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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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296.朝の魔法

宿屋『灯の宿』にて華々しい吟遊詩人デビューを果たしたポワティナちゃん。

その才能は本物で、聞く人すべてをポワティナちゃんの世界に誘い込んでしまう。

私とフレヤさんは、誰か信頼の置ける人にポワティナちゃんが託せる日まで、ポワティナちゃんと旅を続けることを決めつつも今に至る。




翌朝、事務所へ向かう前に、まずは宿屋『灯の宿』で朝ごはん!


食堂に降りると、女将のマリアさんがニッコニコの笑顔で迎えてくれた。


「昨晩はありがとうね!お陰でさ、いつもの倍以上は儲かっちゃったんだよ!」


むほー! そんなに!?


「わあ、そんなに?」

「ふふ、かなりの盛り上がりでしたもんね!」


目を丸くして驚くポワティナちゃんと、それを見てクスクス笑うフレヤさん。

いやー、お酒の在庫なんて空っぽになったんじゃないかってくらい、みんな飲んでたもんなぁ。


「ささやかだけどそのお礼さ。さ、召し上がれ!」


おーっ!一品サービス!

うひょひょー!これは嬉しい!

朝からご馳走にありつけるなんて最高!


しかも、食堂にいたお客さんたちからも、


「昨夜の歌、すっごく良かったよ!」

「朝から思い出して元気が出るよ!」

「またぜひ歌ってくれ!」


なーんて声をかけられて、ポワティナちゃんは終始ニコニコ。

「えへへ、うれしい!」って、照れながらも嬉しそうにしてる姿がかわゆすぎる……!


美味しいご飯と温かい言葉で、最高の気分のまま宿を後にすることに。

よーし、今日も頑張るぞー!




宿を出ると、朝のハングの町はすでに活気で満ち溢れていた。


おおーっ、大きな都市だけあって、人の波が途切れないね!

商人たちが店先の品物を並べる姿、屋台の店主が威勢のいい掛け声で客を呼び込む声、馬車の車輪が石畳をきしませる音……いろんな音が混ざり合って、まるで町全体が目覚めの歌を奏でてるみたい。

朝は朝で違う顔を持っていて、そんな朝の様子も好きだな。


むむっ!道端のパン屋さんからかな?

焼きたてのパンの香ばしい匂いが漂ってきて……

ああっ!なんて良い香り!!


「ほらほら、朝食は食べたでしょう!」


おっとっと!フレヤさんに軽く腕を引かれた!

うー……名残惜しいっ!


「もうお腹いっぱいだよ!アメリちゃん、食いしん坊だね!」


ポワティナちゃんがコロコロ笑ってる。


「へへ……つ、ついつい……!」


今はパンはいらないし、先へ進むかね。




市場の方から活気ある声が飛び交ってる。


「今朝獲れた新鮮な魚だよー!」

「こっちの果物は甘くてジューシーだよ!」


ざっと見渡しても、肉や野菜、布地や装飾品まで!

ほほー、ありとあらゆるものが売られてるなぁ。

荷車を押す少年、腕に魚を抱えて歩くおじさん、熱心に値引き交渉してるおばさんたち。

みーんなせわしなく動き回っている。

ここはまさに『朝の戦場』って感じだ!


はは、ポワティナちゃんも目をキラキラさせて、興味津々であちこちを見回してる。


「すごいね!みんな朝から元気いっぱい!」

「ここは領主が住む町らしいですからね。活気があるのは良いことです」


フレヤさんも満足げに頷く。


傭兵たちの姿もちらほら見かける。

道端で装備を整えてる人、仲間と作戦会議をしてる人、酒場の前でぐったり座り込んでる人……うん、たぶん昨夜の飲みすぎ組かな。


「ほら、傭兵組合はもうすぐそこですよ」


フレヤさんの指さす先には、レンガ造りの立派な建物!


よし、気持ちも高まってきたし、さっさとポワティナちゃんの登録を済ませよう!




私たちはそのままハングの町にある傭兵組合の事務所を訪れた。


ハングの町の事務所は、都市型の煉瓦づくりの三階建て。

ドデカい建物だけど、中に入るともっと圧巻。

所狭しと並ぶ掲示板、行き交う屈強な傭兵たち、受付に並ぶ長蛇の列——まさに傭兵の巣窟って感じ!

さすが都市型の事務所だね。


「わあ……!」


ポワティナちゃん、目を丸くしてキョロキョロ。

むふふ、そりゃびっくりするよね!

私も初めて都市型の事務所に来たときは、ちょっとワクワクしたもん!


で、早速フレヤさんがポワティナちゃんの傭兵サポーター登録を済ませることに。

受付嬢さんが手慣れた感じで書類を作成し、ちょいちょいっと判子を押して、はい完了!

滅茶苦茶手際が良い!


「おめでとうございます! ポワティナさんは、正式に一等級の傭兵サポーターとして登録されました」

「えへへ、ありがとうございます!」


ポワティナちゃん、手渡された組合員証を大事そうに抱えながらニコニコ。

かわゆい!

もうそれだけでスープ三杯はいけるよ!!


とはいえ、私たちはこの町で拠点登録をするつもりはなし。

私たちの目的地は隣国ケルテン王国で、ここハングの町はただの通過点。

ポワティナちゃんは登録したばかりで実績ゼロだから、拠点の異動もその場でちょちょいで問題なし!らしい。


「では、拠点異動届にも追記しておきました」

「助かります。ありがとうございます」


ちゃちゃっと手続きも済ませて、さっさと事務所をあとにすることに。

こーゆーとき、フレヤさんが最高に頼もしい。

これが私とポワティナちゃんだけだったら……あばばば…!

か、考えたくもない……!


さあ、これでポワティナちゃんも正式に傭兵サポーターの仲間入り!

新しい旅の幕開けって感じだね!!




乗り合い馬車が集まる広場へ足を踏み入れると、すでに多くの馬車と人々でごった返していた。

馬のいななき、荷車の軋む音、活気のある商人たちの掛け声が飛び交い、早朝の町とはまた違った賑やかさを醸し出している。


「私たちはエンサミール行きの馬車ですが……」


フレヤさんがそう呟きつつ、あたりをキョロキョロと見回す。


おっ、すぐ見つかったみたいだ!

私たちが目を向けた先には、荷台に丈夫そうな帆布を張った馬車と、その脇で談笑している御者のじーちゃんの姿。

ふむふむ、馬車に立て掛けてある木の板に、たしかに『エンサミール行き』って書いてる。


ぬあっ、すぐさまだ!

フレヤさんが交渉へと向かっちゃった!


慌ててポヤーンとしてるポワティナちゃんの手を引き、私もその後を追った。

フレヤさんは穏やかな笑顔を浮かべ、さっそく交渉開始。


「エンサミール行きの馬車は、こちらでよろしいですか?」

「おう、そうさね。三人かい?」

「はい、三人分の料金をお願いします」


気のよさそうなじーちゃんだね。

くしゃくしゃの笑顔を浮かべると、少し間をおいてニヤリと口元を歪めた。


「はいよ、一人銀貨三万枚だよ」

「ふふ、はい、私たちは三人ですので銀貨九万枚ですね」


へー、銀貨三枚か。

まあ、そんなもんだよね——


……って、さ、さっ、三万枚!?


おいおいおいおいっ!!

フ、フレヤさんが狂った……!?


「た!たっ!高すぎますよっ……!!そそそ、そんなに……はっ、払っちゃダメです…!!」


私がしっかりしなきゃ!!どーしましょ、どーしましょ……!!


な、なぬっ!?


じーちゃんもフレヤさんもポカーンとしてる……だと?

あっ、じーちゃんがゲラゲラ笑い出した!!

フレヤさんまで!!


「はははは!真に受けて動揺する子なんて初めて見たよ!!」

「イヤだなぁアメリさん!挨拶代わりのちょっとしたジョークですよ!」

「銀貨九万枚もあったら、ワシだって悠々自適に暮らせるなぁ!ははは、たしかに九万枚!」


ぐぬぬぬ……真に受ける馬鹿はいないってか……!!

は、恥ずかしい……!!

率先して、かくひつようのない恥をかきにいってしまった……!


「ふふ、ちなみに出発までどれくらいですか?」


フレヤさんが目尻を拭いながら落ち着いた口調で尋ねると、じーちゃんは馬車の後ろを指さしながら、まだ笑いの余韻を引きずるように答えた。


「まだ定員に余裕があるからね、もう少し待っておくれ」

「分かりました」


ふーん、まぁ適当にボーッとしとくかね。

……って、ポワティナちゃん!?


彼女は先ほどからずっと、じーちゃんとフレヤさんのやり取りを興味津々で見つめている。

口を半開きにして、目を輝かせながら——


「……えっ、じゃあ、ほんとはいくらなの?」


——ポワティナちゃん!?

ま、まだ真に受けてたの!?


じーちゃんとフレヤさんがまたゲラゲラ笑い出す。

もうそのネタは良いです!!


ますます顔を真っ赤にする私であった……




木製の車輪が軋み、ゆったりとした揺れが身体に伝わってくる。

御者のじーちゃんが手綱を操ると、馬車はハングの町の喧騒を後にし、エンサミールへと向かう街道へと乗り出した。


この街道は、この辺り一帯の大動脈らしい。

遠くまで見渡せる広い道には、同じように荷馬車を引く商人の隊列や、護衛を連れた貴族風の馬車、単身歩く旅人の姿もちらほらと見える。

行き交う人も多ければ、馬車の通行量も多く、まるで体の中を流れる血みたいに、この道が町と町とを繋いでいるのがよくわかる。


そんな場所だからか、馬車の護衛もそう物騒な雰囲気ではなさげ。


今回は傭兵組合から派遣されたというリスの獣人の男女二人組。

等級は四等級らしい。

一応武装こそしているものの、そこまで緊迫した空気はない。

彼らは軽く雑談を交わしていて、どうやら雰囲気がカップルっぽい。


さてさて、馬車の乗客はというと、私たちのほかに——


ひとりは、大きなリュックを抱えた行商人風の老婆。

揺れる馬車の中でもまったく動じず、腕を組んだままじっと目を閉じている。

その貫禄たるや、もしかして馬車の振動が心地よくて寝ているのでは……?と思うほどの安定感だ。

全身フサフサの白い毛をした犬っぽい獣人の老婆で、そんな風貌がまた貫禄を引き立てている。


もうひとりは、幼い子供を二人連れた人間族の若いお母さん。

きょろきょろと落ち着きなく周囲を見回しており、なんとなく不安げな様子。

子供たちは母親の服の裾をぎゅっと掴みながら、窮屈そうに座っている。


さらに、見るからに傭兵と思しきドワーフの男二人組。

ごつい身体に鉄の装備を身につけ、無精ひげを生やしている。

馬車に乗るなり、低い声でぼそぼそと何か話し始めた。


ふつうの服装に剣を持った若いにーちゃん三人組もいる。

結構鍛え抜かれた身体をしている感じからするに、きっと非番の兵士といったところかな?

猫っぽい獣人と人間族二人の組み合わせ。


最後に、商人のような綺麗な身なりをしたキツネの獣人の紳士。

整えられた茶色の毛並みに、気品のある服装。

腰には短剣を提げている。

でもあくまで護身用といった雰囲気。


そんなこんなで、馬車の中はそれなりに賑やか——になるかと思いきや、乗客たちは必要最低限の会話しかせず、淡々と過ごしている。

馬車の揺れに慣れたのか、皆それぞれの態勢を整えて落ち着いていた。

私たちも行儀よく静かに座ってる。


でも、そんな静けさも長くは続かなかった。


「……うぅ……」


ん?小さなすすり泣き。

さっきの幼い子供のうちの一人だ。

今にも泣き出しそうな顔をしている。


あーららー、その横にいたもう一人の子供もだ。

目に涙を浮かべながらぐずり始めちゃった。


若いお母さんが慌てて子供たちをあやそうとしてる。

だけどさ、こーゆー時ってなかなかうまくいかないわな。

馬車に慣れてないのか、はたまた町から出るのが初めてなのか。


馬車の中には、誰もそれを口に出して咎める人はいない。

でも微妙な空気が流れ始めている。


これは私が異空間収納からお菓子でも出すかなー?

甘いものがあれば、少しくらいは気も紛れるかも。

あ、フレヤさんと目があった。

フレヤさんも同じ考えっぽいね。


「——ねぇ、みんな?」


ぬおっ!?

ポワティナちゃんか!

あー、歌でってことか!

それは名案だね!!


馬車の中の視線が、一斉にポワティナちゃんへと向く。

ぐずっていた子供たちも、小さなすすり泣きを止めて、ぽかんとポワティナちゃんを見つめている。


「朝にはね、素敵な魔法があるんだよ」


ポワティナちゃんは小さく咳払いをしてから、ふわりと歌い出した。


「陽が昇り 鐘が鳴る

街の目覚めを 告げる声——


さあ 集まれ 手を取りて

笑顔を交わす 時が来た——」


透明感のある歌声。

ゆっくりと馬車の中に広がっていく。


ポワティナちゃんの歌には、不思議な力があるなぁ。

魔法というより、もっとふわっとした……心をそっと包み込むような、やさしい何か。


「誰でも使える 素敵な魔法

心を込めて 唱えてみよう

「おはよう!」と 軽く抱き合い

背中を叩けば 光が踊る——」


ポワティナちゃん、子供たちの鼻先をちょんと優しくつっついた。

子供たちはぱあっと明るい笑顔になる。

ポワティナちゃんはぐるりとみんなの顔を見てからウインクをしてみせた。


「ほら 世界がキラキラ輝き出す

犬も陽気に 歌い出し

猫も愉快に 踊り出す」


若いお母さんも笑顔だ。

傭兵風のドワーフ二人組も、低い声で「おお、なかなか良い声じゃねぇか」と呟いた。

キツネの獣人の商人は面白そうに耳を傾けている。

御者のじーちゃんは「こりゃあ良い朝の歌だねぇ」と笑い、行商人の老婆はうっすらと目を開け、まるで懐かしむように口元を綻ばせた。


非番の兵士っぽいにーちゃんたちは足踏みでリズムを取り始め、ポワティナちゃんが手拍子を始めた。

護衛のカップルは外の様子に注視しつつ、荷台の縁をトントンと叩いてる。


「風も小鳥も 輪になって

今日という日を 祝うのさ——


さあ 集まれ 声を合わせ

陽気な魔法を かけてみよう——


誰でも使える 素敵な魔法

笑顔ひとつで 広がっていく

「おはよう!」と 言葉を交わし

手を取るだけで 幸せ満ちる——」


気がつけば、この詩を知っていると思われる私以外のみんなが口ずさんでいた。

心なしか馬たちの足取りも軽やかだ。

この詩を知らないのが悔やまれたけど、そんな気持ちも吹き飛ぶくらい楽しくて幸せが溢れてくる!


「ほら 世界がキラキラ輝き出す

町の片隅 市場の中も

兵士も旅人も 歌い出す

風も光も 祝福の歌

今日という日を 迎えよう——


「おはよう!」さあ、魔法をかけよう!」


ポワティナちゃんは、最後まで穏やかに歌いきると、小さく手を叩いて締めくくった。


「ね?これで、みーんな元気になるでしょ?」


そう言ってニコッと微笑むと、子供たちは顔を見合わせて、ぱちぱちと拍手をした。

若いお母さんも、ポワティナちゃんに感謝するように微笑みながら、やさしくお辞儀をする。


なんとなーく微妙な空気になっていた馬車だけど、すっかり柔らかい、とってもいい雰囲気。

まるで本当にポワティナちゃんの魔法みたいだね。


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