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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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30/555

30.出立の準備

傭兵パーティー『魔女っ子旅団』による洗浄。

その口コミは瞬く間に市中に広がってしまい、指名依頼をひたすらこなす事になって今に至る。




生活魔法の洗浄による清掃の指名依頼。

傭兵の武器防具の洗浄より、あちこちの店舗や工房から果ては住宅、そっちの依頼が殆どだった。

私とフレヤさんはひたすら!

指名依頼としてひたすら!

あちこちをひたすら!

兎に角「ひたすら」「ひたすら」と連呼しなくなるほどにぐーるぐーると町中を回った。

洗浄して貰った店舗や工房を見た他の人が「うちも是非!」となり、そんな口コミが爆発的に広がったようだ。


冒険譚としては代わり映えしない退屈なパートだろうなぁなんて少し申し訳無く思ったけれど、フレヤさんの機嫌は良かった。

それに私個人として、いくら人付き合いが得意じゃないとは言えど、人のために何かをして感謝されるってのは本当に気分が良かった。

町の中をあちこち回って洗浄でピカピカに仕上げると、みんな目を輝かせながら凄い凄いと私を褒めてくれる。

そんな嬉しい気分のまま歩くベルーガの町は心なしか輝いて見えた。


それにこの依頼。

何を隠そう、訪問する度に食べ物やお菓子が貰える確率が高いのだ!

メイドに扮してるようなちびっ子と、そのちびっ子のお姉ちゃんっぽいしっかり者のちびっ子。

そんなちびっ子達が訪ねてくるのだ。

そりゃあ誰だってお菓子の一つや二つあげたくもなる。


フレヤさんは食べ物やお菓子のストックが増えて気分が良い。

可愛い可愛い凄い凄いと言われて私も非常に気分が良い。

でも悲しきかな。

『凄い』という言葉は兎も角、『可愛い』の方は美人や美少女に向けられる『可愛い』ではなく、その辺の犬や猫相手に向けられる『可愛い』なのだ。

ま、まぁ厳ついとか怖いとか言われるよりはマシか。


ちなみに報酬額は本当に全然大したことは無かった。

フレヤさんはそれでも今回の指名依頼の多さは今後の大きな武器になると、ひたすら事ある毎に『魔女っ子旅団』を宣伝して回った。

指名依頼の多さは、この先も続く傭兵活動に必ず良い影響をもたらすと言っていた。


フレヤさんに全面的に従う私は当然、従順な洗浄する魔導具として働いた。




そんな風に順調に且つ楽しく実績を積み、ついにベルーガを発つ前日の朝。


旅の準備もあるので流石に指名依頼は白虎亭以外はもう受付終了していた。

今日は傭兵組合の所長のアルベルトさんのところへ行ってお世話になった挨拶。

そして何か見繕っておいてやると言っていた護衛の依頼を探りに。

本題はそっち。


私とフレヤさんは、並んで町を歩いていると色んな人から挨拶されるようになっていた。

私は人の顔と名前を一致させるのがあまり得意ではないけど、フレヤさんの記憶力は抜群。

人懐っこい笑顔で相手の名前を呼びながら挨拶をするフレヤさん。

「もう腰は大丈夫ですか?」「猫ちゃんは元気ですか?」「先日のキッシュのレシピ、ありがとうございました」なんて一人一人にちょっとした話題を振れる程に相手の情報を記憶している。


この人はサポーターとして優秀とか有能とかってよりはさ、そもそも人として良くできた人なんだね。

そんな良くできたフレヤさんの隣でニタニタ笑ってコクコク頷いているだけの私。

あ、あれだよ!フレヤさんの引き立て役なんだよ私は!




傭兵組合の事務所へ入ると中は既に早朝のラッシュを越えているようだった。

傭兵達がテーブルで作戦会議のようなものをしていたり、お喋りに花を咲かせる姿を見受ける。

受付の向こう側もお茶を飲んでぼーっとしたり、机に向かって何かスルスルと文字を書いたりと、兎に角まったりゆったりとした時間が流れている。


フレヤさんは脇目も振らずに受付へと足を運んだ。

あわわ…離れないようにしなきゃ!


「おはようございます」

「おはようございます!ああ、魔女っ子旅団のお二人ですね!そうかそうか、そろそろ拠点異動ですよね?」


傭兵なんていっぱい居るだろうに、よく覚えてるもんだなぁ。

いや…うち、一人は怪力の変なメイドだもんな。

誰だって覚えるか…

フレヤさんはニコニコ微笑んだままこくっと頷く。


「そうなんです。そのお願いに来たのと、アルベルトさんに一言挨拶をと思いまして。ほら、初日にお騒がせしましたし…」

「ああ…はは、ですね」


バツが悪そうにそう言うフレヤさんと、私をちらっと見る受付のお姉さん。

なんてこったい、ぐうの音も出ないや!


「拠点異動については明日の朝お渡しできるよう準備しておきますね。所長からもお二人が来たら部屋へ通すようにと言われてました。どうぞ、所長は部屋におります」

「ありがとうございます、それでは書類の方はよろしくお願いします」


ペコッと頭を下げるフレヤさんに続いて私も頭を下げる。

頭を上げると受付のお姉さんと目が合い、ニッコリ微笑まれたので慌てて微笑み返す。

ニタニタ気持ち悪い笑顔になってなかったかな…


フレヤさんはさっさとアルベルトさんの部屋に向かったので、再び慌ててフレヤさんの後を追う。




扉をノックすると「はい」と、アルベルトさんの真面目そうな声が聞こえてきた。

事務局で時々会ったときに何かと気にかけてくれる気のいい兄ちゃんなアルベルトさん。

いくら日頃飄々としてようと、やっぱり所長なんだなーとしみじみ思う。


「『魔女っ子旅団』のフレヤとアメリです」


フレヤさんが扉の向こうのアルベルトさんにそう告げると、


「どうぞ」


と、簡素な答えが返ってくる。

…怒ってる訳じゃないよね?


「失礼します」


静かに扉を開けて中へはいるフレヤさんに続く私。


部屋の中はカントの町の傭兵組合の所長ビクターさんとは違ってよく整理整頓されて綺麗だね。

アルベルトさんに促されるままソファーに座る。


「明日立つんだろ?早速だが、明日の護衛の依頼だ。ほれ」


そう言ってフレヤさんに紙を手渡すアルベルトさん。

迷わずフレヤさんに渡した…

うちのパーティーの窓口だから仕方ないけど、アルベルトさんとフレヤさんのやり取りが進む。


「ヤキムの町までの護衛…ですか。行商人の護衛。明朝出発の5日行程。ふむふむ…」

「拘束の割に報酬がパッとしなくてなあ」

「いえいえ、路銀の方は十分にありますので報酬額は気にしないで下さい。アメリさんも護衛は初めてですから、こちらとしてはお誂え向きな依頼だと思います」

「はは、お前さんならそう言ってくれると思ったぜ。ヤキムまでの道中、魔物はパッとしねえけど、森とか岩場とかがあるから誰でもいいかぁって訳にはいかねえんだわ」

「ですね、益々アメリさんにお誂え向きです」


ん?森とか岩場と言えば私ってか?

なんだなんだ?

なんでお誂え向きなんだ?

良く分かんないけど、ひょっとして馬鹿にされてる?ん?


「あの…なんでお誂え向きなんですか?」


小さく手を挙げて恐る恐る口を開いてみた。

賺さずフレヤさんが答えてくれる。


「まずですね、いくら等級制限がないとは言え、5日行程の護衛で銀貨75枚は割に合わないんですよ。これは普通の傭兵なら選ばない類の護衛です」


へーなるほど!

確かに日割りにすれば1日銀貨…15枚?

いやいや、安すぎるでしょ!

ちんたら常設依頼やってるのと同等?


「あとベルーガからヤキムへの道中、魔物は大したものは出ませんが、森や岩場があるという事はそれだけ身を隠せる場所が多いという事になります」


身を隠す…?

あっ!


「と、盗賊…!?」

「ですです。なので傭兵組合として仲介してあげたいけれど、これを引き受けてくれる人となると、真っ直ぐヤキムに行く傭兵限定になります。もっとも護衛中はついでに採取や討伐も難しいので、普通はやりたがらないですね」


ま、まぁそりゃそうだよね。

護衛対象をほったらかして別の依頼に勤しむわけにはいかないもんなー。


「そこで『魔女っ子旅団』っつー訳だ。実力も折り紙付き。路銀に困ってない。等級を上げたい」

「そう言う事です。あわよくば盗賊の討伐も狙える!」

「だな」


ニッコリするフレヤさんとアルベルトさん。

いやいやいや!と、盗賊って!!


「と、盗賊が出たらどうしましょう…!」

「ん?ヤキムの町まで引きずっていって衛兵に突き出しゃ報酬が貰えるぞ?」

「うっかり殺してしまった場合、今回は行商人の方がいらっしゃいますから面倒な取り調べもないですしね。今後の良い経験になりますよ?等級を上げる条件に護衛の経験は必須ですし」


そっちの心配じゃないんだけどなぁ!




と言うわけで無事?依頼も受けた。

傭兵組合の事務所を出た私達。

うーん!さてー、この後は買い出しかな?


「特にする事が無いんですよね、実は」


そう言って肩を竦めるフレヤさん。

おや、フレヤさんにしたらちょっと意外だ。


「アメリさんはなんかやりたいこととか何かありませんか?」

「えー…?いやぁ、うーん…」


それを私に聞くか?

このフレヤさんの忠実なしもべの私に?

こちとらね、自慢じゃないけどね、やりたい事なんてそんなパッと出てこないよ!


いや、待てよ…?


「エルフのお姉さんに…ま、魔法について相談とか…?」


そう。

第二の人生が始まって知り合った人たちの中で唯一、魔法が使えるお姉さんなのだ。

それだけ魔法ってありふれてないじゃん?

普通の魔法ってどんなんなのかって知りたいじゃんか。

次いつ魔法が使える人と出会えるか分かんないし。


「んー、出立の挨拶がてら質問してみるのも良いかも知れないですね。案外アメリさんの魔法について何か知ってるかもしれないですよ?」

「じ、じゃあ行ってみましょう…!」


おっ、すんなり了承された。

ついに何か手掛かりが掴めるかも!

そうと決まれば話は早い!


フレヤさんも冒険譚を執筆するに当たって魔法の知識が少しでも欲しいのだろうね。

なんか足取りがウキウキしてるもん、この人。

とは言え私も魔法について話を聞いてみたいのは事実な訳で。


いざゆかん、エルフのお姉さんのもとへ!



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