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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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24.詰め所

張り切りすぎて泊まっていた部屋を、新築同様のピッカピカにしてしまった私。

やり過ぎたかと心配しつつも、朝食を食べに下へ降りてきて今に至る。




夜が明けて間もないにもかかわらず、食堂は既に大勢の宿泊客で賑わっていた。


フレヤさん曰く、傭兵だけじゃなく商人の朝も兎に角早いので、当然の事らしい。

カントの町に居たときは、フレヤさんの実家に居候してたから全然知らなかったけれど、カントの町の宿屋も早朝は概ねこんな感じとの事。


ただ、関所が近いカントの町よりも、こっちのベルーガの町の方が断然栄えてるみたい。

複数の街道が通る町なので、こーしてベルーガに滞在する商人も多いんだとか。


ふぅん、昨日は早足だったから良く見てないけれど、確かに大きな建物が多かった気がする。


ちなみに朝食は、色々な豆を煮込んだ赤いスープ、昨晩と同じ固いパン半分。

豆が「いやぁしかし食べたなー!」と思わせてくれる程に存在感があり、そしてパンを浸し甲斐のある美味なスープだった。




朝食を平らげ、いざ詰め所へ行こうと立ち上がる。

フレヤさんはそのまま受付へ向かう。


「3の部屋のフレヤです。これから出掛けます。部屋の中は生活魔法で綺麗にしましたので、清掃は不要です」

「はいよ、じゃあシーツの洗濯も?」

「ええ。不要です」


ふぅん、こうして昼間不在の時に手間暇かける必要はないよって伝えておく訳か。


「ありがとよ、生活魔法が使える人が泊まってくれると助かるよ。帰ってくるのは夕方かい?」

「そうですね。手始めに軽く常設依頼でもこなそうと思いますので、それくらいかと」

「じゃあ掃除洗濯の手間が省けたサービスでさ、何かおやつの果物でも置いとくから食べとくれよ!」


わお!こういうお得が待ってるんだ!

フレヤさんもこれには思わずニッコリ。


「ありがとうございます!じゃあ行ってきます!」


ペコッと頭を下げるフレヤさん。

私も礼儀知らずと思われないように、真似して頭を下げる。


「行ってらっしゃい!どうかご無事で!」


受付のおばちゃんが満面の笑みで手を振る。

ふーむ、どうかご無事で!か。

なんか良いね、これから危険な任務に行くようだね。




白虎亭の外に出ると、建物の横には馬で来ている商人のような人が、ちょっとした渋滞を作っている様子が見受けられた。

馬小屋かぁ……って、ありゃ?


「あの……あ、あそこ……」

「あーはい、馬小屋ですか?」

「は、はい。あの……ち、小さい馬ばかりじゃないですか?」

「そうですね。ロバかラバが大半ですね」

「ロッ、ロバかラバ!えっ……!?」


馬じゃないの!?


「ロバかラバが一般的ですよ?ロバがそんなに珍しいですか?」

「あ、いやぁ、な、何となく商人の人って……ば、馬車で移動するのかなぁって」


馬よりも一回り小さいし、荷物をいっぱい抱えたロバが、更に人まで載せるなんて想像がつかない。

よく見れば馬車もそこまで見当たらない。


ロバねえ、なんか可愛いけど……馬と違ってさ、なんか馬鹿っぽい。

ロバに怒られるかな……


っていうかロバとラバの違いがよくわからん。

みんな子馬に見える……


「大抵はあのように安くて丈夫なロバやラバに荷物を持たせて歩くのが普通ですよ。馬や馬車は高いですし、何より、どこもかしこも道が整備されている訳ではありませんからね。悪路のせいで輪鉄が弾け飛んだり、維持費も馬鹿になりません。あまり馬車は現実的ではないですね」


へえ!そうなんだ!

どのロバも結構荷物が重たそうだ。

移動も随分と時間が掛かりそうだなぁ。


「この辺りの商人で馬を使うのは大きな商隊ですね」

「へえ、べ、勉強になります。み、みんな徒歩で移動するんですね……」

「んー、そうですね。ちなみに外の世界では船で移動もありますし、国によっては、国が運営するワイバーンで空を移動したりなんていうのもあるらしいですよ?相当高いようですが……」

「そ、空っ!!あああ、足が、すっ、すくみそうですでは…!」


ワイバーンって何?

魔物じゃないの?

そんなので移動するなんて手もあるんだなぁ……

落ちたら即死!怖いよっ!!


「ふふ、私たちはそんな火急の用はないでしょうから、使うことは無いと思いますよ。船くらいならいくらでもありそうですが」

「そそ、そ、空は嫌です……!」


まだ見たこともない、乗る予定のない移動手段に足がすくむ。

フレヤさんはそんな私を見てクスクス笑いが止まらなくなる。


「乗らないですって!ふふ、そんな真っ青にならなくても!」


こ、怖いんだもん!




そんな訳で白虎亭を後にした私達は、この町の兵士の詰め所の前までやってきた。

さて行きますか!と意気込もうと思ったその時、詰め所の中から衛兵の人が出てきて、私たちに気がついて声をかけてきた。


「ん?何か用かい?」


そ、そんなパターンは想定してない!

あわわわ……!

フレヤ姉さん……!出番っす!


「はい。私達、カントの傭兵組合で、ヴィントスネーク討伐の依頼を受けてきた者です。昨日、ヴィントスネークを七匹程討伐して参りましたので、今日はその報告、という事で伺いました」


フレヤさん凄いなぁ、こういう時も動じないもんね。

フレヤさん様々だよ私。

それに比べて私と来たら、サッとフレヤさんの背中に隠れて……情けない。


「おおっ!昨日、入り口で立番してたヤツらから聞いたよ!へえ、七匹も仕留めた、凄腕の可愛らしいお嬢ちゃん達が来たって言ってたけど……、こりゃあ確かに、だな!」

「ふふ、ありがとうございます」

「お嬢ちゃん達のパーティーは……ええと、どっちが戦うんだい……?」

「こちらのメイドのような格好のアメリが戦います。こう見えて、実は滅法強いんですよ?」

「えっ!?そっちのメイドさんか!「どっちが戦うんだ?2人が戦うのか?」なーんて話題になってたんだよ!」

「ふふ、アメリのお気に入りの格好なんですよ」


にこやかな表情をキープするフレヤさん。

わ、私もにこやかに……!

自分で自分の顔を見ずとも分かる……

これは気味悪い笑みだ……!


「さてさて、処理するから中へおいで。どうぞ」

「はい。アメリさん、行きましょう」

「ひゃいっ!!」


き、急に振られて上擦った……

ぐぬぬぬ……

「ええ、そうね。そうしましょう」くらいさ、サラリと言いたいもんだ。

何で私ってばこんなオドオドしちゃうんだろうか……

まぁ依頼内容に書かれてた文章が怖かったんだもん。

もっと高圧的で威圧されるのではないかとね、こっちは警戒してたわけですよ。


中に入って衛兵の背中を追って歩いてる間、私の前を歩くフレヤさんに言いたくてウズウズしてる事があった。


(ね、ねえねえ!わ、私達の事……かっ、可愛いお嬢ちゃんですって……!えへへ……)

(お互い子供のような見た目ですからね。そういう意味合いでの「可愛らしい」ですよ)


浮かれてフレヤさんに耳打ちした私。

しかしチラリと私を振り返ったフレヤさんは、少し呆れ顔をしていた。

だ、だって……褒められたら嬉しいじゃんっ!

でも、確かに向けられる視線が、まるで子供や犬猫に向けるものだったかも……

はは、そりゃそうかぁ……

私やフレヤさんを女性として可愛いと思うのだったら、ソイツはきっと幼児愛好者だもんなぁ。

そりゃ無いわー。


どこかの部屋に通されるのかと思いきや、向かった先は建物の裏手の演習場みたいな開けた場所だった。

まぁ死骸を出すんだもんね、そりゃ室内じゃないか。


「異空間収納を持ってるのはそっちのメイドのアメリさんの方かい?死骸が見当たらないって事は持ってるんだろう?」


案内してくれた衛兵の人が私を見てそう尋ねる。


「ええ、その通りです。ここに出してしまって大丈夫ですか?」


付き人の如くフレヤさんが、すかさず口を開いてくれた。

いや、この場合の付き人は私か。

役に立たねえ付き人だなー私。


「ああ、ここでいいよ。室内で焼き印を押すと匂いが残ってな、文句を言う奴がいるんだよ。今焼き印を……おー来た来た」


そう言って衛兵の人が手を降った先には単なる事務方の人にしか見えない若い女の人がやってきた。

しかし耳が尖っているので、多分エルフの人だ。

長いサラサラな金髪を靡かせてやってきた美人。

圧倒的美人!


挿絵(By みてみん)


「お待たせ。あらあら、随分と可愛らしい傭兵が来たのね。どうぞ、この辺に出してちょうだい」

「承知しました。アメリさん、どうぞ」


うーーーむ……

このエルフの人、なんかいやーな感じだなぁ。

私やフレヤさんを見下しているような、そんな上からの視線を感じる。

いや、私の誇大妄想な被害妄想だったらごめんね、エルフのお姉さん。


とりあえず言われたとおり、ボトボトとヴィントスネークを異空間収納から取り出す。

うっ……ニキシー臭い気がする……!

チラリとフレヤさんに視線を送ると、フレヤさんも一瞬顔をしかめた。


うわーやっぱ臭いよ、このヘビ!最悪っ!

私が臭い奴みたいじゃん!

こんな美人の前でニキシー臭いがきんちょ……惨めさが限界突破しそう。


「あら……えっ?時間停止の異空間収納?あなた……本当に人間の子供?いやいや……確かに人間の子供にしか見えないわね……」


エルフのお姉さんがズイズイーっと私に近寄る。

うーむ、なんと言うべきかな……


「あの……実は絶賛記憶喪失中でして……、多分?人間ですね」


フレヤさんが言ってくれた!

多分人間……すげー紹介の仕方だ。


「人間で、しかもこんな幼くて可愛い女の子がねえ……。あなた、きっと神に愛されてる子なのね」

「か、神に……ですか?」

「ええ。人間は魔力が乏しいの。それを幼い人間のあなたがね、ただ研鑽を積むってだけじゃ時間停止の異空間収納なんて身に付けるのはまず不可能よ。もう百年は生きてるおばあちゃんだけど、そんな子見るのは初めて」


はえーそうなのか。

愛されてる割に記憶喪失。

神様のお気に入りの娘だとして、普通そんなお気に入りの子が記憶喪失になるか?

それはお気に入りとは言えないだろう。


っていうかこのお姉さん百歳なの!?

ええっ!?

道理で私やフレヤさんを見る目が微笑ましそうだったわけだ。

見下すとかさ、私の誇大妄想な被害妄想だったね……


「何を隠そう、アメリさんは魔法も達者ですが、武芸の方も秀でているんです」


フレヤさん、エルフのお姉さんに自慢げに言ってのけた。

あれ?『手の内は隠しましょうね』なーんて言ってたのは、どこの誰でしたっけ!?


「ふむ、確かにこのヴィントスネークも刃物じゃない何かで一突きだなー。ニキシーでおびき寄せたんだろうけど、確かに腕に覚えがないと一突きは無理だなぁ」


衛兵の人が感心しつつ、ニョロニョロと雑然と置いたヴィントスネークを丁寧に伸ばして並べつつそう言った。


「ふふん、アメリさんはカントの町の傭兵組合の所長のビクターさんを身一つでねじ伏せたんですよ?」

「えっ!?カントの町のビクターったらあの……!へえ、天は二物を与えちゃうんだなぁ……へえ!」


衛兵の人がまじまじと私の顔を見つめる。

エルフのお姉さんもじっと見つめてくる。

そ、そんなに見られると恥ずかしい……!

素直にお喋り出来なくなっちゃうよー……いや、どの道緊張しちゃって素直にお喋り出来ないか……


「益々神様から愛されてると思うわ。時間停止の異空間収納が使えるって事はエルフ並みの魔力があって、武芸も達者……。だって、ビクターってちょっと前まで有名な傭兵だったあの子よね?へえ……」

「あの……、ビクターさんって……ゆ、有名人なんですか?」


確かにビクターさんは強かった。

正直今まで遭遇したどの魔物よりも強い。


「私にとってはついこの前だけれどね、エビルワイバーンの首を素手でへし折って殺した傭兵が居るって話題になっていたわね」

「そうそう。俺がまだガキの頃。ガキンチョはみーんな傭兵ビクターに憧れたモンだよ!『しゃあオラっ!!』ゴキーってな!はは!」


『力はパワー』『筋肉がすべてを語る』って感じするもんなぁ、ビクターさん。

難しい事は全部筋肉で語りそう。


「ふふ、でも傭兵になると、家庭を持つのは至難の業ですものね。トーマスも今じゃ立派な兵士って訳ね」

「だなぁ、今のカミさんとの結婚と夢を天秤にかけたらさ、ガターンと勢い良く天秤の皿がカミさんに傾いてさ、傭兵の夢なんて遠くのお空にビューン!だな。こうして衛兵をして幸せに暮らせてるさ」


衛兵の人がそう言ってカラカラ笑う。

やっぱ家庭を持ちたい人がやる仕事じゃないんだね。

そりゃそうだ、収入も不安定で怪我したらおしまいじゃあねぇ。



面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。


なお、挿絵についてはAIに必死に頼み込んで作成しました。

どんな感じのキャラクターなのか参考にしてください。

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