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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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230.フローラの戦略

ペルルがおかれている状況は、どーもきな臭いとフレヤさん。

結果として、フレヤさんが新しい冒険の予感を感じたのか「なんとかしましょう」と意気込みつつ今に至る。




フローラが部屋に戻ってきたのは割とすぐだった。

「ペルルがまともに動けるようにしないと」ということで、私たちはフローラについて行くことに。

とーぜん私たちはマギアウェルバで姿を消している。


既に人も疎らな村の中をスタスタ歩いてゆくフローラ。

フローラの足が止まった。

なっ!?えっ?…や、薬草屋だ…!!

初日に手持ちの薬草と魔葉幣と交換を依頼して以来、何かと世話になっている薬草屋。

よもやこの店が…


フローラはそのまま扉を開けて中に入る。


「連れてきた。今は特殊な方法で姿を消している」


お婆ちゃんは昼間の優しい印象が消え去り、老練な交渉人の鋭い眼差しに変わっている。


「支払いは問題ないだろうね?」


淡々としたその声に、フローラは迷わず頷いた。


ちなみに絶賛姿を消し中のフレヤさんもペルルも驚きを隠せないといった感じだ。

出来れば優しいお婆ちゃんのこんな裏の顔なんざ見たくなかった…

見ちゃいけないものを見ちゃったみたいな気分だよ…


「スーゼル金貨で払う用意がある」


フローラのそんな言葉にニヤリと笑みを浮かべたお婆ちゃん。

スーゼル金貨…フレヤさんとそんな打ち合わせをした覚えはないけどなぁ、いくら払うんだろう…?

お婆ちゃんはカウンターのテーブルをグイッと手で持ち上げた。


ぬおっ!?こっちから見て左側を軸に、カウンターの右側がパカッと持ち上がった!?

すげー、カウンター軽そう…


「この国は魔法ばかりだからね、こういう方が案外バレないのさ」


カウンターの下にあったのはポッカリ開いた穴。

お婆ちゃんがゆっくりと降りていく。

ほほー、ハシゴか!


フローラも臆せずお婆ちゃんの後について降りてゆく。




薬草屋の地下は思ったより…いやぁ、整然としている。

広くはないけど、四方の壁にはぴっしりと棚が備え付けられ、見たこともない装置や工具がズラーッと並んでいる。

棚の隙間には不気味に光る小瓶や、得体の知れない魔道書が詰め込まれていて、カチカチと魔法装置のような音がどこからか聞こえてきた。


なんというか、もっと木の根っこの隙間を縫うようにして出来た部屋かと思ってた。

でもお婆ちゃんと私たちだけで部屋の中は狭い。

とにかく、よくわからない物で溢れかえっているね。

テーブルの下も上も木箱が積まれている。


「姿を見せな。説明しながらやってみせるよ」


そう言いながらお婆ちゃんはテーブルの下から木箱のうちの一つを引っ張り出した。


お婆ちゃんが木箱から取り出したのは、一見すると、普通の筒型の魔導具っぽいもの。

でも、先端部分にさりげなく取り付けられた焼き鏝部分みたいなものと、二つの小さなツマミが目を引く。


「スライドさせると、ほら」


ツマミを動かすと先端がニョキリとせり出した。

ほへー、焼き鏝の形になった。

それにしても滑らかすぎる動きだ、ちょっと粗雑な違法品には見えない。

ヴェイル・パス検問所で見かけた魔力刻印の魔導具とは全然見た目が違う。


「動作しそうなのは分かった。もう姿を現していい」


フローラがお婆ちゃんを見つめたまま、私たちに向けてそう言った。

一緒に消えていたフレヤさんとペルルと視線が合う。

二人ともこくっと頷いた。

よし、解除するか…


「いつも表ではお世話になっています」


姿を現して開口一番、フレヤさんがそう口を開いた。

お婆ちゃんは私たちを見て…ありゃ、意外と驚かなかった?


「なんだい、そういうことかい。で、魔力刻印をしたいってのはそっちの獣人の姉ちゃんだね?」


こーゆー対応に慣れてるんだろうなぁ。


「ええ、エルフの姿に擬装させますので、精霊族の刻印をお願いします」

「いいよ。ちなみにこの装置はスーゼル金貨で40枚だよ」


うはっ、高いっ!?

その辺の兵士の年収でいえば二年分近いよ!?


「おっと、こいつは魔力注入器を改造しているけどね、ちゃんと魔力注入器としても使える。普通の刃物に押し当てりゃ、切れ味が増すように出来てる。だから決して損はさせないよ」


ほへー、ちゃんと魔導具としても使えるんだ?

そーゆー魔導具に偽装して、兵士の目から逃れると…よく出来てるなぁ。


「相場よりは高いようですが、今回限りしか使わずに大損という訳ではないんですね。良いでしょう、お支払いします」

「よし、じゃあ使い方について説明するよ」


フレヤさんとお婆ちゃんが握手をした。




使い方は私でもすぐ覚えられるくらいで、そこまで難しくなかった。

焼き鏝部分がせり出すツマミを回すと起動。

ここで魔力注入器として使うのであれば、もう一つの、注入する魔力を調整するツマミを捻って、武器に30数えるまで押し当てる。

しかし魔力刻印に使うのであれば、最初の焼き鏝部分がせり出すツマミをカチッと押すようだ。

これは本来の純粋な魔力注入器にはない仕様とのこと。


なお、注意点としてお婆ちゃんに言われたのは、この装置で魔力刻印を行うと、刻印自身がその状態を維持しようと、ごく僅かながら対象の魔力を奪い続けるとのことだと言っていた。

ペルルは特に魔法が使える訳じゃないから、そんなデメリットになるような制約ではなかった。

どーやら違法な品ながら、試行錯誤を繰り返し、今日の姿まで昇華させられたとお婆ちゃんはちょっと得意気に語っていた。




「おお…わらわの頬に精霊族の刻印じゃ!」


鏡を覗き込むペルルが無邪気に自分の刻印を撫でる。

そんな様子を見て、少しだけ安堵した気分だ。

フローラは無表情なのは普通だとして…ありゃ?フレヤさんは…ちょっと違う。

じっとお婆ちゃんの機械を見つめるフレヤさんの顔には、小さな不信が浮かんでいるよーだ。


長年一緒に過ごしていればそれくらい分かる!

フレヤさんは今まさに何か違和感を感じているね。


「検問所で捺されるヤツと寸分違わぬ代物さ。この国をでる時、ゲートに反応して消えるようになっているよ」

「助かります。それでは私たちは宿に帰りましょうか」


フレヤさんも、ここではあまり多くは語らないよーだ。




翌朝、本来ならあと一日滞在する予定だったラカヴィエール村を、急遽予定を切り上げて発つことにした。


私とフレヤさんは一日早く拠点異動届けを受け取り、その間にフローラと、エルフのセリアに成りすましたペルルはパーティーを組むことに。


「へえ、パーティー名は『木陰の旅団』ですか」


ラカヴィエール村を後にした私たち。

再び道を歩いて次なる村を目指している。

道中、話題になったのはフローラとペルルのパーティー名についてで、フローラの口から飛び出したのがそんなパーティー名だった。

何というか、当たり障りなくて印象に残りづらい、いかにも地味なパーティー名だね…というのが第一印象。


「二人組や三人組の少数パーティーは、パーティー名に『旅団』をつけがちと聞く。セリアもエルフで私も半分はダークエルフ。『木陰』というキーワードは精霊族に選ばれがちと印象を受ける」


ほへー、適当に考えた訳じゃないんだ?

ちゃんと目立たないような地味なパーティー名ってことなんだ。

ありゃ?でも別に『魔女っ子旅団』に入れば良かったんでない?


「あ、あの…『魔女っ子旅団』に加入す、すれば…良かったのでは…?」


フローラがジッと私の目を見つめる。

なぬっ!?た、ため息をついただと…!?


「はぁ…アメリは馬鹿」

「なっ…!!なっ、なんで…!?」


悔しい!フローラに馬鹿呼ばわりされるのはなんか悔しいっ!

馬鹿って人に言うやつの方が馬鹿なんだよ!バーカバーカ!

バーカ…あ、人に馬鹿って私も言ってるな…?


「ふふ、我々『魔女っ子旅団』は新進気鋭のパーティーなんですよ?元暗殺者と姿を偽るお姫様なんて加入しようものなら注目を集めちゃいますよ」

「フレヤの言うとおり。だからわざわざ地味なパーティーを組んだ」


ぐぬぬぬ…フローラのやつ、ちょっとにやっとしたよ!

悔しい悔しい!私馬鹿じゃないもん!!


「フローラは凄いのう!訳を聞けばなるほど納得じゃ!敢えてのパーティー…しかも印象に残りにくい名前じゃ」

「なるほどですね。ちなみにその組合員証の本来の持ち主のセリアという方は、弓と短剣による戦闘スタイルだと登録していましたが…ペルルの得物は…クローですか?」


フレヤさんはペルルの両手にはめられた、なんだかすげー物騒な鉄の爪をジッと見つめながらフローラに尋ねた。

これはついさっき、フレヤさんからお金をせびっていたフローラが、村の武器屋から買ってきた代物だ。


「そう。クローを使わせるつもり。エルフが得物として使うには、かなり独特な武器」


フローラはフレヤさんと真剣に視線を交わしながら、説明を紡いでいく。

ペルルの仮初めの姿に少しでも不自然さが生じないよう、あれこれ策を講じているのがよーくわかる。

ただ単に闇夜に紛れて暗殺してただけじゃなかったんだってのが、こーゆー時に垣間見えるね。


「確かにエルフが使うにはかなり独特な武器ですが、どうして登録通りに弓や短剣ではなく、敢えてクローを選んだんですか?」


フレヤさんがそう理由を尋ねる。

フローラ、ペルルの方をちらりと見ながら口を開いた。


「ペルルは狼人族。とても身軽。だから体術が向いてると考えた。それに、魔法が使えないエルフは目立つ。でも、『魔法を補うために体術を磨いた戦士』として見せれば不自然じゃない。等級的にも今の特性を生かす形が最も誤魔化しやすい。初めは弓や短剣で戦っていたけれど、こっちの方が向いていたと登録し直す行為自体、珍しい話ではない」


フローラの簡潔な説明に、フレヤさんは頷き、少し感心したような様子を見せる。


「なるほど……確かに、珍しい武器と戦い方に注目が集まれば、魔法が使えないことに違和感を抱かれることは少ないですね。多少経験を積んだエルフと、もともと身軽な狼人族…実力的にそこまで差がない…フローラは流石って感じですよ…凄いな…」

「そういうこと。それに、クローは武器としてかなり強い。見た目が華奢でも、それを十分にカバーできる」


フレヤさん、フローラの言葉に静かに微笑んだ。


「お見事ですよ本当に。今、最も最適な選択肢だと確信しています。確かに、クローを使った戦闘スタイルなら実用的だし、目立つ個性としてしっかり認識されるでしょうね」

「でも、ただ形だけ真似しても意味がない。本当に使いこなせるように訓練は欠かせない。その点はしっかり教え込むつもり」


はは、ペルルもすっかりやる気マンマン。

ニヤニヤしながらパンチを繰り出しているけれど、ちゃーんと通用しそうなフォームなのは、やっぱり狼人族としての潜在能力みたいなもんだろーか。

鍛え上げればなかなかの傭兵になりそうだと感じさせるよ。


「フローラもアメリも頼んだぞ?わらわも魔物をバッサバッサと倒せる戦士になりたいのう!」

「訓練には時間がかかる。でも、ペルルは筋が良い。頑張った分だけ本物になれると直感で思っている」


フローラは無表情ながらも、ペルルに戦いを教えることに大して、かなり前のめりになっているよーに見える。

クローによる戦いがカッコ良かったら、私もちょっと武器として持っておきたいな…格好良さそうだよっ!




人間族や獣人族が踏み入れられるノアルカン街道に入る前に、私たちの前に現れた魔物、ハイランド・ウルフは敢えてペルルに任せることに。


ペルルの軽快な動きとクローの冴えた捌きに、私たちが手を出す間もなくハイランド・ウルフは次々と斃れていった。

到底素人の動きとは思えない。


「いつも討伐するのを見てただけじゃが、己でやってみると案外とるに足らぬものじゃのう!」


討伐を終えたペルルは、ハイランド・ウルフの無残な死骸の中央で誇らしげに佇んでいる。

でも実際、危なげなく一体ずつ計4体全部をやっつけてしまった。

物凄く身軽で、フローラや私の戦闘スタイルとかなり相性が良さそう。


「さて、次は魔核の取り出しですよ?それに、もしフローラと本当に二人で活動するとなると、フローラもペルルも異空間収納は使えないんですから、解体について無知だと不自然ですよ」


そ、そうか!フレヤさんの言うとおりだった。


ペルルがなりすましているエルフのセリアの等級は4等級。

異空間収納の有無についてまで傭兵組合に管理されていないので、ペルルが異空間収納を扱えないのは構わないとして、そーなるとペルル自身がある程度解体について知っていないと不自然だ。

異空間収納が使えない4等級の傭兵が魔物の体内から魔核すら取り出せないってのは流石に無理がある。

いつもフレヤさんに全面的に任せるか異空間収納に死骸を丸ごと収納しちゃう私ですら、どーすれば魔核を取り出せるか、それにウルフ程度ならやろうと思えば内臓を取り出して凍らせるところくらいまではできる。


「それもそう。私がやればいいと思ったけど、一切知らないのは不自然」

「カラスの頃にアメリの肩から見とったわい!どれ、そんなの造作も…」


ペルルがハイランド・ウルフの死骸のそばでしゃがみ込む。




ペルルはフレヤさんの指示を受けつつ、おそるおそるナイフを手に取り解体を進めていった。

いつもは遠巻きに眺めているだけだった魔物解体は相当堪えたよーで、何度もオエオエとえずきながらも、どーにか内臓を取り出すところまでできるようになった。


そんなペルルは私を後ろから抱きしめてぐったりしている。


「…肉を食べるたび、もっと感謝せねばならぬと改めて実感したのう…当たり前じゃが、誰かがああして捌くからこそ、わらわたちが呑気に肉が食えるんじゃからのう…」

「す、すぐに…なっ、慣れますよ…しょ、処理も丁寧でしたよ…」


こーして甘えられるのってなかなか悪くない。


「ふふ、アメリさんが誰かに甘えられるという構図も、なかなかに貴重ですね」

「た、たしかに…!」


そーだよ…、そーだよっ!!

よくよく考えりゃ、これまでに無かった構図だ!

フレヤさん抜きの場合、私がしっかりしなきゃいけない立場なんだ…!


あっ、ペルルだけじゃない。

フローラも私がしっかりしなきゃいけないヤツだよ!

ペルルが如何に目立たず不自然さを誤魔化すか、という立ち回りではたしかにフローラは有能だった。

有能だったけどさ?気が抜けてるときのポンコツぶりを失念しかけていた。


服屋の店員に「仲間に呪いを解いたやつがいて~」と言いかけた…いや、それだけじゃない。

こいつ、ナイトリリィ時代に、私がダメ元で「ミュロウ伯爵の命令ですか」と聞いたら、呆気なく「そーでごぜぇます」と鎌を掛けられてたからなぁ。


『出来る女になりたい』と日頃から思っていた私ではあるけれど、しかしいざ出来る女ムーヴを始めると、まるでその事に気がついてなかった。

出来る女ってのはさ、こーして自然に振る舞って、はじめて「アメリさんって出来る女だねぇ」って周りから思われるもんなんだね…

面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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