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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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34.どえらい出発

ミラさんのご厚意により、イザベラさんも私たちの部屋に泊まることになり、女三人、部屋に引き上げてきて今に至る。




「さてと、私とアメリさんは冒険譚の執筆に取り掛かりますね」

「へえ!冒険譚なんて書いてるのね!ふふ、確かに二人を見ているとまるでマテウスとイサムみたいですものね!」


イザベラさん、俄然食いついた。

こういう時のフレヤさんは決まって「えっへん」と、今にも聞こえてきそうな自慢気な顔をする。

そんな時のフレヤさんの少しだけ口角の上がった口元が、なんとも可愛らしくてお気に入りだ。


「ふふん、何を隠そう私、あのマテウスの子孫なんです!」

「えっ!?ほ、本当にっ!?」


この流れ、何度か見たことのある光景だ。

自慢の先祖マテウスの事を語り出して、私との出会いに運命を感じたという所までを、熱心に語り出すやつ。

ん……いやいや!

これから執筆なのに一旦置いておかれるのは困るよ!

こちとら夜はしっかりお眠。


「と、とりあえず書いてから……!か、書いてからに……しましょう!」

「そうでしたね……!」


私から指摘されて顔を赤くしてやーんの。

またそんなフレヤさんの可愛い事可愛い事!

その赤くなった耳をだね……?どれ……


「ふふ、いちゃつくのも書いてからにした方がいいんじゃないの?」


ぐぬぬ……!正論!

ぐうの音も出ない!




私達がいつも通り淡々と執筆活動に勤しみつつなんて言っても、私は絵を描いたら仕事はお仕舞い。


速攻で暇人になってしまった私。

イザベラさん指導のもと、一般的な魔法について初歩から学ぶことに。


聞けば、魔法が使える使えないに関係なく、誰しもが必ず属性を持っているとの事。

なんだそれーっ、自分の属性めっちゃ知りたい!


「各属性とも初歩の魔法の詠唱を覚えて、実際に発動しようとして調べるのよ。だからそんな今日の空模様を調べるようにパッと分かんないわ」

「そ、そうですか……」

「万が一途轍もない素養を持っていたら大変よ?だから調べるとしたら、そうね……たとえば外の安全な所で試した方がいいわね」


ぬおー、なるほど!

うっかり自分が火属性な日には、ここ白虎亭は大火事かもしれない。

結局今すぐに何か出来る事はないんだなぁ。


「ヒーリング程度なら確認出来るのではないですか?」

「あー、確かにそうね……」


むむっ!フレヤさんナイス!!




そんな訳で、イザベラさんもちょっとくらいなら使えるというヒーリングの詠唱を教えて貰った私。


「神なる息吹は反転の奇跡をもたらさん。ヒーリング」


……うーん。


うんともすんともとはこの事だね。

いつもの魔法を使うときのような、魔力らしき何かが身体中を駆け巡る感覚がない。


「ダメね……。アメリちゃんくらい強い魔法使いなら、どの属性も多少使えるバズなんだけれど……」

「い、いつも魔法を使ってる時の……か、感覚がありませんね……。ただ、お、大袈裟なセリフを喋ってるって感じ……です」


気安く使える魔法、覚えたかったんだけどなぁ。

何となく分かってしまう。

こりゃ多分発動しそうもないね。

何と言うかさ、本当に何の感覚もないんだよね、これが。

まるで大袈裟な語り口で、己の願望を口にしているだけみたい。

ちょっと照れ臭くなるという効果の魔法であれば、この実験は大成功しているけど、残念ながら効果が全く違う。

うーむ、これはあれだ、トホホとしか言い様がない。


「アメリちゃんの魔法は、精霊から力を借りない魔法って事かしらね?日頃はあんな気前よくアメリちゃんに力を貸してくれてるのに、詠唱を替えただけでびた一文、力を貸してくれないなんてドケチではないはずよ」


そもそも力を借りるとか貸すとかってのが良くわからんなぁ。

本当に精霊って居るのかな?


「地道に……や、やるしかないですかね……?」

「それもそうなんだけれど……、いっそのこと新しい魔法の流派を作ってみたら?アメリ式魔術!とか言って」


わーっ!イザベラさん、速攻で諦めちゃった!

とは言え、どういう基準か知らんけど、現にそんだけ私に魔法が使えそうな見込みが無いんだろうなぁ。

筆舌しがたいけど、それは自分でも感覚的に分かる。

何というか……頑張ってどうにかなりそうな気が全くしない。

「その心は?」と問われれば「そう思うからだもん」って子供じみた回答しか出来ないけどさ……


「アメリさんの詠唱の発音、難解すぎて私は未だに理解出来ませんよ。誰も発音出来ない詠唱が必要な魔法は、流派を語る上では致命的ですね。聞けば分かりますが不思議なんですよ」


フレヤさん、執筆したままツッコミをいれた!

そ、そんなに発音難しいかな?


「俄然興味が湧いた!ねえ、アメリちゃんのヒーリングをちょっと私にゆっくりゆっくり詠唱して空打ちしてちょうだいよ。そう言われるとどんな詠唱なのか気になるわ」

「い、良いですよ?」


グイグイくる!部屋が狭いから顔が近いですよイザベラさん!

フレヤさんも特に何も言わないし、とりあえずイザベラさんにかけるかね。


『マギアウェルバ』

「……?あら、ごめんなさいね。もう一回!」


???

あれれ?そ、そんなに小声じゃなかったと思うんだけど……


「えっ?は、はい……『マギアウェルバ』

「ん?んっ!?あれ、えーと……?えっ?」


ちょっと待ってくださいよーっ!

まだ最初の共通の言葉なんすけど!

ははーん、さてはからかわれてるね?

セクシーならね、ちびっ子をいくらからかっても良いってもんじゃあ無いんだよ!

それは失敬というものだよ君!


「ね?不思議でしょう?私が魔法に精通してないからかと思っていましたが、最初の一言すら理解出来ないんですよ。確かにこの耳に聞こえてきているハズなのに、頭が一切理解してくれようとしないと言いますか……」

「アメリちゃんが何かを喋っていた記憶はあるわ。あるけれど……本当に何か喋っていたか?って後から聞かれたら、愛想笑いが必要になりそうね。詰め所で見せて貰ったときはうっかり聞きそびれたと思ったけれど、あの時の違和感の正体はこれね……」


ありゃりゃ?フレヤさんとイザベラさんも真剣な顔。

これは……からかってなさそう。




何となくムキになった私は『マリルのマ!』戦法でフレヤさんとイザベラさんに一文字ずつ教え込む事に。

この作業は中々楽しいもので、三人で夢中になって似た発音を探し、執筆を終えたフレヤさんが必死に私の詠唱を文字興ししてくれた。




イザベラさんがようやっと完成したヒーリングの詠唱を読み上げる。


「……うーん、何も起きないわね。残念ながら何か魔法が発動しそうな感覚もない。発音の問題かしら?」

「わ、私の先程のヒーリングの詠唱の時と……お、同じ感覚だと思います……」


多少不自然とは言えど、一応詠唱は出来ていたもんなぁ。

一般的なヒーリングが出来て、私のヒーリングが出来ないってのは何か腑に落ちない。

力の借り先が違うのかな?

そ、そんなに貸してくれる存在が、この世界にはわらわら居るの?


「イザベラさんの詠唱はスーッと耳に入って来ました。ですので、きっとアメリさんのそれとは似て非なるモノなのでしょうね」


フレヤさんの言うとおりなんだろうね。

良く分かんないけど、この力を使うにはきっと何かが必要なんだろう。


「そうね。まぁ十分楽しめたし良しとしましょ。ほら、そろそろ寝ないとよ!」


イザベラさんの言うとおり。

明日出立だからそろそろ寝ないとだ。




翌朝、いよいよこの白虎亭ともお別れ。

第二の人生で初めて泊まった宿。

何だか感慨深いなんて感傷に浸りつつも、いつも通り部屋中を生活魔法の洗浄でピッカピカに。

イザベラさんが興奮気味に私の生活魔法を褒めてくれて鼻が高い。

そして私が褒められて得意気な顔をするフレヤさんが可愛い。


最後にミラさんから別れの言葉と熱い抱擁、そしてなんと!お昼ご飯まで頂いてしまった私達。

次ベルーガに来るときは必ず、また白虎亭に泊まると約束。


いざ傭兵組合へ!と思って外へ出た途端、待ってましたと言わんばかりの顔でアルベルトさんが駆け寄ってきた。

まさかアルベルトさんがこんなところまで来るとは夢にも思わず驚く私。

フレヤさんもギョッとしてビックリしてる。

よく見たら、なんか他にもおじさんと兵士の人も来てる!

なんだなんだ!?

イザベラさん……罪人か!?


「イザベラさんが町を出るって、専らの噂で大騒ぎになってるぞ!事務所へ来られても困るから俺が来たってのと、後この町の町長のサイモンさんが是非挨拶って事で連れてきた」


えー?ど、どうなってんのこれ!

あわわわ…フレヤさん!


「大袈裟ね本当。2人ともごめんなさいね」

「いえいえ、私たち構いませんが……」


流石のフレヤさんも明らかに動揺してる。

当のイザベラさんはスーンと涼しい顔。

この人は本当にブレないなぁ。

これね、あなたが起こした騒ぎですよ!


「これから護衛の依頼を受けるってのに、町を出るまで私達の護衛?」

「イザベラさん、それだけあなたはこの町の住民から愛されているのです。私達はこのベルーガの町を救ってくれたイザベラという偉大な魔法使いの事を忘れません」

「町長さんまで……ふふ、でもヘンテコな銅像とかは辞めてね?」


イザベラさんは色んな意味で大物だな……

あ、フレヤさんまだ困惑してる。




それからはもう大変!の一言に尽きた。

町の外までの道は住民達で埋め尽くされ、下手すると涙する人すらいる始末。

建物の二階や三階からは花びらが撒かれて、それは凄い綺麗で圧巻だった。

流石のイザベラさんもグッと来るモノがあったのか、時折目尻を拭ってみんなのお別れの声にしっかりと手を振って答えていた。


最早『何だかんだ愛されているじゃんか!』とか、そーゆー次元の話じゃない。

イザベラという魔法使いは、まごうことなくこの町の英雄だったんだ。


それが何で、私達について行くなんて急に言い出したんだろう。

この熱狂ぶりを目の当たりにすると、そんな疑問で頭がいっぱいになる。


だってそうでしょ?日頃生活しててみんなに慕われてるって事実に、勘の鋭そうなイザベラさんが気が付かないわけがないもの。

これは何か腹積もりと言うか何か目論見があるなぁと、少しだけイザベラさんに警戒感を抱いてしまった。

フレヤさんも同じ感覚かな?


私とフレヤさんはそんなイザベラさんや町長さんの後ろを俯きがちでトボトボついていった。

注目の的で恥ずかしいの何の!

っていうか何?このお話みたいな展開……!?


ちなみに、護衛対象の商人の人は町の外でスタンバイしているらしく、アルベルトさんから受け取った書類は私が異空間収納へ。

商人の人もさ、とんでもない傭兵が護衛についたもんだなって戦々恐々だろうな……


面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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