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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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31.何その属性

出立の挨拶に託けてエルフのお姉さんから魔法について話を聞こうという魂胆のもと、兵士の詰め所にやってきて今に至る。




詰め所の前までやってくると、本当にお誂え向き。

エルフのお姉さんが暇そうにぼんやりとベンチに座って日向ぼっこをしている最中。

どう考えても忙しくなさそうな今がチャンス!

このシチュエーションで忙しいって言っていいのは植物だけだ。


フレヤさんがずいっと前に出た。

こういうとき本当に頼りになる!

頼んます!フレヤ姉さん!


「どうも、こんにちは」


フレヤさんの挨拶に、エルフのお姉さんはゆっくりと私達に視線を送る。

うーむ、いちいち色っぽい人だなぁ。

チラッと私達に視線を送っただけなのに、これがまた色気が凄い!

私達に圧倒的に足りない物を溢れ出るほどに持っているエルフのお姉さん。

こちとら犬猫と同じ『可愛い』なら、いーっぱい持ってるけどね……!!


「あら、こんにちは。『魔女っ子旅団』の2人ね?どうしたの?」


お、ちゃんと覚えててくれた!


「はい、明日この町を出立するのですが、その前にご挨拶を、と思いまして……」

「ふふ、ご丁寧にありがとう。でも、わざわざ私の所に来るなんて、何か聞きたい事でもあるんじゃないの?正解かしら?」


ぐぬぬぬ……見透かされてる……!

さすが長年生きてるだけないね。


「えへへ、実はそれもありまして……」


そこからフレヤさんが簡単に説明を始める。

端的に言えば『私の使う魔法は何かおかしい気がする』と。

まぁ……本当にそれだけなんだけどね。

フレヤさんは魔法が使えないし、周りに使える人もいない。

魔法使いの魔法は秘密めいた点もあって、文献とかを読み漁ったところで『初めての魔法入門』みたいなのは書かれてないらしい。

とーぜん、戦闘中に馬鹿でかい声で一から十までハキハキと詠唱する人なんておらず。




「ふぅん、なるほどね……。私も若い頃はあちこち旅したから分かるけれどもね、魔法に流派なんてモノは無いわ」


あらー、流派なんて無いのかぁ。

フレヤさん、腑に落ちてない。


「でも、海の向こう側の大陸なんかでは、また違うものなのかなと……」

「ううん、同じよ」

「同じ、と」

「ええ。使う言葉も私達と殆ど一緒だし、そうなると当然、魔法も一緒。無理ないわ、海の向こうの大陸はずっと昔、この大陸から大船団が海を渡って、国を築き上げたんですもの」

「そうなると、アメリさんの魔法はまだまだ謎のまま……ですね」


まぁ……聞けりゃラッキーくらいの気持ちだったし、ね。

そう簡単に分かんないかぁ。


「こんな時間にフラフラしてるなら、どうせ暇でしょ?ちょっとお互いの魔法の見せっこしましょうよ」


み、見せっこだと……?

何だかいちいち色っぽいんだよなぁ、この人!

ぐふふ……


「それは名案ですね!アメリさん、良いですか?」

「え、あ、あっ、是非……!」


この前チラッと見たお姉さんの魔法、ちょーっと気になる!

と言うか、あれくらいのお手軽な魔法を覚えたい気持ちもある。

このままじゃ私、メイドの格好をした武人だもんなぁ。


「ふふ、じゃあいらっしゃい?裏で見せっこしましょう」


ド、ドキドキさせんじゃないよ!

ニコニコしたまま頷いてついて行くフレヤさん。

でへへ、こ、この後……裏でなにを見せっこするんすかね?


こんな助平な妄想してんのは私だけってか。


ちなみに、このエルフのお姉さん。

年齢が高いだけあってか、誰も彼もこのお姉さんにだけは頭が上がらないみたい。

そしてみんなお姉さんを『イザベラさん』と呼んでいる。

セクシーなエルフのイザベラさん。

勝手な意見だけど、なんだか名前までセクシーだぁ。


っていうかホイホイと提案に乗って良いの?

フレヤさん、ひょっとして美人の魅力にあてられて馬鹿になってないか?




裏手に着くと、イザベラさんがクルリと振り返って私達に視線を送る。


「さ、あそこに立ってる丸太。あれに試しに何か魔法を打ってみてちょうだい?」

「あ、えっ?はい!」


多分これを相手に、木剣とかをビシバシ打ち込んだりしてるんだろうなって丸太が五本並んでそびえ立っている。

何を打てばいいのかなぁ、フレヤさーん!

あ、頷いてる。

何でも良いって事か?

よーし……!


マギアウェルバ


水よ水よ

幻想的な氷柱は

お前を幻想の世界へいざなう


背筋が凍るほどに鋭い牙


アクティデンテス


対象は絞れても威力までは絞れない。

便利そうに見えて加減の利かない微妙な魔法……


丸太はガキンという派手な凍結音と共に、スッポリと氷柱に覆われてしまった。


「あら……人間族の子供が軽々と出せる威力ではないわね……」

「で、ですかね……?」


ふへへ、褒められちゃった!


「ところで、アメリちゃんは水属性なのね?」


ん?へ?ぞ、属性?

何が水属性なんだ?


「あれ、そう言えば……アメリさんは得意な属性ってあるんですか?」


ん?んん?

得意な属性?

そんな仕組みなの?

全然知らんかった……!


「いやぁ………ま、魔法の属性って、とっ、得意とか苦手とかじゃ……あ、あの、な、なくないですか…?」

「いえ、私の場合は火属性が得意だから他の魔法は戦闘で使えるような威力は出せないわ。え?本当に得手不得手はないの?」


えー?いやいやっ!初耳な魔法小ネタ!

そんな感覚感じたこと無いというか、考えたことすら無かった……


「あ、あのー、えーと……な、ない……ですね……」

「あー、えーと…そう!どんな属性が使えるの?」


イザベラさん、困惑してる。

むふふ、色っぽい美人を困惑させるって何だか快感。

大人の余裕をぶっ壊したぜ!


「え、えーと……ひ、火と水と、かっ、風と大地と雷。ひ、光と闇と……あ、き、霧もあります!あ、あの……ど、毒と緑もいけます」


良くわかんないけど、そんなモンなんだろうなって顔のフレヤさん。

特に口を出さずうむうむと頷いている。


「ちょ、ちょっと……ええ?ちょ……えーと、あのね?私が知る一般的な魔法はね?火と水。風と土。聖……まぁ光ね。光と闇。後は無属性の魔法。それだけよ?それだけ……」


ありゃりゃー?

何だかやっぱり流派違うじゃん。

あるんだよ流派!


「それに……何語で詠唱してるの?」


ん、そういや何語なんだろ?

当然フレヤさんも知らないしな……


「えーと、い、古の……?あの、わ……分かんないですね……」

「謎ね……?ねえ、ちょっと雷って……あのビカビカーって空で光る雷の事よね?」

「ですです。その雷のようですよ?ですよね、アメリさん?」


他の雷なんて知らないし、まぁその雷だね。


「は、はい……!」

「ちょっと見せて貰える事って出来る?」


おっ、リクエスト頂きました!

何だか自分に特別感を覚え始めたよ。

むふー、ちょっくら見せちゃおうかな!


「い、いいですよ……!」


さっきの氷柱を壊すイメージで行こうかな。

ド派手に!ズカドーンと!


マギアウェルバ


雷よ雷よ

禁足地に足を踏み入れるは愚か者

愚か者には神の鉄槌が下る


轟く怒声


ジョルトサンダー


目を開けてらんない閃光。

遅れて轟音が辺りに轟く。


あ……これ町中でやる魔法じゃなかった……!

フ、フレヤさんの顔がひきつってる!あわわわ……


「イザベラさん!大丈夫ですか?落雷が今……!?」


詰め所からガチャガチャと金属音を鳴らして、大勢の人が来る気配。

マズい、マズいマズい!


「そうなの!天気が良いのに急に落雷よ!びっくりしたけどみんな無事!」


イザベラさん、笑顔がめっちゃ引きつってる。

あ、フレヤさんもだ。




「あのね?アメリちゃんは人前でそのヘンテコな属性の魔法は控えた方が身のためよ。素人なら誤魔化せても魔法協会に目を付けられたら、どんな手を使ってでもアメリちゃんを手に入れようとするわ」


『天気の日に落雷なんて怖い事もあるもんだ』という結論に落ち着いて、私達は地べたに座って話をしていた。

深刻な顔で私にそう警告するイザベラさん。

うわぁ魔法協会……怖っ!!


「で、でもいざとなったら……かっ、返り討ちに……!」


そうだよそうだよ!

そんなヤツ、私の鉄拳制裁で一発だよ!

掛かってこいってんだバカヤロー!


「金の匂いのする事には、なりふり構わないヤツらよ。アメリちゃん、もしフレヤちゃんを人質に取られたら?それでも返り討ちにする自信はある?フレヤちゃんに新種の毒でも盛られて脅迫されたら?」


なんてこったい!そ、そういう組織なんか!

フレヤさんを狙われたら……いやぁ、それはちょっと厳しいかな。


「魔法協会は……魔法が使えない私には無縁な組織でしたが、確かに真偽のほどは定かではありませんが、黒い噂は時折耳にしますね。アメリさん、やっぱりイザベラさんに魔法を見て貰って正解でした。メイドの格好をした武人と見られても構いませんので、大台に乗るまでは極力人前で魔法は避けましょう」

「フレヤちゃんの言うとおりね。私もその昔は散々悪質な勧誘をされたものよ。それこそここの領地の兵士だった旦那を何度ダシに使われた事やら……」


イザベラさん、切ない微笑み。

魔法が使えるってだけで、そんな苦労をするものなんだな……


「イザベラさんは信頼出来そうな方ですので、魔法についてもっと色々相談したいのですが……」

「ふふ、自慢じゃないけれど、伊達に何十年もマルゴー辺境伯のお膝元で働いてないわよ?信頼してちょうだい?」


ほー、そうかそうか。

身元がハッキリするって保証にもなるんだ。

そりゃそうだよね、傭兵よりは国や領主のお膝元で働いてる方が「しっかりした人なんだ」って安心出来るもんね。


「アメリさんはですね、あの……ここだけの話……」

「うんうん、精霊に誓って誰にも言わないわよ」

「……天変地異を起こしたり、果てには……えーと」

「果てには?」


フレヤさん、ゴクリと息をのむ。

興味津々のイザベラさん。


「そ、蘇生まで出来るなんて言ってまして……。私も魔法に明るいわけではないので、これを一体どう扱って良いものかと……」


イザベラさん、驚いた顔してる。

あ、悪戯っぽい小悪魔スマイルに変わった。


「んー、なんか面白そうだし、私も旦那の墓参りついでに途中までついて行っちゃおうかしら?西に行くんでしょ?アメリちゃんに普通の魔法を教えるのも楽しそう」


つ、ついて行っちゃう?マジで?

自由人だなー、この人!


「アメリさんの魔法の師匠として、事情を知っていらっしゃるイザベラさんについて来て頂ければとても心強いですが……そんな急に、お仕事の方は大丈夫なのですか?」


そうだよね、大丈夫な訳ないでしょ。

旅に出たいから今日で仕事辞めますなんて、自由人にも程があるでしょ。


「ふふ、旦那もとっくに死んでるし、他に身よりは居ないの。未亡人への救済措置でこの町の詰め所で雇われてるけれど、どちらかと言えば私が、洟垂れ坊やたちの面倒を見てあげてる立場よ」


んー、そんなもんなんか?

自分の身一つくらいなら別に食っていけるのかな。

しかし未亡人、か。

兵士の遺族がこうやって定職を貰えるからこそ、残される家族を想って兵士になる人が多いわけか。


それにしても『ハナタレボーヤ』……カッコいい!大人の女っぽいキーワード!!

これはいつか使いたい言葉だね……!!

あー、でも私のこの見てくれから考えると『ハナタレボーヤ』は、赤ちゃんとか幼児に相当するね。

そんな子達に私が「ふふ、ハナタレボーヤね」なんて言ったところで、「はい、そうですね」って言われるだけだ。


「何より、こーんな可愛らしい女の子2人と暫く旅をするなんて、これはなかなか役得ね。2人ともがっつり稼いでるみたいですし、お金には困らなさそう。ふふ」


ま、まぁお金に困ってないのは事実。

冒険譚としても大きな変化があって楽しいかもしれないね。


とは言え……イザベラさんって本当に魔法協会と関係ない人なの?

フレヤさんがこんな前向きに検討しているなら、まぁ……何か信頼出来る確固たる理由があるんだろうなと考えるべきかな。

流石に本人がいる前でフレヤさんに解説を頼むわけにはいかないし……

「ねえねえフレヤさん、このエルフのイザベラさんは魔法協会のスパイじゃないの?」……き、聞けるかっ!!

私もそこまで馬鹿じゃない。


「アメリさん、どうでしょう?私はイザベラさんも旅に同行するのは、またとないチャンスかと思います。イザベラさんエルフですし、マルゴー辺境伯の機関で長年勤めていらっしゃる方なので、この上ない程に身元がしっかりしていらっしゃいます。アメリさんの特異性を知った上で味方についてくれますよ」


ん?どーしてエルフという種族が理由になるんだろ?


「エ、エルフですし……というのは、ど、どういう事なんですか?」

「簡単な事です。エルフの嘘つきなど見たことも聞いたこともありません。ドワーフが酒飲みで鍛冶屋に向いているように、エルフとは育った環境に関係なくそういう種族なのです。親方領主の機関に長年勤めているという事は、魔法協会の関係者でもありません。原則副業禁止なので、必ず諜報員から調査されていますからね」


おー、流石解説役だー!

私の疑問を悉く潰してくれた。


しっかし種族でそんな信頼性が大きく決まるんだね。

エルフに嘘つきは居ない、へえ、常識っぽいけど……なんか凄い話だなぁ。

個人的には「本当かよ!それこそ嘘だろう」って感じだけど……まぁ、フレヤさんが言うなら?


とりあえずここはお願いしておくかね。


「ぜ、是非、よ、よろしくお願いします!……し、師匠!」

「ふふ、可愛い弟子はいつでも歓迎。暫くの間、2人ともよろしくね?」


魔女っ子旅団に期間限定のお色気担当が加わった!




面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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