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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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25.洗礼

ベルーガの町にある、依頼元のスーゼラニア王国の詰め所までやってきた私達。

対応しくれた衛兵の人やエルフのお姉さんなんかと雑談しつつ、未だに臭いヴィントスネークを引き渡して今に至る。




衛兵の人が手に持っていた紙を、エルフのお姉さんに手渡した。

さっきヴィントスネークを見ながらスルスルと何やら書いてたやつだ。

そして、そんな書類に目を通す姿もまた様になる事!

美人って得なんだなーホント。


ん?お姉さん、異空間収納か?

異空間収納から何か……鉄の棒?みたいなのを取り出したぞ?

なんだなんだ?

あ、先っちょのプレートに数字が彫られてる。


(あれは焼き鏝ですね)

(あ、はい……へえ!)


ほほーっ、焼き印ってこーゆーので付けるんだ!へえ!

で、書類に書かれた数字を、ペタペタジュージューとヴィントスネークに刻印するわけだ!


ん?でも肝心の焼き印はどこで温めるんだろう?

ジューッて焼くやつだよね?

あ、生活魔法かな?いやいや、薪がないってばよ。


「闇夜の底に燻りし火種よ、封印を解き放ち、燃え盛る炎となるがいい、ファストファイア!」


薪なんて無いのに!ぼうっと!地面に火がっ!

すごーっ!ま、魔法だこれっ!

ボワって火がついたんですけど!

魔法ってすげー!!


(ねえねえ!ま、魔法ですよ……!す、すごい!)

(え?アメリさんだって魔法使うじゃないですか……)


あ、そりゃそうだ。

私も魔法使いだった。

そ、そんな呆れ顔で見ないで下さい!フレヤさん!


(でも……アメリさんの魔法とは、まるで異なりますね?)

(そ、そうですよね……)

(魔法は殆ど見たことが無かったので、気がつきませんでしたが……)


言われてみれば、エルフのお姉さんの魔法と、私の魔法とでは全然違うな、こりゃ。

うーむ、お姉さんの魔法の方が使い勝手が良さそうだ。

ちょっと羨ましくもある。


(た、たしかに……?りゅ、流派とか……あるんですかね?)

(ですねえ)


そんな私達のやりとりを気にも留めないお姉さん。

淡々と異空間収納をフル活用して、次々とヴィントスネークの頭部付近にジュージューと数字を刻印してゆく。

このヴィントスネーク達もまさか死後、己の頭に数字をジュージューと刻まれているなんて、夢にも思ってないだろうね。


「ちなみに七匹とも特優だからね、こりゃあ商人たちも喉から手が出る程欲しがるぞぉ」


腕を組みながらジュージュー刻印される様子を見ていた衛兵の人が、私たちに向けてニコッと笑ってみせた。

エルフのお姉さんも、チラッと私の顔を見て微笑む。


「ふふ、本当ね。傷も最小限、運ぶときの傷も皆無。肉はその辺で串焼きに、皮は王都でマダムたちのハンドバッグなんかにされてしまうのね。私はこんな趣味の悪いヘビのハンドバッグなんて真っ平嫌だけど」


なるほどな。

異空間収納が無いと、ひたすらズルズルと引きずって持ち帰ったりするから、あちこちに細かい傷が付くって訳かー。

それか人でも押せる荷車とか、それこそロバとか?

その点、私達は楽々持ち運べるから丸儲けという訳だ。


っていうかこのエルフのお姉さん、普通に良さそうな人じゃんか。

私も臭いニキシーが大好きなヘビのバッグなんてごめんだ。

さっき敵愾心を燻らせてしまって、何か罪悪感が湧いてきた…、…


「そうですね。ヘビ革……特に魔物のヘビ革は防具の素材としても優秀で人気がありますから、これはなかなか期待していてもいいですよ?」


織り込み済みだったのね。

良い査定にも驚く様子はない。

はは、フレヤさんったらニコニコ。

頼りになります。




そして、討伐の証と引取証明書をフレヤさんが受け取り、私は再びヴィントスネークを異空間収納へ。

フレヤさんを先頭に、私たちはこのベルーガの町の傭兵組合の事務所へ向かった。




傭兵組合の事務所へ行くまでの間、町の風景を見て思ったが兎に角栄えてる!

二階建て三階建ての木造建築が所狭しと道に面した場所に建っており、みんな農業以外に何を生業にしてる人なんだろうって首を傾げたくなるくらい人口が多い。

フレヤさん曰わく、カントの町の倍は定住しているのではないかとの事だった。


このベルーガの町は、交通の要所として機能している為、住民たちも必然的に様々な素材を加工する仕事に携わっているらしい。

それは食べ物だけでなく魔物素材、染料や織物、木材や金属など様々。

それでも、もっと大きな都市なんて掃いて捨てるほどあるというのだから驚き。




「とは言え、あくまで名物のない、所謂田舎の器用貧乏な都市感が否めませんよ」

「き、器用貧乏?」

「ええ。『織物と言えばベルーガ!』という訳でもないですし『銀食器と言えばベルーガ!』という訳でもありません。ある程度は何でも出来るっちゃ出来るけどね……という具合です」

「し、品物が売れて、空いたスペースが出来たから、そ、その替わりに何かここで仕入れてくか……み、みたいな……感じですか?」

「はい、そうですね。荷物に余力があるまま次の町に行くくらいなら……という需要で成り立っているような、典型的な田舎の交通の要所みたいな感じです」


ふぅん、なるほどなぁ。

職人さん達と農家と合わせて千人くらいって感じなんだ。

結構デカい……のか?


確かに、塀で覆われた範囲はやたら広いけれど、その分畑が広い気がする。

カントの町の倍……本当かどうかは知らんけど、兎に角みんなを賄う為には、これくらいの規模の畑が必要になるのかぁ。

外は魔物がウロウロしてるだろうから、畑は塀の内側のみ。

となると……うーむ、普通はこのベルーガくらいの町の規模が限界なのかな。




「さてさて、ここですね。傭兵組合マルゴー辺境伯領支部のベルーガ出張所です」


フレヤさんがそう言って建物を指差す。

そこにはカントの町からそのまま持ってきたのではないかと言いたくなるほどにそっくりな建物が、でーんと建っていた。


「あ、あ、え?な、何というか……カントの町と同じ……ですね?」

「ええ。設計費節約の為に土地の大きなや形に合わせて上物のパターンが決まっていると聞いたことがあります」

「へえ……ど、どこに行っても殆ど一緒なんだ……!つ、つまんないですね……」

「ふふ、まぁ新鮮さはすぐ無くなりそうですね」


何だよー、町によって「へえ!こんな事務所なんだ!」って、ご当地事務所を満喫するって楽しみが無いんだなー、つまんないなー。

とは言え!へそを曲げてる場合じゃない。


フレヤさんを先頭に、両開きの戸を開けて中へと入る。

私はいつも通りフレヤさんの後ろをキョロキョロしながら歩く。

いやぁ、本当に中までカントの町の事務所と一緒なんだなー。


まだ朝という事もあり、掲示板の辺りやカウンターは傭兵達で賑わっていた。


「わぁ……!ひ、人が……!」

「私達はまず、常設依頼でこの辺りの様子を知りたいので、とりあえず並んで拠点登録と清算をしましょうか」

「そ、そうですね……」


そう言って大人しく並ぶ私とフレヤさん。




それにしても毎度の事ながら私達ほどちびっ子で構成されたパーティーなんて他にいないね。

列に並んでもさ、端から見ればポコッと列が空いてるように見えそうだよ。


カントでは良くも悪くもビクターさんのお陰で、私という存在が目立っていた。

だからだろうけれど、ぜーんぜん柄の悪い輩に絡まれる事も無かった。

でもここはカントとは別の『はじめまして』の町。

何となーく、本当になんとなーく……嫌な予感はしてた。

してたけれどさ?案の定という事態が起ころうとしている。


うわぁ……柄の悪そうなゴツいハゲが!

わ、私達目掛けてズカズカやってきちゃったよ!

なんかもうさ、すげー悪巧みしてそうな目だ。

こういう時は流石に、私がフレヤさんを守らなきゃだめだ。

でもめっちゃ怖い……ちびりそう。

ひえぇ……デカい!


「おいおい、ガキンチョが傭兵ごっこなんてしてやがるのかぁ?ガキは大人しく家に帰りな。おら、どけっ!」

「あ……やめて下さいっ……痛っ!!」


突き飛ばされたフレヤさんがゆっくりと、ゆっくりと地面に尻餅をつきそうになる。

違う。

私の感覚が研ぎ澄まされて、そう見えるんだ。


怖いとかどうしようとか、もう何も考えてなかった。

「やっぱり輩に絡まれるよなぁ」とか「随分ツルツルした頭をしてるけど、毎日剃ってるのかな」とか、私の思考を置いてけぼりにして、身体は勝手に動き出す。

急に心の中に現れた別の人格とともに。


「いででででっ!!!折れる折れるっ!!!いいいぃ…!!!」

「おい、私のフレヤさんに何してくれてんだハゲ」


怒りで身体中がチリチリする感覚を覚える。

いつの間にか、そしてなぜか。

私は、フレヤさんを突き飛ばしたハゲの右手首を掴んで捻り上げていた。


私の口が、私の意志とは無関係に勝手に動き出す。

これは……誰?

誰かが私を操作してるみたいだ。


「フレヤさんを害するゴミ虫は討伐しないとな」

「あ……あぁ…!!!」

「お前の討伐証明はどこだろうな?耳を切ればいいのか?それとも首から上か?」


これは……私は今……誰?


「女子供のようなメソメソと情けない声を出してないで、さっさと答えたらどうだ?」

「い………いでぇ……!お、おれ……る!!」

「さて……魔核はどこにあるのだろうな?教えてくれ、頼む」

「ひっ……!!」


誰が私を動かしてるの?

捻りあげている手に、ボキボキビキビキと嫌な感触が伝わる。


「胸か?額か?さあ答えろ。おい、答えろ……おいっ!!!」

「はいはいそこまで!お嬢ちゃん、そこまでだ!」


顔に大きな傷があって、長い髪と無精髭を蓄えた長身の兄ちゃんが、私の手をパッと掴んでムカつくハゲから引き剥がした。

あー野性的で色気あるなー、この兄ちゃん。

しかも服の下に結構筋肉が隠れてる。


何というか、私の事なのに私の事じゃない。


激しい、グツグツとマグマのように怒りに沸き立つもう一人の私。

何だかどえらいことになったぞという、野次馬のようないつもの私。




その時突然、本当に突然。

私が、私の身体を操る御者になったような感覚を覚える。

途端に身体全部を使って、ガタガタと震えが止まらなくなった。

こ、怖い……私が私じゃなかった……

怖い……怖い………


「あっ……ううっ……!!ち、ちが………っ!」


何なのこれ?

違う、私じゃない。

私だけど私じゃない。

怖い……震えが止まらない。


「アメリさん!ど、どうしたのですか?」

「ご、ごわがっだよぉ……!!」


腰が抜けた……

困惑気味のフレヤさんに抱きしめられた私。

人目を憚らず、フレヤさんの胸でワンワン泣いてしまった。

あのムカつくハゲが怖かったというより、自分じゃない何かが『何か』をしようとしていたのが怖かった。


もう一人の私は、ムカつくハゲの腕を、本気で捻りきるつもりだった。

ボキボキと骨が折れてゆくイヤな感触と、頭の中で腕を捻りきった後にどう事を運ぼうか冷静に計画を練っていた思考の残滓が妙に鮮明に残っている。


私は、一体何者なんだ……?


面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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