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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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277.どこへだって迎えに行くよ

ジビハイム砦の塔の屋上にて、チャームで洗脳されているフレヤさんを人質に取られ、圧倒的不利な立場に置かれる私とトックさん。

トックさんが説得を試みはじめ、そこで明かされるエリクの過去。

少しずつだけどエリクの説得成功に繋がるかと思いきや、地上からエリクに向けて無数の攻撃が加えられる。

裏切られたと激昂したエリクは、この廃墟のようなジビハイム砦の屋上からガンガン大魔法を連発する。

このままじゃジビハイム砦自体が崩落すると慌て、今に至る。




エリクの怒声に近い詠唱が砦中に響き渡った。

背後には闇の渦。

空間が歪み、砦の壁が軋んでいる。

稲妻があちこちの空を走り回る。

こんな禍々しいのが放たれたら、ここは全部……!!


「くっ……!フ、フレヤさんっ……!!」


エリクに抱えられたままのフレヤさんが、胸壁から落ちそうになってる!!

意識のないまま、ぼんやりとして、だらりとした腕が揺れて……


考えるより先に、私は地面を蹴っている。

とにかく追いかけなきゃ、助けなきゃ。


目の前で、黒い稲妻がトックさんを狙った。

くそっ、ちゃんと私たちの行動もお見通しってことか!?


「――っ!」


トックさんは剣を振り上げ、そのまま稲妻を斬り裂いた。

火花が散り、空気が焼ける臭いが鼻を突く。


フレヤさんが落ちそうじゃなければ、エリクを狙ってすぐに倒せるのにっ!!

今の状態でエリクを攻撃するのは悪手の極み。

説明していないアサルトジャックフラッシュをトックさんに施して……ダメだ!!

仮にトックさんがすんなり理解したとしても、エリクが何かの拍子にフレヤさんを手離したら……無理だ。

フレヤさんの安全を確保してからじゃないとっ……!!


ああ……フレヤさんならもっと上手に立ち回れたんだろうな……

何をしてもフレヤさんが落とされそうな気がするっ……!!


「今のうちに行け、アメリちゃんっ!!」

「はいっ!!」


さらに加速っ!!

空気を裂いて、エリクの腕に飛びかかれっ!!

あと少し、あと少しで……っ!!


「闇の帳よ、全てを飲み込み、混沌へと誘え!ダークネスメイル!」


しまった……!!違う魔法か!?

寸前、エリクの瞳がこちらを捉えたのが見えた。

ちゃんとこっちも警戒してたっ!?


急に視界が真っ黒に染まる。

やられた!視界を奪われたっ!?

エリクの魔法をもろに受けちゃった……!!


胸を貫かれるような殺気が、全身を凍らせる。

さっきの黒雷か!?


無理だ……避けられないっ!!


その瞬間、横から風が唸った。


「まだまだ甘ぇんだよ!!」


トックさんの怒鳴り声と共に、何かが黒雷らしきものを叩き斬ったのを感じた。

爆音が轟き、閃光の眩しさだけが視界を埋め尽くす。

トックさんがフォローしてくれたんだ!!


眩しさに目を細めても視界はすぐに暗転。

視界の先には何も見えない。

フレヤさんに手を……手を伸ばさなきゃ………!!

ぼんやり視界が利き始めた!?


あと少しだ、あと……


――ぐらり。


しまった!!フレヤさんの身体が傾いてるっ!!

エリクの腕が緩んだんだ!!このままじゃ胸壁の外へっ……!!


「お、落ちるっ!!」


気づいた時には、私も胸壁の外に向けて飛び込んでいた。

大地が身体を引きずり込むような感覚を覚える。

私の左手がフレヤさんの右手を掴んだっ!!


胸壁にかけた私の右手に、二人分の体重が重くのしかかる。

でもこれくらいなら耐えられるっ!!


「っっああああああああああぁっっっ!!」


フレヤさんを屋上に……放り投げるっ!!

危なかった、放り投げちゃって、フレヤさんは多少怪我はしたかもだけど、とりあえず大事には至らなかった……


塔の屋上に飛び上がると、トックさんはライルさん、ガンザさん、ドルムさんと戦っていた。

斬られては治癒し、突き刺されては治癒し……かなりの劣勢。

フレヤさんは……!?

よし!!エリクと離れてる!!

拘束するなら今しかない……!!


マギアウェルバ

緑よ緑よ

お前の遊び相手はお空の上

しなやかな腕で捕まえてご覧

無邪気な束縛

ヘカトンケイル


蔦が塔をキツく抱きしめながら急成長する音が、ギシギシと耳に響く。

まるで生き物が這い寄るように屋上へと蔦が這い寄る。

咄嗟に使ってしまった。

塔に影響があるかと思ってたはずなのに……マズかった!!

こんなマギアウェルバ、塔にダメージがいく……!!


それでもライルさん、ガンザさん、ドルムさんを捕まえた蔦が、彼らの動きを封じた。

そしてエリクも、そんな蔦に絡みつかれて身動きが取れなくなった。


トックさんと目があった。

これでどうにか一安心……さて、次はエリクに沈黙を……


「終焉の黒炎よ!神々の理すら焼き尽くせ!アポカリプスフレア!」

「しまった!!野郎、腐っても魔人族だ!詠唱は破棄されてねえ!アメリちゃん、もうダメだ!!この塔がもたねえ!!」


発動させられる下地は整っていたのか……!!

塔の下の方に強大な黒い炎がみるみるうちに膨張していくのが見える。

地上への逃げ道がなくなった……


「ははは!詠唱は中断していない!魔力は十分に練られていた!どうせ捕まれば斬首刑、全員まとめて道連れだ!!」

「くそっ!!地上からも同じ高位のラグナロクレイをぶちかましやがった!!闇魔法と光魔法で大爆発が起きるっ!!」


大爆発……!?

ダメだよそんなの、崩壊するよ!!


「アメリちゃん!!俺たちはもういいっ!!フレヤちゃんを連れて反対方向に全力で逃げろ!!」


でもそれじゃあトックさん達が……!!


「時間がねえ!!こんなとこでフレヤちゃんの夢を絶つ訳にはいかねえんだよ!!俺たちは良いから行けっ!!」

「……っ!!」


くそっ!!くそくそっ!!

それしか方法が浮かばない!!


「フ、フレヤさん!!に、逃げます…っ!!いっ、一緒にっ!!」

「私はエリクさんと共に死にます!!」

「ばっ、馬鹿言うなっ!!いっ、いっ、行きますっ……!!いいからっ……!!」


こんなしょうもない洗脳につき合っている暇はない!!


「ああっ!離してくださいっ!!私はっ……!!」

「いっ!!い!!いいからっ!!」


ああっ!!もうっ!!フレヤさんが抵抗するっ!!


「アメリちゃん!!フレヤちゃんを頼んだっ!!お前さんたちだけでも生き延びろっ!!」


トックさんの叫び声。

私の腕の中でジタバタと暴れるフレヤさん。

トックさんの声は続く。


「エリクッッ!!てめえだけは確実に仕留めてやるっ!!」

「ははは!!男同士、1対1の決闘と行こうじゃないか!!」

「フレヤちゃんっっ!!絶対夢を叶えろよっ!!!」


そうこうしているうちに――




風に思いっきり体当たりされたような感覚。

右も左も、上も下も分からなくなる感覚。

目を開けていられない衝撃と閃光。

そして遅れて聞こえてくる爆発音。


きっと離れた上空で大爆発がおきたんだ。

天地がひっくり返ったかと思った。

急に足元が消え失せたみたい。


ああ、塔がついに崩壊したんだ……

ハチャメチャでド派手な音もなにも聞こえない。

私の全神経はフレヤさんに集中している。


ここで……フレヤさんを助けられなかったら、私とフレヤさんの冒険譚が終わってしまう……!


このままじゃ瓦礫にぶつかってフレヤさんが……!!


こんなとき、どんなマギアウェルバを使えばいいの?

私はどうやって立ち回れば、この危機的状況を回避できるの?


教えてフレヤさん。

いつもみたいに、私よりも私の立ち回り方に詳しいフレヤさんが、どうか私に教えて。

無詠唱魔法の風で……フレヤさんのもとへ……っ!!

もう少し!もうちょっと……!!

届けっ……!!


捕まえた、フレヤさんの手。

暖かいのに、柔らかいのに……

どうしてこんなに遠くに居るように感じるの?


フレヤさんと目があった。

そんな虚ろな目は辞めてよ、フレヤさん。


ああ、このままじゃ二人とも、瓦礫に巻き込まれるかな……

どんなマギアウェルバを使えば、二人とも無傷で助かる?

頭の中が散らかってて……はは、ダメだ。

何にも妙案が浮かばないや。


マギアウェルバ


――ハーフリング族のフレヤと申します。歳は17歳です


こんなときに、フレヤさんとの思い出?

はは、もうおしまいってか?


風よ風よ 光よ光よ

風よ風よ 光よ光よ


そんなマギアウェルバは私のラインナップにないよ。


――アメリさんが歴代の記録を抜くような凄い等級の傭兵になって、私が冒険譚を発表して有名人になって、誰にも何も言わせない伝説のパーティーになればいいんです!


二人とも伝説にはなれそうもないや。

だって、この塔さ……滅茶苦茶高かったよ?

そんな塔がもう滅茶苦茶……

こんな沢山の瓦礫……ぶつからずに地上まで?無理だ……


小さな背中に降る祈り

迷子の夜に響く歌


――変な話ですけどね?もしアメリさんが男の人だったら私、きっとアメリさんに恋に落ちてました


はは、懐かしいね。

ベルーガの事務所で絡まれた時か。

もうずっと昔のことみたいだ……


どこにいたって どんな遠くても

君の手 離しはしないよ


――格好良かったな。凄く…凄く大きな背中に見えました。私をどこまでも連れてってくれる小さくて大きな背中


魔法協会のヤツと、あのデーモンの子と戦ったあとだ。

フレヤさんがね、そんな風に言ってくれたのが、私、本当に嬉しかったよ。

二人ならきっと、どこまでも行けると思った。


星のない夜空 ひとすじの光

長い夜を照らす 私と君の軌跡


――はは…よ、よ…よがっだ…わ、わだじ…アメリさんが…アメリさんが…!!


クイーンと戦ったあと、すっごく心配させちゃったね。

あの時はマギアウェルバの後遺症もキツくて、魔力も全然少なくて、本当に大変だったな。

今ならもっと上手に戦えると思うんだ。


幾千の季節が巡ろうとも

風に舞う花のように


――嬉しいな…ふふ、こんな偉大な英雄からこんなにも好かれて幸せ者ですね、私は


私はね、たとえ、この世界に大魔王がいたとして、そいつをやっつけた英雄になろうともね、ずっとフレヤさんの隣にいるよ。

この先、どんな事が待っていようとね、隣にはフレヤさんがいないとさ、私、ダメなんだよ。


どこまでも どこまでも


――ぁぁああああぁっ!!ど根性っっっっ!!こんなとこで!!こんなとこでっっ!!

――馬鹿言わないで!!私は最後まで諦めない!!


二人の旅は 輝き続けるよ


――私のアメリさんに何してんだこの野郎っ!!

――このドチクショウ!私たちはまだ終わってないっ!


風がどうか 君のもとへ吹きますように


――アメリさんと出会うまで、私はマテウスのような大冒険をするなんて思ってもいませんでした。夢はいつまでも夢のままで、恐ろしい魔物も、手に汗を握る駆け引きも、こんな雄大な景色も…すべてが、遠い世界の出来事のようで……


光がどうか 君のもとへ差し込みますように


――でも、こうしてアメリさんと出会って、アメリさんと二人で…こんな大冒険ができて…


約束するよ


――私をここまで連れてきてくれて…夢の続きを見せてくれて、本当にありがとうございます


私 いつだって どんなときだって


あっ……私、今……マギアウェルバを…紡いでるんだ。

身体中から魔力が溢れだしてる……!!

詩を詠うように、フレヤさんのことを想いながら……マギアウェルバを一から作ってる……

これが……マギアロア・ワービットの……マギアウェルバなんだ…!!

私の、私だけの、私とフレヤさんの、二人のマギアウェルバだっ!!!


「アメリさんっ!!!」


フレヤさんの叫び声。

いつもの…いつものフレヤさんだっ!!!


どこへだって迎えに行くよ




私が紡いだマギアウェルバ。

唱え終えると私の背中から熱を感じた。

背中に走る熱は、最初はじんわりとした優しい温かさ。


だけど、それは次第に鋭く、焼け付くような感覚に変わっていく。

骨が軋み、肉が引き裂かれるような痛みに思わず息を呑み、目をキュッと閉じる。

だけど、不思議と苦痛はない。

熱が爆発するように弾けた瞬間、背中から何かが飛び出した。


パァンッという鋭い音が空間を裂く。

純白の光が弾け、その中から翼が現れた。

羽が生えるたびに、柔らかな風切り音が響き、光の粒が舞い散る。


――ふわり、と風が舞った。


視界の端を、純白の羽が通り過ぎていく。

それは儚げで、今にも消えてしまいそうなほど柔らかい。

けれども一枚一枚が確かに存在していて、光を反射してきらめいている。


私の背中に生えた翼だ。

まるで天上から舞い降りた天使みたいだ。


その大きさは私の身体を優に包み込み、フレヤさんをも守れるほど。


翼の付け根から先端にかけて緩やかな曲線を描き、羽は幾重にも重なり合っている。

一枚一枚の羽は薄く繊細で、触れれば溶けてしまうのではと思うほどに柔らかい。


――白い、白い翼。


純白に輝く翼。

光を受けて虹色に煌めいている。

太陽の光が透けると、淡い金色の縁取りが現れた。

その光景はまるで、夜明けの空を翔ける伝説の鳥のように神々しい。


羽ばたくたび、周囲の空気が震え、風が生まれる。

その風は優しく、暖かく、まるで祝福するかのように私たちを包み込んだ。

私はフレヤさんをしっかりと抱きしめたまま、翼を広げた。


――飛べる。飛べる。飛べるっ!!


そう確信した瞬間、私の身体はふわりと宙に浮いた。

翼を動かせば、思い通りに空を翔けることができる。

大空を裂くように加速するたび、風が顔を撫で、世界が広がっていく。

その速さは、まるで天を駆ける雷鳴のように力強く、けれども羽ばたきは静かで優雅だった。


瓦礫を力強く突き抜け、抜けるような青空を突き抜け、眩い光の中へと飛び出した。


一気に加速する。

風が耳元で唸りを上げる。

目の前の景色が流れるように後ろへと消えていく。


「――は、速い!」


私の声、風にかき消されちゃう。


加速すればするほど、翼がさらに強く輝き、光の粒子を撒き散らした。

光は虹のように七色に輝き、後ろに美しい軌跡を描いていく。


――私は今、自由だ。


どこへでも行ける。

どんな障害も、もう恐れることはない。


――この翼がある限り、私は飛べる。


フレヤさんのことをしっかりと抱きしめながら、私は翼をさらに大きく広げ、空高く舞い上がった。


胸の奥から湧き上がる高揚感!

私は今、確かに空を翔けている!!

身体の一部となった翼。

私の意思に応えて軽やかに羽ばたくたび、解放感が全身を駆け巡る!!


私は風になったんだ。

何に縛られることのない、自由そのもの。


フレヤさん、あなたのことは私が守るよ。

約束する。


――どこへだって迎えに行くよ。




七色に輝く光の粒子が、私たちを包み込みながら降り注ぐ。

それは祝福の雨のように温かく、全ての不安を洗い流していく。


フレヤさんが私を見上げ、涙を浮かべて微笑んだ。


「アメリさん……綺麗……」


その一言が、私の心に深く刻まれた。


「おっ、おかえり…なさい……」

「ただいま。遅くなって……ごめんなさい」


腕の中のフレヤさんは、目に涙をいっぱい溜めて微笑んでいる。


ああ、良かった。

私のフレヤさんがやっと帰ってきた。


今はもう、それしか考えられないや……

面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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