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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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292.人攫い……人攫いっ!?

シュルヴィエ村の傭兵組合にて赤っ恥の大失態をかました私。

ポネットちゃんたっての願いにより、ルガード工房にもう一泊させて貰うことになり、ポネットちゃんに挿し絵を大絶賛され、有頂天になって超大作な挿し絵を描き、フレヤさんに呆れられ……そして今に至る。




「さすがにあそこまで泣かれると、後ろ髪を引かれる思いでしたね」


隣に座るフレヤさんが、くすっと苦笑する。


「で、ですね……!」


私も、思い出してしまって苦笑い。


サン・マズラ街道を進む乗り合い馬車の中。

がたん、ごとんと揺れる馬車の振動に身を委ねながら、 私たちは深いため息をついた。


いやぁ……もう、すごかったなぁ……

まさか、あそこまで大泣きされるとは……!!


ルガード工房でもう一泊し、翌朝になって出発の準備を整えた私たち。

ルガードさんと奥さんのマルグリットさんに見送られながら、「それでは、また!」と手を振った、その瞬間――


「やだぁぁぁぁ!!アメリちゃん、いっちゃやだぁぁぁぁぁ!!」


ポネットちゃんが、泣きながら私に飛びついてきたのだった。


「うぇぇぇぇん!!アメリちゃぁぁぁぁん!!!」

「わ、わっ!?ポ、ポネットちゃん!?あっ、あ、えーと……!!」

「いやぁぁぁぁ!!やぁぁぁぁ!!!」


しがみついてくるポネットちゃんをどうにか宥めようとするも、全然離れてくれる気配はない。


というか、昨夜からずっとそんな感じだった……

寝るときも「アメリちゃんとねるのー!」って抱きついてきて、ずっと一緒に寝てたし。

可愛いのなんのって、もう……!


だけど、出発となるとやっぱり寂しいよね。

うぅ……気持ちはすっごくわかる!!

なんというか……こんなに懐かれてさ……た、たまらんっ!


「か!かっ!!必ず……また来るからねっ!!!」


ポネットちゃんをギュウウウっと抱きしめた。

フワフワモフモフなポネットちゃんを抱きしめていたら、感極まって泣いちゃった。


「おーいおいおいおい……!!!」

「アメリちゃぁぁぁん!!」

「ポ、ポネットちゃぁぁぁん!!」


二人でわんわん泣きながら抱き合っていると、後ろからクスクスと笑う声が聞こえてきた。


「ふふ……まったく、アメリさんまで」


フレヤさん、感動するタイミングを逃したって顔で笑ってる。


「くっくっく……いやぁ、これは見事なものですね」

「ふふふ、まるで親子ねぇ」


ルガードさん、そしてマルグリットさんまで……!!

いや、笑わないでくださいよっ!!


でも……うん、また絶対に会いに行こう。

ポネットちゃんと、ルガードさんと、マルグリットさんに。




そんな朝の出来事を思い出したら、まーたため息が出てきた。

窓の外、馬車がゆっくりと進む先には、なーんにもない平原。

旅は続くけど――


「……ぜ、絶対…また、い、行きたいです……!」


ポネットちゃんと約束したその言葉を、私は心の中で忘れないようにしよう。


「そうですね、復路ではサン・マズラ街道を通りましょうね」

「な、何年後かな……」


ポネットちゃんが成長して、私を忘れてないといいけど……




サン・マズラ街道をゆく旅は、順調そのものだった。


道中の町や村では、どこも陶芸が盛んな様子。

だったけど……うーん、やっぱりルガード工房の作品と比べちゃうと、どれも少し見劣りしてしまう感じ。


もちろん、素朴で味のある器も多かった。

だけどねぇ、あのルガード工房の作品の繊細で美しい作りを思い出すとさ、ついつい目が肥えてしまったのかもしんないね。


ティーセットもさ、わざわざ高いお金を払ってまで買うのはどうかなーって代物ばっか。

いや、まあ、旅の記念にするのはアリなんだけど……うーん、それだけルガード工房で貰ったティーセットが凄すぎた。


それにしても、このサン・マズラ街道、魔物被害もほとんどないし、盗賊の気配もまるでなし。

フレヤさんによると、盗賊はもっと別の大動脈を狙うことが多いらしい。

たしかに、この街道は背が低い草が生い茂る平原ばっかで隠れる場所も少ないし、強盗行為を働くには不便そう。

のどかで安全な道が続くのは、旅人にとってはありがたい限りだけどね。


だからといって、特筆するような出来事があるかと言えば……うーん、正直、これといったものはないかも。

でも、まあ、本来の旅なんてそんなものだよね。

むしろ、これまでが色々ありすぎておかしかったんだよ!


そんなこんなで、平和な旅がひたすら続いている。

危険もなく、盗賊もおらず、ただただ馬車に揺られて道を進んでいく日々。

でも、それが退屈かと言えば、案外そうでもない。


広がる草原、青い空、流れる雲。

行く先々で出会う人々との何気ない会話。

そんな些細なことでも、心が弾むのだから、平和なのはいいことだ。


「……はぁ」

「アメリさん、またですか?」

「だ、だって……うぅ……!」


馬車の座席で、私はまたため息をついた。

目の前にあるのは、なんとも言えない代物――旅籠の朝食で出された、焼きすぎたよーなパン。


「もう、何度目かわかりませんよ?」

「だ、だってぇ……!」


この地方、どういうわけかパンがめちゃくちゃ固い。

いや、固いっていうか、もうこれは武器になりそうなレベルなんだけど!?

ちょっとかじっただけで歯が砕けそうになったんだけど!?


「こ、こんなの……あ、あんまり、ですよ……!」

「あはは……なんとなく、ここ最近泊まる宿で出されるパンが固めになってきたなとは思っていましたが、今朝泊まった『キツネのねぐら亭』のものは極めつけでしたね」


ぐぬぬぬ……夜はさ?なんか固いなと思いつつもさ?普通に食べられるパンが出てきたんだよ。

でも朝に出されたパンは、まるで凶器のようなパン。


このパンで撲殺して、スープに浸してパンを食べちゃえば、もう立派な証拠隠滅。

……なんてことを考えてしまうくらいには、ガッチガチのパン。

それでもこのガッチガチパンがこの世からなくならないあたり、そんな馬鹿をしでかすヤツはいないんだろう。


「それだけ私たちが北へ北へと進んでいる証拠ですよ。北の方へ行けば小麦は育ちにくいですし、サン・マズラ街道は薪に困りそうな平原ですから、一度に大量のパンを焼いて長期間の保存をする必要があるのでしよう」


そりゃ分かるよ!

私が言いたいのはね、宿屋サイドが事前に通告してほしいってことだよ!!


美味しそうなシチューを見て、ついついワーッと食べちゃったのが運の尽き。

スープに浸して食べる前提のパンだけが、ポツンと残る悲劇。


朝食の順番を誤って、取り返しがつかなくなるなんて経験をすると思わなかった……


それにしても北へ北へ、か。


サン・マズラ街道に入ってからもう十日。

このまま順調に乗り合い馬車を乗り継げば、お目当てのケルテン王国入りは五日後らしい。


国境と隣接するリュヒモンド辺土伯が治める領地にあるアルノスリーレ城へはすぐ。

その城がある町の名は……アルノスリーレの町!!


……そのまんまじゃねーかっ!!

観光資源として全力で乗っかる気マンマンかな!?


でも、アルノスリーレ城の収穫祭って、かなーり有名なお祭りらしいじゃん?

しかも、あのマテウスが千年前、初めて魔族と戦った地。

そして、どーやら色々と謎が残るアルノスリーレ城の戦い。


こりゃあ暫くは平穏パートは続くね。

良い依頼が残っているとは思えない。


「ま、魔物も……とっ、盗賊も、で、出ませんね……」

「ええ、こうした平穏な旅も悪くありません」


風が馬車の荷台を通り過ぎる。

がたん、ごとんと軽快に揺れる馬車に身を任せ、遥か遠くにそびえる山々に思いを馳せる。


なんと平穏が尊いことか――

そう、それはまるで深く澄んだ湖面のように……

いや、どこまでも広がる大地のように……

いやいや、まるで……えーと……


「あ、人攫いっす」


そうそう、人攫いなのだ。

これまでの道中を思えば、人攫いがどれだけありがた――


ん?人攫い?

御者のあんちゃんの口から飛び出した『人攫い』という単語。


「どれどれ?んー、あれ?珍しいな……」


ハーフエルフだと言っていた護衛として乗り合わせているお兄さんウーロさんが、片手で作った輪から向こうを覗いてそう言った。


同じく護衛として乗っていた人間族の青年ゲイレンさんがウーロさんの背中から向こうを眺める。


「珍しいってなにが?人攫いが?」

「ハルピュイアだ、ハルピュイア」

「ハルピュイア?おお、そりゃ珍しいな!森から出てきたところを運悪く人攫いに遭遇……か」


ふーん、人攫いが向こうにいるってか、ほうほう……

旅とはさ、つまりだね…………


な、なぬーーっ!?


そりゃ大変だっ!!


フ、フレヤさんフレヤさん!!

どーしましょ!?


「御者さーん、どーします?こっちには俺たち『バウロン』の三人と、客として乗った『魔女っ子旅団』がいるから、ほっといても襲われないと思うけど……」


呑気なもんだ。

護衛として乗り合い馬車に乗った傭兵パーティー『バウロン』とやらのリーダーだって名乗ってた人間族の青年その二のワイアットさんが、終始眠たそうにしている御者のあんちゃんに尋ねた。


御者のあんちゃんは前を向いたまま口を開いた。


「お客さんが乗ってるから、うちは放置っす」

「そ、そんな……!」


思わず口が出ちゃった。

でも放置!?


「ダメっすよ。戦えないお客さんだっているんす。わざわざこっちから危険は選べないっす」

「まぁそーだね。このまま進めばこっちには来ないだろうし、次の町で衛兵に報告でいいと思うなー」


御者のあんちゃんも、ワイアットさんも呑気過ぎる……!


「アメリさん、乗り合い馬車としては当然の選択ですよ。我々が不用意に介入すれば、他の乗客の方々にも危険が及びます」

「……じゃ、じゃあ…」


放置しようね、いやー物騒な世の中ですなーってか?

ダメだよ!そんなの!!


「御者さん、我々はここで降ります!」

「いいんすか?お代は返せないっすよ?」

「ええ、構いません!このまま飛び降ります!」


フレヤさん……!!


「申し訳ないねー、よろしく頼むよ」


ワイアットさん、申し訳なさそうに苦笑いしてそう言った。

片やフレヤさんはニッコリ笑顔だ。


「護衛として当然の判断です。さ、アメリさん、飛び降りますよ!」


フレヤさん、ワイアットさんたちに軽く会釈するやいなや、さっさと馬車から飛び降りちゃった!


「次の町に着いたら伝えとくから!捕縛するなら狼煙弾でもあげといてくれー!」

「はーい!ありがとうございますー!」


あわわわ……置いていかないでー!


「あ、ま、待って……!」


早く助けにいかないと!!




平原の道無き道をひた走る私とフレヤさん。

草が邪魔だね……!

視界がすこぶる悪い。

背が低いのもあって、まるで緑の壁の中を走っているみたい。


人攫いがいるって言われた方向に向かっているけれど、いまいちどこなのか見えない……!


「アメリさん!一気に跳躍して確認を!場合によってはそのまま人攫いの付近まで飛んじゃって下さい!」


フレヤさんの指示が飛ぶ。


「は、はいっ……!!」


そーだね、そうした方が話が早そうだ!


即座に脚に力を込める。

ぐっと地面を蹴り――跳んだ。


視界が一気に開ける。

風を切る感覚が心地いい。

風に揺られて草がまるで波のようにザアザアと揺れている……

けど、今はそれどころじゃないっ!


あ、草むらの向こう!

五人の男たち、人間族かな?


居たっ!網の中だっ!

もがくハルピュイアの女の子だ。


ジタバタ暴れるけど、押さえつけられてる。

どうにもならなそうだ。


よし、確認完了! 


「い、いました……!!」

「もう一度いけますか!?今度は人攫いの付近!!」

「は、はいっ!!」


――よしっ、助ける!


着地して、そのままさらに勢いをつけて跳躍!


今度は一直線に、人攫いたちのど真ん中を目掛けて――!!

面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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平穏さんが家出癖が付いている
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