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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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26.深まる絆

ベルーガの町の傭兵組合の事務所にて輩から絡まれた私達。

もう一人の私が激怒して輩を成敗、物凄い空気になって今に至る。




ムカつくハゲは失禁してその場にへたり込むし、私はフレヤさんに抱かれてワンワン泣くし、周囲で様子を見ていた人達は固まったままだしで、事務所の中は物凄い空気になってたと思う。


私たちは、先程止めに入ってくれた兄ちゃんに促されるまま、事務所の部屋へと案内された。

とりあえず落ち着いた場所へ行きたい。




「俺はこのベルーガの事務所の所長のアルベルト・ペッパーだ。いやぁ、何というかそのメイドのお嬢ちゃん……ギャップがすげえな……」


私も全くもって同感である。

ギャップ凄すぎ。

あ、そう言えばカントで言えば、この部屋は所長の部屋だ。

この色気漂う兄ちゃんがここの所長なんだ。


しゃくりあげつつも、漸く落ち着いてきた私。

フレヤさんは心配そうに、私の背中をさすってくれる。

そんな心遣いが、ゾワゾワと騒がしい心をまるでゆりかごを揺らすかのように鎮めてくれる。

ごめんねフレヤさん、騒ぎを起こしちゃって。


「私もあんな怒り狂うアメリさん……あ、この子の名前ですが、兎に角、初めて見ました。私たちはこちらベルーガに拠点異動をしようとカントからやってきた者で、私はサポーターのフレヤと申します」


フレヤさんがそう言って、斜め掛けカバンからいくつかの書類を取り出した。


「お、ビクターさんの所からか!どれどれー?」


そう言ってアルベルトさんは、まずはカントの事務所で渡された拠点異動の手紙を開いて読み始める。


「ふむふむ、5等級のサポーターのフレヤと……2等級の傭兵アメリ……2等、えっ!?に、2等級!?ええ……!?おぉ……そうかぁ……」


アルベルトさんが手紙から視線を外して私を凝視する。

多分、ワンワン泣いちゃったから目が真っ赤だろうね……


第一印象がさっきの私だったら、そりゃ凝視もしたくなるよね。

「なんだこいつ?」感がヒシヒシと伝わる。




情けなくも、グズグズと鼻を啜ってる私を不思議そうな顔で見つめるアルベルトさん。

フレヤさんは、そんな情けない私の背中に手を回したまま、胸を張って口を開いた。


「アメリさんはカントの所長である、あのビクターさんを身一つで軽々と張り倒せる実力があるんです!魔法も武術も超一級です!」

「だなぁ……いや、だろうなぁ。カントの書類を見たけどな……お嬢ちゃん達2人……それも片方はサポーター、戦闘中は単独と同然。いや、サポーターを守りながらだろ?はぁ、まぁ……こりゃあ超一流じゃないとこの実績は到底無理だ。世の中は広いな………」


あんな、自分でも自分が怖くなるような側面があるこんな私を、フレヤさんはそれでも自慢の妹のように、人に自慢してくれるのか。

私、本当にフレヤさんが好きだ。


「で、こっちの書類は今回あっちで受けてきた依頼って訳か」

「はい。先程詰め所で処理して頂きました」

「よしよし……ふむふむ、よーし。まぁちょいと書類を処理して報酬持ってくるから、暫くここで待っててな。ヴィントスネークは後で解体場で出してくれな」


そう言ってアルベルトさんは、そそくさと部屋から出て行った。




「……さ、騒ぎを起こして……その……す、すいませんでした」


フレヤさんにだけは嫌われたくないな……


「私はね、種族的にこんなちびっ子な見てくれですから、ああいった扱いには実は慣れてまして……「ああ、まただ」と、諦めの境地でした。それは私だけでなく、あの場に居たその他大勢……周囲の人達もきっと同じです。ハーフリングだから舐められても仕方ないって」


そんな……小さい種族だから仕方がないなんて、そんな酷い話はないよ。

フレヤさんだって、ハーフリングって種族を選んで産まれてきた訳じゃないじゃん。

それなのにさ、突き飛ばされ慣れるなんておかしいよ。


「……ですからね?アメリさんがあんな風に烈火の如く怒ってくれたのが、堪らなく嬉しかったですよ?「私のフレヤさんに何してくれてんだハゲ!」なんて。ふふ、あー嬉しかったなぁ……。普段モジモジソワソワしてる臆病なアメリさんが……キュンとしちゃいました」


フレヤさんは少し涙ぐみながら、ニッコリ微笑みかけてくれた。


「変な話ですけどね?もしアメリさんが男の人だったら私、きっとアメリさんに恋に落ちてました」

「……えへへ、そ、そう言って貰えると……う、嬉しいです」


そうだね、きっと私も同じ気持ちだ。

私が男だったら、とっくにフレヤさんに恋をしていると思う。

まぁ女同士、友情がより一層深まったって感じかな。


でも、そんな良い感じで片付けちゃいけない問題も残ってる。


「でも……わ、私まるで、ほっ、他の誰かに操られたみたいに……い、怒りが身体中で爆発しちゃいました……。そ、そ、そんな自分を不思議と客観的に感じられて……あの、こ、怖かったです」

「きっと忘れている過去の記憶が、本能的に一部だけ蘇ったのかもしれませんね」


フレヤさんは私のほっぺに触れる程度の口づけしてくれた。


「どうか心配しないで下さい。私、アメリさんと出会えて本当に良かったです」

「わ、私もフレヤさんが居なかったら……こっ、こ、こんな順調な旅は出来ませんでした……!」


フレヤさんと目が合う。

お互い真剣な顔になる。


フレヤさんのクリクリした眼、緑色が綺麗だなぁ。

あれ……こ、これ、くくく、口と口でちゅーってする流れ!?


どどど、どうしよう……あわわわ……!

据え膳的な……えーとえーと……!?


そんな私の動揺が顔に出ていたのか、フレヤさんがプッと噴き出した。

私もつられて笑ってしまう。


「あはは!今私たち、口づけしそうな雰囲気でしたね!ふふ、アメリさん、気が動転したような真っ赤な顔してましたよ!」

「えへへ、き、き、綺麗な眼だなぁなんて……おお、思わず見とれまして……へへ」

「私を惚れさせようとして、何のつもりですか?ふふ」


そんな話をしているうちに、再びアルベルトさんが戻ってきた。

早っ!


「お待たせ!まずはこれだ!ほれアメリ嬢、今から3等級だ。おめでとさん!」


そうか!そう言やリンダさんが言ってた!

うおおおっ!プレートにでっかく『3』って書いてるよ!


「わぁ!さ、3って書いてます!ほっ、ほら!わぁ!」

「ふふ、良かったですね。この調子なら4等級もあっと言う間ですよ」


思わず興奮する私を、ニコニコしながら見つめるフレヤさん。




とりあえずネックレスから『2』のプレートを外して交換。

テーブルに置いた『2』のプレートは、アルベルトさんがひょいと拾い上げ、着ていたベストのポケットに突っ込んだ。


今日から私も3等級の傭兵だ!

もう駆け出しの素人じゃないんだぞ!って気持ちになる。

3!なんかいいなー、3等級!


そ、そう言えばフレヤさんは5等級のサポーターとか言われてなかったっけ?

あれれー?私がさっさと4等級にならなきゃ国移動出来なくない?

呑気に「3!3!」とかアホみたいに浮かれてる場合じゃなかったっ!!


「アメリ嬢は今のところ依頼達成率100%の上、納めた品物の品質が軒並み高い。この調子ならトントン拍子で上へ上へと駆け上がるな。書類に書いてあったけど、また暫くしたら拠点異動すんだろ?」

「そうですね、とりあえず後9日は滞在してからまた拠点異動届けを書いて頂こうかなと」

「よっしゃ分かった。その時は良さそうな護衛依頼を見繕ってやるから声掛けな!」

「ありがとうございます!良かったですね!アメリさん!」

「はいっ……!」


な、何が「良かった」なんだろ?

しかしそこは空気の読める女アメリ。

空気を呼んで微笑む。


「そして……刮目しろよー?今回の報酬だ!」


アルベルトさんがテーブルの下から取り出したトレイの上に、ジャラジャラと袋に入ったお金をひっくり返す。


「まず依頼報酬の銀貨60枚。そしてヴィントスネーク、七匹とも大きさも基準を満たしていて、品質も特優認定。一匹金貨1枚!合計金貨7枚と銀貨60枚だ」


アルベルトさんの言葉に、フレヤさんは座ったまま小さくピョンピョンと身体を弾ませる。

え?いやいや!まだヘビの実物見てないでしょ!


「えっ?まっ、まだ実物も見てないのに……?」

「ん?なんせマルゴー家の家紋が描かれた証明書があるからな」

「あ、そ、そうでした……!」


傭兵組合は全面的に公的な文章として信頼するわけかー。

私も思わずフレヤさんの真似をしてピョンピョン身体を弾ませた。


「はは!嬉しそうで何よりだ!さて、解体場で引き渡してくれ」

「はい!アメリさん!行きましょう!」

「えへへ、はい!」


さっきまでのクサクサした気持ちもどこ吹く風。

まぁフレヤさんも嬉しそうだし、もうあんな事は忘れよう。




そうして再び所長室から出てフロアに戻ると、先程のハゲが真っ青な顔で私に捻られた腕を押さえていた。

アルベルトさんもフレヤさんも、ハゲをチラリと一瞥しただけで通り過ぎようとする。


自業自得というヤツなんだろうね。

そういう業界なんだなー。

いや、でもこれは流石に治さなきゃだ。

この人、二度と腕が使えなくなっちゃう。

フレヤさんを突き飛ばしたのは確かに許せない。

でもね……その代償としてこれは過剰過ぎると私は思った。


「フレヤさん、わ、私……治したいです」


私の言葉にフレヤさん、困ったような顔をしつつ微笑んだ。

自分の不始末、自分で処理しなきゃだよ。


「あ、あ、あの……!わ、わたっ、私……な、治します!」


先程のハゲに、そう宣言する。


「ひえっ……!」


そ、そりゃ怖いか……

まぁいいや。

同意は……まぁ治す事に同意はいらないよね。


マギアウェルバ


光よ光よ

ひと匙の奇跡を与えたまえ

奇跡を彼の者へ


包み込む光


ヒーリング


有無を言わせず、先程のハゲに回復の魔法をかける。

ハゲの身体はパーッと光り輝き、やがておかしな形になっていたハズの腕は、しゅるしゅるーっと元の形に戻っていた。

腕がしゅるしゅるっと……わぁ、気持ち悪っ!!


まるでツルツルハゲの頭が輝いたようで、笑いそうになってしまったが、そういう雰囲気じゃない事くらい分かる。


自分の太ももをこっそり抓って、痛みで笑いを堪えた。

ハゲは不思議そうに、折れていたハズの手を動かしたりしてポカンとしている。


「ま、魔法で……あの、な、治しました……。や、や、やり過ぎてすいませんでした……!」


もうあまり関わりたくない。


フレヤさんの腕に手を回し、そそくさーと裏庭の演習場へ向かう。

こういうとき、建物の構造が全く一緒って助かるわー。


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