座れそうな切り株とかがある、お誂え向きな休憩場所がちょいちょいある。


「こんにちは!」

「こんにちは!」


まただ。

時折挨拶がてら商人みたいな人だとか冒険者みたいな人だとかに抜かされていく。

逆も然りなんだけど。

兎に角、あっちから来る人、追い抜かしていく人、誰であれ挨拶をしてくるし、フレヤさんも必ず挨拶をしている。


今までもそういや挨拶はしてたけど、移動メインの護衛だと挨拶の多さが気になってくる。

んー、どうしてわざわざ挨拶してんだろ?


「あの、なぜみんな…あ、挨拶をしてるんですか…?」

「え?あー、何かあった時、いつどんな所で誰とすれ違ったか顔や特徴を覚えて貰う為ですよ。これは傭兵とか商人関係無く行う旅人の風習ですね」


うひゃー、私一人じゃ旅無理だね。

知らない人に挨拶とか、どんだけ高難易度なんだっ!

とは言え確かに無視して通り過ぎるよりは覚えてる気がする。


「わ、私一人じゃ旅…無理です!挨拶なんてとてもじゃないけど…」

「ふふ、アメリちゃんは挨拶なんてしなくたって特徴的過ぎてみんな一発で覚えるわ!いらぬ心配ね」


むむっ?なんだなんだぁ!?馬鹿にしてんのか?

悪目立ちするちびっ子メイドとでも言いたいんか?

くそー…なまじ私もそんな気はするから何も言えない。

あっ、メイソンさんだけじゃなくてフレヤさんまで笑ってる!

ぐぬぬぬ…


ん?


「あの…、森の奥に人の気配が…?」


なんだなんだ?

森の中に住んでる人か?

こんな森の中に?


「…注意して。フレヤちゃんとメイソンさんは身を屈めて。私が守るわ」

「お願いします…」


これは…友好的ではない。

何だろうね、自分でもよく分からないけど、こーゆーのを殺気と呼ぶんだ。

相手が人間だけかは分からない。

物理攻撃からの防御はイザベラさんに任せるとして、とりあえず魔法抵抗は上げておこう。


「魔法抵抗力を上げます。ちょっとやそっとの魔法じゃ傷一つ付けられないやつです」


マギアウェルバ

火よ火よ

ゴウゴウと沸き起こる

燃え盛る狂喜をこの身に宿せ

狂気の歓喜

ハイパボリカ


アビスランパードは一人一人にかけなきゃだけど、今唱えたハイパボリカは一度でみんなにかけられる。

というのを今知った私。

フーリーちゃんにまでかかったよ…


「殺気です…凄い殺気です。見逃してくれそうにありません。私がやっつけて来ます…」


怖さよりも、みんなを守らなきゃという思いが溢れそうなくらい沸いてきた。

こんな勇敢なヤツだったかな、私って。




「あのっ!!と、盗賊さんですか?」


森に向かって声をかけてみる。

いやぁ、答えるかなー?

不意に何かが来る気がして右手が何かを掴む。


矢だ。

これが答えだ。

こわっ!矢が飛んできたのも怖い。

でも飛んできた矢をつかむ自分ってのがもっと怖い!


「それが答えという訳ですね…」


もう一人の私が顔を覗かせている気がする。

でも大丈夫。

護衛の仕事は私が受けた仕事。

勇気を貸してくれてありがとう。


でも…自分で何とかしてみせるよ。


マギアウェルバ


風よ風よ

晴天の暴風は優しい顔をして

真っ赤な何かを舞い散らす

無慈悲な刃は何を刻むか


荒れ狂う妖精


エクスクレオテンペスト


なんか格好いい事言ったけど、本当はちょっとちびりそう。


風の刃が森の木々ごと盗賊?をズタズタに切り裂いちゃった。

これは流石にオーバーキルだ…

いやいや、こちとら弓を射られたんだ。


どれどれ、死体は…?

うっ、やっぱりズタズタ。

お腹の辺りから出てきちゃ行けない何かしらが出て来ちゃってる。

フレヤさんに回収させちゃダメなヤツだこれ。


「あの…お、お見せできないので私が回収します…!」


フレヤさん達から答えはない。

やっちまったなー!たはは…




本当に不思議でならないんだけど、何で私こんなズタズタに切り刻まれた死体を平然と回収出来るんだろう。

「うわー気持ち悪」とか「汚いなー」とは思うけど、吐いたり失神したりはしそうもない。

正直虫やヘビと同じノリ。


「あの…回収終わりました…」


フレヤさん、どんな反応するかな…


「お疲れ様です。さあアメリさん、バラバラになった木も回収しますよ?薪として使えます!さあ!」


あー良かったー、この人も大概私と同類だ。

よっしゃ!薪集めようぜっ!

乾燥したら燃やしたり売ったり…便利だよきっと!


「メイソンさんから離れられないわ!後で私にも薪に出来そうなヤツちょうだいねー?」


そこにも同類が居たね…

真っ青になって正常な反応をしているのはメイソンさんだけだ。

大丈夫だよメイソンさん。

この場で平気か怖いか多数決を取ってメイソンさんが一人になろうが、薪欲しいと息巻く私たちよりも、真っ青になったメイソンさんの反応の方が正しいと思う。




私達を襲おうとしていた盗賊?は全部で8人。

どいつもこいつも「盗賊になるには何か条件があるのか?」と思いたくなる人相の悪さ。


「普通は一人二人生かしておいてアジトを吐かせるものよ。この手の輩はまるでカラスみたいに金目の物を多少はため込んでるはずなの」


うっ、そういうもんなのか…

確かに今回の盗賊達のアジトなんて私には皆目見当が付かない。

あらー、勿体ない事しちゃったなー。


「今回は護衛任務優先ですから、アジトを聞き出したところでメイソンさんを連れてアジトなんて行きませんよ」

「ふふ、山分けを持ち掛ければ大抵の護衛対象は靡くものよ」


多分フレヤさんの意見は真面目ちゃんの意見。

イザベラさんの意見は慣れた傭兵の経験則。

私はフレヤさんの意見に一票でいいや。


「とりあえず仲間が来る前に行きましょう。万が一仲間が付近にいたら面倒です」


うむ、フレヤさんの言うとおり。

こんな落ち着かない森、さっさと抜けよう…




移動を再開する私達。

ビクビクする私とメイソンさん。

でーんとしてるフレヤさんとイザベラさん。

な、なんだこの構図はっ!?


このパーティーの最大戦力のハズなんすけど!

で、でもあんな人から襲われる事が本当にあるんだと思うと怖い。

こういう平時はもう一人の私も勇気を貸してくれない。

ダメダメ、私自身が強くならなきゃだ。


でもフレヤさん、どうしてそんなでーんとしてるの?

普通私と逆でしょ!逆!


「フ、フレヤさん…怖くないんですか?」

「どんな敵が来ようとアメリさんが居ますからね」


な、なんだよ!

随分と…う、嬉しい事を言ってくれるじゃないの。


「私なんかより先に殺気に気がつけて、森の中なのに魔法一発で相手を全滅させる魔法使いが居て怖いわけないじゃないの」


そういう現実的な事を言って冷水をぶっかけるんじゃないよ!


「皆さん…あんな報酬で引き受けて頂けるパーティーではないですよね。私は帰り道が心配になってきました…」

「この辺りは一つの森にそう何組も盗賊団がいるほど治安の悪い地域じゃないわ。尤も、最近盗賊団の話なんて無かったのに変ね…根城を変えた余所の盗賊団かしらね」


頬を手を当ててうーんと唸るイザベラさん。

メイソンさんも「うーん」だ。


「そうなんですよね。最近その手の噂はベルーガの中でもサッパリ聞きませんでした」

「ベルーガもヤキムも良くも悪くも平凡。正直こんな森を縄張りするなんて、盗賊としては見る目がない人達でしたね」


ふーん、そんなもんなんだ。

フレヤさんも同意見か。


確かに今の所「この人お金持ってそうだなー」って人は見かけない。

盗賊だって単に人殺しがしたくて活動している訳じゃない。

金目当てで張り込むにはちょっと見当はずれな地域なんじゃないのって盗賊素人の私でも分かる。


「注意した方がいいわ。脅かすつもりじゃないけど、筆舌し難い嫌な予感がするわ」


イザベラさん、真剣な顔だ。

何事も無いと良いな…



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