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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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269/555

266.トックさん

ラゴ集落にて、女二人の旅であることを心配してくれた傭兵パーティー『鉄血の夜明け』の四人組。

宿を営む夫婦にも心配され、彼ら『鉄血の夜明け』と暫く行動をともにすることに。

そうして私とフレヤさんは『鉄血の夜明け』とともに、隣の町であるリエーラへと向かいつつ今に至る。




リエーラの町の門が見えてくると、思わず足を止めた。

私だけじゃない、フレヤさんも足を止めてしまった。


「うわっ……すごい列ですね」

「で、ですね…!こ、こんな列、みっ、見たことないです…!」


徒歩での入場列が長蛇の列を成している!

普段なら、どこの町でも徒歩はスースーと通過できるはずなのに、ここまで混み合っているのは異常だ。


さらに、馬車の列はもっとひどい有様だった。

道沿いにずらりと並んだ荷馬車が、街道の向こうまで続いている。

こんなの…日が暮れるまで町の中に入れるのか?


圧巻…!


「最近、どこの町もこんな感じだ。一度町に入ってよ、レグモンド帝国内の傭兵組合が臨時で発行してる依頼受領証明書か、常設依頼実施許可証をパッと見せりゃ、その町だけになるけど、詳しい聞き取りは免除される」


トックさんが、溜息混じりに教えてくれた。

昨今のレグモンド帝国内では珍しい光景じゃないってことか…!

早くそのナントカ証明書を貰わなっ!!

こんなの毎回並んでらんないよ!


フレヤさんが少し首を傾げる。


「先ほど『厳しくなっている』とは伺いましたが、この行列はリエーラだけではないんですか?」

「ああ、レグモンド帝国中の町で、どこも入退場に手間取ってるぜ。外から来たヤツなら、いつ入国したか、行き先や目的なんかをしつこく聞かれるし、出る時も同じように調べられるんだ。奴隷なんか居ようもんなら、そりゃあ細かく聞かれるし、行動制限をかける類いの装具をつけられていないかどうかまで隈無く確認される」

「行動制限の装具って、奴隷の?」

「ああ、その通り。奴隷が逃げないようにする魔道具だな。とはいえ、今までこんなに厳しくなかったんだけどな……」


トックさんが眉をひそめる。

ほへー……事は深刻ってことなんだなぁ。

しかし……行動制限の装具かぁ。

奴隷が逃げないようにするための、あの見ているだけで胸がモヤモヤするあれ。

ここまで厳しくしても止まらない失踪……犯人の目星がまるでつかないって感じかな。


改めて列を見上げた。

……こんなにたくさんの人の列。

みんな、一様に疲れた顔をして並んでいる。

少し苛立っている人もいるみたい。


自分から言いたくはないけど、こーゆー時、まんまと検問に引っかかるのが、この私……!

さ、さすがに大丈夫、だよね……?


情けないことに思わず、フレヤさんの袖をぎゅっと掴んじゃった。


「ん?ふふ、大丈夫ですよ!さすがに引っかかりませんって」

「でっ、ですかね……」


町の入り口、国境の検問所、何もなかった事の方が多い。

だけど、何かいらんトラブルが起きるのもまた町の入り口や国境の検問所。

不安だ、不安だぁ……!




その後も列はノロノロと少しずつ進み、私たちの番になった頃には、向こうの山の方に、お日様が沈んでいく夕暮れ時になっていた。


ようやく自分たちの番が来たね……

はぁ、何もせずにぼさっとつっ立って、時々一歩二歩進むだけなんだけど、やたらと疲れる。

隣のフレヤさんもホッと安堵の表情だ。


「よし!次っ!!」


どわっ!?心臓が一気に跳ね上がった。

つ、ついに順番がっ!!

「早く私たちの番になれ」と、呪術でもかけるみたいに心の中でブツブツと念じてた訳だけど、いざ順番が来ると……捕まるって決まってないのにハラハラしてくる……!


フレヤさんは私に一瞥をくれると、小さく頷き、前に出る。

はぁ、なんと頼もしい背中でしょう。

できるだけ小さくなってフレヤさんの背中に隠れるようしとこ……


……こんな挙動不審だから、引っかかるのかな…?


「私たちは傭兵組合所属の傭兵です。旅の傭兵として活動のため町へ入ります。滞在期間は事務所に掲示された依頼を見てから判断しますが、長くても三日程度の予定です」


フレヤさんは落ち着いた声で、はきはきと答えた。

わ、私も組合員証を出さなっ!!

マゴマゴしていたら『むむっ!?サッと出せない事情があるな!?怪しいっ!』なんて……あばばば…!!


それでも堂々としているフレヤさん。

ふー……ちゃんと私たちの組合員証を見てるね。

これなら問題なく通れ……


「ふむ、傭兵組合員証は確かに本物だが……お前たち、番号的に外国から来た傭兵だな?」

「はい。八日前に入国しました」


そーいや、いつ入国したかも聞かれるんだったっけかね?


「ふむ。どれ、入国許可証を見せろ」


門番の言葉に、フレヤさんの肩がほんの僅かに揺れた。


入国許可証?


えーとぉ……?んー、入国許可証?

はいはい、入国を許可する証明書ってことね?


にゅ、入国許可証っ!?


「……外から来た者であれば、入国許可証を所持しているはすだが?八日前に入国したなら尚更だ」


そ、そんなもの、私たちは持っていないよ……!?

だってさ、ほら、アナスタシア大皇女のワイバーン便に相乗りしてさ?

そのまま国境なんて無視してね?この国に空からスーッと入ったのだから……


ギャーーーッ!?!?

み、密入国してるじゃん!!

ど、どうしよう!?いや待て、冷静に……冷静に考えるんだ、アメリ!

れれれっ、冷静になんてなれるわけないっ!?どわあぁぁぁーーっ!!


終わった、捕まる…つ、捕まるっ!!

今度こそ薄暗い地下で、訳の分かんない丸太をグルグルグルグルと朝な夕な死ぬまで回す労役につくんだ!!


頭の中に、架空の子分と親分が浮かんでくる。



ーーこの棒って何の意味があって回すんすかね?


ーー捕まる前にチラッと耳にしたけどよ、どうやらこれ…何にもつながってねえらしいぜ


ーーええっ!?あっしら、そんな無意味なものをグルグルと……




あばばば……嫌だっ!!


「……入国、許可証……?」


フレヤさんの声がかすかに震えていた。

いつも冷静なフレヤさんが、明らかに動揺しているのが分かる。


ど、どうしよう?

このままじゃ逮捕からの地下室で訳の分かんない丸太をグルグル回す労役につくことに……!


いやいやっ!待て待てっ!

こちとらお前たちの親分、大皇女アナスタシア殿下のワイバーン便で入国してんだぞ!?

あー勝った!勝ったよ!勝ち筋が見えたっ!!

むっ、無実を……!!


「ア、アナスタシア大皇女の、ワッ、ワイバーン便に…の、乗せて貰いましたっ!」


――言ってやった。言ってしまった。

どーだバカヤロウ!お前たちの親分だぞっ!

これで少しは態度も……

なぬーーっ!?フレヤさんが滅茶苦茶怒った顔してるっ!?


はたと気がつけば、場の空気は完全に凍り付いていた。


門番たちの目が一斉にこちらを向く。

鋭い視線が私を突き刺した。


あー……はいはい。

おおっ、そっかそっか!ほうほう!

外国人が不正の言い訳に、この国の皇族の名前を持ち出したと。

不敬罪ってやつだねっ?正解?いやっほぅ!


……あばばば、選択肢を思いっ切り間違った!?!?

どーしましょ、どーしましょ、どーしましょったらどーしましょ……


「……おい、貴様……今、なんと言った?」

「アナスタシア大皇女の名を安易に騙るとは、この不届き者め……!」

「抜剣!入国許可証を持たぬ怪しい傭兵!言い訳に皇族の名を持ち出す不届き者だっ!!」


門番たちの手が武器に触れるのが見える。

ヤバい、ヤバい、ヤバい……私、取り返しのつかないことを……!

あー……アナスタシア大皇女殿下、本当にごめんなさい。

もう二度とレグモンド帝国に入れなくなるかもだ。

暴力と暴力による対話…ふふふ、はぁ、なんと単純明快で分かりやすいことか。


私も胸がギュッと締め付けられる。

気がつけば周りには剣を抜いた大勢の兵士たち。


フレヤさんの手が僅かに震えているのが見えた。

いつも冷静なフレヤさんが、こんなにも動揺しているなんて……

いくらフレヤさんが頭が良くて賢くてかわゆい才女でも、この状況に完全に飲まれてしまっている。


フレヤさんの動揺や恐怖心が伝わってくると、それに比例して私は冷静さを取り戻してゆく。

マギアウェルバで兵士たちを一網打尽にするか?

それとも、このまま姿を消して逃げるか?


私なら一網打尽にもできる。


「けっ、剣を……抜いたと、い、言うことは……か、かくっ、覚悟が……」

「ちょ、ちょっと待ってください!アメリさんも早まらないでっ!!杖を下ろして!!あ、あのっ、 私たちは――」


フレヤさんが慌てて弁明しようとしたその時、横から割り込んできた声があった。


「あーあー、お前ら、こいつらのこと知らねえのかよ?」


軽やかな声とともに、トックさんが一歩前に出た。


門番たちが驚いて顔を上げると同時に、夕陽の光がトックさんの背中を照らす。

まるで舞台の主役が満を持して語り出したみたいに。


その顔には、余裕たっぷりの笑み。


こんな状況なのに、なんでそんなに余裕があるの!?

唖然としちゃった。

だけど、その余裕が不思議と頼もしく感じられる。


私たちの前に、悠然と現れたトックさんは、落ち着いた笑みと、自信に満ちたその声だ。

周りの空気さえ変わった気がした。


あれれ?なんでだろう、さっきまでの不安が薄れていく……


「さあさあお立ち会い!今をトキメク新進気鋭の傭兵パーティー、『魔女っ子旅団』とはこいつらのことだ!あのクイーンスレイヤーと名高い謎のちびっ子メイドのアメリ!!そしてそんなアメリをサポートする、あのマテウスの直系の子孫、ハーフリングの名サポーター、フレヤ!」


な、なんだなんだ!?

私とフレヤさんに注目がワッと集まった。


「これからもっと有名になって、『冒険譚といえば漫遊旅団』という常識を『冒険譚といえば魔女っ子旅団』なーんて覆す、一筋の流れ星っ!!その目でよーく拝んでおくなら今がチャンスだ!!いやー、皆さんはツいていらっしゃる!!なんせ、これから歴史に名を残す傭兵パーティーと、同じ時代を生きてるんだから!!ねっ!?ねっ!?」


――え?


思わず声が漏れた。

魔女っ子旅団? 私たちのパーティー名だけど、ここでパーティー名でゴリ押せる?

門番たちにまで私たちの噂が届いているかは…微妙じゃないか?


ニコニコ饒舌に語るトックさんと、困惑気味のフレヤさんの視線が合った。

フレヤさんが小さく頷くと、トックさんはウインクした。


「いやーフレヤちゃんよう、マッタイ鉱山から来て一発目の町だもんな!アレを見せるのコロッと忘れるなんて、名サポーターの二つ名が泣くぜ?ほれ、門番たちにさっきのアレ、よーく見せてやんな!」


トックさんが促す。

さっきのアイコンタクトはこれか…!?

え?そんな事細かに説明してたっけ?

私が見てないところで?いやいや、そんな場面なかったよ?


「あっ!そうでしたね!これは失礼しました。アメリさん、ほら、例のアレを」

「あ、は、はい……!」


異空間収納に仕舞っていた、あのネックレスのことだ。

アナスタシア大皇女から頂いた、紋章入りの金属プレートがぶら下がったもの。


まさか、こんなところでいきなり役立つなんてね……


まだまだ震える手でネックレスを取り出して、フレヤさんに手渡す。

一瞬触れたフレヤさんの手の温もりに、ゾワゾワしてた心が落ち着いていく気分。


フレヤさんがネックレスを門番たちに見せた。


門番たちの視線が、今度は困惑に変わる。

次の瞬間、みるみるうちに門番たちの顔色が変わった。

効果抜群すぎてこっちまでビックリ。


「こ、これは……本物の皇族の紋章……!?」

「ま、まさか、本当に……」

「すみません! どうぞ、お通りください!」


あっという間に道が開かれる。


「かのアナスタシア大皇女は!『魔女っ子旅団』の話をよほど聞きたかったんだろうなぁ?オルゾガンからマッタイ鉱山までワイバーン便で、かの大皇女が乗って行き来するのは有名な話!!なんせ『空賊泣かせの妖精姫』アナスタシア大皇女様ときた!!英雄と英雄ってのは惹かれ合うなんて話は本当になんだなぁ!」


陽気にカラカラと笑いながら、開かれた人並みを闊歩するトックさん。

私たちもゾロゾロとそのあとについて行くことに。


フレヤさんが小さく息を吐くのが聞こえた。

その横顔は、さっきまでの緊張が嘘みたいに和らいでいる。

そして、ほんの少し、頬が赤くなったように見えた。


……あれ?フレヤさん、今、笑った?


そんなフレヤさんを見て、不思議な感覚が胸の奥に広がっていく。

日頃の冷静なフレヤさんとは違う、どこか柔らかい雰囲気。

私はそんなフレヤさんに、なぜかドキドキしてしまった。

面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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