28.お掃除
白虎亭にて、受付のおばちゃんと世間話しつつ、ちゃっかり指名依頼をゲットしたフレヤさん。
そしていつの間にか『魔女っ子旅団』なんてパーティー名になってた事が発覚して今に至る。
「フ、フレヤさん…!あの、パ、パーティー名って……!」
今、私たちは夕食の前にさっさと依頼を済ませよう!と言う事で早速、宿の廊下を生活魔法で綺麗にしている。
出来映えのチェックに余念がないフレヤさんの背中に向かってそう言うと、フレヤさんはチラッと私に振り向いた。
うぐぐぐ……、悪戯っぽい笑みだっ!
「ふふ、文句は無しですよ?私、アメリさんに一任されましたからね!」
あっ!この人、ペロッて舌出したっ!
あー、だめだこれ!
可愛いから全部許しちゃうなー、私。
「マテウスがですね『漫遊旅団』というパーティー名を付けていたのに憧れてまして、アメリさんが魔法でフォレストウルフの群れを一掃したと聞いて「もうこれしかない!」と密かに思ってたんです」
「な、なるほど……」
そーゆー事情なら……まぁね?
「それに可愛いでしょう?魔女っ子旅団!ふふ」
「ふふ」じゃないよ「ふふ」じゃ!
ま、まぁ漫遊旅団よりは可愛いっちゃ可愛い。
「うんうん、よしっ!完璧です。やっぱりアメリさんは生活魔法も凄いですねー。こんな綺麗になって、大銅貨たった1枚なんて、これはお得ですよ!」
そ、そこで煽てちゃう?
げへへ、まんまと誤魔化されちゃおうかなぁー!
あ!そうだ!
何もさ、金なんて取らなくても良かったのでは?問題がまだ残ってるよ。
私としては正直、果物をくれるとか、そんな感じで良かったよ!
「あ、あのっ……!さ、流石にこんな程度で、い、依頼だなんて…!…」
「もうっ、アメリさんは本当に甘いですね!」
スッと立ち上がったフレヤさん。
ニコニコしながら指で私の鼻をちょんと突っつく。
なっ!?何、その可愛い「ちょん」は!
「まず、アメリさんの生活魔法は、その辺の傭兵や兵士のそれより抜きん出てます。普通の洗浄では、流石にここまで綺麗になりません!私も驚きました。アメリさんはちょっとした生活魔法にすら、凄い価値があるんです」
「え、えー?……そ、そうなんですか……?」
なんだなんだ、随分持ち上げるなぁ!
気分良くなって来ちゃうよ!
「そうなんですよ?次に!指名依頼は報酬額に関係なく、普通に依頼を受けてこなすより得られる点数が高いです!昇級に必要な具体的な点数は流石に教えて貰えませんけれど、白虎亭側が喜んで指名依頼を出してくれるのならば、絶対に指名依頼にすべきです!」
なんかあれだね。
フレヤさんの考えに間違いはないね。
私がいちいち口を出すのが不毛に思えてきたもん。
とは言え冒険譚的にはさ、全面的にフレヤさんの言いなりになって思考停止って……それはどーなのよ。
フレヤさんに指示されるまま、共用部分をピッカピカにした私。
一通り終わってから晩御飯を頂くことに。
今日は葉物野菜の素朴な甘みが生きている、具沢山の美味しいスープがメイン。
いやぁ、白虎亭が人気の宿屋になるわけだよ、これ。
ご飯がすっごい美味しいもんなぁ。
もう暫くすると、厨房も落ち着くようなので、厨房の清掃は後でやるとして、それまで部屋に戻って執筆活動をする事に。
部屋に入ると、机の上にはカゴに入ったマリル!
フレヤさんもマリルは好きなようでニッコリ満面の笑み。
真っ赤な果実を前に、口の中に唾が溜まってしまう。
「わぁ!マリル……!よ、良ければ……さ、早速剥きましょうか?」
「え?別にそのまま齧ればいいですよ!いや……いざという時のために、これは有り難く取っておきましょう」
な、なんだってー!?
どういう「いざ」があると『マリル食べな!』ってなるの!?
あー……んー、たしかに今は食後。
「お前、本当に今からマリルが食べれるんか」と言われると「いやぁちょっと微妙だね」と答えちゃうかも。
美味しそうな真っ赤なマリルを前に、満腹だった事をすっかり失念してた。
「そ、それもそうですね。冷静に……か、考えれば、わ、私、今からマリルを、その、シャリシャリ食べられる程お腹が……」
「ですね。私もです。これはそのうちオヤツとして有り難く頂きましょう」
そうだね。
楽しみは取っておこう。
焼きリンゴ……もとい焼きマリルなんかもいいかもしんない。
ぐふふ、今度フレヤさんに作ってもらおっ!
無事マリル二個を手に入れ、早速、異空間収納にしまいこむ。
何だかんだ食料のストックも順調に増やしている私たち。
こうして町から町へ行ける今は兎も角として、今後北の方の国々を回ったり、はたまた砂漠地帯を旅する時、食糧が無いと相当苦労するらしい。
荒天で何十日も足止めなんて事態も十分にあり得るとの事。
フレヤさんと手分けして執筆活動をしつつ、おばちゃんから呼ばれた私たちは厨房の清掃を行う事に。
フレヤさんには執筆活動を続けて欲しかったから、
「流石に私一人で行きますよ」
と私は言ったけど、フレヤさんは、
「アメリさんを一人にすると心配なので私もついて行きます」
と言って私の腕に手を回されたので、仕方なく?2人でいくことに。
げへへ、当たってますよ!!
私の腕にね?フレヤさんのね?
あ……!!こっ、子供扱い……!?
危うく誤魔化される所だったっ!!
……とは言え、人付き合いが苦手な私。
フレヤさんの言うことにはいつだって一理も二理もある。
一人で行ってどーするつもりだったんだ、私。
こういう所の厨房なんてものはさ、ギトギトペトペトしてて相当汚いんだろうなぁなんて勝手に思っていたけれどね、実際に見せてもらってビックリ!
全然汚くないんだ、これが!
フレヤさんも口を半開きにして、目を丸くしていたくらいなので、これは本当に驚くべきことなんだろうね。
「お酒やつまみを絶え間なく提供しているのに、なんと言いますか……綺麗ですね!」
フレヤさんがおばちゃんにそう言うと、おばちゃんは、
「美味しい食べ物が生まれる場所ってのはさ、こう……綺麗な場所じゃないとダメだと思ってんだよね。とは言え、壁や天井、見えないところ、染み付いた汚れがたんまりさ!じゃあ、よろしく頼むよ!」
と、ニッコリ笑って私達の肩に手を置く。
ほーん、この信念が美味しい料理を日夜、生み出してるんだね。
とは言え、手作業での掃除では拭いきれない、長年に渡って染み着いていた汚れたち。
こんな綺麗なら、別にそんなに変わんないんじゃないかなーなんて思ったけれど、いざ徹底的にやってみたらまたまたビックリ仰天!
新築同様なピッカピカの厨房に様変わり!
従業員の人達だけでなく、いつの間にか食堂に残っていた他のお客さんも食堂の方から見守っていて、終わる頃には何故か拍手喝采を浴びた。
口々にお褒めの言葉を貰う私達。
「いやぁ、生活魔法でここまで綺麗に出来るヤツなんて見たことねえな」
「お前、あれくらい出来るか?」
「馬鹿言え、普段の俺を見てりゃ出来ねえ事くらい分かんだろ!」
「私達とは魔力の桁が違うのよきっと」
「いやはやあんな小さいのに、どれだけ鍛錬を積めば……」
流石に褒められすぎて照れくさくなった私は、フレヤさんの背中に隠れる。
顔が赤いのが自分でも分かる。
こういう時のフレヤさんはデーンと構えていて、本当に頼りになる。
フレヤさんが口を開く。
「私達はパーティー名を『魔女っ子旅団』と言います!家だけでなく、装備品から日用品まで、なんでも!指名依頼を頂ければ大銅貨1枚で洗浄を引き受けさせて頂きます!どうぞ、気になった方は傭兵組合まで!」
どんな時も宣伝を怠らないフレヤさん。
とりあえずもうフレヤさんに!
全面的にフレヤさんに任せよう!
フレヤさんを窓口として、色んなお客さん達と話し込んでいる間、暇人な私は白虎亭のおばちゃんから話しかけられた。
「あの子フレヤちゃんだっけ?優秀な相棒が居て良かったねえ」
「あ、あー、いやぁ、はは……!わ、私は、あ、あの手の対応は、にっ、苦手なので…、…た、助かってますです、はい……」
「そうかいそうかい。そうそう!あの真ん中の窯の辺りの洗浄なんかも頼めるかい?ちょっと重いしデカいから無理かねぇ……」
ん?あの巨大な釜か!
舐めてもらっちゃ困るよっ!
魔法を駆使すれば……うーむ、いけるかなぁ。
まぁ、あれだ!任せなさいよ!
このすげー魔女、アメリ様にさ!
「へへっ……い、いいですよ?な、中のお湯は……あの、ど、どうするんですか?」
「あー、そのままでいいよ!口に入れるもんじゃないしね。いつも継ぎ足し継ぎ足しだからさ、よっぽど汚くならない限りはほったらかしでいいよ」
「わ、分かりました……!じゃ、じゃあ綺麗にしますね……!」
いやー、これ、毎日どうやってこんなデカい窯の中身を入れ替えてるのかと思ったら、なるほど納得だね。
そらそーだよね、こんなの毎日さ、中身をじゃばーっと入れ替えてたら重労働だよ!
ふふん、そこは魔法でどうにでも出来ちゃうのが、この私。
ここらで有能アピールをして、フレヤさんを一層喜ばせてやろう。
いやー、きっと指名依頼だらけになって喜ばれるハズ!
今日はたっぷり褒められて、最っ高に気分が良いのだよっ!
まずは身体強化。
『
マギアウェルバ
火よ火よ 光よ光よ
この身に今こそ革命を
立ち上がる民衆の足音は
止むことを知らない
高揚する傀儡
アドレナリンレボリューション
』
ふおぉー!初めて使ったけど、これは凄い!
身体中を駆け巡るこの高揚感!
めっちゃ力が湧いてくる!
駆け巡る全能感ーっ!
力はパワーだ!
おっとっと、このままじゃ熱くて大釜が持てないし、火をくべてるかまどにも近寄れない。
このまま大釜に触ったら火傷だよ。
『
マギアウェルバ
火よ火よ
ゴウゴウと沸き起こる
燃え盛る狂喜をこの身に宿せ
狂気の歓喜
ハイパボリカ
』
このハイパボリカは、防御面の性能が滅茶苦茶上がる魔法。
初めて使うけど。
身体中が格好良い感じで赤く光るのがポイントの補助魔法だね。
初めて使うけど。
私がかっちょ良い感じになってる!
大釜に両手を添える。
ほほう!まるで重さというものを感じない!
想像してた重さと実際の重さのギャップとの差で、持ち上げた瞬間にすっぽ抜けて後方へ飛んでいきそうになるな。
危なかった……大釜アタックで危うく人が死ぬ所だった……
あ!そう言えば……むほーっ!大釜が全然熱くない!
しかも火の中に立ってるのに熱くない!
やばっ!服も燃えないとか凄いね!
大釜を片手で抱えたまま、大釜とかまどに満遍なく生活魔法の洗浄をかけて、と。
はえぇ……足元の煤とか灰がどこかへ消えてゆく。
大釜も今、納入された新品のように輝きを取り戻す!
いやぁ、楽しいなぁこれ。
煤とか灰とかどこへ消えちゃったんだろうね?
それを言うなら日頃の汚れもだ。
その辺にべちょっと捨てている訳じゃない。
なんかどっかに消えちゃうって、よく考えたらおかしくない?
ってありゃ、お湯も綺麗になったかな?
お湯の汚れも一体どこへ……?
「あの……アメリさん?それ、大丈夫なんですか……?」
フレヤさんに後ろから声をかけられる。
おっとっと、とりあえず大釜を戻すかね。
「そ、そうですね、見た感じ……き、綺麗なお湯になったので……べ、別に使っても大丈夫そうですけど……あの!のっ、飲めそうです……!」
「いや、あの……な、なんでもないです」
『どうだ!えっへん!』と、思って振り返った先に居たのは、先程までの興奮などどこ吹く風で、ただただ呆然と私を見つめている人たち。
やっちまったなーってヤツかも……
私、フレヤさんを介在させないとダメだね……これ。
すげー魔女、それはすげー(馬鹿な)魔女って意味だ。
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